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57.鑑定

 100/7/24(日)20:00 クランハウス



「はーい。ユウシャさん。ゴブリン獣を撃退したそうね」


「ひぇあっ!」


 思索にふける俺に、いきなり声がかけられた。

 誰だと振り返れば、ギルドマスターのお姉さん。

 ゴブリン獣を撃退した話が、もうギルドに伝わっているのか?


「それはそうです。あれだけ派手に戦えば、誰でも気がつきます」


 なるほど。

 それで、こんな夜にいったい何の用だろう?


「あら? なんだか警戒されてますね? ユウシャさんどうしました?」


 それは当然だ。

 俺以上の実力を持つであろう、お姉さん。

 もしも機嫌を損ねて暴れでもされたら、大変なことになる。


「いえ、わざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます。本日はどういったご用件でしょうか?」


「妙に殊勝ですけど……やっぱりゴブリン獣との戦闘は大変だったのね。少しおかしく、いえ、まともになったというべきかしら?」


 なにやら失礼なことを言われているが、ここは我慢だ。

 弱肉強食で命の軽い異世界。

 俺のような雑魚は強者に従わねば生きていけない。


「ユウシャさんがクランハウスからどのくらいで逃げ出すかという賭けの話。覚えていますか?」


 そういえば、街ではそんな賭けが行われていたようだ。

 1番人気は、俺が1週間以内で逃げ出す、だという。


 あの時は馬鹿な連中だと思ったものだが、それも当然の話。

 俺のような雑魚が、ゴブリン軍団に勝てると考えるほうがおかしな話だ。


「ユウシャさんがゴブリン軍団に勝利しましたので、それに賭けていた私は儲かったというわけです。約束通り、ユウシャさんたちをお祝いしようと来たのですけど、お邪魔でした?」


 俺がゴブリン軍団に勝利するという倍率は、5.3倍。

 よくそんな無謀なオッズに賭けたものだ。


「よく俺が勝つ方に賭けましたね。どう考えても無茶でしょう?」


「? 先ほどからどうしました? あの自信満々だったユウシャさんらしくないのですけど?」


 今にして思えば、あの頃の俺は子供だった。

 自分の強さを、相手の強さも知らずに、いきがっていただけ。

 世の中、上には上がいる。

 今回、勝てたのはたまたま俺の運が良かっただけだ。


「よしてください。あの頃の俺はまだ若かっただけです。これからは自分に驕ることなく慎重に行動すると決めました」


「そうね。勇気と無謀は違いますから。自分の実力に見合った仕事を選ぶ。冒険者は命あっての物種ですからね」


 年長者の言葉は胸に染みる。

 これからの俺は、草木のようにひっそり生きるとしよう。


「ですけど、それで出来上がるのは普通の冒険者だけです。少しくらい無謀でないと冒険者は大成できません。その無謀なところが、ユウシャさんの魅力だと私は思いますよ」


 そうなのか?

 いや。騙されてはいけない。


「お姉さんお姉さん、それで何かお祝いを持ってきてくれたのぉ?」


「あらー。カモナーちゃんも頑張ったのね。はい。お肉と飲み物。私が教えた魔法は役に立ったかしら?」


 黙々と肉を食べる俺の隣で、カモナーとお姉さんはゴブリン軍団との戦いの話で盛り上がっていた。


「それでねぇ。最後にユウシャさんがぁ、ウーちゃんに乗って突っ込んだんだよぉ。もー凄いのなんのってぇ」


「へー。乳牛獣に乗って突撃するなんて、ちょっと頭がおかしい、いえ、勇気があるわね」


 今にして思えば、なんて無謀な行動だったのか。

 ミルクを生み出すために生まれた乳牛獣。

 戦闘用ではないモンスターに乗って突撃するたんて、俺もどうかしていた。


 反省反省。

 今後はウーちゃんのミルクでも絞りながら、余生を過ごすとしよう。


「カモナーちゃんの話を聞く限りではユウシャさん、かなり強くなっているわね。もしかして、ギルドナンバー1のチェーンさんを超えたのかしら?」


「そうだよぉ。ユウシャさんは最強なんだよぉ」


 そうなのか?

