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69.包囲

 100/10/10(月)15:00 王都 パーティ会場



 異世界に召喚されたプレイヤーを集めたパーティ会場。

 その会場で、俺はランキングナンバー2にして、スキル【強奪】の習得者タローシュの殺害に成功した。


 俺の足元に転がるのは、頭から血と脳髄を垂れ流し、眼窩に骨を突き刺されたタローシュの死体。


 タローシュ個人に恨みはない。

 そもそもどんな奴かも知らないが、【強奪】を習得したのが運の尽きというもの。

 勇者を前に油断した、自分の愚かさを悔やむと良い。


「ひっ! 人殺し!」

「キャー」

「あん? なんだ?」

「おい。あれ見ろよ!」


 衆人環視の中で人を叩きのめしたのだ。

 騒ぎになるのも仕方がないといえば仕方がないが、うるさい連中である。


「静かにしないか! ここは王宮のパーティ会場だぞ。何を騒いでいる」


「いや、騒ぐなって、あんたが人を殺したんだろ!」

「ゲ、ゲイムさん。いったいなにを……?」

「ゲイムだって? あ、あいつがランキングナンバーのゲイムなのか?」

「ゲイムって勇者だろ? なんで勇者が人殺しを?」

「は、早く衛兵を呼べ!」


 やれやれ。

 泥棒野郎を退治して誉められるならともかく、なぜ人殺し扱いを受けねばならないのか?

 世の中理不尽なものだが、同じプレイヤーといっても、勇者と凡人の間には決して越えられない隔たりがある。

 勇者の崇高な考えに、凡人の理解が追い付かないのも、仕方のない話。


「よく聞け! こいつは強奪を習得した泥棒野郎で、俺はその犯罪者を始末しただけだ。何も騒ぐ必要はない。静かにしてくれないか?」


「泥棒って……その、タローシュが何かやったのか?」

「普通に料理を食べて、私たちとお話ししていただけよ」


「こいつの持つスキルは強奪。他人のスキルを無理矢理奪う泥棒スキルだ。そんな泥棒野郎に生きる資格は無い」


 強奪野郎は、生きることそれ自体が罪である。

 ましてや、犯罪者が神の御使いに認定される、国の支援を受けるなど、あってはならない事態。

 神の御使いとして、国の支援を受けてちやほやされるのは、俺だけで充分だ。


「いや……そうかもしれないが。誰が被害にあったわけでもないのに」

「パーティ会場でいきなり殴りかかるなんて。ひどい」

「どう考えても、ゲイムって奴の方が犯罪者だろう」

「頭いかれてやがるぜ」


 スキルを盗られてからでは遅いというのに。

 残念ながら、いつの世も先駆者は理解されないもの。

 これ以上の説明は時間の無駄。

 俺はスマホだけ回収して撤収させてもらうとしよう。


「どうやら洗礼の義どころではなさそうだな。俺は帰らせてもらう」


 だが、タローシュのスマホを拾い上げて踵を返そうとする俺の前で、ドアから入室した完全装備の衛兵が壁となり立ちはだかっていた。


「衛兵のみなさん。こっちです。あの男が! ゲイムが人殺しを!」


 やれやれ。もう衛兵を連れてきたのか?

 無駄に被害を増やすつもりはないというのに。


「ゲイムさん。これはどういうことですかな?」


 衛兵の中から、何やら偉そうな男が口を開いた。


「どうもこうもない。俺たちプレイヤーの中に犯罪者がいた。だから、衛兵に代わって勇者である俺が始末した。これは俺たちプレイヤーの問題だから別に礼はいらないぞ? 死体の始末だけしてくれれば後は任せる」


 盗人退治など本来は衛兵の仕事なのだがな。

 謝礼をくれるというなら貰っておくが、謙虚な勇者は見返りを求めて働いたわけではない。


「これは……とんだアクシンデントですな……ですが、ゲイムさん。貴方に帰られては困るのですな」


 偉そうな男は床に横たわるタローシュを見て嘆息した後、さらに衛兵の包囲を狭めようとしていた。


「ほう? どういう意味だ? それは勇者に対する威嚇か? いっておくが勇者は慈悲深い。今なら金銭だけですませるが、これ以上に難癖をつけるなら、五体満足とはいかんぞ?」


