表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/96

63.暗黒オーラの副作用


 100/7/27(水)11:30 ファーの街 冒険者ギルド


 スマホの確認は終了した。

 分かったことは、ナンバー1の俺が、転売でウハウハ大儲け。

 おまけに相手の位置もバッチリと、そういうことだ。


 後は、捕えたプレイヤーの様子でも見に行くとするか。


「ああ。ユウシャさん。先ほどは、ありがとうございました」


 すっかり服の乱れを整えたギルドマスターのお姉さん。

 こうして見ると、先ほどまで連中に乱暴されていた姿が嘘のように思える。


「勇者として当然のことをしたまでだ。それより、大丈夫か?」


 本来は触れない方が良い話題だろう。

 だが、事件の関係者として俺には知る権利がある。


 どこまで揉まれたのか。どこまで舐められたのか。

 必要とあらば、俺が上書きしてやらねばならない。


「ええ。まあ。ですが、私より他の者が」


 他の者か……この室内。少し、いや、かなり臭う。


「ユウシャさん。といいますか、サマヨちゃんが何故、暗黒オーラを使えるのかは知りませんが、少しやりすぎではないですか?」


 魔王が放出する闇の気。

 暗黒オーラに触れた者は、戦闘力が低下する。


 今回、その暗黒オーラをギルド内で解放。室内を暗黒に閉ざしたのだ。

 悪党どもを逃がさないためには、止むを得ない処置であった。

 が、結果的に室内にいた全員が暗黒オーラに巻き込まれていた。


 筋力や抵抗力の高い者なら動きが鈍る程度で済むのだが、事務職である職員の中にはそうではない者も含まれる。


 筋力の極端な低下。

 本来は閉じていなければならない穴までもが緩むことで、様々な物が排出されてしまったわけだ。


 見渡す室内のそこかしこに、黄色い水たまり、茶色い小山が形成されている。

 現在、室内の窓は全て開放されており、職員総出で清掃を行っていた。


「職員に外傷的な被害は無いのだろう? なら、何も問題は無い」


「確かに外傷はありませんが……心情面に問題が残りそうです」


 もっともだ。

 が、こうなることは予想済みである。


 以前に暗黒の煙を浴びた者。

 ノラ犬獣なども、全身の穴から液体を漏らす同様の症状を見せていた。

 それを、あえて実行したのだから。


 別に俺がそういう方面に興味があるからではない。


 ギルド内で、職員や冒険者の見守る前で、悪党になぶられるギルドマスター。

 ギルドマスターとしてのプライドは粉々である。

 その上、ギルド内での威厳もガタ落ち。

 醜態を晒した者の言うことなど、誰も聞かなくなるだろう。


 だが……ギルド内にいる職員も冒険者も。

 全員が醜態を晒したならどうだ?


