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34.マンドラゴラのアルちゃん


 100/7/13(水)10:00 クランハウス近郊の森



 俺、サマヨちゃん、アルちゃんの3人でクランハウス近くの森へと探索に入る。


 目的としては、クランハウス近辺に生息するモンスターの調査。

 そして危険なモンスターの数を減らし、近辺の脅威を取り除くことだ。


 草食獣なら放置で構わないが、肉食獣、特にゴブリンを見つけたなら最優先に始末していくとしよう。


 森に入ってまず見つけたのはノラ犬獣。

 10匹と数だけは多いが、俺にとっては雑魚でしかない。


 だが、これが初陣のアルちゃんにとっては話は別だ。

 マンドラゴラは魔法が得意な種族とあるが、今はまだ魔法を覚えていない。

 肉体を使って殴り合う必要があるのだが──


「アウー」


 全長50センチほど。大きな大根といったアルちゃんでは、ノラ犬獣を殴り倒すのは難しい。


 もっともパーティの誰かが敵を倒せばメンバー全員が経験値をもらえるので、アルちゃんが直接戦う必要はない。

 それでも直接止めをさした者が多く経験値を獲得できるのに加えて、モンスターと戦う経験を積むのも必要だ。


 よって、ここはアルちゃんに戦ってもらう。そして止めを任せる。


「ガウガウッ」


 飛びかかるノラ犬獣。その足だけを狙って俺は剣で切り裂いた。


「キャイーン」


 足を失い地面に倒れ伏したノラ犬獣は、逃げることもできずもがいている。

 少し残酷ではあるがやむをえない。

 後はアルちゃんが止めをするだけだ。


「アルちゃん。ゴー!」


「アッアウ……アウウ……」


 飼い犬は飼い主に似るというが、カモナーに似てアルちゃんも戦闘が苦手のようで、ノラ犬獣への止めを躊躇していた。


 まあ最初だし無理もない。ここは俺が手助けするとしよう。

 俺はアルちゃんの足をつかむと、ノラ犬獣めがけて大根ボディで叩きつけた。


「ギャイーン!」


 よし。サマヨちゃんの骨で敵を倒すのと同じ要領だ。

 アルちゃんをぶつけて敵を倒せば、止めはアルちゃんになる。

 大根ボディに潰されたノラ犬獣は、悲鳴を上げて息絶えた。


「アッギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 そして、アルちゃんもまた絶叫を上げていた。


 ……はっ?! 何が……って、俺は気絶していたのか?

 これがアルちゃんの、マンドラゴラの種族スキル【絶叫】か。

 時間にして一瞬だろうが、勇者の俺ですら気絶するとは。


 絶叫を聞いたノラ犬獣たちは、怯えすくむもの、口から泡を吹いて気絶するものなど、みな一様に動きを止めていた。


 レベル1でこの威力。この先成長するとどうなるのやら、恐ろしいほどだ。


 動きを止めるノラ犬獣にアルちゃんを続けて叩きつける。


「ギャイーン!」

「アッギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 ……はっ?! また気絶していたのか?

 ……これはよろしくない。

 なにせアルちゃんをつかんで叩きつける俺が、一番間近で絶叫を聞かされるのだ。

 毎回これでは俺の耳がもたない上に、毎回気絶したのでは危険すぎる。


 かといって、アルちゃんに絶叫を抑えろというのも難しい。

 アルちゃんの身体で敵を殴るのだから、当然アルちゃんにもダメージが入る。

 痛みに悲鳴を上げるのも無理はない。


 なら……次はアレを試すか。


「アルちゃん。身体はどう? まだいけそう?」


「アウウ……」


 アルちゃんの頭上の葉っぱは、しょんぼりしおれていた。

 【自動再生1】スキルで傷は治るとはいえ、やはり痛いものは痛い。

 身体は無事でも精神的に疲労しているようだ。


「よーしよしよし。アルちゃん。良くやったぞ。感動した」


 ここは褒めてなだめて、アルちゃんのやる気を促すとしよう。


「いやーアルちゃんのおかげで助かったよ。凄いなあ。さすがカモナーの召喚獣だよ」


 誰しも褒められて悪い気はしない。

 俺が褒め上げるにつれて、アルちゃんの頭上の葉っぱも立ち上がりはじめていた。


「アルちゃん。次もいけるかなあ? 俺だけじゃとても無理なんだよなあ」


「アウッ!」


 ピョコピョコその場で飛び跳ねるアルちゃん。行けるようだ。

 その間にノラ犬獣も絶叫の影響から立ち直ったのか、遠巻きに吠え声を上げている。

 俺は元気よく跳ねるアルちゃんの身体をつかみ、頭上に振りかぶる。


「飛べっ! アルちゃんスロー!」


 狙いを定め、群れ中心のノラ犬獣目がけて思い切り投げつける。


「ギャイーン!」

「アッギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 俺の手から放たれたアルちゃんが、ノラ犬獣を直撃する。