 俺は近くのテーブルから骨付きチキンを2つ手に取り、威嚇するよう両手に構える。

 骨術2刀流。


 無実の罪で俺を捕まえようというなら、望むところだ。

 ファーの街では、勇者の凄さから誰もが俺を勇者様と呼び、恐れ敬う。

 それが、王宮に来てからは田舎のイモ野郎だの頭のおかしい殺人者呼ばわりばかり。

 王宮の連中に勇者の偉大さを見せつけるのも、今後の為に必要だろう。


 包囲を狭める衛兵の輪の外で、室内の貴族たち現地の関係者は、衛兵の誘導により室外へと退避を始めていた。


 チラリと俺を見た後、衛兵に従い退出するノーブルさんや王国1の貴族様。

 その間にも、続々と増え続ける衛兵たち。

 のんびり時間をかければ衛兵の数は増えるだけだが、ご婦人たちに怪我をさせる訳にもいかない。


 ゴブリン1000体斬りを達成した俺だ。

 今さら衛兵の100人や200人。叩きのめすのは造作もないこと。

 ご婦人方の退出が終了するまで、俺は手に持つチキンを食べながら待つことにする。


「余裕のようですな? 貴方の持つ力。勇者。それこそが私どもの狙いとも知らずにのう」


 ほう? 何やら風向きが変わったようだ。

 てっきり殺人罪で俺を逮捕しようとしているかと思ったが、違うらしい。

 ま、それはそうだ。

 殺人といっても、最低最悪の強奪野郎を始末しただけ。

 正義を成した俺が、罪に問われるはずがない。


 そういうことであれば、多少、ゴミのようにちっぽけながらも存在した良心の呵責。

 衛兵を傷つけることに対する葛藤もなくなった。

 ゴブリン退治以来、久しぶりに勇者パワーを全開するとしようか。


「おい! どういうことだ! お前たち衛兵が捕まえるのはアイツ! ゲイムだろう? 俺らは部屋から出してくれよ!」

「なんで私たちまで足止めされるのよ?」


 ご婦人方に続いて部屋を出ようとする他のプレイヤーたち。

 だが、その行く先を衛兵が塞いでいた。


「お前たちは、こっちだ。部屋の中央。ゲイムという奴の側だ」


 プレイヤーの言い分にも耳を貸さず、完全装備の衛兵は剣を抜き放ち、プレイヤーを衛兵の輪の中心へと、俺のもとまで追い込んでいた。


 自然、俺を中心に集まるプレイヤーたち。

 その数は7人。

 今日集まる神の御使いは全部で10人と聞いている。

 俺と床で死んでいるタローシュをあわせれば、これで9人。

 この場にいない1人は、おそらくすでに洗礼の儀を済ませて国の公認となっている光の巫女だろう。


「おいおい! どういうことだよ!」

「こんな殺人者と一緒に居るのは嫌よ」

「説明しろ! 説明!」


 まだ騒いでいるのか。

 偉そうな男が言った言葉を聞いていなかったのか?

 奴は俺の持つ力。勇者が狙いだと言った。

 そして、勇者には劣るが、他のプレイヤーもスマホから得た力を持っている。


「もう言っても良いでしょうな。神の御使い。そのような強大な力を、貴方がたのようなどこの馬の骨とも分からん輩に持たれては困るんですな」


 なるほど。

 王政の国で、王を、軍をも超える力を1個人が持つなら、目の上のたんこぶで脅威でしかない。

 神の御使いと名付けて管理するにも、いつ牙を向かれるのか不安だろう。


「力は、力あるものが持つべきもの。貴方がたの持つスマホがあれば、私どもの国は更なる力を手に入れることができるわけですな」


 狙いはスマホか。

 以前、俺が捕まえた悪党プレイヤーへの尋問。

 そして光の巫女など、これまで接触したプレイヤーからスマホの能力を解明したのだろう。


 俺たちプレイヤーを集めて殺す。

 所有者を失ったスマホであれば、誰もが自由にできるというわけだ。


「いえ。殺しはしませんぞ。殺したいのは山々ですが、すでに神の御使いとして有名になった貴方がたを殺したのでは、民が不安に思うのでな。貴方がたのスマホだけを回収させていただくわけですぞ」


