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21.ブレイブ・ハーツ


 ギルドで武器を振り回して暴れるヨッパー。


 酔えば粗暴になるとは聞いていたが、あまりにヒドイ。

 俺が手をくだすまでもなく、コイツの人生は終了した。


 ギルドの治安を守るのはギルドの仕事。

 後はギルドに任せて、俺は騒ぎが治まるまで、カウンターの下に隠れるだけで良い。


「そこまでにして」


 暴風のように大剣を振り回すヨッパーに1人の女性が近づいていた。


「おお? そこかあ? 死ねえ!」


 どこをどう見れば、俺と女性を見間違えるのだろう。

 酔っぱらいの考えは分からないが、ともかくヨッパーは近づく女性に斬りかかっていた。


 瞬間、一筋の閃光が走る。


 振りかぶる大剣を斬り降ろすより早く、女性は鞘でヨッパーを一閃していた。


 閃光から遅れてヨッパーの身体が崩れ落ちる。

 女性は、鞘の一撃でヨッパーを昏倒させていた。


 早い。そして強い。明らかにヨッパーより格上だ。誰だ?


「マジかよ。あの女は」

「凄い女性が現れた」

「あれ、閃光のチェーンじゃね?」

「ああ。有名人だぜ」

「やるわね。私でも敵わないわ」


 閃光のチェーン。有名人で敵わないらしい。


(誰ですか? あの女性、強いですけど)


 なぜか俺と同じカウンターの下に避難していたお姉さんに問いかける。


(閃光のチェーン。Aランク冒険者よ。剣速の早さが有名で、閃光の2つ名を持つわ。この街1番の冒険者。カモナーちゃんを紹介しようと思ってたクラン ライトニングのリーダーよ)


 女性冒険者がギルドのナンバー1とは、いかにも異世界らしくて良い。

 しかも、美しいとくればなおさらだ。

 俺はカウンターの下から這い出ると、チェーンに握手を求めてみる。


「ありがとう。頭のおかしい男に絡まれて困っていたのだ。礼を言う」


「貴方。わざと挑発していた。相手の自滅。それが狙い?」


 チェーンは冷えたような目で俺を見据えたまま、俺の手を取ろうともしない。


「あの男が勝手に暴れただけだ。そういえば、あのヨッパーはどこかクランに所属しているのか?」


 後半は、同じく這い出そうとしているお姉さんへの質問だ。


「ええ。ほとんどの冒険者はクランに所属しているもの。ヨッパーはクラン ドランク野郎Cチームの所属ね」


 昏倒するヨッパーを、ギルドの職員だろう男たちが表に引きずって行く。

 牢屋にでも放り込むのだろう。


「俺はヨッパーにあらぬ因縁を吹っ掛けられて、危うく殺されるところだった。クランに損害を請求することはできるか?」


「ユウシャさん。あなたクランを、ドランク野郎を敵にまわすつもり?」


「敵にまわすも何も当然の請求だ。ついでに言うなら、払わないならドランク野郎の方こそ俺のクランを敵にまわすつもりか? と問いたいところだ」


 沈黙していたチェーンが俺に問いかける。


「貴方。クランに所属しているの? 何処?」


 クラン名か。考えてなかったな。


(クラン名ですが、ユウシャ・ハーレムとか大丈夫ですか? 登録できます?)


 お姉さんの耳元へささやくように聞いてみる。


(ちょっと! そんな名称のクランにカモナーちゃんを誘うつもりなの?)


