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94.前編


 それは神の気まぐれだった。


 あるところにゲームに似た世界があった。

 人々の能力はステータスという数値で管理され、各々の技能はスキルと称され、魔法と魔物の存在する世界。


 その世界にゲーム好きな人間を送り込めば、どのような結果になるのだろうと。

 そんな神の気まぐれにも似た遊戯によって、地球から66人の人間が異世界へと送り込まれていった。


 その結果。

 残ったのは、俺とカモナー。おまけでリオンさん。気絶したヒカリ様。

 わずか4名のプレイヤー。


「面白い余興だった」


 スマホが光を放つ。

 突然、目の前に現れたのは一人の老人。


 その姿は、身長は3メートルをはるかに超えていた。

 その姿は、うっすらとぼやけて光をまとって見えた。

 その手には、禍々しいまでに光り輝く大剣を抱える。


 年老いた見た目に騙されてはならない。

 目の前の老人は、明らかに常人ではない。


「そう全てが余興。であれば最後はワシと戦って、せいぜい楽しませてくれ」


 勇者を相手に舐めた言い分。いったい何者か?

 それは不明だが、言えることはただ一つ。

 俺を殺そうとしている敵だということ。


 なら、やる事もまた一つ。

 戦う。抗う。それだけだ。


「最強・勇者アタック!」


 ブッピドカーン


 正体不明の相手に手加減は無用。

 掟破りのいきなり必殺技だが、文句を言われる筋合いはない。


 なぜなら光の消えた先に立つのは、傷一つ見当たらない老人の姿。


 ズッパドカーン


 両手に構える刀と棍棒で斬りかかるサマヨちゃん。

 闇の煙が晴れた先には、やはり傷一つ見当たらない老人の姿。


「心配はいらぬ。死んでも、地球に戻るだけよ」


 老人が手に持つ大剣を振るう。

 最強勇者の俺ですら目で追うことができない速度。


 それでも、気絶したまま寝転がるヒカリの首が弾け飛ぶのが見えた。


「神速・勇者アタック!」


 スカッ


 神速であるはずの勇者アタックがかすりもしない。

 俺以上の素早さを誇るサマヨちゃんですら同じ。


 老人の動きは神速をも超える、まさに超神速。


「勇者カウンター!」


 それでも、俺の身体が、習得したスキルがギリギリで反応する。


 カキーン


 カモナーの首へと延びる大剣を弾き返していた。


 カキーン カキーン カキーン


 俺を捨て置き、サマヨちゃんを無視して、執拗なまでにカモナーを狙う老人。

 ヒカリといい、なぜ俺ではなく他者を狙う?