 いや。長年冒険者をやっているチェーンさんやギルドマスターにレベルで敵うはずがない。


「そのわりにはユウシャさん。なんだか元気がありませんね」


「うーん。お肉、食べすぎたのかなぁ?」


 俺をなんだと思っている。

 俺にも悩みはあるし、今も悩んでいる。

 最強勇者が、ギルドマスターの前では雑魚だったという残酷な事実に。


「ユウシャさん。しっかりしてください。せっかくお祝いに来たのですから」


 そう言って俺の背中をバンバン叩くお姉さん。

 なんだ? 妙に上機嫌だな?

 というか、酔っているのか?

 生徒たちはまだ子供。お酒の類は用意していないのだが……


 ああ。お姉さんがお祝いだと持ってきた飲み物。

 お酒が混じっているじゃないか。


 自分で持ってきたお酒で酔っているのか?

 まあ、上機嫌になるのも当然か。


 良質な資源が眠るゴブリン獣の森。

 俺がゴブリン獣を追い払ったおかげで、今後はギルドとしても探索し放題。資源を採集し放題というわけだ。


 背中を叩いていたお姉さんは、勢いあまって俺の背中にもたれ掛かっていた。


 ふにょん


 ん? 俺の背中に当たる柔らかい感触……

 この大きさと柔らかさ。さすが生徒たちとはレベルが違う。


 じゃなくて、この感じ……もしかしてお姉さんのレベルは40くらい?


 あれ? 思ったより高くない?

 というか、サマヨちゃんと同じレベルなのか?

 だとしたら、お姉さんが暴れてもサマヨちゃんなら取り押さえられる?


 いや待て!

 さすがに俺の触覚を頼りにレベルを判定するのは無理がある。

 それじゃ、あの健康診断は何だったんだという話だが、それは別だ。


 こういう時、他人のステータスを見る事ができれば便利なんだが……


 見れるじゃないか!


 俺は見れないが、10ポイントスキル【鑑定】があれば他人のステータスが見える。


 俺の背中を離れて、生徒たちの輪の中へと向かうお姉さん。

 その後ろ姿を見送り、俺はカモナーの耳に囁いた。


「カモナー。【鑑定】を習得できないか?」


「うーん……【鑑定】の習得には5ポイント必要なんだよぉ。僕まだ2ポイントなんだぁ」


 そうだ。カモナーのポイントだけでは【鑑定】を習得できない。

 だが、以前にリオンさんのスマホからスキルとポイント、所持金を譲り受けたことがある。

 つまり、スマホの所有者同士の了承があれば、ポイントのやり取りができる。


「俺の3ポイントをカモナーに譲る。これでどうだ?」


 カモナーの腕をつかんで、俺のスマホをタッチさせる。


<<ポイントをカモナーに譲渡しますか?>>


 俺は迷わず「はい」をタッチする。


<<所有者の許可を確認。3ポイントをカモナーに譲渡しました>>


「頼む。カモナー。【鑑定】を習得してくれ!」


「分かったよぉ。ぽちっと【鑑定】習得したよぉ」


「よし。さっそくだが、お姉さんの強さを見てくれないか?」


「うーん……うん。お姉さんのレベルはぁ、ええっ! レベル40もあるよぉ。なんでぇ?」


 それはギルドマスターだからだ。

 しかし、やはりレベル40か。

 サマヨちゃんと同じレベル。

 大したことないというべきか、サマヨちゃんが凄いのか、どちらだ?


