62.ランキング
100/7/27(水)11:15 ファーの街 冒険者ギルド
スキル【鑑定】を習得した者は、スマホの情報を全て引き出すことが出来る。
「というわけでカモナー。いろいろ操作してみてくれ」
【鑑定】を習得していない俺が操作しても意味は無い。
カモナーを使って、色々調べてみるとしよう。
「あーい。どれからいくのぉ?」
気になる情報は色々あるが、順番にいくとしよう。
「まずはランキング。これからだ」
【ランキング】毎日24時更新
確か前に見た時は、毎月1日更新と書かれていた。
おかげでいまだ1度も見れていない。
カモナーのスマホでは、それが毎日更新だと?
俺の順位はいったいどうなっている?
【ランキング】
1.ゲイム・オタク レベル33 勇者
2.タローシュ・ノロ レベル31 強奪主
3.ゴロウ・トクダ レベル30 ごろつき将軍
4.タロウ・スズキ レベル30 侍大将
5.ゾクオ・ヤマダ レベル30 山賊大名
毎月1日の時点で、10位までに入賞したプレイヤーには、下記をプレゼント。
1位 :スキルP 10P。1000万ゴールド。記念トロフィー。
2~3位 :スキルP 5P。500万ゴールド。
4~10位:スキルP 2P。100万ゴールド。
その他 :スキルP 1P。10万ゴールド。
「ふわあ! ユ、ユウシャさんが1位だよぉ。見てよぉ!」
「ほう? そうなのか? そのようなランキングに興味はないのだがな?」
まったく興味はないが一応見ておくか。一応な。
すげー! 確かに俺が1位だぜ!
……いやいや、驚くべきことではない。
勇者なら当然の結果である。
でも、せっかくだしスクリーンショットを撮っておくか。
カシャリ
「あはっ。やっぱりユウシャさんも喜んでいるんだよぉ」
「……いや。俺はまったくといってよいほど興味はない。が、まあ、あれだ。俺が1位ならクランの箔付けになるからな。そう。そういうことだ」
クランのリーダーが雑魚であるのと、ナンバー1であるのでは、対外的な印象は全く異なる。
見せびらかすのは俺の本意ではないが、賞品として貰えるトロフィーと一緒に、クランの食堂にでも飾るしかあるまい。
やれやれ。あまり騒がないでくれよ?
後でトロフィーを保管するガラスケースを購入しないとな。
そして、ランキングでは、今回、俺が退治した連中が3位から8位を占めていた。
あの程度で上位ランカーとはな。
他のプレイヤー。全然たいしたことないではないか。
ただ1点だけ気になることがある。
2位の存在。
確かスキル【強奪】を習得した者がなる職業。強奪主。
こそ泥の強奪野郎が一丁前に2位だと?
野たれ死んでいれば良いものを。
だが、まあ、そこまで気にする必要はないか。
順位に応じて報酬が貰えるとなれば、上位はますます有利に。
下位はますます不利になる。
実際に報酬が貰えるのはまだ先だが、1度ついた差は、もはや挽回不可能になるだろう。
さて、お次は──
【ショップ】 異世界での相場が表示されます。
「よし。【ショップ】を開いてみてくれないか?」
「あいおー」
試しに【ショップ】から武器の価格を調べてみる。
・木の棍棒 売2万G(1万G) 買2000G(500G)
・鉄の棍棒 売10万G(5万G) 買1万G(2500G)
・鋼の棍棒 売20万G(10万G) 買2万G(5000G)
・銀の棍棒 売100万G(100万G) 買10万(10万G)
()で閉じられた価格が異世界での相場。
木の棍棒であれば【ショップ】で2万G販売。2000G買い取り。
異世界であれば、1万G販売。500G買い取りか。
「ふーん。意味あるのかなぁ?」
もちろん意味はある。
相場から分かるように、【ショップ】の物価は高い。
基本的に異世界の2倍といって良いだろう。
その分、買い取り価格も高い。
つまり、物を買うのは異世界で、不要な物を売るのは【ショップ】で行うのが効率的ということだ。
もっとも、効率的というだけで、別に儲かるわけではない。
だが、さらに高額な商品の場合は?
