休まらないひと休み 1
遺跡からの戦利品を売却し、魔物や野生動物の討伐数を報告して戦績をタグに刻んでもらうと、一行はそのまま登録所の休憩室の椅子に腰を下ろした。今回は行き帰りを別にしても十日近く籠っていた。今までの倍近くリンドから離れていたことになる。荷物も疲れも三倍といった感じであった。
リーダーであるフリューシャだけ細かな書類のために受付に呼ばれる。それ以外のメンバーは、家に帰ってもよいのだが、遺跡から歩き通しだったから、ひと時でいいから、一秒でも早く、一秒でも長くふかふかな椅子に座っておきたいのであった。帰るくらいの英気を養ってから、パーティは解散した。
一年近く滞在して上級の遺跡以外は入ることができるようになってきたのもあって、定期的に招集される魔物討伐にも参加するようになった。
遺跡探索と魔物討伐では装備が違うから、家の中の荷物も増えた。合わなくなってきた道具は修繕して近所の後輩冒険者にあげるか売るかして減らす。
破損がひどいとパーツをばらして回収ということになるが、パーツに分けるのが面倒くさい。金属と魔法具用の宝石以外は需要と供給のバランスが悪すぎてろくな値段にならない。
長い探索から戻ったものの、怪我の療養で魔法の練習もできないし集落に話を聞きに行くこともできない六人と一体は手元に残した荷物を確認しつつ、買い出しの計画を立てるのであった。
フリューシャのピアスの線は三本になっていた。はじめに話を聞いた書記官と、集落の長老に会う許可をもらうための人、それとジュニーニャとは別の高名な魔導士から成人の儀としての話を聞いて線を入れてもらった。
冒険者の時代と違い、とにかく話を聞いたら即座に北の果てを目指すのも少なくないが、そういう人は集落の近くまで乗り物や自前の鳥で荒野を超えていくので、事前に金をためている。それに最後の試練が済んだら集落に帰るだけだ。
しかし試練の後も旅をつづけ、特に北方の厳しい気候を踏破する予定であることを考えると、いっそ乗鳥も借りずに自分の足で歩いていく昔のスタイルを目指したほうがいいように思えてくる。
「昔みたいに歩いていくなら、上級の遺跡へ行けるくらいになって、山道とか砂利道とか、長く歩くことにも慣れたほうがいいけど、それだと短くてももう一年ここで足止めになる。
僕やダージュは構わないけど、夏樹やテトグやタリファの時間の無駄遣いになるかもしれないし、シュピーツェは早く他の場所を回りたいだろうと思うんだよね。
装備とか魔法とかは十分最初の目標には届いてる。これ以上どうするか、全員そろってるときに話し合っておきたいんだけど、どうかな。」
もちろん、先に今日のご飯を考えないといけないけど、と言ってフリューシャは立ち上がってお茶を淹れる支度をした。物々交換でもらった、東方のお茶で、夏樹には懐かしいにおいに感じた。緑茶に近いものだ。
「僕のことはいいよ。僕も試練受け取っちゃったし、旅の後アーシェに戻るわけでもないから、一年くらいどうでもいいというか、特にいつ終わりたいとかないし。」
夏樹がお茶を飲む。横でテトグはふうふうと茶を冷ましてから、自分も別にいいとだけ答えた。タリファは、旅の後のことは考えないことにしていると、やや冷たい声音で答えた。シュピーツェが答えようとすると、ハユハユが突然
「ちょっと待ってくれ」
声を上げた。なんだか邪魔をするようで悪いが、とハユハユは済まなさそうに続けた。
「先日ダージュと夏樹がいたパーティに、シュピーツェに似た髪質の者がおってな、話をしてみたんだ。直接は関連がなくとも、何かヒントになるやもしれんことを聞いたのだ。」
ハユハユは一度話を切り、腰を折って済まぬとフリューシャに謝った。フリューシャは、その話の内容でシュピーツェのこれからの方針が変わるかもしれないから、と話を促した。
次回は明日投下します。