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8.群れとの激闘


 サマヨちゃんの骨を求めて森を移動する。


 骨レーダーによる感覚ではそろそろ骨があるはずだが……あった。


 草を掻き分けズルズルと地面を這い進む骨。

 これは右足だ。


 しかし困った。


 手元にあるのはサマヨちゃんの頭蓋骨。

 今、発見したのはサマヨちゃんの右足。


 胴体がないのに頭と足だけあってもな……

 部位が離れているため、合体させることができない。


 いや、やる前から諦めては何もできない。

 勇者は諦めない。


 俺はサマヨちゃんの右足を拾い上げ地面に立たせる。

 そしてその上、大腿骨の上に頭蓋骨を乗せてみた。


 これでどうだ?


 初めはグラグラ不安定だった頭蓋骨だが、しばらくすると骨同士がくっついたのか安定して見える。


 見た目は一本足の上に頭蓋骨が乗った新種のモンスターといった様相だ。


 なかなか器用なもので、今は片足でピョンピョン飛び跳ねながら俺の隣を歩いている。

 職業:暗黒バレエダンサーだからバランス感覚に優れているのかもしれない。


 この調子で骨を集めていこう。

 次の骨はと……この先か?


 草むらを抜けた先に犬のような獣が居た。


 まさかオオカミ獣? いや違うな。

 体長はおれの半分ほど。体毛は茶色で野良犬のように貧相な見た目だ。


 ただの野良犬か。勇者の相手にもならん。

 今は雑魚の相手をしている暇はないと言いたいが──


 その口元に、サマヨちゃんの骨をくわえていた。


 お前が骨泥棒の犯人なら話は別だ。

 勇者ダッシュで一目散に野良犬獣目がけて距離を詰める。


「バウッ!?」


 だが、走り寄る俺をみた野良犬獣は一目散に逃げ出していた。


 勇者が迫るのだ。逃げ出す気持ちは分かるが、容赦はせん。


「サマヨちゃん。ストップだ! 勇者シュートで決めるぞ!」


 後ろを飛び跳ねるサマヨちゃんに合図を送り、身体をひねって宙に飛び上がる。

 そして空中からサマヨちゃんの頭蓋骨だけを狙って右足を振り抜いた。


「空中ジャンピング勇者シュートォォォ!」


 唸りを上げて放たれた頭蓋骨が野良犬獣に激突する。


「ギャイーン!」


 野良犬獣ごときにいきなり必殺技を使うのは大人げないかもしれないが、勇者は赤子相手にも手は抜かない。



 野良犬獣から回収したのはサマヨちゃんの左腕。


 これはさすがに今のサマヨちゃんに合体させるのは無理だ。

 ちょうど俺の右手が空いている。武器として持ち運ぶとしよう。


 残る骨は一か所に集まっているようだ。


 オオカミ獣と戦った場所よりも遠く離れている。

 どうやら残りの骨も野良犬獣が持ち去っている可能性が高い。


 しかも複数の骨が同じ場所に集まっているということは、野良犬獣も複数集まっているわけだ。


 野良犬獣の住居か?


 雑魚とはいえ数が集まれば脅威にもなる。

 勇者は雑魚相手にも油断しない。


 倒した野良犬獣をナイフで切り裂き、サマヨちゃんが魔石を取り出す。


 所持金:1000 → 2000ゴールド


 安っ。

 まあ本命はこの野良犬獣の肉だ。


「サマヨちゃん。この肉をどうするか分かるかい?」


 えー食べるんじゃないのー? お肉おいしー!


「ふふ。サマヨちゃんは食いしん坊さんだなぁ。だけど違うんだ。これで野良犬獣を一網打尽にするからね」


 えー本当にー? 勇者様すごーい!


「やれやれ……普通のことなのにまいったな」


 と、こんな感じにサマヨちゃんが俺を称える姿が目に浮かぶようだ。


 よし。ならサマヨちゃんの期待に応えるべく、一つ勇者の知略を見せてやるとしよう。


 俺は野良犬獣の住居へ向かう前に毒リンゴを収穫する。

 それをサマヨちゃんの手で潰して毒ジュースを抽出。

 野良犬獣の肉に振りかければ、毒リンゴ風野良犬肉の完成だ。


 勇者は見慣れぬ食材であっても即座に調理する。

 さっそく野良犬獣の住居に向かうとしよう。


 ザクザクザク

 ピョンピョンピョン


 だいぶ近くまで来たな。

 そろそろ用心しながら進むか……


「ガルル」


 ガルル? って野良犬獣か?


 まだ住居まで距離があるというのに、いつの間にか野良犬獣が草むらから飛び出してきた。


 噛みつこうと走り寄る、その鼻先に盾を叩きつける。


「ギャインッ!」


 倒れたところにサマヨちゃんの左腕を叩きこんで止めを刺した。


 野良犬といっても犬なんだから鼻が利くのは当然か。

 こっそり近づいて毒肉を設置するのは難しいな。


 待てよ……こっそり近づけないなら、毒肉が自分から近づけば良いのでは?