 スマホを奪われては、俺たちは力の全てを失う。

 あとは神の御使いという名前だけ与えて、操り人形として言いなりにするわけか。


「本来なら洗礼会場へお1人づつ案内してから、スマホを回収する予定だったのですがな。まさかパーティ会場で暴れる馬鹿がいるとは予想外のことですぞ」


 それを聞いた他のプレイヤーたちが、俺に向き直る。


「ま、まさかゲイムさん。これを見越してパーティ会場で暴れたのか?」


「……当然だ」


「お、俺たちを守るために?」


「……無力な民を守るのは勇者の義務だ」


「すげえ! さすが勇者だ!」

「素敵! 抱いて!」

「勇者! 勇者! 勇者!」


「やれやれ。よさないか。まずは目の前の局面に集中するんだ。勇者を称えるのは後でいくらでも時間がある」


「だからって、関係ないタローシュさんを殺さなくても……」


「うるさい! 黙れ」


 俺のような勇者となれば、今回の集まりが怪しいことなど百も承知の上。

 スマホという未知の力が存在するなら、争いが起きるのは必然である。


 これまでプレイヤー間だけであった争い。

 そこに現地の人たちが加わっただけにすぎない。


「つまり、イセカイキングダムは俺たちの力が目当てというわけだ。だが、良いのか? 俺たちプレイヤーの力を脅威といいながら、俺たちと正面から敵対する。手加減はしないぞ?」


 俺を含めた総勢8名のプレイヤー。

 全員がスマホからチートスキルを習得しており、強大な力を持つからこそ、神の御使いとして評判を獲たわけだ。


「へっ。そうだぜ! 何が洗礼の義だ! 俺らを騙すつもりだったんなら容赦しねえぜ!」

「おうよ! 俺らには勇者がついてるんだ! かかってこいやあ!」

「俺の片手剣スキル5が火を噴くぜえ! 剣がないけど」

「ばっか。火を噴くのは俺の炎魔法だっての! 杖もないけど」


 こんな野郎共に当てにされても困るが、頼られて悪い気がしないのも事実。

 LV5スキル習得者がこれだけ居るのだ。

 俺が勇者パワーで強化するだけで、その威力は段違いにまで高まる。

 この場に集まる衛兵ごとき、物の数ではない。


「なら、いくぞ? 勇者パワー解……」

「強奪!」


 なに!?

 勇者パワーを解放する寸前。俺の足首を何者かが掴んでいた。


 とっさに足首を掴む手を蹴り飛ばして飛び退くが、床には何も無いはず……

 いや、タローシュの死体があるだけのはずだが?


 そのタローシュの死体が、起き上がっていた。

 目からチキンの骨を突き出したまま。

 半分に割れた頭から、血と脳漿を垂れ流したまま起き上がり、俺を見ていた。


「ひっ! ゾンビ……」

「い、いや、死んだはずだろ?」

「あ、頭が割れて……なんで動いてるの?」


 そうだ。

 頭を叩き割られ、血と脳漿をまき散らして倒れた。

 その上、眼窩から脳の奥深くまで骨を突き刺したのだ。

 間違いなく殺した……はずだが……


 俺は手に持つタローシュのスマホを開き、そのスキルを調べる。


【ステータス】


 名前:タローシュ・ノロ

 種族:人間

 称号:強奪野郎

 職業:強奪主

 レベル:33


 スキル:【強奪】【不老不死】【豪運】【勇者】

【片手剣5】【両手剣5】【片手斧5】【両手斧5】

【棍棒5】【長柄武器5】【弓5】【盾5】

【炎魔法5】【雷魔法5】【土魔法5】【水魔法5】

【体力5】【魔力5】【腕力5】【魅力5】【詐術5】



 野郎! 【不老不死】を覚えていやがったのか!


 習得者が不明だった【不老不死】と【豪運】

 タローシュが習得している可能性を考えていたにもかかわらず……

 俺としたことが、周囲の騒ぎでうやむやのうちに確認を忘れていた。


 シット! どうりで殺したにも関わず、生きているわけだ。


 だが、殺しても死なないなら、もう1度殺すだけ。

 バラバラにして燃やして灰にして、うんこと一緒にコンクリで固めれば、身動きできまい。


 だが、起き上がるタローシュ目がけて骨を構える俺より速く、タローシュは衛兵の輪の中へと駆けこんでいた。


「お、おい! タローシュ。どこ行くんだ!」

「そいつら衛兵は俺らプレイヤーの敵だぞ!」

「そうだ! こっちへ来い。やつら俺らのスマホを狙っているんだ」

「一緒に戦おうぜ! こっちには勇者もいるんだ」


 その姿を見たプレイヤーが呼びかけるが、血を流したままタローシュは衛兵の中で笑みを浮かべていた。


「それでタローシュ殿。予定通り他の御使いの力は強奪できたのかな?」


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