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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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予告編

王道というか、自分が学生時代読んでいたような分かりやすいファンタジーを書いてみたくなりました。よろしくお願いします。

 異世界『アーシャーイア』と交流が始まって、次の記念日で五年経過する。あちらへ移住した者はまだ指折り数えられるくらいしか居ないが、あちらへ短期間渡った者は少なくない。何より、あちらからやってきた者たちは国際機関が把握しているだけでももうすぐ一万人を超えるかもしれないのだ。影響は大きく、急激に広まっていった。




 首都アルネアミンツは、世界中の人々が行きかう国際都市である。アーシャーイアから伝わったコンクリート素材を使った高層建築がいくつも背比べしている。昨年ごろからの流行もあって、次々生えるように建てられているのだ。


 希望や光、未来など明るい言葉や景気のいい話題が飛び交い、異世界式に、特定の職業でないただの会社員が夜でも働くことも珍しくなくなっていた。アーシャーイア風という意味の「アーシャ」や「アーシャ風」という商品も分野によってはもう見慣れたものだ。


 特に、アーシャ礼服と呼ばれる、つまりはビジネススーツが都会では広まっていて、そこそこ大きな町には仕立て屋が競っている。アーシャ礼服の仕立て屋は、必ずアーシャーイアへの渡航と、一定期間の修行を必要としているはずで、気をつけなければ無資格者がつくったとんでもない粗悪品や不格好なアレンジ品をつかまされる。


 その、仕立て屋から服を何着も受け取っている長耳族の青年が居た。元服の儀式となる旅の途中であることを示す文様入りの、金の首輪をつけている。そばには仲間らしき男女がいて、一人の少年が、青年に礼服の着方を説明しようと、更衣室を探す。一番最後に、店員らしき女性がつき従っている。


「ナツキ、君の住んでいる国は湿っぽいそうだが、本当にみんなこんな服を着ているのかい?」


 長耳族の青年は、割り当てられた更衣室の番号を持って見回す先頭の少年に声をかけた。少年はややだぶっととした長袖のシャツと、デニムに似た生地の丈夫そうな十分丈のパンツを履いている。ナツキ少年は立ち止まり、青年を振り返った。


「最初に会ったときの僕の服覚えてる?あれは僕の学校の制服なんだけど、似てるでしょ?着ない人もいるにはいるけど、仕事してる人の制服みたいなものだよ」


 夏樹は話し終わると、更衣室を見つけ、青年の受け取った服をそれぞれに分配した。本当なら女性がいるから二箇所必要になるところだが、女性は豪快なドワーフ族らしく『そんなもんいまさら平気だろ?何より全部脱ぐわけじゃないんだし、余分に金をだすことないじゃないかい!』と笑い飛ばしたので全員ひとところなのであった。


 店員と夏樹が、順番に礼服を整えていく。

 最初は、この旅の仲間の中心である青年フリューシャ。長耳族らしいすらっとした背と長めの手足が、やや細身のスラックスで強調されるような気がするし、長耳族とこの世界の標準的な人間のハーフであるダージュはバランスは夏樹に近くても背が高くて顔立ちもそこそこ整っていて、夏樹はうらやましいと思うのであった。

 整えてもドワーフ女性タリファは低身長とごつい体格のせいで子供が親の服を着たみたいになってるし、人種や民族のたぐいがさっぱりわからないシュピーツェは着替えても剣を背負うし、亜人種のテトグは頭上のふさふさ猫耳のせいで、ふたりはコスプレ途中みたいだ。


「こんなの必要なん?」


 テトグはぱっと上着を脱いでぱたぱた手で仰ぎ始めた。股間以外隠す習慣がなく皆ホットパンツしかはかない種族だから堪えるのだろうか。


「いったん旅費を稼がないと、ここで飢え死にってなっちゃうから仕方ないさ」


 ダージュは言いながら、店員が示したスカーフをさっと巻いては鏡をチェックしている。なお、ネクタイは一部の地域を除いてあまり根付かなかったようだ。六人の中ではネクタイをしているのは制服で慣れていた夏樹と、ネクタイの何かが気に入ったらしいシュピーツェだけだ。


 ぽよんと薄紫色の何かが二人の頭の上を跳ねて行き来しつつ、迷彩柄の蝶ネクタイをてっぺんに乗っけて喜んでいる。迷彩柄なんて、間違いなく大本であるアーシャーイアでは売れないだろうし売っていないだろう。ネクタイならあるかもしれないが。


「ここへ来るまでに持ってたくらいの額は貯金しなきゃねェ。」


 タリファが蝶ネクタイをひっつかんで店員に返し、下も脱ぎかけたテトグに怒ってもう一度全身整えなおした後、六人と一体は最後に髪と化粧を整え、更衣室を出た。店員がにこやかに見送ってくれた。


「ありがとうございました、いってらっしゃいませ。これからもご贔屓に」




 魔法がへたくそな長耳族の青年フリューシャ。アーシャーイアから来た高校生夏樹。夏樹が最初に世話になった家のハーフ少年ダージュ(大樹)。不器用なドワーフ族女性タリファ。記憶喪失出自不明の戦士シュビーツェ。猫耳の亜人種テトグ。流浪の魔術師から押し付けられた波動生物ハユハユ。


