64.神の御使い
100/7/27(水)12:00 ファーの街 冒険者ギルド
「で、ユウシャさん? ユウシャさんと彼らの使う魔法バッグが同じな理由。そして、ユウシャさんとカモナーちゃんほどの人材が、その年になるまで名前も知られていない訳。聞かせてもらえるのでしょうね?」
ギルドマスターのお姉さん。
何やら俺を疑っているようだが無理もない。
俺のような勇者が誰にも知られず埋もれているなど、本来はありえないこと。
「簡単な話だ。俺は神の生まれ変わりにして、神の使徒。悪を倒すために地上に舞い降りた最強勇者。それが俺だ。それ以上の説明はない」
「……カモナーちゃん?」
俺の返答の何が不満なのか?
お姉さんはカモナーへと問いただす。
(カモナー。俺にあわせてくれ)
(ええ? でも、でも、神の使徒だとか訳が分かんないよぉ)
(そこが良いんだ。少々頭がおかしいと思わせるくらいで丁度良い。たとえ犯罪を起こしたとしても、頭がおかしいなら無罪放免。理不尽ではあるが、世の中そんなものだ)
説明しようにも、俺たちが何故このような異世界にいるのか俺にも分からない。
ただの幻覚。本当に俺の頭がおかしくなっているのかもしれない。
「ユ、ユウシャさんは最強勇者なんだよぉ。僕はその下僕なんだぁ! うわーん」
うわーんって何だよ。
そもそも俺が言う神の使徒というのも、あながち間違いでも無いはずだ。
異世界へ転移させるなど、とても人の成せる業ではない。
それこそ神、あるいは神に準じる者の仕業としか思えないからだ。
「……もしやと思いましたが、やはり、そういうことなの」
得心したような顔でお姉さんが声を上げた。
「この国。イセカイキングダムの国教をユウシャさんは知っていますか?」
国教。国が支援する宗教。
もちろん知るはずがない。
「国教は、ホーリーエンジェル教。その教会本部は、セカの街にあります」
ホーリーエンジェル教。
神聖な天使のようで良い名前だ。
「そのホーリーエンジェル教の本部で、最近、神の御使いが降臨されたと伝え聞いています」
マジかよ。神の御使いとか、詐欺くさいにも程がある。
そんなのに騙される奴がいるのか?
「なんでも、どのような怪我も病も治療する、奇跡を使う少女だそうです」
怪我を治す奇跡。光魔法だな。
【光魔法4】を8Pで習得したのだろう。
「奇跡といっても光魔法だろう。魔法なら他にも使える者がいるんじゃないのか? 驚くようなことか?」
「驚くようなことなのです。光魔法の最高峰、パーフェクトヒール。その習得難易度から今は誰も使える者がいない奇跡の魔法。ですが、その者は誰に教わったわけでもなく、わずか16歳にしてパーフェクトヒールを使いこなすと聞きます」
マジかよ。
たかが8Pの【光魔法4】で奇跡だって?
10P必要な【勇者】スキルはどうなる?
奇跡ってレベルじゃねーぞ?
「さらには、翼を持つ天使と意志を交わし、手足のように自在に操るとか」
課金モンスターか。
課金ガチャで天使タイプのモンスターを引いたのだろう。
俺のスケルトンとは大違いだ。
いや、違うぞ。もちろんスケルトンの方が良いという意味だ。
「また、その者が持つ光の板からは、希少価値のある物。武器、防具、薬品などを生み出すといいます」
スマホの【ショップ】か。
お金さえあれば何でも買える。
個人では無理でも、宗教が、国がバックについたなら、それこそ何でもだ。
まさか転売とか汚い真似をしてないだろうな?
異世界の経済バランスも何もなくなるぞ。
「もしやと思いましたが、やはり、ユウシャさんも神の御使いなのですね」
そういって俺の前に膝をつくギルドマスターのお姉さん。
マジかよ……俺って本当に神の御使いだったのか?