 まあ、半分は冗談だ。


「……ブレイブ。俺の所属するクランは、ブレイブ・ハーツ。リーダーは俺だ」


「勇気の心。良い名前。勇気があるなら、私からの挑戦を受けて」


 この女も俺の魔法バッグを狙っているのか。

 だが、ギルドナンバー1の冒険者からの挑戦。

 ラッキーといえば、ラッキーだ。

 新人の俺が、いきなりチャンピオンと戦える。

 普通はありえないだろう。


 この女を倒せば、名実ともに俺がギルドのナンバー1。

 もはや、誰も俺のクランに手出しできない。


 唯一の問題は、俺がこの女に勝てるかどうかだ。


「チェーンさん。ちょっとばっか待ってくれんか?」


 思案する俺の前に男が立ちはだかっていた。

 男の身長は2メートル近く。肩幅もありいかにも力がありそうに見える。


「ユウシャさんとやらよお。俺はクラン ドランク野郎Cチームのリーダーで、ドランクっつーもんだ。まずはヨッパーの無礼を詫びさせてもらおうか」


 そう言って俺に頭をさげるドランク。

 見かけによらず、なかなか礼儀正しいじゃないか。


「頭を上げてくれないか? お詫びは言葉ではなく金銭でするものだ」


 礼儀を守る相手には、俺も礼儀を尽くして対応する。

 暴力に頼るのは3流のやることだ。


「ヨッパーは馬鹿だ。だが、おめえの態度もいただけねえなあ。おめえヨッパーを挑発していたろ? なら、俺らが、ドランク野郎Cチームがおめえの挑発に乗ってやろうじゃねえか。クラン戦だ」


「ほう」


 分からない言葉がでた。困った時はお姉さん頼みでいこう。


(お姉さん。クラン戦って何ですかね?)


 お姉さんの背後にまわると、髪をなでるように問いかける。


(クランメンバー同士が、5対5で戦うクランの総力戦よ。年に1回、ギルド主催で全国大会も開催されている由緒正しい決闘よ)


 頭を振って俺の手をすりぬけたお姉さんが答える。

 甲子園みたいなものか。もっとも命がけではあるが。


(それって、勝ち抜き戦ですか? それとも星取りですか?)


(基本的には星取りよ。1人1戦。5人で5戦して最終的に勝数の多いクランが勝利よ)


 勝ち抜き戦なら俺1人でドランク野郎を叩きのめすのだが、星取りなら俺1人がいくら最強でも勝負には勝てない。困った。


「ドランクと言ったか? 面白い提案だ。が、クラン戦をするには、俺のクランはメンバーが足りない」


「けっ。たかが5人すら集められねえのかよ。とんだお笑いクランじゃねえか」


 ドッハハハ


「そりゃ無理ないっすよ。こんな奴のクラン、俺も入りたくないっすもん」


 ドランクのあざけりにあわせて、周囲の男女もあわせて嘲笑する。

 こいつらも同じクランの連中か?

 勇者に対する侮辱は、万死に値するというのに。


「ブレイブ・ハーツは真に勇気ある者だけが所属できる。元からお前ら雑魚には無縁のクランだ。なんなら2対2の勝ち抜き戦でどうだ? もっとも数に頼るしかない腰抜けでは無理か?」


