65.慈善活動
100/8/10(水)12:00 ファーの街
「おい。知ってるか? 神の御使いの噂」
「ああ。教団本部に現れたっていう、パーフェクトヒールを使う少女の話だろ?」
「ばっか。違うよ。このファーの街の話だよ。ユウシャって奴」
「ああ。ゴブリン獣の森を解放したって奴か? 無名の冒険者が、よくゴブリンキングを追い払ったものだ……まさか、そいつも神の御使いなのか?」
「らしいぜ? しかも、ファーの街のナンバー1冒険者だったチェーンも敵わなかった相手。邪神の使徒に占拠されたサンヤ村も解放したらしいぜ?」
「邪神の使徒だって? まさか教典にある神邪大戦。神の御使いと邪神の使徒とが争うという災厄。その前触れなのか?」
「さあな? とにかく我らがファーの街にも神の御使いが降臨されたってことだ。ファーの街は安泰だよ」
いつの間にか、神の御使いと認定されたユウシャです。
魔石を買い取って貰おうとギルドを訪れたはずが、妙なことになったものである。
あの後、ギルドで暴れる悪党プレイヤーを退治した俺は、グリさんの背中に乗って村へと急行。
山賊に占拠されたサンヤ村を解放した。
中心人物であった悪党プレイヤーを失い、烏合の衆でしかない山賊たち。
俺が手をくだすまでもなく、グリさんの一吠えで降伏したのだが……
「さすがはユウシャ様。ナンバー1クランでも手に負えない山賊を殲滅するなんて!」
ギルドへ報告に戻った俺を待っていたのは、称賛の雨あられ。
その足で領主の館まで連れていかれ、領主によって神の御使いと認定されたのであった。
それから2週間。
神の御使いとなって以降、街での俺の扱いは激変した。
冒険者ランクはSになり、ギルドに在籍するだけでお給料まで貰える。
まさに役員待遇である。
とはいえ、何もせずに給料を貰うわけにもいかない。
俺に出来る範囲で、俺は依頼をこなすようにしている。
「ユウシャ様。街頭で市民への演説を……」
「ユウシャ様。冒険者たちへの講演を……」
「ユウシャ様。夫を失った女性たちへのご慈悲を……」
まったく……勇者とは激務なものだ。
身体がいくつあっても足りないな。
加えて、俺にはクランを運営する責務もある。
クランハウスは領主の寄付により建て増しされ、クランメンバーの数は50名を超える大所帯となっていた。
といっても、誰でも彼でもクランに受け入れたわけではない。
誰もが勇者の威光を頼りにクラン入りを懇願する中、そのような真似をすれば、すぐに建物はパンクする。
俺が受け入れるのは、本当に助けを必要とする者たち。
何の技能も持たない、孤児など行き場のない者たちだけだ。
もっとも、孤児といっても男女によって違いがある。
同じ技能を持たない者同士でも、少年と比較して、肉体的強度に劣る少女たち。
冒険者として達成できる依頼は少なく、実入りもまた少ない。
必然、生きていくため、いかがわしい仕事に手をだす少女も多いという。
それは、弱肉強食の異世界では仕方のないこと。
そして、そんな弱者を見捨てることができないのが、慈愛の業を背負う勇者というものだ。
結果的に、俺のクラン ブレイブ・ハーツは、少女ばかり50人を超えるクランとなっていた。
それも、仕方のないことである。
だが、そんな崇高な理念を理解せず、ハーレムハウスなど、あらぬ陰口を叩く住民もいる。
まったく……勘違いにもほどがある。
行き場のない孤児であれば、俺が何をしようと文句をいうこともない。
そして、たとえ文句を言っても、聞き入れる者など誰もいない。
神の御使いと孤児の言い分。人々がどちらを支持するかは明白である。
──などということを、俺が考えているとでも思っているのだろうか?
困ったものだが、人の噂に蓋をすることはできない。
受け入れた孤児たちを一人前の冒険者にする。
今はそれに注力するのみだ。結果が全て証明してくれるだろう。
「勇者先生。これを教えてください」
「勇者先生。いっしょに遊ぼーよー」
「せんせーおしっこー」
クランメンバーとなった少女たち。
俺とカモナーが先生となって少女たちに勉強を、技能を教えることにする。
クランというより、これは一種の学校だ。
少女たちが一人前となった時点で、クランを卒業してもらう予定でいる。
もっとも、学校といっても授業料を徴収するわけではない。
費用をかけて教育するにもかかわらず、費用を回収せず独り立ちさせるのは何故か?