「ゴブリン獣の軍団を追い払ったと聞いても、半信半疑でした。ですが、あれ程の力を持つ6人を一瞬で仕留める姿を見せられては、信じるほかありません」
魔法のある異世界。
魔法自体が神の奇跡のような存在。
ギルドマスターのお姉さんの態度から見ても、異世界での神に対する信仰は、俺の想像以上のものがあるようだ。
「ユウシャアタックという、あれは新種の闘技でしょうか? 闘技を放つ際のユウシャさんの身体は、暗闇の室内で金色の輝きを発していました。あれこそが神の光なのですね」
いや。神の光ではなく、勇者パワーなのだが。
「漆黒に染まるスケルトンを手足のように扱う。元は高位の神官だったのでしょうか? 暗黒魔族だけが使うという暗黒魔法を唱えるなど、元はさぞ高名な方だったのでしょうね」
いや。神官などというむさ苦しい職ではなく、華やかなバレエダンサーなのだが。
「そして、ユウシャさんの持つ魔法バッグ。もはや神の御使いに相違ありません」
プレイヤーなら誰もが持つスマホなんだがな。
ま、神の御使いとやらと勘違いされることで、丁重に扱ってくれるなら、それに越したことはない。
このまま話をあわせておくとしよう。
「普通の冒険者ではゴブリン軍団の猛攻を防ぐことはできない。そうだろう?」
「そのとおりです。ですので、ユウシャさんをギルドに引き入れようと考えたわけですが……申し訳ありません!」
突然、膝をつくお姉さんは、地面に頭までつける平身低頭。
いわゆる土下座をはじめていた。
「まさか神の御使いとは知らず、ユウシャさん。いえユウシャ様を騙すような真似を……」
何かされたのだろうか?
「この間。ユウシャ様のお宅にお邪魔した際です。ユウシャ様をお酒で眠らせるような真似を……申し訳ありません」
……ああ。
お姉さんとベッドを共にした夜か。
お酒を飲んでいたと思ったら、いつの間にかお姉さんと一緒のベッドで目覚めたという。
ん? 眠らせるということは、あの夜。何もなかったということか?
「いや、気にしなくて良い。俺もお姉さんとベッドを共にできたのだ。恨むようなことは何もない。しかし何故そのようなことを?」
「孤児の少女たちに手をだすなど、見たところユウシャ様は女性に節操がないご様子。私の身体を囮にすれば、ギルドの手駒として使えるのではないかと……」
心外な話だ。
俺はそんなに女性にがっついているように見えたのだろうか。
「ユウシャ様は眠られていただけで、私とは何もありません。そして、ユウシャ様がギルドの役員に承諾されたという事実も、ありません」
なんだ。やはりそうだったのか。
いくら酔ったからといって、女性とベッドを共にしながら覚えていないなど。
ありえない話だよな。
まったく……大学のサークルで俺にそんな話をしていた奴は、見栄を張っていただけだったのだ。
嫉妬して損したぜ。
「お姉さんが謝る必要はない。何故ならそれは事実だからだ」
「えっ! それはいったいどういう」
仮にも神の使徒である俺に対して嘘をついたとなれば、それは神への反逆だ。
信仰心の強い異世界でそのような事実。
お姉さんの立場は失われると同時に、良心の呵責に耐えかねたお姉さんが自傷行為に走らないとも限らない。
「今晩。もう1度クランハウスに来れば良い。もちろんお酒を持ってだ」
解決方法はただ1つ。
お姉さんの嘘を事実にするしかない。
つまり、本当にギルドの役員になって、お姉さんとベッドを共にする。
これしか他に方法はない。
「あ、ああ……はい! ありがとうございます」
やれやれ。面倒だが、これもお姉さんのためだ。
少し精のつく物でも食べて、夜に備えるとしよう。
「ですが……彼ら。ギルドで暴れた者たちも、同様の不思議な板を持っていました。もしや、彼らも神の御使いなのでしょうか?」
「いや。連中は……あれだ。邪神の使徒だな」
たぶん。
「ああ。なるほど。一切の手心は必要ない。そうおっしゃられるのですね。かしこまりました。ユウシャ様に敵対する邪神の使徒。私にお任せください!」
……すまん。ますます拷問が酷くなりそうだ。
が、そもそもが連中の自業自得というもの。
サンヤ村で暴れた罪を償ってから、地球に戻ってくれ。




