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ひとたびの別れ 1

 話を聞かされて数日後、シュピーツェが朝食の場で、アクヴァとともにリンドから離れることを提案すると、五人と一体は止めなかった。


「ねえシュピーツェ、大通りで聞いたんだけど、丁度良く、そこの行商人たちが仕入れに向かうから護衛を募集してる。これで大きな都市まで出られるよ。」


 紹介するような口ぶりのフリューシャの声を聞き、そいつを受けてくるか、とシュピーツェは立ち上がった。食器を片付けて、ひらひらと手を振って出ていく。

 あと数分くらい腹を落ち着かせてからでもよかろうに、とハユハユが玄関先まで跳ねていって背中を見送ると、入れ違いに誰かが近づいてくるのが見えた。


 リンドから一番近い、といっても数十キロは離れている国の警備兵の、鎧の下に着るチュニックを着ている。鎧はなく、武器も最低限のナイフを腰のホルダーに差しているだけ。大きな革のカバンを斜めに下げている。伝令係のようだ。


「すみません、ここの方は六名全員が中級以上ですか?」


 そうだ、と一番近くにいたハユハユが答えると、伝令はまず頭を下げた。

 先の行商人の護衛について、予定のコースに普段より強めの魔物がおり、護衛を中級以上に限定した。そのため欠員補充として条件に合う人には声をかけて回っているという。


「途中の天候と、商品の契約の都合で、明日、日付が変わる前に出発します。お願いできますか?」


 ハユハユはシュピーツェが去っていったあたりをじっと見て、うぬぬ、とうなり、フリューシャのほうへ向き直った。フリューシャは頷いた。


「あの、五人でも、良いですか? 一人、今出ていった彼がどうするか、今ここで勝手に決めてしまうわけにいかないですし。」


 もちろんです、と伝令係は頷き、自分の腕に筆で印をつけた。先ほどの彼には、お会いしたら聞いておきます、と言い、素早く去っていった。


「…………じゃあ、支度、しましょうかね。」


 伝令の姿が見えなくなってもぼーっとしていた五人であったが、ゆっくりとダージュが立ち上がった。


「さ、リーダーは、依頼、受けに行ってくださいよ、っと。」


 背中を押されたフリューシャが「家」を出た。肩にハユハユが乗っている。ダージュとテトグは荷物の整頓。夏樹は大家と魔導師ジュニーニャに挨拶に行くことにした。タリファは買い出しだ。荷物持ちがいないと愚痴るタリファだったが、まだ見慣れた言い回ししか読めない夏樹を向かわせるわけにはいかないし、ダージュを連れて行くとテトグはさぼるだろう。仮眠の時間が減るのは嫌だ。


「あ、そうだ。ダージュ、あんたが買い物行って。私荷物片づける。」

「うええ? お前が片づけると絶対余分に捨ててあるもん、ヤダよ。」


 結局10分程もめてから、ダージュが出ていった。


「なんだかんだ言って、買い物はあいつに任せてたもんな。今度からは俺か。」

メモを懐にしまい込み、背の高い長耳族にしてはゆっくりとした足取りで、ダージュが出ていった。




「もう戻ってこないから、置いてあった食器以外にも大家さんに言うか、お隣さんとかに配るか、なんだけどねえ。どこもそうたくさんは受け取れないだろうからね、できる限り処分だよ。」


 いらないものを処分する以外にも、位の高い人や、大都市までの護衛には、それなりの服装を別に用意しなくてはいけない。ならず者や浮浪者と思われて町へ入れないからとか、商人の場合安く見られてしまうのを防ぐためとか、ある。そういう服は一応それぞれしまい込んであるのだが、太ったり筋肉がついたりと体格が変わって着られないことのないように確かめておかねばならない。日本と違って、サイズの合う服が気軽に買える場所ではないし、直しも結構お高い。


「成人の儀に付き合って長老とかと会うときは、修行だから冒険者ルックでよかったからねーここでは結局全然着てないよね、お高めの服ー。」


 テトグがサイズを確かめた二人分の服をたたみながら言う。一年半以上の生活の中で、持ち込んだものの半分以上を売ったり使い込んだり捨てたりしているので、それまでの旅よりは、『余計なもの』は少ない。


 だが、少ないのは、ないのとは、違う。


「じゃ、これとそれだけ、どうするか確認ね」

「ああ、これは……ちょっと無理ね。買い替えるほどでもないし、捨てよう」

「誰か一人は持ってると思ってたけど、だれも持ってないわね。誰か戻ったら行かせましょ」


 本人以外開けないと決めた部分以外は荷物をひっくり返す勢いで中身を改め、持っていくと決めたものだけをしまいなおす。そのうち申し込みだけだったシュピーツェとフリューシャが返ってきた。


「話しは歩きがてら聞いた。俺の申し込みは済ませてあるし、途中でその伝令に出会ったから話した。……それなら俺が買ってくる。それと、夏樹から伝言で、昼は食べておいてくれとのことだ。」


 昼食に入る前に、夏樹以外の荷物はすっかりまとまった。午後のお茶の時間には夏樹も帰ってきて、すぐに支度が整った。夕食を早めに軽く済ませて多少寝る時間を早くすれば充分に起きられそうだ。

次回は火曜日か水曜日に投下します

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