休まらないひと休み 2
シュピーツェの髪は、多口種に見られる茶や黒から変化した髪とは灰色の色味がちがう。長耳族の髪ほど細い毛でもないし、ドワーフ族のような硬めだったりふさふさと毛束が大きい毛でもない。一年以上共に暮らして換毛も見られないからテトグのような猫獣人の仲間でもない。
少し青みがあってやや硬めなところは両性種に近いが、両性種の髪は他の種族よりもややべたついているくらいに艶々で、なおかつ、肩あたりの長さに切りそろえられている事が多い。出会ったころから肩に着くより長かったことを考えると、混血している可能性はあるがそのままではないだろう。
ハユハユが話を聞いた冒険者は両性種のクォーターだった。六人より一年以上前からリンドにいる上級の冒険者で、六人のことをある程度知っている。その冒険者が言うには、シュピーツェの外見は自分のような混血の中で、多口種以外とも混血している人に似ているという。
一度話がしたいとその冒険者は言っていたから、こちらから連絡をすれば予定を開けてくれるだろうということで、個人的な募集や連絡用の掲示板を使って、その上級冒険者を家に招くことにした。
「こんにちは。わたしはアクヴァと申します。お役に立てればいいのですが、何分わたし自身、なかなか知らないことわからないことだらけでしてね。
ああ、私の母が混血で、父は出身が北方のようなのでおそらくドワーフの血が混ざっているのでしょう。」
現れた冒険者は、よどんだ群青のような色の硬くてしっとりした髪を束ねた男性だった。背も夏樹より低く、握手した手は他の冒険者よりは骨ばっていない。
アクヴァの出身の村は、両性種との混血やその両親あるいは子どもたちが固まって暮らしていた。
両性種は限られた場所でしか暮らしていないので、まったく見られない東方の北部や北方の国では差別や偏見が根強く残っている。差別のつもりがなくても言い回しなどに一端が色濃く見えるような場所だ。そこまでのことはなくても、面倒ごとにかかわりたくないからと避けられる場面が多い。
さらに、水場がないと純粋な両性種のように命を落とす者もあれば、皮膚の裂傷や体調を崩す程度で済むものまでさまざまな影響を受ける。アクヴァたちは自然と付き合いは混血の仲間内だけになっていった結果、元の村から独立し、山中の小川のそばでひっそり暮らしていた。
そうした出自から、自然と仲間を見分けられるようになったアクヴァたちは、村から出て生活するようになっても、どうしても仲間かもしれない人には気持ちが向くのだという。
両性種の混血は、外観や体質から、タイプわけができる。一つは、多口種との混血。見た目や性質も、単純に多口種に近くなる。肌の色の青みが減ったり、髪の色に赤みや茶色みが入る。水かきがあってもわずかなものだ。化粧や顔を隠すなどすれば、遠目ではわからない。
二つ目は長耳族との混血。背が多口種と同じかそれ以上に伸び、耳がとがり、髪の水っぽさが少なく、少しべたついた人の髪と変わらないくらいになる。肌の色は青みがなく、絵にかいたような透き通った白い肌になる。初めてそれを見たアーシェ人が『本物の妖精』と呼んだという話があるし、もともと肌が白めな人種から見てもうらやましい色らしい。
三つめは赤眼の民との混血で、髪は親のどちらかと色はまったく同じ色で、質は両性種と変わらないべったりしたもの。肌の色も赤眼の民と変わらない白い色か濃い日焼け色になる。瞳だけはどちらとも違い、濁りのある紫がかった色になる。
四つめは碧眼の民との混血。碧眼の民の多いエルシア国がもともと湖のそばから発展したせいもあって、ほかの混血より記録の数が多い。肌は青に近くなり、髪質は見た目は変わらず、伸びるのが早く、長くなる。長耳族に近い長い耳になり、手足が多少長めになる。
外見は最も『人間』離れしているのもあり、技術が発達した現代では発覚したらひっそり殺されるくらいの扱いを受けるか、生んでもらえても恐ろしい差別の日々を過ごすことになる。集落によってはわざと生かされ生贄や薬の原料になる時代がつい数年前まであった。
他は数が少なかったり特徴がまとまっていなかったり、タイプとして確立していない。ちなみにアーシェ人との混血が1例あって、その個人に限って言えば、アーシェ人の肌と髪の色を少し青くした程度らしい。
アクヴァは、シュピーツェが複数の種族の混血だろうと話した。、遠い祖先の形質がたまたま強く出た子孫ではないかと見立てた。
「今は、わたしの村はありません。分かっている知り合いに紹介するくらいしかできませんが、それでよろしければ、すぐにでも、連絡を取りましょう。
そして、それと関係なく、あなた方と友人になれたらよいと、想います。」
シュピーツェはその場では断ったが、その日の夜、一人で酒場へ行くアクヴァを追いかけて、隣の席へついた。
次回は明日投下します。