休まらないひと休み 5
握らされた紙を読んだシュピーツェは、途中で紙を燃やすと帰って何事もなかったのように眠った。朝いつもと同じように起きて、朝食の際に予定を話し合う。
フリューシャたち三人は、ハルーミンのような放浪の魔導師に話を聞きに行くことにしていた。町に住む者の当番として食堂の手伝いをする日だったので、用事を入れていないテトグとタリファが行くことに決めた。ハユハユはジュニーニャのところで魔法の練習をする冒険者パーティの付き添いだとかで早くから出ていった。
シュピーツェは、約束があるとだけ話して、さっさと後片付けをして出ていった。
魔法の練習のための空き地と森の境目。人目につかない場所でシュピーツェは暇つぶしに手足の指の体操を何回かして、飽きて寝転がった。
燃やした紙には、二人でアクヴァの知り合いを辿って話を聞きに行きたいという内容が書いてあった。シュピーツェは少し心を動かされていた。
今まではっきり記憶のために何か探すことはしなかった。必要を感じなかったし、手掛かりがなさ過ぎたし、五人を自分のどろどろした事情に巻き込むのは嫌だからだ。
冒険者としてのタグがある今なら、命を狙われることは少ない。残りの五人の関係者でなければ、自分にかかわりがある者が殺したと宣言するようなものだ。少し頭の回る組織なら工作でもしない限り自分たちがよその軍や国際機関などに注目されるようなことはしないだろう。
五人が良いと言えば自分の旅を優先することも可能ではあったが、五人が巻き込まれていいと思うほどの重要性が、記憶を取り戻すことにはなかった。
しかし、アクヴァは事情を理解し、彼自身も訳アリで、巻き込むとか巻き込まれるとか気にする相手ではない。巻き込み合っても対処ができるような経験と知識とつながりを持っていて、何事も起きなければはるかに苦労は少ない。何よりこれ以上手掛かりになる人とほかに出会えるのだろうか。
「悩んでいるようだな」
ひょこりとハユハユが顔の前に現れた。いつの間にか抜けだしていたのだ。
「行って来い、とわしは思うのだ。今は、知りたい、思い出したいという気持ちが強いのだろう?
……あのアクヴァという者にお前さんについていくつか質問されたのだ。彼はお前さんのようになった同胞について調べておるようだ。ここで出会えたのは創世の女神の導きやもしれんぞ。」
俺はそういうのはあまり信じてないんだ、と呟いてシュピーツェは寝返りを打った。
次回は4月上旬に投下しようと思います。