31.宿屋
100/7/12(火)18:30 ファーの街 野盗アジト
俺を、カモナーを襲ったリオンさんとの取引が成立した。
スマホとゴールドの没収。そして一晩俺に付き合うこと。
それ以降はリオンさんを自由にするという条件だ。
その懐からスマホを没収する。
「ちょっと! そんなところ触る必要ないですわよね?」
「すまない。胸ポケットにスマホがあると思っただけだ。悪気はない」
ふう。柔らかくて良い匂いだわあ。
リオンさんの警戒をサマヨちゃんに任せて、俺は気絶したカモナーを背負い地上へと戻った。
延焼する建物の火はすでに消し止められていた。
瓦礫の傍らで大人しく鎮座するグリさん。
その周りを兵士がおっかなびっくり警戒していた。
「あっ! ユウシャさん。無事でしたか? 消化に手間取りましたが今から兵士が地下へ突入しようとしていたところです。どうなっています?」
「お姉さん。カモナーは無事です。そして、もう1人女性を救助しました。この地下は野盗のアジト。誘拐犯人は野盗です!」
俺は駆け寄るお姉さんにそう説明する。
実際はリオンさんが今回の黒幕だが、ここで引き渡すわけにはいかない。
死人に口なし。罪は全て野盗になすりつける。
そしてグリさんの元へ。
真っ先に報告するべき相手の所へカモナーを連れていく。
「おっおい。お前。危ないぞ。近寄るんじゃない」
兵士だろう。グリフォンへ近づく俺を止めようと声をかける。
俺の姿を、背負ったカモナーの姿を見たグリさんが、伏せていた巨体を起こして動き始めたからだ。
「大丈夫だ」
俺を噛みつかんばかりの勢いで頭を寄せるグリさん。
「グルルッ! グルルッ!」
気絶したまま目を覚まさないカモナー。
その頬を舐めていた。
「グリさん。カモナーの救出。約束は守った」
これでグリさんに貸し一つというわけだ。
SSRモンスター。伝説級のモンスターに貸しを作れる機会などそうはない。
のちほど有効に活用させてもらうとしよう。
「ほあー。あの猛獣があんなに人懐っこい姿を見せるとはなあ。お前凄いな」
周囲の兵士は、驚いたように俺たちの姿を見ていた。
あれだけ暴れたグリフォンが俺の前では、正確にはカモナーの前ではだが、子犬のように尻尾を振っているのだ。
「いや、俺はいたって普通だ。何も凄くはない」
実際、俺の力ではないので正直に答える。
「ほあー。あれほどの猛獣を従えながら驕り高ぶらない。なんて謙虚な男だ……」
グリさんにカモナーの無事を伝える俺の元へ、さらなる説明を求めてお姉さんがやって来た。
「ユウシャさん。この建物が野盗のアジトですって?」
「はい。地下に街の外へ通じる通路があります。野盗はそこから街へ出入りしているようです」
「なんてこと! そちらの女性は大丈夫なの? 怪我はしていない?」
俺たちの後ろで、グリさんに近づかないよう離れて立つリオンさんにお姉さんが目を向ける。
「はい。大丈夫です。ですが、カモナーも女性も疲れているようなので休ませてあげたいと思います」
お姉さんは妙に鋭い時があるので要注意だ。
2人を接触させないよう俺が答える。
「分かりました。後は私たちに任せてカモナーちゃんと女性を休ませてあげて」
勇敢なことにお姉さんも兵士たちと一緒に地下へ突入するようだ。
もっとも地下に残るのは野盗の死体だけ。危険はない。
「お願いします」
街と外とをつなぐ野盗の地下通路。
上手くいけば野盗のアジトを突き止められるかもしれない。
リオンさんの手引きがあったとはいえ、俺たちに手を出したのだ
いずれ野盗にもお灸をすえる必要がある。
だが、ここでの勇者の仕事は終わった。
他者に活躍の場を与えるのも、上に立つ者の仕事。
地味な調査は兵士に任せるとしよう。
「マジかよ。どうりで街中に野盗が出没するはずだ」
「その出入り口を見つけるとは。あの男、大金星だぜ」
「グリフォンは野盗を襲っていたのか? 悪い猛獣じゃないのか?」
「そのグリフォンを従える。凄い男だがいったい誰だ?」
やれやれ。有名になるのも困りものなんだがな。
誰だと問われれば答えざるをえない。
「俺の名前はユウシャ。ブレイブ・ハーツのリーダーだ。ブレイブ・ハーツは最強を目指すクラン。いつでも勇気ある女性の加入を歓迎する!」
注目を集めるなら丁度良い。
せっかくだしクランの宣伝をしておくとしよう。
「マジかよ。女性だけを募集するとは」
「堂々とハーレム宣言するとは、なかなかできることじゃないぜ」