技能を教えたのなら、クランメンバーとしてこき使うのが正解じゃないのか?
何かよからぬ事を企てているのではないか?
などと、ここでも陰口を叩く住民がいるようだ。
まったく。心にやましいものがあるから、そのような邪推をするというもの。
その答えは単純。俺が勇者だからだ。
確かに、領主やギルドから活動費用が貰えたり、転売やらでお金に困っていないのもある。
だが、それよりも、少女たちの自立を、大人になるのを応援する。
卒業していく少女の笑顔が、勇者にとって何よりの報酬だからだ。
「勇者先生。最終試験すると聞いたんですけど? これは」
「うむ……そろそろ君も1人前になる時期だ。俺が行う最終試験。暴漢に襲われた際の対応方法。これに耐えれば、君も立派な大人の女性として卒業になる。痛いかもしれないが我慢してほしい」
「……ですが」
「無事に試験を終えて卒業する者には、このお金を出す。どうだ?」
「……はい」
冒険者となって暴漢に襲われた際も、経験があれば対応できるというもの。
そして、独り立ちするにはお金が必要。
口封じも兼ねた生徒へのアフターフォローは惜しまない。
まさに俺は勇者の鑑といって良いだろう。
最終試験を終え、晴れて大人となった少女を見送った俺は、新たな処女を入学させる。
大変ではあるが、1人でも多くの少女を救うため。
心無い誹謗中傷に負けず、今日も慈善活動に精を出すとしよう。
100/10/1(土)12:00 クランハウス
こうして、俺が神の御使いと認定されてから約2ヵ月が経過した。
「ユウシャ様。王都から親書」
「ほう?」
勇者室でくつろぐ俺のもとまで、秘書が書状を持って訪れた。
「各地の神の御使い一同を集めて、王宮でパーティを開くそう。どうするの?」
「やれやれ。ついに王家までもが俺に目をつけたわけか。なら、行かねばなるまい」
「私も御供する?」
そういって秘書は腰にはいた剣をポンと叩く。
「いや。チェーンさんは留守番を頼む。何かあった時にクランハウスに戦える者がいないのは困る」
「分かった。お土産。よろしく」
俺の秘書を務めるチェーンさん。
かつては、ファーの街のナンバー1クラン。
ライトニングのリーダーであった女性だ。
サンヤ村を襲った悪党プレイヤーによってクランは壊滅。
捕らわれたチェーンさんを俺が救出したことで、今は秘書として俺に仕えている。
「カモナー様はどうするの?」
ファーの街で神の御使いとして認定されているのは、勇者である俺だけだ。
本来は同じプレイヤーであるカモナーも神の御使いなのだが、俺はあえてカモナーが同じプレイヤーであることを、クランメンバー以外には伏せている。
神の御使いとして認定される。
それはプレイヤーとして、正体を明かすことでもある。
スマホを奪われたプレイヤーは、能力を失う。
俺のような最強勇者なら狙われてもどうということはないが、カモナーが狙われたのでは即死である。
「カモナーは連れて行かない。各地の御使いを集めてのパーティということは、プレイヤーが一堂に会する訳だ。カモナーが行くには危険があるかもしれないからな」
決して俺一人が、ちやほやされたいという理由ではない。
勇者室を出た俺とチェーンさんは、並んで校舎へと移動する。
生徒である少女たちを教育する建物。
そこでは、かつてクラン ライトニングのメンバーだった女性たちが、生徒に指導を行っていた。
チェーンさんのクラン。ライトニングが壊滅した際に、男性メンバーは全て亡くなった。
命だけは無事だった女性メンバーだが、再び冒険者としてやっていく気力を失っていた彼女たちを、俺は教師としてクランに勧誘した。
悪漢たちと戦う気力はなくとも、元ナンバー1クランのメンバーだ。
教師として生徒たちに指導する分には、能力に何ら問題は無い。
そして、生徒たちの最終試験にも理解を示してくれている。
クランが壊滅するその日まで、純潔だったという女性。
冒険者としてやっていくなら、危険は避けられない。
いざそうなっても動揺しないよう、事前に経験しておくべきだ、と。
こうして俺の指導方針にも理解を示す優秀な教師が、労せずして手に入ったわけだ。
チェーンさんも含めた一流の冒険者たちから指導を受ける生徒たち。
将来きっと良い冒険者になるだろう。
校舎を抜けた先。
クランの敷地の一角に、大勢の人が集まっていた。
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいませぇ!」
