91.王都へ
長老の死から一夜明けた。
みなが悲しみに沈む中、街を離れるのは心苦しいが、ここでのんびりしているわけにもいかない。
騒動の元凶であるタローシュを討ち取るのが一番の供養。
その後。
俺たちはカモナーの鑑定を使って、各地を転戦。
タローシュが配布した全てのスマホを回収した。
100/11/30(水)15:00 王都近郊
「というわけで、王都に到着だ」
「はやっ。てか、なんであたしまで……」
「ほんとだよぉ。こんなエルフいらないよぉ」
もっとも、まだ王都を望む丘に到着したにすぎない。
王都に入るには、街を囲む城壁を通る必要がある。
「ん……ああ。もう帰っていいぞ?」
「今さらっ?」
「ユウシャさん。どうするのぉ?」
「こっそり侵入。しかる後にタローシュを暗殺する」
城壁では衛兵による検問が行われており、偽の御使いとして指名手配されている俺が通ろうとすれば捕まるわけだ。
最強勇者に衛兵を恐れる理由は一つたりともないが、無駄な殺生に意味はなく、仕事に励むであろう衛兵を痛めつけるのは俺の望みでもない。
「暗殺って……卑怯じゃない?」
ボスッ
「いたいっ」
「それとも何か? 王都の人間を全て殺せとでも? お前……非道な奴だな……」
「残酷すぎるよぉ。エルフ怖いよぉ」
「ちょっ。人聞きの悪いことをっ。もう分かったわよ。好きにすれば?」
もとより勇者は強情。
卑怯などという世間の風潮には流されない。
なにより、これ以上はのんびりしていられない。
今日は、11月30日(水)
鑑定スキルを持つカモナーはいつでもランキングを見れる。
が、それ以外の者は、毎月1日。
明日がランキング更新の日なのだから。
「カモナー。ランキングを見せてくれ」
【ランキング】毎日24時更新
1.ゲイム・オタク レベル60 最強勇者
2.カモナー・アンドウ レベル60 真贋主
3.タローシュ・ノロ レベル55 強奪主
4.ヒカリ・ミト レベル50 未来巫女
ランキングを見れば一目瞭然。
もはや残るプレイヤーは4人。スマホは4台だけ。
いかに間抜けなタローシュであろうとも、気づくだろう。
タローシュが領主に配布したスマホ。
タローシュハーレムに配布したスマホ。
その全てが失われていることに。
そして……牢に閉じ込めたはずの俺が生きていることに。
強奪したはずの俺が、今も勇者であることに。
そうなれば、警戒する。
いかに馬鹿で間抜けで助平なタローシュであっても警戒するからだ。
100/11/30(水)23:00 王都 王宮内
「というわけで、侵入成功だ」
「成功だよぉ」
カタカタ
時刻は深夜。
人々が寝静まる頃を狙っての侵入。
ステータスに、身体能力に優れる勇者であれば、多少の警備に気づかれず侵入するなど造作もない作業。
「俺とサマヨちゃんだけで。カモナーは来なくてよかったのにな」
「差別だぁ!」
まあ、カモナーも強くなったようで足手まといではないから良いか。
「静かに! クソ野郎の声がする」
城の奥まった場所から聞こえる嬌声。
寝室のドアをそっと開け、中を覗き見る。
ギシギシアンアン
「しねええええええ!」
ズバッ
いたいけな女性に覆いかぶさるタローシュ。
その脳天へと剣を振り下ろした。
「キャー」
もちろん剣先は女性の眼前で寸止めする。
俺が叩き斬るのは悪人のみ。美しい女性に罪はない。
「ごほっ……またお前か? いきなり人を斬るとかさあ。ひどくない?」
頭を縦に半分斬られたというのに、痛むそぶりすら見せず立ち上がるタローシュ。
「しねええええええ!」
ズバッ
すかさずその首を斬り飛ばす。
ドサッ コロコロ
「カモナー。燃やしてくれ」
「あいおー。ファイア」
ボッ ボオオ
「だっ、だから! 少しは話を聞けっていってんだろお!」
不老不死を習得しているだけあってシブトイ奴だ。
炎に焼かれながらも口を利けるとはな。
さらにシブトイことにタローシュの身体が。
頭を失った身体だけが、俺に向けて拳を振るう。
ドカッ
だが、勇者に隙は微塵も存在しない。
音を立てて砕けるのは野郎の胸骨。
勇差カウンターが、野郎の胸へと叩きこまれていた。
魔法を使おうというのか、野郎の腕が突き出される。
ボキリ
すかさず腕を絡めて叩き折る。
ドスン
足を絡めて、地面に叩きつける。
全くもって隙だらけのタローシュ。
不老不死。
先手を取られても勝てるという驕り。
不死身の能力に頼りすぎではないか?
サイドテーブルに置かれたスマホ。
調べるまでもない。クソ野郎のスマホだ。
だが、ロック機構のかけられたスマホ。
権限を奪って俺の物とするには、所有者の同意か死亡が必要。
そして、不老不死で死ぬことのないタローシュを殺すことは不可能。
ならば答えは決まっている。
野郎自身に権限を放棄させる。
「しねええええええ!」
ドカッ
倒した身体を踏みつける。
「しねええええええ!」
ズバッ
叩き斬る。
燃えて転がる身体が粉々になるまで。
温厚で血を見るのが苦手な勇者にはツライ作業。
だが、今は容赦するわけにはいかない。
心を鬼にしてタローシュの身体を破壊する。
「しね。しね。しねえええええ!」
ドカーン
さすがにここまで破壊すれば、再生するにも時間がかかるだろう。
「カモナー。流してくれ」
「あいおー。ウオーター」
ジャバー
粉々となった身体を部屋の水洗トイレに流す。
仮に野郎の身体が再生しても、そこは下水の行き先。肥溜めの中。
せいぜいうんこに塗れて、勇者に反抗した罰を悔いるがいい。
ま、それはあくまで余興。
本番はこれからだ。
「タローシュ。死にたくなければスマホの権限を放棄してもらおう」
「死ぬ? 死ぬだって? 俺が不死身なの知ってるだろ? なに言ってんの?」
それが野郎の余裕の源。
決して死ぬことのないタローシュからスマホを奪うことはできない。
だが、不老不死。
本当に死なないのだろうか?
人間は意志ある生き物。
感情があり、考える知能があるからこその人間。
ならば、意志の、知能の存在しない人間はどうなる?
植物状態。
たとえ肉体が無事であったとしても、意志が、精神が存在しないのであれば。
それは人間としての死。
「勇者パワー100倍!」
「なにを……? っ! ぎゃあああああああああ!」
勇者パワーは仲間の能力を強化する。
さらには、触れた対象の能力を強化することもできる。
俺はそのパワーで女性の感度を強化することで、ベッド無双を演じてきた。
ならそのパワーで対象の、タローシュの痛覚だけを強化するとどうなる?
頭を斬られても、首を絶たれても痛むそぶりすら見せないタローシュ。
不老不死の能力には、身体の痛みを無効化する。
もしくは軽減する能力があるのだろう。
能力が無効化であれば、たとえ痛覚を1万倍しようが意味はない。
だが、軽減であれば。
わずかの痛みであっても1万倍になれば、それは激痛となる。
そして──
「ぎゃあああああ! いたいっいたいっいたいいいいいい!」
予想通り不老不死の能力は痛覚軽減。
それも当然。
痛覚を、五感の一つを完全に絶ったのでは、まともに生活すらできなくなるのだから。
つまり──
「勇者パワー200倍!」
「ひぎゃああああ! や、やめて! いたいいたいいたいいいい」
拷問も可能ということだ。