「あんな下心丸出しでは、誰も集まらないんじゃないか?」
「凄い男だと思ったが気のせいだった」
ところが現実には着々とハーレムメンバーが集まりつつある。
雑魚の嫉妬が心地よい。
その後、カモナーの元を離れようとしないグリさんをなんとか説得。
森へと帰らせ、俺たちは宿屋に向かった。
100/7/12(火)19:00 ファーの街 宿屋
「それで、なんで私と貴方が同じ部屋ですの? カモちゃんの側にいたほうが良いんじゃなくて?」
「カモナーにはサマヨちゃんが着いている。今、目を離してはならないのはリオンさん、君だ。また悪だくみをされても困るからな」
宿屋で確保した部屋は2つ。
1部屋では、サマヨちゃんを護衛に気絶したカモナーを休ませている。
そして、もう1部屋は俺とリオンさん。
「まあ。良いですわ。貴方のゲスな考えは分かっていますもの。ですが、一つだけお願いがありますわ」
「なんだ?」
うつむき頬を染めてリオンさんがお願いする。
「……その、私は初めてですの。せめて初めては綺麗な身体で、お互いお風呂で汗を流してからにして欲しいの……」
破壊力は抜群だ。
「分かった。リオンさんが先に入るか? それとも一緒に入るか?」
「ここは殿方から……ゲイムさんからお先に。あ、逃げるなんてしませんわ。スマホもゴールドも全て没収された私に行き先なんて……私が頼れるのはゲイムさんだけですもの……」
そう言って俺の胸に指をはわせるリオンさん。
いつの間にか好感度が上がっていたようで、すっかり俺にメロメロの様子。
敵であっても魅了する。
勇者の、自分の魅力が恐ろしい。
「分かった。それでは先に入らせてもらうとしよう」
できれば一緒に入りたかったが、まあ良い。
夜は長い。焦る必要はない。
脱衣室で全裸になり、俺は浴槽へと身を沈める。
ザブーン
ふう。少し緊張してきたぞ。
あのような美人となんて、俺の人生に二度とないかもしれない。
綺麗に洗っておかないとな。
……だが、その前に。
ガラガラッ
俺はお風呂のドアを開けて、勢いよく脱衣室へと突入する。
「きゃっ! な、なんですの!」
脱衣室にはリオンさんがいた。
そして、その手に俺の服を握っている。
「リオンさんこそ何をしている? 俺の服を手にしているようだが?」
「こ、これは……あれですわ。あ、貴方の服が気になって。ほら。気になる人の服とか興味を持つものでしょう?」
必死に言葉をつむぐ間も、俺の服を探る手は止まらず動いていた。
「ほう。俺の服が気になるか。そこまで言うなら仕方がない。俺の脱ぎたてパンツを君にあげよう。匂いを嗅ぐといい」
俺は脱衣籠に残されたパンツを手に取り、リオンさんへと突きつける。
「なっ、なんで私がこんな汚らわしい物を!」
「んん? 汚らわしい? 俺の服が気になるんじゃなかったのか? 俺に遠慮せずここで匂いを嗅いでいってもよいぞ」
そのままリオンさんの顔へと押し付ける。
「ふっ! ふがっ! ふがっーーー! おやめなさい! この変態!」
暴れるリオンさん。
あろうことか俺の脱ぎたてパンツをむしり取り、床へと叩きつけていた。
「……リオンさん。君の狙いは俺のスマホだろう?」
「ス、スマホ? なんのことかしら? でも貴方のスマホ。どこにあるのかしら?」
しらじらしく目を反らしてとぼけても無駄だ。
お風呂と聞いた時点で、俺にはリオンさんの狙いは分かっていた。
「地球の常識で考えれば、スマホを持って風呂に入る奴はいない。壊れるからな。俺が風呂に入る隙にスマホを奪う。それが狙いか?」
俺も過去に同じ手でカモナーのスマホを狙ったからだ。
「ま、まさかですわ。言い掛かりも甚だしいですわよ」
「そうか? 俺のスマホも、リオンさんのスマホも、どちらもサマヨちゃんに渡してある。スマホを狙うならサマヨちゃんを倒すことだ。もっとも君が魔王に勝てるならだが」
「ぐぬぬ……卑怯ですわ!」
卑怯なのはお互い様だ。
だが、それが良い。
相手が卑怯であれば、俺も遠慮なくやれるというもの。
「わざわざ脱衣室まで来たんだ。そんなに俺と一緒に入りたかったのか? 遠慮は必要ない。一緒に入るとしよう」
リオンさんの腕を取り、そのまま風呂場へと引っ張り込む。
「やっ! やめなさい。やめて。駄目ですわ。このっ!」
ザブーン
2度目はないと言ったにも関わらずスマホを狙うリオンさん。
これはキツイお仕置きが必要だ。足腰が立たなくなるまで。
何より、着衣のままというのも興奮するものだ。