 群れの中心に命中したアルちゃんの絶叫により、周囲のノラ犬獣はまとめて気絶していた。


 これは使える。


 サマヨちゃんの骨を投げつける。

 その応用だが、アルちゃんを丸ごと投げつけるため、投げた後もアルちゃんは単独で行動することができる。


 遠距離攻撃のため俺には絶叫が届かないうえ、敵の中心にぶつけることで、多くの敵を絶叫に巻き込むことができる。

 まさに良いことずくめだ。


 そのはずなんだが、倒れたノラ犬獣の近くでアルちゃんもまた倒れたまま動かない。

 どうしたんだろう?

 一向に戻って来ないアルちゃんの身を案じて、その場まで移動する。


「アルちゃん大丈夫?」


「アウ……」


 もう怪我は治っているだろうに、いつまで寝ている。

 あまり甘やかすのもよろしくないが、もう一度褒めてほくとしよう。


「アルちゃん凄いよ! 凶暴なノラ犬獣を一撃で倒すだんて!」


「アウッ!」


 ピョコンと立ち上がるアルちゃん。


「次も行けるかなあ?」


「ア、アウ……」


 とたんにしょんぼりしおれるアルちゃん。

 むう。思ったより精神的ダメージがあるようだ。


 良いことずくめに思えるアルちゃんスローだが、唯一の欠点がある。

 敵のど真ん中に放り込まれるアルちゃん。

 そのアルちゃん自身が一番危険だという点だ。


 嫌がる気持ちも分かるが、ここはなんとか説得する必要がある。

 本番であるゴブリンの集団となれば、今のノラ犬獣なんて比ではない大群。

 そこへ投げ込んでやろうと考えているので、今から慣れてもらわねばならない。


「アルちゃん? カモナーが言っていたよね? 僕の代わりに頑張ってと。そっかあ……アルちゃん、戦いたくないのかあ」


「ア、アウッ?」


「ん? 無理しなくても良いよ? カモナーにはアルちゃんは戦いたくないって伝えるから大丈夫だよ?」


「アウウッ!」


「え? もしかして戦ってくれるの?」


「アウッ! アウッ!」


「ありがとう! さすがアルちゃんだ! カモナーが羨ましいよ! こんな凄いモンスターが使い魔にいるんだもの」


 召喚されたばかり、生まれたばかりのアルちゃんにとって、カモナーは親のようなもの。

 そのカモナーに嫌われる、駄目モンスターだと見捨てられるのは嫌なのだろう。


 とにかくアルちゃんがやる気を出した。その気が変わる前に。

 ここまでくれば、最後はアレを試すしかない。


「行けるか? アルちゃん。勇者の誇る奥義の一つ。勇者シュートだぞ?」


 勇者シュート。

 今は亡き強敵。暗黒オオカミ獣の撃退に使用した必殺技だ。


 元々はサマヨちゃんの頭部を蹴り飛ばして相手にぶつけるという荒業。

 しかし、使用後は頭部を失ったサマヨちゃんが完全に戦力外になるという大きなデメリットから、使い所が難しい技でもある。


 それでも、アルちゃんなら!


「アウッ!」


 来いとでも言うのだろうか。

 胴体の根っこを持ち上げ、俺に向けて手招きするアルちゃん。


「分かった。行くぞ!」


 助走をつけた俺は、アルちゃん目がけて右足を大きく振りかぶる。

 とはいえ、さすがに全力はマズイ。


「おおお! 勇者シュゥトォォォォーーー!」


 遠巻きに見えるノラ犬獣目がけて、少し弱めに右足を振り抜いた。


「アッギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 俺の足元から甲高い絶叫を残して、アルちゃんの身体は一直線にノラ犬獣へと突き進む。


「ギャイーン!」

「アッギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 少し弱めに蹴ったにも関わらず、ノラ犬獣の身体を貫通したアルちゃんは、その先の樹々までをもなぎ倒していた。


