2.初戦闘
扉の先には熱気が充満していた。
地面に突き刺さる光は、真夏の日差しそのものだ。
ただ、森の中ということもあって外気温はあるが直射日光に当たらなければどうということはない。
樹木が生い茂り見通しの悪い森。
普通なら遭難の恐れもあるが、今の俺にはスマホのオートマップがある。
適当に探索しながらマップを埋めていくとしよう。
小屋を離れ木々をかきわけ先へ進む。
ペタペタペタ
カタカタカタ
足の裏が痛い。
何せ裸足だ。
しかも早くも枝で足の裏を切ってしまっている。
靴も履かずに森を探索するのは無理がある。
ついでにいうなら、Tシャツにトランクスというのも無理がある。
このままでは俺の冒険が終わってしまう。
靴か……そういえばスマホにアイテム購入というメニューがあったな。
あの時は所持金が0ゴールドのため何も購入できなかった。
だが、今の俺には箪笥をあさって手に入れた1000ゴールドがある。
これでなんとかならないものか?
試しに1000ゴールドと書かれた硬貨をスマホに近づけると、硬貨がスマホの画面へと飲み込まれていった。
やったか?
所持金:1000ゴールド
やった!
さっそくアイテム購入だ。
普通の靴:1000ゴールド
購入!
スマホの画面から伸びた光が空中に靴の軌跡を描くと、ガイコツの時と同じように靴が現れた。
どういう仕組みかは分からないが、便利なものだ。
このスマホを有効に活用できれば、異世界といえど俺の敵ではなさそうだ。
現れた靴を履きしめ森の探索を再開する。
ザクザクザク
カタカタカタ
良い調子だ。
このまま小屋から北へ。
何かめぼしいものがないか探索してみるとしよう。
そして木々をかきわけた先で、一頭の獣が地面に生えた果物らしき物を食べている場面にでくわした。
片手をあげて後ろを歩くサマヨちゃんを制止させる。
相手は食事に夢中でこちらに気づいていない。
獣の大きさは大型犬くらいだろうか。
四肢は短く全身毛皮で覆われており、ブタかイノシシのような体系をしている。
これはチャンスだ。
小屋に食糧はない。
森で食糧を得なければ餓え死にが待つだけだ。
それにゲームに似た異世界というなら、モンスターを倒してレベルアップする可能性が高い。
この獣をやる。
相手は一頭。こちはら二人。しかもそのうちの一人は勇者である俺だ。
さらに不意打ちともなれば負ける確率は0。
「相手が気づいていないうちに俺が背後から急襲する。その後でサマヨちゃんも続いてくれ」
カタカタ
サマヨちゃんはガイコツだからか、静かに歩くということが苦手のようだ。
なので、まずは俺が一人で先行する。
足音を忍ばせ獣に向けて一歩一歩近づく。
獣まであと少しというところで、気配に気づいたのか獣は食事を止めて周囲をキョロキョロ探りはじめた。
ちっ。だが、真後ろにいる俺にはまだ気づいていないな。
一気に助走をつけた俺は、獣の腹めがけてサッカーボールキックを繰り出す。
ドカァッッ!
「ブモォッ」
手応えならぬ足応えあり。
「サマヨちゃん! 加勢してくれ!」
毛皮に覆われた身体は柔らかく固い。たいしたダメージになっていない。
仕留めるにはサマヨちゃんの棍棒が必要だ。
それまで獣を逃がすわけにはいかない。
衝撃から立ち直りつつある獣に追いすがり、追撃の勇者キックで動きを止めにかかる。
ドスッ
「ブフー」
浅い。足の裏で獣の横腹あたりを蹴とばすが、毛皮に吸い込まれる感覚だけが足に返ってくる。
俺へと向き直った獣の口元には、下顎から短いながらも牙が突き出ている。
イノシシ獣といった風貌だな。あの牙で突かれるとヤバイぞ。
だが、あの牙なら噛みつきはなさそうだ。体当たりに警戒すればいける。
俺は獣の近くに張り付いたまま、円を描くように周囲を旋回する。
後ろへ回り込み続ける俺の動きを追おうと、その場でグルグル向きを変える獣。
近くまで到着したサマヨちゃんには全くの無警戒だ。
「サマヨちゃん。決めてくれ」
サマヨちゃんは右手に構えた棍棒を振り上げ、獣の背中めがけて振り下ろす。
ドガーン!
「ブモオッ」
サマヨちゃんの棍棒はとっさに身体をひるがえした獣の側面をかすめ、地面を激しく打ちすえていた。
不意をついたにも関わらず、サマヨちゃんの攻撃速度が遅い。
棍棒の重さもあるのだろうが、ガイコツに機敏な動きは難しいということか。
それでも棍棒がかすめたことで獣は動きを鈍らせている。
なら、サマヨちゃんが攻撃を外さないよう俺がフォローすれば良い。
「おおお! 勇者チャージ!」
盾を前面にかまえた突撃。
サマヨちゃんに向き直ろうとした獣の横っ面に木の盾ごとぶち当たる。
ガガーン!
盾ごしにも関わらず俺の肩に凄い衝撃が返ってくる。
ということは、勇者チャージを受けた獣にも大きな衝撃があるということだ。
激しく頭を叩かれ目を回すイノシシ獣。
「今だ! サマヨちゃん。バレエの動きだ!」
動きの止まった獣に対して、サマヨちゃんが再び棍棒を振り上げる。
そして、両手で棍棒を掴むと一気に振り下ろした。
ドガガーン!
やったか!?
サマヨちゃんの棍棒は見事に獣の背骨に叩きこまれ、そのまま地面に獣を張り付かせていた。
「ブゥモォォブォ」
「やったな! サマヨちゃん!」
重い棍棒も両手で振り回せば、片手の時より威力も速度もでるということか。
しかし、俺のアドバイスは全然関係なかったな。何だよ、バレエの動きって。
「ブモォォ……」
悲しげな咆哮を上げるイノシシ獣。
棍棒の直撃を背中に食らってなお、まだ息をしている。
とはいえ、もはや動くだけの力は残っていない。
このまま時間の経過とともに息絶えるだろう。
「サマヨちゃん。棍棒を貸してくれ」
確かに棍棒は勇者の武器ではない。
そして悲しげに鳴く獣を打ちのめすのは心が痛む。
だが、勇者たるもの、勇気をふりしぼってやらねばならない時がある。
俺は棍棒を両手に握りしめると、イノシシ獣の脳天へ全力で叩きこむ。
ドガーンッッッ!
せめて一刻も早く楽にさせる。
それが勇者の情けというものだ。
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……よし。