 お姉さんは、基本的には星取りだと言った。

 なら、お互いが了承すれば、人数や対戦形式は変更できるのだろう。


「へっ。おもしれえ。おい。ラーイ。おめえも参加しろ。2人でヨッパーの敵討ちといこうじゃねえか」


「へっへっへっ。ボスありがとうございやす。おい! おめえ。クラン戦ってなあ。よく事故があるんだよ。死ぬってえ事故がよお。降参とかゆるさないぜえ」


 ラーイ。声だけ大きければ良いというものではない。

 腰に剣を履いてはいるが、ドランクどころか、ヨッパーよりも弱そうに感じる。


 ちょうど良い。

 ヨッパー程度の力量であれば、2人が相手でも俺1人で勝ち抜ける。

 ブレイブ・ハーツのお披露目にぴったりのカモだ。


 今、まさに発足したばかりのクラン。ブレイブ・ハーツ。

 もちろん俺以外のメンバーは誰も居ない。

 だが、すでに2人目のメンバーは決まっている。


「ならブレイブ・ハーツからは、俺と……カモナーの2人が参加だ」


「ふえ? ふええええ!」


 周囲のギャラリーと一緒にのんびり成り行きを見守っていたカモナー。

 突然自分の名前が出たことで、妙な声を上げている。


「ちょっ。ユ、ユウシャさん。な、なんで? 僕は戦うとか駄目だよぉ」


 衆目の前でカモナーが俺のクラン所属であることを宣言する。

 これで他のクランは、カモナーを勧誘することはできなくなった。


 もっともカモナーは、俺のクランのメンバーではない。

 そして、加入するとの約束もない。

 が、問題ない。これから説得すれば良いだけだ。


 泣き言を述べるカモナーの肩をとり、小声で話しかける。


(カモナーすまない。巻き込んですまない。だが、俺が異世界で頼れるのは同じプレイヤーのカモナーしか居ない。何とかお願いできないだろうか?)


(あうう。で、でもでも、僕は無理だよぉ)


(大丈夫だ。2対2の勝ち抜き戦。俺が先鋒で2人とも倒す。カモナーが戦うことは100%ありえない。お前は名前だけ貸してくれれば大丈夫だ)


(ふええ。でもでもぉ……)


(頼む。カモナー。お願いだ。俺にはカモナーしかいない。なんでもするから、お願いします)


 カモナーが後ろの穴を舐めろというなら、俺は喜んで舐める。

 だが、その必要はないだろう。


 周囲のギャラリーは、すでに俺たちとドランク野郎。

 どちらのクランが勝つのか。その話題で持ちきりだ。


「マジかよ。あの少年もブレイブ・ハーツか」

「凄いメンバーが現れた」

「こりゃ見ものじゃね?」

「ランクアップ新記録の少年の実力。楽しみだぜ」

「2対2といっても、これは見ものね」


 周囲の盛り上がりが、カモナーのクラン入りを後押しする。

 この盛り上がりに水を差す。

 そんな図太い神経を持った奴は、そうはいない。


 そして、さらにもうひと押し。


(すまない。俺がカモナーに初めて会ったあの夜。ヨッパーに絡まれなければ、1万ゴールドを渡さなければ、こんな事にはならなかったのに。すまない)


(あうう。あ、あれは僕がよそ見をしていたのをユウシャさんが……)


 カモナーは悪い奴ではない。

 抜けた奴ではあるが、優しい奴だ。

 なら、その優しさにつけこむのが常道というもの。


(やはり俺のトラブルにカモナーを巻き込むわけにはいかない。こうなれば、俺の全財産を渡して土下座をするしかないか……くっ……チラッ)


 肩を落として地面を見ながら、俺は諦めたようにつぶやいた。


(ううぅ……ぼ、僕も)


 頑張れカモナー。あと一声!

 早く困っている勇者を助けるんだ。


 だが、あと一息というところで邪魔ものが割り込んでいた。


(ちょっと! ユウシャさん。なにカモナーちゃんを巻き込もうとしているの。カモナーちゃんやめなさい。こんな男の言うことを真に受けて道を誤っては、ひぃえあっ?!)


 余計な真似を。

 無理矢理入り込もうとするお姉さんのお尻をつかんで、脇へと押し退ける。

 なら、正攻法でダメ押しだ。


(カモナー。俺はカモナーに会えて嬉しかったんだ。右も左も何も分からない異世界。そこで初めて同郷のカモナーに会えた。だから、同じ冒険者として、同じクランで、お前と一緒にこの異世界を歩いて行きたい。だから、カモナーの力を貸してくれ!)


 俺の言葉で顔を上げるカモナー。


「ブレイブ・ハーツの2人目は、僕が、カモナーが務めます」


 これで決定だ。

 最後にものをいうのは、やはり勇者の人徳。


 俺の差し出す右手をガッチリ握り返すカモナー。

 そこに、今までのオドオドした雰囲気はない。


 勇者のクラン ブレイブ・ハーツ。

 その門出となるクラン戦を、2人の盛大な勝利で祝うとしよう。


 しかし、カモナーには今後、詐欺や押し売りに騙されないよう指導が必要だ。


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