58.山賊退治
100/7/27(水)10:00 ファーの街 ギルド
祝勝会の夜から2日が過ぎた。
いつの間にかギルド役員という役職についていたユウシャです。
役員はともかく、ゴブリン獣退治で手に入れた大量の魔石。
換金する必要があるため、今日は朝からギルドにやって来たわけだ。
同行者は、当然サマヨちゃん。
そして、カモナーとアルちゃん。
あと俺の頭の上から離れないファンちゃんだ。
カランカラン
カウベルの音と共にギルドの建物に入る。
すでに朝を過ぎた時刻のため、室内に人は少ない。
「だーかーらー。おたくのギルドの人なんでしょ? 俺らの村に乗り込んで暴れた人は?」
「いえ、ですが、それは村の人からの依頼でして」
その閑散とした室内で、一際大きな声を上げる一団が居た。
「なーにが依頼よ? 人を勝手に山賊だ何だと難癖つけやがって」
「その、それは、村が山賊に襲われたという話でしたので」
依頼カウンター。
冒険者が依頼を受けたり報告したりする受付で、1人の男が食ってかかっていた。
その後ろには、その様子をニヤニヤ眺める5人の男。
「だーかーらー。村に山賊なんていねーっての。平和そのもの。冒険者が暴れるまではな」
相手するのはギルドマスターのお姉さん。
何を絡まれているのか知らないが、客商売は大変そうで同情する。
俺は受け取りカウンターへ向かうと、騒ぎを興味津々に眺める受付の女性に話しかけた。
「すみません。魔石の買い取りをお願いします」
「あっ。は、はい。どうぞ」
騒ぎがあれば気になるのは人の性。野次馬根性というやつだ。
しかし、ギルド相手に食って掛かるとは勇気があるというか何というか。
力が全ての異世界。
弱者を守ってくれる法律など存在しない。
仮にギルドに非があったとしても、強大な組織に歯向かえば虫けらのように葬られるだけだ。
「あちらのカウンターでの騒ぎは何事ですか?」
「あっ。はい。それがですねー」
俺が話しかけると、魔石も他所に嬉々として語りだす受付の女性。
いくら担当が違うとはいえ同じギルド職員。
騒ぎを楽しそうに話している場合ではないだろう。
いつ騒ぎが飛び火しても知らないぞ?
ま、とにかく分かったことは──
山賊退治。この依頼が事の始まりだという。
ファーの街から東に歩いて3日の距離。
山岳の狭間にサンヤという村がある。
村といってもモンスターが跋扈する異世界。
柵もあれば衛兵もいる。
冒険者が滞在することもあって防備は固い。
その村が山賊に占拠されたというのだ。
情報源は、サンヤの村から逃れてきたという女性。
山賊たちの隙をついて村を抜け出すと、助けを求めて3日3晩、飲まず食わずでファーの街まできたという。
女性は村を助けてほしいと、ファーの街の領主に懇願。
領主は衛兵の準備を進めると同時に、ギルドに山賊退治の依頼を掲示する。
それが3日前の出来事だという。
「はあ。山賊とは物騒ですね。サンヤ村のある場所は治安が悪いんですかね」
3日前。日曜日の出来事か。
ちょうど祝勝会の日。お姉さんが家に来た日だな。
「それがねー。昨年、衛兵さんと冒険者さんとが一緒になって近辺の山賊を全部退治したはずなんですよねー」
ほう。といっても、山賊なんて食い詰めたならず者がやる仕事だろ?
そこかしこから沸いてくるんじゃないか?
「でもねー村には衛兵が20人もいるんですよー。沸いて出たような山賊じゃ太刀打ちできないと思うんですよー」
確かに。
現在、女性は領主のもとで保護されているという。
その発言は要領を得ず、身元を証明する物も持ち合わせていなければ、街に知り合いもいない。
山賊の規模は?
そもそも女性が告げる内容は真実なのか?
衛兵を動かすにも時間と費用がかかる。
そのため、領主は早馬に乗せた斥候を放つ。
そして、ギルドは特別に腕の立つ冒険者を指名して先行させたという。
「なるほどなあ。馬なら1日もあれば着くのか。で、どうして冒険者が村で暴れたという騒ぎになるわけです?」
「それがねー。サンヤ村の住人だという人たち6人が来てねー。村に山賊なんて居ないっていうのよねー」
領主の斥候とギルドの冒険者が先行する。
それから3日。
くだんのサンヤ村から、今、騒いでいる一団。
男ばかり総勢6名がやって来た。
聞けばギルドが派遣した冒険者がサンヤ村で暴れ、村人に怪我人がでた。
冒険者を村で取り押さえたので、被った被害をギルドで補償してほしいと。
また、サンヤ村は平和な村で、山賊に占拠されたという事実もないという。
そのような虚言を吐く女性がいるなら、引き渡してほしい。
そして、領主やギルドマスターから直接の謝罪を求めると。
「? 全く意味が分からない。冒険者は山賊と勘違いして村人を襲ったと? ギルドはいったい誰を派遣したのです? 村で暴れるような危険な人だったのですか?」
「それがねー。うちのギルドのナンバー1。チェーンさんとそのクランを指名して依頼したのよー。本当に村が占拠されているなら、すぐにでも助けられるようにってねー」
マジか?