 六人と一体の旅の記録をこれからのぞいてみよう。


~~~~~

●フリューシャ(フリューリェイシャ・リーフェイイェンリャ)

 百歳で成人を迎える長耳族の青年。成人前後(九十八歳~百歳、希に百一歳)になるべく長い旅を始めて、あらかじめ言い渡された目的を達成し、聖地で証を授かると元服の儀式となり、彼らの社会的にも成人と認められるようになる。長耳族は魔法に長けていることで有名だが、フリューシャは家族が数代にわたって、魔法が長い間禁止されていた人間社会で暮らしていたせいで基礎を学ばなかったため、彼に素養があまりないことに気づくのが遅れた。


 人間から見たどころか、同じ集落の仲間から見てものんびりして見える上に友人が少ない。ゆえにたまに変な行動に走る。女性に興味がないっぽい。

 本名が長いのは長耳族の習慣なので仕方がない。戸籍や社会的に必要な書類は全部フリューシャ+苗字で通している。リューシャとかリューという愛称もあるが、他に同様の愛称を持つ名前が多数あるため他の五人は使っていない。


安藤夏樹あんどう なつき

 十六歳で高校二年生の夏にこの世界へ転移した男の子。制服はブレザー。転移先が、フリューシャの集落と隣の集落の間だった。

 制服をもう着ないという理由で高額で売り払ったり、道具屋や雑貨屋に目がないなど、RPG好きっぽさがにじみ出る。両親は岐阜出身で彼は幼い頃愛知県に住んでいた。そのあとは転移するまで神奈川にとても近い静岡県に居た模様。

 VRが世に出てから長いがVRではない、二十世紀最後~二十一世紀初頭のレトロなゲーム機ばかりで遊んでいた。


●ダージュ・リン・メイジェンリーンシャ(近 大樹)

 十六歳。父親が長耳族、母親が東方人というやや珍しい一家の息子。東方どころか、付近の集落より外部に行ったことがない。学校に通ったりもしていないため同年齢とくらべてオバカ扱いされる。しかし、とても聴力が良く、木登りはうまいし素早いため、鳥や卵、木の実を採る仕事を任されていた。

 東方の言葉は、独特の表意文字(表意かつ漢字の様につくりと偏からなる規則的な文字)の組み合わせで、名前にも意味がある。本人は集落の長耳語(かなり訛った標準語)の簡単な語彙と周りの話す内容しか喋れないので、自分の名前の意味を知らない。

 夏樹が最初に預けられた理由は、彼や母親の東方人特有の黒髪である。見た目が近い=なじみやすいだろうという予想。


●タリファ・ギーフ

 四十七歳。幼い頃不器用すぎて集落(洞窟)を追い出されることになり、行商人に押し付けられて育った。学校は日本で言う中卒相当程度まで通わせてもらったが、直後に行商人が長耳族の森に入ったところで置いていかれた。

 フリューシャやダージュの居た集落とはかなり離れている町に住んでいたこともあり、やや世間の常識にあわせて生活できる。名前を最初に聞いた夏樹がびっくりしたあとお茶を吹いたので、失礼なガキだと思っている。理由を分かる人に説明されてもあまり認識は改善されないだろう。

 身長は一メートルと少し。


●シュピーツェ

 軍隊用の金属タグと着ていたものと非常食料キット以外何も持っていなかったため一切が不明。タグによれば名前がシュピーツェ(Spiietse)で階級は地球で言うと兵長くらいと思われるもの。同じつづりの用語が各地にあり地球換算だとばらばらで、とりあえず現場ではえらいほうだが幹部や後方でふんぞり返るほど上位ではないという意味。


 装備品はそろったものではなく、キットの説明などの文章は標準語でかかれておりかつ地名などの固有名詞が見つからない。瞳の色が碧眼の民の色に近いが肌色は彼らにはありえない焼けた色かつ、髪の色は標準的な色があせたような淡い色で、様々な人種が混ざっていることがうかがえる。身長が平均よりやや低い(約165cm)なのと、腕にところどころ文様の刺青があるのが両性族的だが、しっかり男性なのは間違いない。


●テトグ

 十歳(人間換算で十八~二十歳前後)。猫耳や犬耳など哺乳類的耳を生やす亜人種ワシェナの女性。普段はホットパンツ一枚しか着ないし持ち物は基本的に身につけられる範囲のみ。女性でも胸は出産後でなければ目立たないが、人間が多い町に住む者はチューブトップなど胸を隠すことがある。言葉遣いは砕けているがやることは基本的に丁寧。


●ハユハユ

 波動生物で年齢不詳。最低でも二百年経過している。波動生物らしい直径・体高十センチ前後の、薄紫色の体色をした丸っこいもの。瞳の色はこげ茶色。旅の途中で出会った昔ながらの服装の魔術師がフリューシャと夏樹に押し付けた。本人(?)はシュピーツェの頭や肩の上に乗っているのがすきらしい。

 波動生物らしからぬグルメで、草や生の魚などは一切食べず、人間が食べる料理しか食べない。はじめは馴染もうとせず、魔法を使えないフリューシャに侮辱的なあだなをつけたりしていたが仲間だと認めてから謝った。

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