近づく俺の耳にも威勢の良い声が聞こえてくる。
「はぁい。薬草お買い上げありがとうございますぅ」
人の集まる中心に建つのは、カモナーが経営するお店。
この一角は外部の人たちも自由に立ち入りできるスペースになっており、今も大勢のお客さんが来店。商品を購入していた。
教師として生徒たちに勉強を教えるかたわら、お店を経営するカモナー。
販売する商品は、生徒たちが集めた薬草。
生徒たちが栽培する野菜や果物。
生徒たちがウーちゃんから絞った牛乳などだ。
「カモナー。どうだ? 売れ行きは」
「んあぁ! ユウシャさん!」
「勇者先生。いらっしゃいませ!」
「先生。いらっしゃーい!」
俺を出迎えるのは、カモナー。そして、その生徒たちだ。
生徒たちが集めた商品を、生徒たちが売り子として自分で販売する。
クランを卒業した生徒たち全員が冒険者になるとは限らない。
街で職を探す者もいるだろう。
その者たちがすぐに働けるよう、実地研修も兼ねたお店になっている。
何よりカモナーが開きたいといっていたお店。
クランを挙げて俺が協力するのは当然である。
「たくさん売れるよぉ。特にお薬が大変なんだよぉ」
お店では、カモナーが【調合】スキルで作成した薬品も取り扱っていた。
異世界では治療魔法、光魔法の使い手は貴重である。
パーティメンバーとして見つけるのは難しく、大半の冒険者は薬草頼みである。
また、数少ない光魔法の使い手も、みな教会に管理され、街中で治療を受けるには金銭が必要となっていた。
そのため、冒険者でなくとも、少しの怪我なら安く買える薬草に頼るのが常識。
カモナーの調合する薬品は、上薬草をも超える治療効果があるとあって、冒険者にも、街の人たちにも好評であった。
なにせカモナーの【調合】スキルはMAXである5だ。
悪党プレイヤーを退治して回収したスマホ。
スマホのポイントを俺はカモナーと折半した。
そのポイントを投入したおかげである。
くわえて、プレイヤー・ランキング1位である俺は、報酬として毎月10Pを獲得。
俺のステータスはどうなったかというと──
【ステータス】
名前:ゲイム・オタク
種族:人間
称号:勇者
職業:勇者
レベル:35 (2 UP)
HP:2637(948 UP)
MP:152 55 UP)
攻撃:200 (74 UP)
防御:229 (85 UP)
敏捷:300 (174 UP)
魔攻:152 (55 UP)
魔防:170 (62 UP)
ポイント :0
最強スキル:【勇者☆☆☆☆(UP)】
武器スキル:【骨4(UP)】【片手剣1】【両手斧2】【盾1】
【刀5(NEW)】【棍棒5(NEW)】
強化スキル:【体力1】【魅力1】【植物1】
他スキル :【身かわし1】【投擲1】【騎乗1】
【暗殺5(NEW)】【敏捷5(NEW)】
【植物知識1】【酔い耐性1】【睡眠耐性1】
【木こり2(NEW)】【木工2(NEW)】
【性技5(NEW)】
悪党プレイヤーの持つレベル5スキルを全て習得。
さらに、俺が一番最初に遭遇したダモンさんの【木こり】スキルも習得した。
クランハウスの拡張に、【木こり】と【木工】は重宝したものだ。
レベルはあまり上昇していないが、まあ、忙しかったからな……仕方がない。
とにかく、最強勇者として、俺はさらに最強になっていた。
「というわけで、俺は王都に行ってくる」
「ええぇ……大丈夫なのかなぁ……他のプレイヤーも来るんだよぉ?」
「俺を誰だと思っている? 勇者だぞ? 他のプレイヤーが勇者の威厳を恐れて、漏らしてしまわないか心配なくらいだ」
「ユウシャ様。下品。生徒は真似しないように」
しかし、神の御使いを集めてのパーティ。
集めてというからには、1人や2人ではないのだろう。
国は、イセカイキングダムは、光魔法を使うという少女の他にも、すでに複数のプレイヤーを認定しているということか。
プレイヤーといえば、俺が捕まえた悪党プレイヤーはどうなったのだろう?
何も話を聞かないが、ギルドが尋問を行ったはずだ。
俺たちプレイヤーが異なる世界から来たこと。
スマホというチートアイテムを所持していること。
スマホから得られる、スキル、ショップ、課金モンスター。
これらの情報を、ギルドと国は、入手していると考えて良い。
神の御使いとして、並外れた力を持つ俺たちプレイヤー。
その力の源がスマホにあるということも。