「ステータスは見れるか?」


「うーん。駄目だよぉ。見るだけじゃ無理みたい」


 リオンさんが言っていた。

 見る、そして身体に触れることで多くの情報が得られると。


「お姉さんの身体にさわってみてくれ。それでもっと分かるはずだ」


「ふええ? さわるって、どこに?」


 俺たちのもとを離れたお姉さん。

 今は生徒たちと一緒になって話をしていた。


「みんな孤児なんですか。ですが、ゴブリン獣と戦えたのなら立派に冒険者としてやっていけますよ。どうですか? 冒険者ギルドに登録してみませんか?」


 どうやら生徒たちを勧誘しようとしているようだ。

 後ほど冒険者登録させるつもりなので問題はないのだが、怪しいセールスレディみたいだな。


 とにかく、生徒たちの相手をしている今、お姉さんは隙だらけ。


「さわるといえば、お尻だろう。背後からがばっと揉んでくれ」


「ええぇ……それは駄目なんじゃないかなぁ」


 いったい何を渋るのか?

 男の俺ならともかく、女同士なんだから何も問題ないというのに。


 俺はカモナーの手を掴むと、お姉さんのお尻へとその手を押し当てる。


「きゃっ。ちょっと! ユウシャさん! ……って、あれ? カモナーちゃん?」


 ヒドイ濡れ衣もあったものである。


「お姉さん、どうしました?」


「い、いえ。その、カモナーちゃん何か御用?」


「え? ええと、お姉さん。こっちのお肉も美味しいよぉ」


 そういって焼けた肉を勧めるカモナー。

 なんとか誤魔化したようだ。


「で、カモナー。どうだった?」


「うーん……うん。見れた」



【ステータス】


 名前:システィア

 種族:人間

 称号:英雄

 職業:ギルドマスター

 レベル:40

 HP:500

 MP:80

 攻撃:160

 防御:80

 敏捷:120

 魔攻:80

 魔防:100


 武器スキル:【片手剣5】

 魔法スキル:【水魔法2】【風魔法2】

 他スキル :【話術3】【交渉2】



「こんな感じだよぉ」


 ほう……レベル40というには、俺とあまりステータスは変わらない。

 というか、攻撃以外は全部俺のほうが上だ。


 あれ?

 もしかして、ギルドマスターってたいしたことない?


 ……いや違うな。俺が強いのだ。

 その証拠にお姉さんの称号は英雄。

 武器と魔法。そして闘技を使いこなす者だけが英雄と呼ばれるという。


 俺はその英雄と互角以上のステータス。

 そうだよな……勇者が雑魚なはずがない。

 誰だよ? 俺を雑魚だと言った奴は?


