表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/96

84.勇者認定


 100/11/3(木)08:00 ファーの街



 オーガキングは討ち取った。

 オーガ獣を追い払い街を守った俺は、ファーの街へと凱旋する。


 晴れた空にもかかわらず、雨粒が降りしきる街。

 狐の嫁入りならぬ、勇者の乗り入れだ。


「勇者! 勇者! 勇者!」

「やるじゃねーか」

「すげーなおめー」


 城門を入ったところで、取り巻く人々が俺を揉みくちゃに祝福する。

 痛い。叩くな。

 つーか、なぜに野郎ばかり寄ってくる?


「そりゃーおめー」

「女性たちは、郊外へ避難させたからだっぺ」

「ああ。もう街は駄目だと思ったからな」


 いや。城壁から俺を応援してくれた少女たちがいたじゃないか。


 見れば俺を取り巻く人並の外で、チラチラ遠巻きに見守る少女たちがいた。

 野郎共が邪魔で近寄れねーんじゃねーか!

 となれば、こんな場所に勇者が居座る意味はない。


 とっとと振り払いたいところだが、連中も悪気があっての行為ではない。

 愚鈍な民衆にちやほやされるのも勇者の義務の一つ。

 穏便に対応しておくとしよう。


「よしてください。私は勇者として当然のことをしたまで。もう少し早く駆けつけることができれば……力及ばず申し訳ありません」


 亡くなった人々。焼け落ちた家屋。

 オーガ獣を退けはしたが、それまでに発生した被害は戻らない。

 勇者の力を取り戻したといっても、単純に喜んで良い状況ではない。


「かー。謙虚、謙虚だねえ」

「街は無事なんだ。守るため亡くなった者たちも覚悟の上だ」

「ああ。あんたには感謝しかねえ」

「同じ男だが惚れそうだ」


 冗談でもやめてくれ。

 しかし、こう言っては何だが、俺は悲しい訳でも気にしている訳でもない。

 亡くなった人たちは俺の知り合いでも何でもないのだ。

 それでも、哀悼の意を捧げ、しおらしく見せるのが勇者にとって大事なポーズ。


「そう言っていただけると助かります。せめてご冥福をお祈りさせてください」


 降りしきる雨の中、俺は神妙な面持ちで黙祷するのだった。


 1秒……2秒……3秒……終わり。

 勇者のイメージ向上はこのくらいで良いだろう。

 時は金なり。

 いつしか雨も止んだことだし、これ以上のんびりしてはいられない。


「ところで一つお聞きしたいのですが、本物の御使い様はどちらに?」


 最後にクソ野郎の姿を見たのは城壁の上。

 野郎も俺の最強パワー発動を見たはずだ。


 自分を恨みに思う相手が身近にいる。

 それも勝ち目のない相手となれば、知能ある人間なら迷わず逃げ出すだろう。

 野郎が逃げ出す前に、俺のスマホを取り返す必要がある。


 最強勇者に今さらスマホなど必要ないが、常人が持つには過ぎたるお宝。

 何より奪われたままというのが癪にさわる。


「あ……あーその、なんだ」

「あんたのこと偽物扱いして申し訳ない」

「いや、だってさあ。国の偉い人がそう言うんだし」

「信じるのが普通だっぺ」

「俺らは悪くねえ」


 御使いの名を出した途端、人々は目を伏せうろたえを見せていた。

