56.レベル診断
100/7/24(日)19:00 クランハウス
ゴブリン獣の撃退から一夜明けた翌日。
クランメンバー全員でゴブリン獣の解体を行う。
朝から晩まで作業したおかげで、ようやく周辺全ての解体が終了した。
「おつかれさま。みんなのおかげで、クランハウスを守ることができた。ありがとう!」
今夜は、勝利を祝して庭で焼肉パーティだ。
そればかりの気もするが、みんな喜んでいるし良いだろう。
焼肉を食べながら、俺は片手でスマホの画面を開く。
今回の戦闘ではかなりのゴブリン獣を退治した。
はたして俺のレベルはどうなったのだろう?
【ステータス】
名前:ゲイム・オタク
種族:人間
称号:勇者
職業:勇者
レベル:30 (11 UP)
HP:1689(1094 UP)
MP:97 (61 UP)
攻撃:126 (79 UP)
防御:144 (94 UP)
敏捷:126 (79 UP)
魔攻:97 (61 UP)
魔防:108 (67 UP)
ポイント:3(3UP)
最強スキル:【勇者☆☆☆(UP)】
武器スキル:【骨3(UP)】【片手剣1】【両手斧2(UP)】【盾1】
強化スキル:【体力1】【魅力1】【植物1】
他スキル :【身かわし1】【投擲1】【騎乗1(NEW)】【植物知識1】
少し、いや、かなり数字がインフレしてないか?
ステータスの上昇量が半端ないのだが、大丈夫か異世界?
「うーむ」
俺が強くなったのは間違いないのだが、よく分からなくなってきた。
これまでステータスが1上がっただけで喜んでいたし、それが普通だと思っていたのだが、今回のステータスの伸びはどういうことだ?
「ん? ユウシャさん、どうしたのぉ?」
スマホを手に唸る俺のもとへ、カモナーがやって来た。
「いや、俺のステータスなんだが、高いのか低いのか分からなくなってきた」
レベル19から30に上がる間で、俺のステータスは倍以上に伸びている。
以前サマヨちゃんの敏捷が100を超えた時、もう敵はいないと思ったものだ。
それが今や、俺の魔攻以外のステータスは全て100を超えている。
今の俺に比べれば、少し前の俺はゴミ同然。
100が高いのではなくて、もしかして、今までの俺は雑魚だったのか?
そんな雑魚にもかかわらず、ゴブリン軍団と戦おうとした命知らずだったのか?
いや……実際にゴブリン軍団には勝利した。
Bランク冒険者との決闘にも勝っている。
雑魚だったはずはないのだが……
「ほえー。どのくらいあるの?」
「ああ。見てみるか?」
隣に立つカモナーにステータスを見せる。
「ふんふん……え? えええっ? ユ、ユウシャさんどういうことぉ?」
スマホを見るカモナーがすっとんきょうな声を上げる。
「ユウシャさんのステータスおかしいよぉ。HPが1689とか多すぎぃ!」
やっぱり高いで間違いないよな?
「だが、他人のステータスが見れないから比較しようがないんだよな」
「うう……僕のステータスと比べるんだよぉ」
差し出されたカモナーのスマホからステータスを見てみる。
名前:カモナー・アンドウ
種族:人間
称号:美少女サモナー
職業:サモナー
レベル:20
HP:290
MP:110
攻撃:30
防御:30
敏捷:40
魔法攻撃:40
魔法防御:40
ポイント:2
主力スキル:【召喚2】
武器スキル:【短剣1】
魔法スキル:【水魔法1】
他スキル :【調合1】【植物知識3】
【お菓子作成1】【投擲1】【交渉1】
カモナー……よわっ。
いや。俺もレベル20の頃は似たようなステータスだった。
ということは、カモナーが弱いのではない。
レベル30になった今の俺が、強すぎるだけだ。
「ヤバイな。やはり勇者は最強だった」
これにはさすがの勇者も笑みを隠せない。
「うう。僕もたくさんレベル上がったのになあ」
確かに。あまり戦っていないのに結構レベルが上がっている。
クランハウスの防衛戦。
参加したメンバー全員が、大量に経験値を貰えたのだろう。
そうなると他のメンバー。
生徒たちもレベルが上がっていそうだが、スマホを持たない生徒たち。
彼女たちのレベルを知ることはできない。
まあ良い。
俺ほどの勇者となれば、スマホなど無くとも問題ない。
「ふむ。カモナー少し筋肉が付いてきたか?」
「ちょっ。ユ、ユウシャさん恥ずかしいよぉ」
季節は夏。
半袖の上衣からのぞくカモナーの腕を揉んでみる。
こうして体つきを調べれば、肉の付き具合で鍛え具合が分かる。
ほう。このさわり心地がレベル20ということか。
なら──
俺は近くで焼き肉を食べる生徒の背後へと近づく。
モミモミ
「うわっ。あれー勇者様。わたしの身体さわって、どうするの?」
生徒の中でも年少の子の身体つきを調べてみる。
うむ。孤児だけあって、肉付きは良くない。
腕をさわるだけでは、よく分からない。
もう少し肉の付いたところ……例えば胸などはどうだ?