 これならこっそり近づく必要はない。

 むしろ騒ぎをおこして野良犬が大集合した方が効率は良い。


「サマヨちゃん。こっちへ来てくれないか。少し作戦を変更する」


 野良犬獣の住居から充分な距離を置いたところで、再び毒リンゴを取り出す。


「サマヨちゃん。これから野良犬獣の住居へ突撃する。だが、相手の数が多い。俺もサマヨちゃんを守り切れない可能性がある。そこで、念のためサマヨちゃんの身体に野良犬避けの毒ジュースをかける。状態異常無効のサマヨちゃんなら大丈夫だから我慢してほしい」


 俺はサマヨちゃんに毒リンゴジュースをかける。

 さらには野良犬獣の頭と体を頭蓋骨の上に多いかぶせるように取りつける。


「これは野良犬獣に襲われにくいよう擬態だ。仲間と思ってくれるんじゃないか? たぶん」


 これで準備はOK。行くぞ。


 案の定、住居まであと少しという所で匂いに気づかれたのか、少数の野良犬獣が襲い掛かってきた。


 分散して襲ってくるならありがたい。

 各個撃破で数を減らしていく。


 地面を駆ける野良犬獣を蹴り飛ばす。


「キャイン」


 飛びついてくる野良犬獣を叩き落とす。


「キャインキャイン」


 足に噛みついた野良犬獣の頭を叩き潰す。


「キャインキャインキャイン」


 これで三連撃破。


 だが、悲鳴を聞きつけた野良犬獣が大勢押し寄せようとしていた。


 押し寄せる野良犬獣目がけて毒の肉片を投げつけるが目もくれない。

 目の前の獲物を優先するとは、やはり気づかれた状態では駄目か。


 そして、俺の後ろではサマヨちゃんが野良犬獣に追いかけられていた。

 予想通りではあるが、一本足のサマヨちゃんでは戦力にならない。


 肉の匂いをプンプン漂わせて逃げるサマヨちゃんに向けて多くの野良犬獣が押し寄せる。

 それを見たサマヨちゃんは野良犬獣の住居がある方向へと飛び跳ね逃げていく。


 サマヨちゃん。そっちは危険だ……ちょうど良いといえば良いが。


 俺は樹木に飛びつき樹の上へと退避する。

 サマヨちゃんを助けに向かおうにも、野良犬獣の数が多くて近寄るのは危険だ。二重遭難を避けるためにも仕方がない。


 住居の真ん前まで逃げたところで、足に噛みつかれたサマヨちゃんが押し倒される。


「なんてことだーサマヨちゃん大丈夫かー」


 少しでも援護するため【アイテム】から取り出した毒肉をサマヨちゃんへと投げつける。


 倒れるサマヨちゃんと付近一帯に散らばる毒肉。


 地面でバタバタうごめくサマヨちゃんに止めを刺そうと野良犬獣がいっせいに食らいつく。


 さらには仕留めた獲物の肉だと勘違いしているのだろう、同時に散らばる毒肉にも食らいついていく。


「ギャギャ? ギャイーン!」


 毒ジュース入りの肉と骨はうまかろう。


 即座に死ぬわけではないが野良犬獣の動きは鈍っており、まともに戦える状態ではない。


 退避していた樹の上から飛び降り、手当たり次第に野良犬獣を叩きのめしていく。

 ようやく付近を一掃した俺は、倒れるサマヨちゃんを助け起こした。


「サマヨちゃん。大丈夫か?」


 ぴょんぴょん跳ねながら俺の身体にすがりつくサマヨちゃん。

 毒ジュースと野良犬の唾液と血にまみれた身体で近寄られるのは正直困る。

 だが、勇者は美少女を拒絶しない。


「よしよし。もう大丈夫だ」


 素肌が触れないよう、なだめる。

 なんといっても一掃できたのはサマヨちゃんのおかげだ。



 付近に野良犬獣は居ない。

 なら後は骨を回収するだけだ。


 住居である洞穴へと入っていくが……暗いな。

 魔法のランタンを使うか。


 【アイテム】から魔法のランタンを取り出して火を点ける。


「ガオーン」


 その隙を狙われた。

 暗がりから一回り大きな野良犬獣が飛び出し、俺を押し倒していた。


 しまった! まだ生き残りが居たか!


 住居前であれだけ騒ぎを起こしたにも関わらず、洞窟内に潜んで俺が来るのを待っていたのか?


 コイツ。ただの野良犬獣じゃないな。リーダー格か?


 俺の首筋に噛みつこうとする牙をとっさに右腕で受け止める。


 ガブリ


 つっ!

 反射的に利き腕を使ってしまった。左腕の盾を使えば良いものを。


 腕を噛み千切らんばかりに首を振り回す野良犬獣。


 野良のくせにパワーがありやがる。


 その力に振り回され、反撃する機会がない。


 野良犬獣と取っ組み合う俺の元へ跳ね寄るサマヨちゃん。

 頭蓋骨が口を開くと、その口から黒い煙が吐き出されていた。


 これはオオカミ獣が吐いていた煙か?


 吐き出される黒い煙が俺と野良犬獣を包み込む。


 ゴホッゴホッ……臭くて目に染みる。

 煙で援護してくれるのは良いが、ゴホッ、俺も煙たい。


 だが、煙をあびた野良犬獣は、俺とは異なる盛大な反応を示していた。


「ドギャイーン!」


 涙とよだれをまき散らした上に糞尿まで垂れ流して絶叫している。


 どういうことだ? とにかくチャンスということか!


 苦しむ野良犬獣を跳ね飛ばして止めを差す。


 ふう。まさか俺が野良犬獣ごときに傷を負わされるとは。


 とにかく


「サマヨちゃん。ありがとう。助かったよ」


 もっとも素手でさわるのは危険なので、サマヨちゃんを服の袖で抱きしめる。


 カタカタ


 その後、ランタンを片手に洞窟を探索するが、他に生き残りの野良犬獣は居なかった。


 そして洞窟の行き止まりでサマヨちゃんの骨を発見する。

 もっとも見つけたのはサマヨちゃんの骨だけではない。


 他の骨……恐らく人間であろう骨。そしてスマホだ。


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