「その方が面白いだろう? お主の泣きわめく顔が見れる」


 ……ふざけたことを。

 だが、それは事実で、そうなっては俺に勝ち目はなくなる。


 怒りで冷静さを失っては、勝てる勝負も勝てない。

 そして、怒りでパワーアップするなどという夢物語に期待するほど、俺は落ちぶれてはいない。


「ユ、ユウシャさん……ごめんなさい。僕、何が起こっているのか……」


 火花を散らす剣撃。

 その背後で立ちすくむカモナーは、超神速に全くついてこれないでいた。


 それも無理はない。


 勇者でもない常人のカモナー。

 ドジだけど明るく優しいカモナー。

 それが、俺の力になろうと、ここまで付いてきてくれたのだ。

 苦手なはずの戦闘も、こなしてきたのだ。


 カモナーは何も悪くなく、謝る必要など何もない。


 だから、俺はカモナーに感謝する。

 今まで、ありがとう。と。


 老人の両腕に爆発的な力が集まっていく。

 広範囲をも一撃で吹き飛ばし消し飛ばすだけのエネルギーの高まり。

 もはや勇者カウンターで何とかなるレベルではない。


 だから、俺はカモナーに謝罪する。

 守れなくて、ごめんなさい。と。


「カモナー……090×××……俺の電話番号だ……先に戻っていてくれ」


 俺の言葉に身動きすらせず、目を閉じ口を閉じるカモナー。


 異世界に召喚されたプレイヤーは、死ねば地球に戻るという。

 そのような不確定な情報……

 それでも、今はそれを信じるしかない俺の弱さを許してください。


 俺は、カモナーに寄り添い口づけする。


 先に戻っていてくれ……

 この件が片付けば、俺も戻る。

 続きは次に会った時。


 そのためにも──


「強奪!」


 GET! 調教LV5


 スマホから習得できるのは、スマホから習得したスキルだけ。

 カモナーが現地で、異世界で自力で習得したスキルを受け取るには、強奪するしかない。


「強奪!」


 GET! 乳しぼりLV5


 お互いの腕を絡め、身体を押し付けるカモナー。

 全てのスキルを、力を、魔力を、俺に押し付けるかのように。


 だから俺は──


「強奪!」


 GET! 餌やりLV5


 カモナーの全てをむさぼりつくす。


 意味のないスキルなど存在しない。

 全ては、カモナーが異世界で生きた証。

 だから、俺はその全てを受け取り、引き継ぐのだ。


 ドガーン


 俺の身体を、寄り添うカモナーの身体を、衝撃が突き抜ける。

 寸前。


「勇者バリア!」


 インビンシブルバリア。

 俺の身体は物理攻撃に対して無敵と化していた。


 だが、無敵と化すのは俺の身体だけ。

 俺の目の前で、カモナーの身体は衝撃波に貫かれ消滅していた。


 ……悲しむのは後だ。


 今は。今俺がやるべきことは。

 カモナーのスマホを、所有者のいなくなったスマホを俺のスマホと統合する。


 GET! 水魔法LV5.調合LV5.採取LV5.小剣LV5.召喚LV5


「ふはは。その顔。おもしろいものよ」


 今の俺の顔は、お前の望み通りなのだろう。

 涙にくれ鼻水を垂らしたみっともない顔。


「サマヨちゃん!」


 先ほどの衝撃波の影響だろう。

 インビンシブルバリアのないサマヨちゃんの身体もまた、傷だらけ。

 それでも無事なのは、不死身のアンデッドの身体。


 俺は寄り添うサマヨちゃんの手を取り、指をつなぐ。


 他人の不幸は蜜の味という。

 そんなに俺の薄汚い顔がお望みなら、いくらでも見るが良い。

 だが、他人の不幸を、悲しむ顔を見て喜ぶような下衆い奴に。


 最強勇者が屈するわけにはいかない。

 なぜなら最強勇者は最後の希望。


 悲しみが強ければ強いほど。

 不幸が大きければ大きいほど。

 力を増すのが希望というもの。


「勇者パワー全開!」


 勇者パワーは悲しみを、不幸を吹き飛ばす希望の力。

 勇者パワーは他者を、仲間を強化する勇気の力。


 今。勇者パワーが強化するのは、サマヨちゃんだけじゃない。


 俺の体内に集まった力。スキル。

 これは俺だけの力ではない。

 カモナーの。多くのプレイヤーが集め、育て、残した力。

 この異世界で過ごした記憶にして記録。


 だから。強化する。

 全てのスキルを。全ての想いを。全ての力を。


 「1000倍……マックス!」


 目の前の老人。

 最強であるはずの最強勇者をも超える力。


 常識では考えられない力。

 なら、奴が俺たちを異世界に呼んだ神とでも呼ぶべき存在なのだろう。


 全てのスキルを生み出し俺たちにスキルを与えた親のような存在。


 だが、生まれ落ちたスキルは、いつまでもお前の思い通りになるものではない。

 子供が、やがて大人となり巣立っていくように。


 俺たちプレイヤーが使い、育てたスキルもまた、お前の元を巣立つ時。

 親をも超える、お前の力をも上回る最強のスキルとなって。


「最強──」


 痛い程握りしめられる左手。

 俺もまた全ての力を込めてサマヨちゃんの右手を握り返す。


 光と闇だけではない。

 炎も水も風も土も。

 今こそ全てのスキルの力を一つに!


「最強・勇魔消滅アルティメットアタック!」


 光と闇が舞い炎と水が燃え狂う。

 全ての力が一つとなって襲い掛かる究極攻撃。


 ドッカッズドーン!


 その光が消え去り、闇の煙が晴れる時。


 老人の大剣が俺の、俺たちの眼前に迫っていた。


 予知で視た未来は絶対。

 そして、俺の死は今日だという。


 そうなのか? そうなのだ。


 ズバーン


 振り切られる大剣。

 叩き斬られるサマヨちゃんの首。

 そして宙を舞い吹き飛ぶのは……俺の頭だ。


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