「やん。くすぐったいよー」
うっすらと肉付きを感じる。
うーむ。この手ざわりなら、Aカップにはまだ届かないか。
じゃなくて、たぶんレベル10くらいだろう。
思えば、学校でも身長測定などの健康診断を定期的にやっていた。
こうやって生徒の成長を測定するのも重要。そういうことか?
分かった。それなら、俺が生徒たちを測定する。
「きゃっ。や、やだー。わーん」
嫌がるかもしれないが、これも生徒のため。
今の俺は生徒たちのお医者様で、彼女たちの健康を守るのが俺の使命。
そして、この子は真っ平らだしレベル5くらいだ。
心を鬼にして生徒たちを調べ続けるが、思ったより生徒たちのレベルは低い。
「恥ずかしいの。だって、まだ小さいもの」
一番レベルが上がっているのはナノちゃんで、およそレベル13。
全員レベル15くらいまで上がっているかと思ったが、そうでもないようだ。
生徒たちの成長が遅い。
いや……俺やカモナーの成長が早いのか?
カタカタ
「あ、サマヨちゃーん。お帰りぃ」
焼肉パーティの真っ最中。ちょうど良くサマヨちゃんが帰ってきた。
追撃に出てから丸1日以上が経過しての帰還。
残さず倒してくれとは言ったが、長い時間、ゴブリン獣を追いかけていたようだ。
出迎えるカモナーが肉を差し出すが、いや、スケルトンのサマヨちゃんはご飯を食べないから。
それより──
「サマヨちゃん。大丈夫だった? 怪我してないか?」
制服に身を包むサマヨちゃんの身体は、全身が血に染まっていた。
服の上からサマヨちゃんの身体を確かめる。
さわってみたところ、外傷はない。
もっとも怪我をしたところで、自動再生で治るから問題ない。
そもそもスケルトンのサマヨちゃんは血を流さないので、敵の返り血に決まっている。
カタカタ
サマヨちゃんが抱える包みを差し出すと、その中には大量の魔石。
そして、派手な兜を被るゴブリンキングの頭が入っていた。
……追撃した先で、別のゴブリンキングを倒したのか。
というか、ゴブリンキングって普通に何匹もいたのか。
「そういえば、サマヨちゃんってどのくらい強いのぉ?」
元々、俺より強かったサマヨちゃん。
骨ばかりの身体では、さわっても強さが分からない。
ステータスはどうなっているのだろう?
スマホから、課金モンスターの項目を開いてみる。
レアリティ:レジェンド
名前:サマヨちゃん
種族:暗黒アンデッドスケルトン・魔王
称号:神聖魔王
職業:暗黒バレエダンサー・魔王
レベル:40 (15 UP)
HP:2328(1767 UP)
MP:125 (92 UP)
攻撃:293 (219 UP)
防御:271 (202 UP)
敏捷:550 (414 UP)
魔攻:125 (92 UP)
魔防:292 (219 UP)
種族スキル:【不死】【自動再生2】【痛覚無効】
【空腹無効】【状態異常無効】【不眠不休】【神聖耐性上昇大】
主力スキル:【魔王☆(UP)】
武器スキル:【棍棒2(UP)】【片手剣1(NEW)】
他スキル :【暗黒2】【魅了ダンス】【献身】
サマヨちゃん。レベル40もあるのか。
不眠不休で動き続けるサマヨちゃん。
丸1日以上、ゴブリン獣を追い回していたのだから、レベルも上がるというものだ。
そして、そのステータスは俺の倍近くある。
敏捷にいたっては、俺の4倍以上。
恐ろしい……仮にサマヨちゃんが敵だとしたら、俺ですら瞬殺されかねない。
最強勇者を自負する俺だが、その自信が打ち砕かれる思いだ。
待てよ?
ということは、レベル50の冒険者が居るなら、サマヨちゃんの倍は強いということか?
ファーの街。冒険者ギルドのナンバー1というチェーンさん。
彼女のレベルはどのくらいなのだろう?
異世界に来てまだ1ヵ月も経たない俺ですらレベルは30ある。
元々、異世界に暮らして長年冒険者をやっているチェーンさん。
そして、ギルドマスターのレベルはどのくらいあるのだろう?
普通に考えれば、俺やサマヨちゃんよりレベルが高いに決まっている。
ということは、俺の倍は強い。いや、下手したら4倍は強い。
もしも、彼女たちの機嫌を損ねれば……
「ヤバイな。どうやら勇者は雑魚だった」
今後は2人に対して、慎重に接する必要がある。
「はーい。ユウシャさん。ゴブリン獣を撃退したそうね」
「ひぇあっ!」




