77.合流
100/11/1(火)14:00 王都郊外
ヒカリちゃんに別れを告げた俺は、一路ファーの街を目指す。
親衛隊長。俺のスマホを奪った相手。
奴がファーの街にいるというなら好都合。
他人の物を盗むのは犯罪だということを、俺が教えてやる。
とは言ったものの、王都からファーの街まで馬車で1週間。
レベル35である俺の走る速度は速い。
オリンピックなら金メダル間違いなしのペースであるが、この速度で走り続けられるはずもない。
辿り着いたとしても、フラフラのヘトヘトでは何の役にも立たない訳で。
何か乗り物が欲しい。
カタカタ
並走して走るサマヨちゃんが俺の腕をつかむ。
「お?」
と思う間もなく、俺の身体はサマヨちゃんの背中に引っ張り上げられていた。
俺を背負って走るサマヨちゃん。
その速度は、俺が走るより早い。
しかも、アンデッドのサマヨちゃんは疲れを知らない。
ゴツゴツした骨の背中は乗り心地が良いとは言えないが、楽なのに違いはない。
が、問題がないでもない。
全身が暗黒の塊であるサマヨちゃん。
背中に触れる俺は、服越しとはいえ暗黒オーラの影響を受け続けるため、俺の戦闘能力は0に近くなる。
騎乗戦闘はできなくなるが、まあ、移動するだけなら問題ないか。
まず優先すべきは、カモナーとの合流。
クランハウスは街から離れた郊外にある。
親衛隊長が居座るのは街だろうから、しばらくは大丈夫のはず。
牢を脱してここまで気を抜く暇もなかった。
俺は揺られる振動にも構わず瞼を閉じた。
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バサバサッ
大きな羽音に目を覚ます。
ここは……瞼を閉じる前と変わらず、俺はサマヨちゃんの背中の上。
だが、周囲の風景は大きく様変わりしており、朝の陽光が満ち溢れていた。
一晩中寝ていたのか……
かなり疲れていたようだが、眠りを妨げるこの羽音は?
見上げる頭上から、羽ばたきを上げて1羽のグリフォンが降下する。
「グリさん!」
もうファーの街に着いたのか?
いや。違うな……ということは?
「ユウシャ様。無事?」
グリさんの背中に座るのは、俺の秘書を務めるチェーンさん。
「どうしてここに?」
「カモナー様からの依頼。ユウシャ様を助けに行ってほしい。だって」
やはりカモナーは今の状況に気づいていた。
戦闘力のないカモナーが来ても、足を引っ張るだけ。
そこでグリさんとチェーンさんを俺の助けに向かわせたのだろう。
「グルッ! グルッ!」
地上に降り立つグリさん。
早く乗れというのか、しきりに吠えるその背中へと騎乗する。
「ありがとう。クランの様子はどうなっている?」
久しぶりのグリさんの背中。
相変わらず柔らかい毛並みが心地よい。
「グルッ! グルッ!」
「アルッ! アルッ!」
ふむ……さっぱりだ。
というか、アルちゃんも一緒だったのか。
騎乗する俺の膝へと潜り込むアルちゃん。
「きっと怪我してると思ったから。無傷なのには驚き。さすがユウシャ様」
その点ばかりは、本当にヒカリちゃんに感謝だ。
高圧的な女性ではあったが、聖女と呼ばれる重圧に耐えるなら、あの程度の根性がないと務まらないのだろう。
「クランに王国の親衛隊が来た。ユウシャ様は偽の御使いで死んだと。グリ様の威嚇もあって追い返したが、今は分からない」
SSRモンスターのグリフォンがいたのでは、親衛隊といえどうかつには近づけない。
だが、そのグリさんがいない今、どうなる?
一番の戦力であるグリさんとチェーンさん。
その二人を俺の助けに寄こしたなら、クランの戦力はガタ落ちだ。
馬鹿なことを……とは俺が言うべき台詞ではない。
確かに馬鹿な判断だとは思うが、ありがとう。と伝えるために。
その期待に応えるために。
「頼む。グリさん。俺をクランへ!」
「グルルー!」
勢いよく宙に飛び立つグリさん。
そのたてがみを握りしめ、見つめる先は遠くファーの街。
グリさんの速度なら1日とかからず到着するだろう。
アルちゃんの葉っぱを撫でながら、俺ははやる気持ちを静める。
今は気力体力を充足させる時。次に目覚める時こそが、俺の戦う時だから。