 木を隠すなら森の中。


 全員が恥ずかしい思いをしたなら、ギルドマスターの恥も埋もれるというものだ。

 なにより恥ずかしい思いをしたのは、自分だけではない。

 お姉さんも少しは気が楽になるだろう。


 おまけに、一蓮托生。


 今、ギルドに残る者は、何かしらの恥を抱える者ばかり。

 悪党相手に何もできなかった者。漏らしてしまった者。

 ギルドマスターの恥を追及することは、自分の恥をも晒す行為になる。


 それより、同じ被害者として仲間意識が向上する方が先だ。

 同じ釜の飯を食べた仲という。

 同じ室内で漏らした仲なら、きっと大丈夫なはず。


 そう考えれば、居合わせた職員や冒険者たちは巻き込まれただけである。

 が、それで問題ない。

 俺が助けるべきは、ギルドマスターのお姉さん。

 電車に優先座席があるように、勇者にも助けるべき優先順位があるのだ。


「そもそも悪いのはギルドで暴れた連中だしな」


「それはそのとおりなんですけどね……ですが、これ程の腕の者が6人も。誰にも知られずに山賊をしているなんてね」


 そう言ったお姉さんが、連中へと目を向ける。


「はあー捕まるとはなあ。俺ら無敵だと思ったんだがなあ」


「だよな。全然チートじゃねーじゃん?」


「まあ、楽しかったから良いんじゃね?」


 縄で縛られながらも、いまだに軽口を叩き続ける連中。

 悪党プレイは終了したのか、素のプレイヤーに戻った連中は、そこまで悪い奴でもなさそうだ。

 ゲームで悪党プレイをしているからといって、現実の人間まで悪党というわけではない。


「ん? あれ? あんた、もしかして俺らと同じプレイヤーか?」


 近寄る俺を見た連中の一人が言う。


「いや、全然違う。俺は勇者だ」


 悪党と一緒にされるなど心外極まりない。


「嘘やん。自分で勇者って言ってるやん。それにその服。そっちの女の子も制服みたいやん?」


 なるほど。

 確かに俺は、制服に似せた服装をスマホから購入した。

 異世界では、少々、浮いて見えるかもしれない。


「ユウシャさん……この者たちとお知り合いなのですか?」


 縛られた連中を睨み付けるお姉さん。

 その厳しい視線が俺にも向けられていた。


「全く知り合いでも何でもない。正義の塊である勇者と外道な悪漢。一緒にされるのは心外である」


「うひゃあ。今時、勇者プレイとか」


「そもそもさあ。俺もあんたも一緒やん。スマホ使ってんでしょ?」


「俺ら仲間って奴よ。いうならマブダチ?」


 親近感を覚えたのか、俺に馴れ馴れしく話しかける連中。

 よさないか。

 勇者と悪党。なぜ親近感を覚えるのか?


「そういえば、この者たち。ユウシャさんやカモナーちゃんと同じような、板状の魔法バッグを使っていましたね」


 どこまでも足を引っ張る連中だ。

 ゲームオーバーになったのなら、いさぎよく退場するべきだというのに。


「同郷の出身というだけだ。どこにだって悪い奴はいる。ファーの街に悪い奴がいれば、お姉さんも悪い奴だと。そうでもないだろう?」


「そのとおりですね。ですが……いえ。分かりました。後は彼らに聞くとしましょう。彼らの素性。どこから来たのか。捕まった冒険者は? 領主と会って何をするつもりだったのか? 他に仲間はいるのか? 聞くべきことはたくさんあります」


 職員に指示を出すお姉さん。

 拘束した連中を別の場所に移動させるようだ。


「へ? いや、俺らもう日本に帰るし」


「そうそう……でも、どうやって帰るの?」


「確か死んだら帰れるって話だけど……死にたくないんすけど」


 戦闘中の興奮が治まれば、誰もが冷静になる。

 冷静になれば、死にたい奴などそうはいない。

 ゲームのようだといっても、殴られれば痛みもあるし、死ぬのはきっと痛いだろうから。


「帰る? 何を言っているか分かりませんが、貴方がたを死なせはしません。死なせては何も聞くことはできませんからね。痛みは我慢してください」


 指示を受けた職員が、4人の口に猿ぐつわを噛ませる。


「もがっ。もがー!」


 職員を振りほどこうと抵抗する4人。

 残念ながら彼らのスマホはすでに存在しない。

 スマホを、チートを失ったプレイヤー。

 今や普通の村人でしかない4人に、職員を振りほどく術はない。


「もがぁぁ……」


 チートを所持していた頃の悪態はどこへやら。

 抵抗むなしく両腕を抱えて連行される4人。

 最後に助けを求めるような目で俺を見たまま、部屋を出て行った。


 ……不憫な。

 冒険者ギルドという大きな組織を敵にまわしたのだ。

 尋問。いや、拷問になるのだろうか。

 他の2人のように、戦闘中に楽に逝ければ良かったものを。


 まあ、そうさせなかった俺が哀れに思う義理もないが、同じプレイヤーとして同情を禁じえない。


 これを機会に彼らが更生することを祈る。

 無事に地球に戻ったなら、俺を見習ってまともに生きることだ。


「で、ユウシャさん? ユウシャさんと彼らの使う魔法バッグが同じな理由。そして、ユウシャさんとカモナーちゃんほどの人材が、その年になるまで名前も知られていない訳。聞かせてもらえるのでしょうね?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