 俺のことを偽物の御使いだと。悪人だと彼らは信じていたのだ。

 俺がいない間、様々な影口や悪い噂話で盛り上がったことだろう。

 それが間違いだったと知った今、当人を前にしてばつが悪いようだ。


「全く気にしていませんよ。何か誤解から話がこじれたのでしょうから、本物の御使い様と話し合いたいと思いまして」


 別に民衆に当たるつもりはない。

 弱者が強者にこびへつらうのは自然の理。

 今後は、真の強者である俺にこびへつらってもらうだけだ。

 今のままの愚鈍な民衆でいてほしい。


「あ、ああ。それならまだ城壁の上にいるんじゃないか?」


「ありがとうございます。行ってみます」


 さて。民衆に当たらない分、この怒りをぶつける先が必要だ。

 といっても、恨みつらみをぐちぐち言うつもりはない。

 勇者には進むべき先がある。俺が真に倒すべきは、強奪野郎タローシュ。

 その手先を相手に時間をかけても仕方がない。

 きれいさっぱり、拳を一振りして終わらせる。


「というわけで死ねー! ……って、あの野郎いねーじゃねーか」


「あ! ユウシャさんっ」


 城壁の上へと飛び出す俺の前には、カモナーがいた。


「む。カモナーか。俺のスマホを盗んだクソ野郎を知らないか?」


「うん。そこで死んじゃってるんだよぉ」


 指さす先を見れば、自らのお腹に小剣を突き刺した姿で、元・親衛隊長は倒れ、こと切れていた。


「なんと? 自害か……」


 とても俺には敵わないと悟ったのだろう。

 野郎も実力で親衛隊長まで登りつめた男。

 いさぎよい最後であったというべきか。

 自らけじめをつけたのなら、これ以上、俺がどうこう言うことはない。


 ゴソゴソ


 腕を動かすだけだ。俺のスマホは返してもらう。


「あ、ユウシャさんのスマホはここだよぉ」


「おう。カモナーが見つけてくれたのか? サンキュー」


 手渡すカモナーからスマホを受けとる。

 顔を合わせるのはずいぶん久しぶりだが、心なしか、その笑顔が頼もしく見える気がする。

 俺がいない間に、カモナーも成長したようだ。


「うへへっ。ユウシャさんひさしぶりっ」


「まあな。カモナーも無事で良かった」


 ……こいつは相変わらずのん気なまんまだ。

 うへへっじゃないっての。

 スマホを手渡したというのに、いつまで俺の手を握っている?

 てか、カモナーの手。少し血のりが付いているな。

 怪我でもしたか? ふきふき。


「そういえば、城壁から俺を応援してくれた少女たち。カモナーが手配してくれたのか?」


「うんっ」


 少女に応援されることで、勇者はパワーアップする。

 それを知るカモナーだからこそのお手柄。

 グリさんを派遣して俺を迎える手はずを整えるなど、今回の騒動ではカモナーに随分と世話になってしまったものだ。


「うんっ。じゃありませんわ。わたくしもギルドマスターも協力したのですわよ」


 と、割り込むのは、元・鑑定女のリオンさん。

 そういえば、リオンさんも知っていたな。

 それに加えて、ギルドマスターこと受付のお姉さんも協力してくれたのか。

 そのギルドマスターは、俺の姿を見るなり頭を下げていた。


「その、ユウシャさん。すみませんでした」


 藪から棒になんだ?