 やはり勇者は最強で恐れるものなど何もない。

 そういうことなら──


「お姉さん。いやー、ゴブリン軍団を撃退するのは苦労しましたよ」


 お姉さんの持ち込むお酒をぐいっとあおり、俺はその隣へと移動する。


「……急にどうしました?」


「いやいや。わざわざお祝いに駆けつけてくれたんです。歓待するのが当然というものです」


 隣に立つお姉さんの肩へと手を回す。


「きゃっ。ちょ、ちょっと」


「ん? どうしました? ささ。お姉さんもぐっと飲んでくださいよ」


 めでたいお祝いの場ともなれば、肩を抱くなどは普通のコミュニケーション。

 軽い挨拶のようなものだ。


「ゴブリン獣の森からゴブリンがいなくなれば、ギルドの仕事も繁盛、ファーの街も潤いそうで結構な話です」


「そうね。これもユウシャさんのおかげよ」


 ブロンドの輝きもまぶしいお姉さんの髪。

 まるで欧米人のようだ。

 そして、ここは異世界で海外のようなもの。

 海外といえば、抱き付いたり接吻するのも普通の挨拶と聞く。


 そのような破廉恥な挨拶、純真な俺は軽蔑するのみだが、郷に入れば郷に従えという。

 やらないわけにもいかない。


「おねえさーん。くんくん……良い匂いがするう」


 お姉さんの頭に顔を近づけ、臭いを嗅いでみる。

 ふわあ。大人の女性って感じの匂いだあ。

 どういう臭いかは知らないがきっとそうだあ。


「もう。ユウシャさん飲んでいるんですか? 大丈夫ですか?」


「大丈夫。だいじょうぶ。なんといってもおー俺は勇者だからあ」


 大学生ともなれば飲み会などは日常茶飯事。

 この程度のお酒で潰れる俺ではないのだあ。


「そう? それじゃ、これもどうぞ。ファーの街名産のお酒でおいしいですよ」


 お姉さんの顔に口を近づける俺に、グラスが押し当てられた。


「はーい。勇者、飲みまーす」


 もう少しでキスできたのに。惜しい。

 だが、この勢いならいける。

 お姉さんは英雄で、英雄は色を好むという。

 きっとお姉さんも期待しているに違いない。


「ユウシャさんのお祝いですから、遠慮せず飲んでくださいね」


「はーい。勇者のみまーす」


 お姉さんの期待に応える。

 何より大学生が飲み会でやるとなれば、もう、あれしかない。


 ……あれ……あれってなんだ?


「はいどうぞ。ユウシャさんの良いところ。見てみたいな」


「ふあーい。勇者、一気飲みいきまあす」


 そうだ。あれといえば一気飲みだああああーうへーうまーい……


 ……

 ……

 ……


 チュンチュン


 鳥の鳴く声で目を覚ますと、すでに辺りは明るくなろうとしていた。

 もう朝か。

 昨晩はお酒を飲んで、そのまま寝てしまったようだ。


 目覚めた場所は、クランハウスにある俺の部屋。

 スマホから購入した豪華ダブルベッドを備える部屋だ。


 いつか活用する。その時に備えて購入したダブルベッドだが、一人で寝るにも寝心地は良いので気に入っている。


「ふわあ……そういえば、お姉さんどうしたんだろう?」


 身体を起こそうとした俺は、自分の身体に何者かが抱き付いていることに気がついた。


「ん? ……うおっ?!」


 ギルドのお姉さん。

 なぜ俺と同じベッドで寝ているのか?

 まさか……


「うーん。ユウシャさんおはようございます」


「お、おはようございます。あの? なぜ同じベッドで?」


「もう。ユウシャさんったら。がっつきすぎですよ。おかげで寝不足です」


 ……なんてことだ。

 俺としたことが、全く覚えていない。

 酔った勢いで覚えがないとか、そんなバカな話は無いと思ったものだが、まさか自分の身に起こるとは。


 ……まあ良い。

 リア充の大学生なら、酔った勢いでなんて日常茶飯事。

 俺も立派なリア充になったということで、何も驚くことはない。


「それより、ユウシャさん。昨晩の約束、お願いしますね」


 ? 俺は何か約束をしたのか?


「あ、ああ。もちろん……どういった約束でしたっけ?」


「もう! ギルドの役員として名を連ねるという話です。名誉な話ですよ。おまけにささやかながら報酬も貰えます」


 なんだ。そんな話だったのか。


「あ、ああ。それは名誉な話でありがたいことです」


「そうなのよ。それなのに実績を上げた人たちは、すぐ王都のギルドへ移籍したがるのよね。王家に取り入るのが、そんなに魅力的なのかしら?」


 王都のギルド。王家。

 ということは、王女様かお姫様がいるに決まっている。


「ほう。王都のギルド。それは魅力的かも」


「ユウシャさん。役員になりましたら他のギルドには移籍できませんので、ご注意ください」


 マジかよ。

 実績を上げたところで他のギルドへの移籍を持ち出して、お姉さんに便宜を図ってもらおうと思っていたのだが、無理ってことか?

 王都のギルドでお姫様と仲良くなって、うんぬんも無理ってことか?


 うーむ……まあ良いか。

 見知らぬお姫さまより、目の前の美人。

 勇者なら目の前の餌に飛びつくのが当然の話。

 というわけで、今からもう1回お願いするとしよう。


「それより、もう少しゆっくりしていこう」


「何を言っているのです? 目が覚めたなら起きますよ」


 そう言って、俺を振り払ってさっさと起き上がるお姉さん。


 うーむ。昨晩の俺は何をやっていたのだろう。

 そもそもベッドで寝ていたのに、なぜお姉さんは普通に服を着ているのか?

 俺は下着姿すら拝んでいないというのに。


 とにかく飲みすぎには注意が必要。そういうことだ。


<<酔い耐性1を獲得しました>>

<<睡眠耐性1を獲得しました>>


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