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68.強襲


 100/10/10(月)14:30 王都 パーティ会場



 王宮に招かれた俺がパーティ会場で食事をしていたら、王都1の貴族様に因縁をつけられていた。


 目の前で相対するのは、貴族様に付き従う5人のプレイヤー。


 都合、5対1というわけだ。

 数は力。数は暴力。

 数に勝る者が勝利するのは、民主主義の基本である。


「誰よこいつー?」

「ユウシャとかいってたぞ」

「どこ公認よ。こいつ?」

「ファーの街とかいう田舎だってさ」

「はあ? 田舎者が死にたいの?」


 だが、残念ながらここはイセカイキングダム。

 1人の強者が全てを支配する王政。

 民主主義などどこにも存在しない。王国だ。


 ならば、プレイヤーの頂点。

 プレイヤーの王が誰であるのか。

 強者に媚びるしかできない雑魚どもに、思い知らせるのも一興である。


「俺と敵対する前に1つ言っておく。俺の名はユウシャ。だが、それは最強すぎる俺を称える敬称でしかない」


「敬称? 本名じゃないってことか?」

「ユウシャって、もしかしてあの勇者?」

「そーいやランキングナンバー1のゲイムってやつ。あれ勇者だよな?」

「ゲイムってどこ公認よ?」

「さあ? どっか田舎だったような……まさか?」


 何やら騒めきをみせるプレイヤーたち。

 痛い目にあわせるのも手だが、勇者は無益な殺生を行わない。


「やれやれ。自慢するみたいで言いたくはないんだがな。俺がプレイヤーランキングナンバー1のゲイムで勇者だが、何か?」


「マジで!?」

「勇者って、やっべえ奴やん!」

「か、堪忍してください」

「これ俺の手持ち金っす。今日はこれで……」

「すんませんしたー」


 考えるだけの知能はあるようで何よりだ。

 連中のランキングがいくつかは知らないが、ナンバー1に敵うはずはない。

 怯えるプレイヤーの差し出す金銭を受け取った俺は、貴族様へと向き直る。


「さて。貴族様。言うべきことはあるかな?」


「なっなっ……貴方たち。何を恐れているの! 相手は1人なのよ」


 すごすごと尻尾を巻いて引き返す子飼いプレイヤーを見て、貴族様は憤りを見せていた。


「そう大声を出さないでくれ。せっかくの美貌が台無しだぞ。彼らが勇者を恐れるのは当然のこと。叱責は勘弁してやってくれないか?」


 敵対するプレイヤーであっても、慈悲の心で寛大な処置を求める。

 やはり勇者は格が違った。


「他とはレベルが異なる別格の存在。それが勇者である俺だ」


 詫び料をいただいたのだし、このくらいは擁護しておかないとな。


「……勇者というのは、それ程なの?」


 俺を恐れるように後ろへ隠れるプレイヤーに貴族様が聞き返す。


「へい。勇者ったら俺らの世界のゲームや小説では主人公っすから。逆立ちしても敵わないっす」


 勇者という概念が無い異世界。

 現地の人は、いまいち俺の凄さが分からないようで困る。


「……ユ、ユウシャ様。いえ、ゲイム様、そんな凄い方でしたの」


 ようやく相対する俺の偉大さに気づいたのだろう。

 貴族様は震えたような声を絞り出していた。


「俺のことは、気軽に勇者様でかまわない。貴方は王国1の貴族だと聞く。同じナンバー1同士、仲良くしたいものだ」


「え、ええ。それはもう。もちろんです」


「なら、俺の友人であるノーブルさんとも仲良くしてほしいものだが?」


 めでたいパーティの場で女性同士が争う姿は見たくない。

 ノーブルさんには一飯の恩義もあることだし、受けた恩は返すものだ。


「……ええ。もちろんです。ノーブルさん。先ほどは成り上がりなど失礼なことを申し上げてしまい、すみませんでした」


「え?! い、いえいえ。そんな、あやまるなんて結構です」


 お互いに頭を下げる2人を見守ったところで一件落着である。

 そもそも、ここで騒ぎを起こして、注目を集めるのは俺の本意ではない。


 元々、俺の目的は情報収集。

 タローシュの情報を集めに来たのだ。

 強奪野郎を特定する前に、俺が目立っては意味がない。


「ところで、ランキングナンバー2のタローシュをご存じありませんか?」


「え、ええ。タローシュ様なら、あちらですが……」


 貴族様が指さす方向。

 5人の男女に囲まれて談笑する男。

 あいつがタローシュか。


 まだ若い。20歳にも届いていないだろう。

 どこにでもいそうな普通の若者にしか見えない。


 だが、奴が習得したスキル【強奪】は普通のスキルではない。

 他人のスキルを盗むという盗人野郎。

 俺の持つスキル【勇者】を盗まれないためにも、油断はできない。


「ありがとう。挨拶してきます」


 貴族様のもとを離れた俺は、テーブルに並べられた料理。

 大皿から骨付きチキンを取り分け、骨にかぶりつく。

 ふむ。やはり骨付き肉は旨い。


 チキンを食べながら、輪の中心であるタローシュのもとへと向かう。

 近づく俺の気配に気づいたのか、顔を上げるタローシュ。


 俺は骨付きチキンを掴んだ手を掲げて挨拶する。

 そして──


「死ねえええええ!!!」


 掲げた手を、骨を振り下ろし、タローシュの頭へと叩きつけた。


 ドカッ


 砕ける頭蓋。舞い飛ぶ赤い血。

 そして、漏れ出す茶色のミソ。


 パーティ会場でのトラブル。

 ましてや武器を持ち込んでの刃傷沙汰などご法度であり、会場への武器の持ち込みは禁止されている。


 しかし、パーティ会場に骨付きチキンが用意されていたのが、タローシュの運の尽きというもの。


 俺には必殺の骨術。骨で戦うスキルがある。

 小さな骨だが、無警戒なタローシュの頭を叩き割るには十分の威力。


 今の一撃で奴が死んだことは決定的に明らか。

 だが、まだだ。

 勇者は何をやるにも手は抜かない。

 それが悪党を倒す行為であれば、なおさらだ。


 倒れるタローシュの顔。

 その眼窩へと、止めとばかりに骨付きチキンを突き入れる。


「暗殺!!!」


 ドスッ


 悪党プレイヤーが使った暗殺スキル。

 相手から認知されない状態であれば、一撃で仕留める必殺スキルだ。


 油断できない相手であればこそ、先手必勝の一撃必殺。

 有無をいわせず倒す。

 パーティ会場で暴れた罪など、後でいくらでも言い訳がつくというものだ。


 頭蓋骨の粉砕。加えて脳髄への刺突。

 床に横たわるタローシュは、目からチキンの骨を生やした間抜けな格好のままピクリとも動かない。

 それも当然。これで生きていられる人間はいない。


 勝った! 第1部完! 死亡確認である!

 最強勇者の今後の活躍にご期待ください!


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