「せっかくギルドに登録していただいたのに、偽の御使いだと迫害されるユウシャさんのクランを援助することもできず……申し訳ありませんでした」


 ああ。そうか。

 リーダーである俺が偽の御使い。悪いヤツだと断定されるということは、クランのメンバーも同様に扱われるわけだ。

 俺自身が陰口を叩かれるのは構わないが、メンバーまで、少女たちまでもが悪く言われるのは気分が悪い話である。


 ギルドマスターであれば、ギルドに所属するクランへの誹謗中傷を止める立場にあるのだが、まあ


「仕方のないことです。国王の命令。冒険者ギルド最大のスポンサーの命令であれば、逆らえるはずがありませんから」


 なんだかんだでギルドマスターとは、冒険者登録して以来の仲。

 クラン設立からお世話になっているし、悪い人でないことは分かっている。

 俺は頭を下げ続けるギルドマスターの手を取り、肩を抱く。


「それに、先ほども一緒に応援してくれたではないですか。ギルドマスターには感謝こそすれ、謝ってもらうことは何もありません」


 そうは言っても、俺に対して弱みを持つことになったギルドマスター。

 今晩ご一緒にどう? など、多少、無茶な頼みであっても断りづらくなったわけだ。

 なら、全く恨みに思う必要はない。


「その、ユウシャ殿……」


 手を揉み揉み、ギルドマスターとの親交を深める俺に声を掛けるのは、ファーの街の領主。


「街を救ってくれたことに礼を言わせてくれ。それでも……すまんがお主を、偽の御使いを街で受け入れることはできんのじゃ」


 スマホを取り返した今、俺は神の御使いになった。

 だが、国がそれを認めるはずがない。

 俺はいつまでたっても御使いの名を騙る偽物で、国への反逆者。


「その、お主が神のアーティファクトを持つ以上、お主の嫌疑を晴らすべきなのじゃが……」


 いくら領主といっても、所詮は一支社の支社長クラスでしかない。

 宮仕えであれば本社の、社長の命令には唯々諾々と従うしかないのだ。


 ま、田舎町の一領主に何も期待などしていない。

 なにより──


「私は勇者であって御使いではありません。偽物のままで結構です。そして、勇者が民を守るのは当然の義務。領主が気にする必要は何もありません」


「……勇者じゃと?」


 勇者という単語を聞いてもピンとこない様子の領主。

 それも当然の話で、この異世界。

 英雄は存在するが、勇者は存在しない。


 勇者である俺が、強奪などという盗人ペテン氏野郎に後れを取ったのも、この異世界に勇者という概念がないことが原因。


 勇者は、勇者を信じる者の声で、想いで強化される。

 勇者の信者。ファン。タニマチ。スポンサー。

 そういった連中が多ければ多いほど、俺は強くなる。


「教会の、国の決定に逆らう必要はありません。その代わり、私を最強勇者と認定してもらえませんか?」


 俺がタローシュを倒すには、勇者という概念を国に広め、勇者のスポンサーを多数集める必要がある。


「勇者とは、勇気ある者。たとえ恩賞が貰えずとも、正当な評価を貰えずとも、濡れ衣を着せられようとも、正義のため困難に立ち向かう者。それが最強勇者である私なのです」


「うむ……なるほど。分かった。ファーの街は、ユウシャ殿を勇者と認定する」


 これでファーの街の住人、およそ1万人全員が勇者の信者になった。


 というわけで、取り戻したスマホ。

 久しぶりにポチッと見てみるか。



【ステータス】


 名前:ゲイム・オタク

 種族:人間

 称号:1万人の勇者(NEW)

 職業:最強勇者  (NEW)

 レベル:55  (20    UP)

 HP:58014(55377 UP)

 MP:3344 (3192  UP)

 攻撃:4400 (4200  UP)

 防御:5038 (4809  UP)

 敏捷:6600 (6300  UP)

 魔攻:3344 (3192  UP)

 魔防:3740 (3570  UP)


 ポイント :4(4 UP)

 最強スキル:【勇者MAX(UP)】

 武器スキル:【骨LV5(UP)】【片手剣1】【盾1】

       【刀LV5(NEW)】

 他スキル :【投擲1】【騎乗2(UP)】【酔い耐性1】【睡眠耐性1】



 あれだけオーガ獣を倒したのだ。

 LVは20と大幅に上昇している。

 その他の数値はインフレしすぎな気もするが、ま、最強勇者だし当然か。


 そして、盗まれた勇者スキルの復活。

 加えて、勇者スキルの熟練度がMAXに上昇。職業が最強勇者になっている。

 勇者スキルMAXが、最強勇者ということか。


 ということは、タローシュの野郎が勇者スキルをMAXに上げた場合、俺と同じ最強勇者になるということだ。


 だが、同じ最強勇者となった場合でも、俺とタローシュには明確な違いがある。


 俺とタローシュの違い。

 それは目指す先の違い。


 最強勇者を目指す俺と、特に目的もなく平穏無事な生活を目指すタローシュ。


 俺の称号は1万人の勇者。

 今の俺の信者は、1万人ということ。


 対して奴の信者はいくらいる?

 勇者であることを公表せず、世のため民のため戦うでもない。

 自信の安寧だけを求める奴には、信者など存在しない。


 同じ勇者だと?

 あんなクズ野郎と一緒にされては、勇者の名が汚れる。

 迷惑極まりない侮辱行為。

 そして、今さら言うまでもないが、勇者は1人で、俺だけで十分だ。

 だから、タローシュ。俺が貴様を倒す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