 完璧だ……カモナーの奴、凄い課金モンスターを手にいれたな。


 身体の小さいアルちゃんそのものを蹴り飛ばしてボールにすれば、デメリットは完全になくなる。


 遠距離から敵集団の中央。敵リーダーを勇者シュートで狙い打てるのだ。

 絶叫による追加効果付きのうえ、蹴り飛ばしたアルちゃんが歩いて俺の元まで戻ってくれば、無限に勇者シュートを打ち続けられる。


 ゴブリン軍団相手の対抗手段として、これ以上ない戦力アップといえる。


 ……とはいえ、さすがにやりすぎた。


「……ア……アウ」


 いくら自動再生で傷が治るとはいえ、俺の足に蹴られたうえ敵にぶつかるという、勇者スローの比ではないダメージがある。


 不死のサマヨちゃんならともかく、生身のアルちゃん。

 しかも、まだレベルが低いとあっては少々無理があった。


「すまない! アルちゃん。ごめんなさい!」


 アルちゃんの身体は岩にめり込み止まっていた。

 頭上の葉っぱは、すっかりしおれて今にも枯れそうだ。


 ヤバイ。カモナーの課金モンスターを俺が蹴り殺したとか、洒落にならない。

 大慌てで薬草を取り出し、アルちゃんの身体に貼り付ける。


「勇者パワー全開! アルちゃん頑張れ! 死んじゃダメだぞ!」


 そして、勇者パワーでアルちゃんの自動再生を強化。これでどうだ?


「アウウ……」


 ふう。何とか生きているようだ。

 だが、勇者シュートの実践投入は、もう少しレベルを上げてからだな。


「アルちゃん。何か欲しいものあるかな? 頑張ったお礼に何でも言っていいよ」


「アウッアウウッ」


 ふむふむ。何を言っているのかさっぱりだ。

 ここはアルちゃんが欲する物を俺が推測するしかあるまい。


 大根……植物……となれば、肥料か?


「サマヨちゃん。悪いがアルちゃんの傷が癒えるまで周囲を警戒してくれないか?」


 カタカタ


 樹々をかき分けサマヨちゃんは周辺の警戒に向かう。


 俺はスマホからスコップを購入、地面を掘り返していく。

 アルちゃんは植物、大根みたいな外見だ。

 大根なら大根らしく、地面に埋まるほうが落ち着くんじゃないか?


 掘り起こした穴にアルちゃんを埋め、土をかぶせる。

 大根部分はすっかり地面に隠れ、地上に顔を出すのは緑の葉っぱだけ。


 そして──俺はズボンを下ろすと、葉っぱに向けて放水体勢を取った。


 アルちゃんに肥料を与える。

 昔はこれら排出物を肥料に使っていたと聞く。

 もっとも時間をかけて発酵させてからだった気もするが、なんといっても俺の、勇者のものだ。

 直でも大丈夫に違いない。


 しかし、いくら相手が植物型モンスターだといっても、このまま放水しても良いのだろうか?

 アルちゃんは、本当に喜んでくれるのだろうか?


 プレゼントは、自分がもらって嬉しい物を送ると良いという。

 俺は、今のアルちゃんを自分に置き換えて考える。

 地面に埋められ頭だけを地上に出した俺。

 その俺に向けて放水する美少女。


 なんだ、大喜びじゃないか……何も問題ない。


 俺はアルちゃんの葉っぱに向けて放水する。


 ジョボジョボ


 緑の葉っぱ全体にまんべんなくかかるよう、腰を動かして丹念に放水する。

 その甲斐あってか、アルちゃんの葉っぱは水気を含んで生き生きとしてきた。


 よしよし。アルちゃんもきっと喜んでいるだろう。

 もっと褒美をあげたいところだが、今はこれ以上の放水は不可能だ。


 どうする? 大きいほうにするか?

 いや、いくら勇者といえど、いくら相手が美少女であっても大は勘弁してもらいたい。

 俺にそのような下品な趣味はない。

 そもそも美少女は大なんて排出しないしな。やめておこう。


 となると他には……たんぱく質を豊富に含むものならどうだ?

 栄養価が高いということは、肥料としての効果も高いのではないか?


 これもアルちゃんのためだ。

 俺はズボンを下ろしたまま、昨晩のリオンさんを思い起こしながら右手を動かしていく。


 森の中、ひとり地面の葉っぱに向けて右手を動かす俺の姿は、傍から見ればおかしく見えるかもしれない。

 だが、そんなことは関係ない。

 勇者シュートに耐えた。

 身体を張って頑張ったアルちゃんへの恩返しのためには、俺も身体を張って頑張らねばならない。


「ううっ」


 ビュッビュッ


 放たれた体液が、アルちゃんの葉っぱへと注がれる。

 ふう。記憶が鮮明なだけに到達も早い。

 森の中、自然の中でおのれを解放するというのも良いものだ。


 地中に埋まるアルちゃんは、注がれる体液に反応してか葉っぱをゴソゴソ動かしていた。

 よしよし。アルちゃんも喜んでいるな。


 なんといっても、アルちゃんはカモナーから預かった大事な課金モンスター。

 大切に扱わねばならない。

 これからも折を見て肥料を与えることにしよう。


 何よりこの開放感。これは癖になる。


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