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54.クランハウス防衛線・後

 100/7/23(土)11:00 クランハウス


 森から姿を現したゴブリン獣の本隊。

 あの中に敵の大将。ゴブリンキングがいる。


 倒しても倒しても、次から次へと押し寄せるゴブリン獣。


 最大の強みはその数。

 そして、その統率力にある。


 叩き潰されても矢に射抜かれても、歩みを止めない。

 死ぬと分かってなお愚直に突撃を繰り返すゴブリン獣たち。


 恐怖を感じないのだろうか?

 いや、意志ある生物である以上、恐怖はあるはず。


 現にゴブリン獣が突撃を躊躇っていた時がある。

 だが、それも本隊が現れるまでの話。

 本体到着後のゴブリン獣に躊躇いはなく、突撃は更に苛烈さを増していた。


 なら、答えは決まっている。


 恐怖すら捻じ伏せて、ゴブリン獣を従わせる。

 それがゴブリン軍団の長。ゴブリンキング。

 死をも強制するその統率力。何か特殊なスキルでも習得しているのだろう。


 ようは、ゴブリンキングを討ち取れば勝利は決する。


「ウーちゃん。出陣だ。行くぞ!」


 ウーちゃんの背に跨り、俺はクランハウスからゴブリン獣のただ中へと飛び出した。


 建物を出た俺たちを狙って、武器を手に迫り来るゴブリン獣。


 ズバァッ


 手にするハルバードの一振りで、ゴブリン獣を薙ぎ払う。

 連中が手に持つ粗末な武器とは、リーチが違う。


 ドカァッ


 ウーちゃんの突進が、ゴブリン獣を吹き飛ばす。

 泥土に足を取られる貧弱な奴らとは、馬力が違う。


 まずはクランハウス近くを掃除する。

 そう考えてハルバードを振り回すが、思ったよりゴブリン獣の数が少ない。


「ゴブギャァ!」


 近くに立つゴブリン獣。

 断末魔とともに、その表皮がみるみる溶け落ちていく。

 これは身体を溶かす強酸のような液体か?

 ……そういえば、そんな攻撃をするモンスターがいた。


 ブシャァ


 建物の外では、イモ虫獣がゴブリン獣に液体を吐きかけていた。

 その周囲には、溶け落ち、食い荒らされた無数の死体。


 イモちゃん。

 いつの間にか俺についてきて、庭に住み着いたモンスター。

 おそらく今日も柵に吊るしたオオカミ獣の死体を食べていたのだろう。


 死体を漁るばかりで害はないのだが、ゴブリン獣にとっては俺たちと一緒のクランハウスに住む敵でしかない。


 食事中のイモちゃんにゴブリン獣が襲い掛かる。

 食事を邪魔されたイモちゃんが反撃。

 倒したゴブリン獣を食べる。

 仲間を食べるイモちゃんにゴブリン獣が襲い掛かる。


 この繰り返しなのだろう。

 今も取り囲むゴブリン獣が、一斉にイモちゃんへと武器を振り下ろした。


 ポヨン


 しかし、その打撃はゴムのような表皮に阻まれる。


 数だけは多いゴブリン獣。

 その分、個々の質は低く、武器の手入れもされていない。

 手にもつ剣は錆びつき、斬るには役立たない。


 つまり、ゴブリン獣の攻撃は打撃のみ。

 そして、全身ゴムの塊のイモちゃんに、打撃武器は通じない。


 ブシャァ


 吐き出す強酸を避けようにも、泥土に足を取られるゴブリン獣。

 身にまとうのは朽ちた鎧や、ただの布切れのみ。

 強酸を防ぐすべはなく、全身の皮膚を焼けただれさせ倒れていく。


 片や、イモちゃんは泥土を全く苦にすることなく這い進む。

 イモ虫獣の胴体はキャタピラのようなものだ。


 これは相性勝ちというやつだ。

 ゴブリン獣がいくら集まろうが、イモちゃんに勝つことはできない。


「そらっ! イモちゃん。その調子で頼んだ」


 近くのゴブリン獣を蹴とばして、イモちゃんへと放りやる。


 ガブリ


 宙を舞うゴブリン獣を器用に口で受け止め、一飲みで飲み干すイモちゃん。

 今のは報酬の前払いだ。クランハウスの守りは任せたぞ!


 跨るウーちゃんに合図して、泥土を駆け抜ける。

 目指すはゴブリン獣の本隊。


 突進を続ける俺たちを阻もうと無数の雑魚ゴブ獣が迫りくる。


 ズバァッ


 いつの間にか、俺たちの隣を走るサマヨちゃん。

 左右の手に持つ剣と棍棒で、俺たちを遮るゴブリン獣を蹴散らした。

 以心伝心とはこのことだ。


 サマヨちゃんと共にゴブリン獣をかき分け吹き飛ばして突き進む。

 その先。目前に迫るのは、煌びやかな装備に身を固めたゴブリン獣たち。

 ゴブリンキングを守る親衛隊か何かだろう。


 ガキィンッ


 さすがというべきか。雑魚ゴブ獣とは練度が違う。装備が違う。

 薙ぎ払うハルバードを受け止め、逆に槍を突き出してきた。


 しかも、親衛隊は跨るウーちゃんを集中的に狙っていた。

 突き出された穂先が、ウーちゃんのお腹へと突き刺さる。


「ウモォー」


 まずい。

 最強無敵の勇者と違い、ウーちゃんはただの乳牛。

 このままでは、あっさり殺されてしまいかねない。


 ドカァッ


 ウーちゃんを突き刺す親衛隊を、今や柄だけとなったハルバードで叩き飛ばす。


 これまで数百ものゴブリン獣を切り裂き叩き潰したハルバード。

 さすがにガタがきている。

 血と油に塗れた刃は切れず、穂先は欠け、斧は砕けていた。


「ウーちゃん、大丈夫か?」


「ウモォッ!」


 鼻息荒く口を開くウーちゃん。

 とにかく傷口を塞ごうと薬草を取り出すと──


 パクリ


 薬草に食いつき、飲み干すウーちゃん。

 まあ、確かに薬草は食べても効果がある。


 傷口に直接、貼り付けるのが最も効果的なのだが、血を流すウーちゃんの傷口は、早くも塞がろうとしていた。


 薬草を食べる……そういえば薬草が大好物なウーちゃん。

 これまでにも、見境なくたくさんの薬草を食べてきた。


 傷の治りが早いのは、その影響か?