異世界で希少価値のあるアイテムの場合はどうなる?
・究極の棍棒 売1億G(5億G) 買1000万G(1億2000万G)
「んぅ? んあぁ! これ。これぇ! 【ショップ】の売り値より、異世界での買い値の方が高いよぉ!」
夏になればアイスクリームがよく売れる。
水不足になれば野菜の価格が高騰する。
ガソリンの価格がコロコロ変動するなど、季節や環境、需要と供給により物価は変動するもの。
そのような環境に一切左右されず、在庫切れすることもない。
常に一定価格で売買する。
それがスマホの【ショップ】だ。
高価であればあるほど。
希少であればあるほど、異世界との差額は縮まり、最後には逆転するというわけだ。
鑑定を使えば、楽に儲けることができる。
リオンさんが言っていたのは、このことか。
転売。
時間をかけて探せば、安値で買えて高値で売れる物が、他にも見つかるだろう。
「ふわあ……凄いけど……これってズルいよねぇ?」
「いや。そうでもないぞ」
転売といっても、買い占めることで人為的に高値に仕向けるわけではない。
どちらかといえば、貿易だ。
物の豊富なところから、物の不足するところへ商品を流通させる。
例えばこれだ。
・究極の傷薬 売1億G(10億G) 買1000万G(9億万G)
治療魔法や薬草のある異世界でも、究極の傷薬は貴重品なのだろう。
究極というからには、死ぬ以外なら何でも治療するのかもしれない。
「薬品の不足する地域へ、薬品を卸すのだ。いわば、我々が異世界の人たちを救うわけで、歓迎こそすれ嫌われるはずがない」
「国境なき医師団とか、そんな感じ? そっかぁ、どんどん売っていこうよぉ」
まあ、俺たちの商品のおかげで、異世界の人たちの商品が売れなくなるかもしれないが、それは黙っておくとしよう。
とにかく、需要と供給のバランスが崩れているからこそ成り立つのが転売。
需要が満たされるにつれ、希少価値が乏しくなるにつれて、買い取り価格も下落していく。
つまりは、早い者勝ち。
他プレイヤーが転売に気づく頃には、すでに希少価値のあるアイテムは異世界に溢れかえり、二束三文にしかならなくなるだろう。
【マップ】 マップ上に他プレイヤーの現在地が表示されます。
マジかよ!
相手の位置が筒抜けとか、こんなん詐欺や。チートや。
死ねよ。卑怯者が!
と言いたいところだが、今やそのチートは俺の特権となった。
なら何も問題は無い。
卑怯だって? 俺は何もズルなどしていない。
与えられた能力を駆使したまでだ。
他人を妬む暇があるなら、もっと努力するべきだというのに。
まったく。これだから心の貧しい奴は……
「カモナー。【マップ】を開いてくれないか」
カモナーが【マップ】をタッチする。
俺たちの現在地。
ファーの街の冒険者ギルドを中心にマップが開かれる。
そのファーの街に、青いマークが集中していた。
現在、ファーの街にいるプレイヤーは──
俺、カモナー、連中4人の合計6人。
表示される青マークも6個。
この青マークがプレイヤーを示しているようだ。
ただ、どのプレイヤーがどこに居るのか。
そこまでは分からない。
例えば、別の街に表示されている青マーク。
そのプレイヤー名までは分からない。
便利ではあるが、不便でもある。
が、あらかじめこの機能を知っていれば、今日のような惨事は避けることができた。
それどころか、逆に他プレイヤーを奇襲することもできる。
各種チート機能を備えたスマホは、異世界のバランスを崩す存在。
悪しき心の者が持ったのでは、異世界に大きな災いを招くだろう。
そうなる前に。
正義の使者である勇者がスマホを回収。
一括して管理することが、世のため人のためというものだ。
いずれスマホ回収の旅に出るとするか。
他にスマホを持つ者がいなくなれば、俺は名実ともに最強となるのだから。