あの人はギルドで暴れるヨッパーを取り押さえる程の女性。
正義感が強い。かどうかまでは分からないが、少なくとも村で暴れるようには思えない。
仮に暴れでもすれば、普通の村人が100人寄っても取り押さえることはできない。
それが村で暴れた上に、なおかつ村人に取り押さえられただって?
女性が捕まったなら、その末路は決まっている。
チェーンさん無残……まあ、元々ビッチだし良いか。
冒険者なら覚悟の上だろうし仕方ない。
「ですので、みなさんがおっしゃるサンヤ村は平和だという情報。保護した女性がいう山賊に占拠されたという情報。どちらの情報が正しいかを知るためにも、冒険者の方を解放。私どもと話させてください」
「だーかーらー。俺らの方こそ逃げ出したって女と話させろって。そんなデタラメ言うのはどこのどいつよ?」
「それは出来ません。ひじょうに怯えているうえ、情報元の秘匿義務があります」
「なーにが怯えるだよ。嘘ついて騒ぎになったのが怖くなっただけだっつーの」
そもそもお姉さんは何を馬鹿丁寧に話を聞いているのだ?
踏ん縛って拷問すれば、どちらが正しいかすぐに判るだろう。
濡れ衣だったとしても、ギルドと領主の権限があれば揉み消せる。
勇者の俺はそんな非道な行為は行わないが、異世界ならそれが普通だろう?
「とにかく、おっしゃるように冒険者が村に危害を加えたのであれば、ギルドとして調査した上で補填します。そのためにも、冒険者の方と話させてください」
「はー分からない女だなあ。お前じゃ話にならない。だから、領主かギルドマスターと話させろっての」
ドカッ
そう言ってお姉さんを突き飛ばす男。
いや、そのお姉さんがギルドマスターなんだけどな。
それはともかく、俺のお姉さんに手をだすとはけしからん奴だ。
ぶっ飛ばす!
とはいったものの、感情の赴くままに行動するのは勇者ではない。
勇者とは、もっと理知的であるべきもの。
どちらの言い分が正しいのか?
いや、その前にギルド内での暴力沙汰は禁止されている。
そして、俺はギルドの名誉役員で、ギルドの治安を守る義務がある。
そういうことなら、お姉さんを突き飛ばした連中。
正しかろうが間違ってようが、俺がぶっ飛ばしても良いということだ。
(カモナー。連中のレベルは分かるか?)
一緒に来ていたカモナーに問いかける。
今回、カモナーをギルドに同行させたのは理由がある。
【鑑定】スキル。他の冒険者のレベルを調べるためだ。
他の冒険者の前に、まずは騒ぐ連中のレベルを調べる。
嘘か本当か? 連中にチェーンさんが取り押さえられたという。
相手が雑魚であれば問答無用だが、仮に強者であれば静観する。
勇者、危うきに近寄らずという。役員である前に俺は勇者なのだ。
(うーん……レベル30だよぉ)
ほーう。俺と同じレベルか……勇者の俺と同じレベルだと?
ただの村人が俺と……いや。
連中の外見。妙に小奇麗だ。
衛生観念が発達していない異世界。
ただの村人や冒険者ともなれば、外見に気を遣う者は稀である。
そんな中、連中はまるで現代日本のチンピラが着るような、派手な紫のシャツを着ている。
加えて大きな荷物も持たず、鎧も着ていない。
サンヤ村ってのは確か歩いて3日の距離だよな?
馬でも1日の距離だ。それを手ぶらで来たのか?
それとも宿屋に荷物を置いてから来たのか?
とりあえず言えることは、連中はただ者ではない。
普通の村人などということは、断じてありえない。
見た目はただのチンピラにしか見えないのだが……チンピラだって?
(カモナー。連中、もしかして俺たちと同じプレイヤーじゃないのか?)
連中の全員が10代後半から20代前半に見える。
若い。それなのにレベルが高い。
この間のクランハウス防衛戦。
俺やカモナーに比べて、生徒たちはあまりレベルが上がらなかった。
だが、これは生徒たちが上がらないのではない。
俺たちプレイヤーは、レベルの上昇速度が異世界の人間より早いと考えるべきだ。
これもチート能力の一環なのだろう。
確かにそうでもなければ、異世界に放り出されても死ぬだけだ。
ということは、若くしてレベルが30もある連中。怪しすぎる。
おまけにギルドの職員は、サンヤ村の近辺は昨年に掃討したと言っていた。
俺たちプレイヤーが異世界に来て、まだ1ヵ月と経っていない。
急に湧いて出たという情報にも一致する。
(うーん。ごめん。見ただけじゃ分からないよぉ。分かるのはレベルと職業。名前だけなんだよぉ)
そうか。
案外不便なものだな……って名前か!
(あの男の名前を教えてくれ)
(タロウ・スズキ レベル30で職業は侍大将だってぇ)
タロウ・スズキって、あの太郎で鈴木か?
もろ日本名じゃねーか!
しかも侍大将ってなんだよ。
侍とはもっと、こう、あれだろう。
武士は食わねど高楊枝。
餓えたとしても、品のない行いはしないものだろう?
それがなんだ? あの因縁の付けようは。
見苦しいにも程がある。
俺の中の侍のイメージを壊しやがって。許さん!
もはや連中がプレイヤーなのは確定した。
なにが普通の村人だ。嘘をついているのは連中の方。
同郷のプレイヤーとして恥ずかしい。
ならば、プレイヤーの不始末は、同じプレイヤーである俺がつける。