 これまで食べてきた薬草の薬効成分が、身体に蓄積しているのかもしれない。


 傷を治すための薬草をばくばく食べるウーちゃん。

 少し勿体ないと思っていたが、その食欲が今になって活かされた訳だ。


 そういうことなら、これまで食べてきた分、もう少し働いてもらう。


 だが、いくら俺が勇者といっても、壊れたハルバードで戦い続けるのは難しい。


 上質な装備で身を固めた親衛隊。

 壊れたハルバードでは、その盾に、鎧に弾かれ、仕留め切れない。

 連中の装備を一振りで打ち抜くような、そんな凄い武器が必要だ。

 壊れたハルバードに代わる新しい武器。


 待てよ……凄い武器……あるじゃないか!

 意志疎通が可能で成長する武器。伝説級の武器。


「サマヨちゃん!」


 雑魚ゴブ獣を突破したサマヨちゃんは、俺と同じく親衛隊と刃を交えていた。


 俺の呼びかけで、近寄るサマヨちゃん。

 俺は牛上から身を乗り出して、その足首を掴むと──


「ぬおおお! いくぞおおお!」


 掴んだ足首を軸に、サマヨちゃんの身体を頭上で振り回す。


 ドカァァァン!


 身長1メートル60センチほどのサマヨちゃん。

 振り回されたサマヨちゃんの身体が、親衛隊の鎧を一撃で打ち砕いていた。


 俺の習得するスキル。骨術。

 骨を利用した攻撃にダメージ上昇補正。

 使用する骨のHP、攻撃、防御、スキルにより変動する。


 魔王となるまで成長したサマヨちゃん。

 今回、そのサマヨちゃんの全身を武器として振り回すのだ。

 これもウーちゃんに跨る牛上だからこそ出来る芸当。

 その破壊力たるや、想像以上。


 ドカァァァン!


「ゴブギャアアアア!」


 俺たちを阻もうとする親衛隊が、為す術もなく吹き飛ばされていく。

 受け止めようとする盾を、鎧を、武器を打ち砕いて、叩き潰すサマヨちゃんの身体。


 数百もの親衛隊。

 強固な鋼の壁を抉り突き進む。


 最奥に見えるは、一際豪華な鎧に身をまとうゴブリンキング。

 親衛隊に俺たちを足止めさせながら、悠然と魔法を詠唱しようとしていた。


 奴のもとまで。もはや目前。


 今さらチンケな魔法が勇者に効くはずもないが──


「行けっ! ファンちゃん!」


 詠唱を待つつもりはない。

 俺の合図で頭上を飛び出したファンちゃん。

 詠唱を続けるゴブリンキングの目玉へと、尻尾の針を突き刺した。


「ゴブッ?! ギェァァア?」


 余裕の詠唱を邪魔され、目を押さえてうずくまるゴブリンキング。

 最後の親衛隊を弾き飛ばしたウーちゃんが、一気に距離を詰める。


「しねええ! 勇者アタッックウウウ!」


 俺は全力でサマヨちゃんを振り抜き──


 ドガガァァッッン!


 ゴブリンキングをぶち抜いた。


 粉々に砕け散る鎧。

 トラックにはねられたように吹き飛ぶゴブリンキング。

 地面に叩きつけられ痙攣するその頭を、突進するウーちゃんが蹄で踏み抜いた。


「ゴブキンギャアッァァァ……」


 乳牛獣であるウーちゃん。

 その1トン近い体重に全速力で踏み抜かれたのでは、いくら豪華な兜に包まれたゴブリンキングの頭部といえど、破裂するしかない。


「ゴギャ?! ゴギャゴギャー?!」


 その瞬間、これまで退くことなかった親衛隊が。

 怯え一つ見せずに戦い続けるゴブリン獣たちが、悲鳴とともに踵を返していく。


 ゴブリンキングの死亡とともに、その支配から逃れたゴブリン獣たち。

 生来の生存本能を取り戻したのか、一斉に逃げ出していた。


 勝負ありだ。


 ──だが、ここからが肝心。

 繁殖力に優れるゴブリン獣。

 このまま逃がしたのでは、逃げた先で力を蓄え、再び襲ってくるだろう。


 頭上で振り回すサマヨちゃんを、その遠心力のまま、逃げる親衛隊の中枢へと放り投げる。


「サマヨちゃん。グリさん。残さずやってくれ」


 親衛隊を押しつぶして地面に降り立つサマヨちゃん。

 逃げる親衛隊を1匹ずつ、叩き潰し、叩き斬っていく。


「ゴブギャアアッッァァ!」


 宙を舞うグリさんは逃げるゴブリン獣に追いつくと、頭上から踏みつぶして吹き飛ばしていく。


「ヒイギャアアアッァァ!」


 やれやれ。逃げる相手を背後から倒すのは気が進まないが、仕方ない。


 2度と歯向かうことがないよう。

 勇者に歯向かう無謀さを、その小さな脳みそに叩きこむ。

 ゴブリン獣を教育するのも、勇者の務めというものだ。


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