16.冒険者登録
俺の目の前には、カモナーのスマホ、そしてパンティがある。
なぜこのような物が?!
これは女性が履くべきもので男が履くのは非常にマズイ。
社会的に抹殺されかねない。
まさかカモナーにそのような性癖が……
いや、もしかして?
カモナーのスマホをタッチしてステータスを表示する。
名前:カモナー・アンドウ
種族:人間
称号:美少女
職業:サモナー2
レベル:6
HP:150
MP:45
攻撃:15
防御:15
敏捷:20
魔法攻撃:15
魔法防御:10
ポイント:1
主力スキル:【召喚2】
魔法スキル:【水魔法1】
他スキル :【調合1】【植物知識3】【お菓子作成1】
称号:美少女
美少女。周囲からの反応にプラス補正。
職業:サモナー2
LV上限60。
モンスターを主力に戦う職業。
MPに上昇補正。
【召喚2】
モンスターを召喚する(課金モンスターとは別扱い)
召喚2は同時に2体まで召喚可能。
召喚中はMPを消費する。
【水魔法1】
水系統の魔法を習得、行使する。
【調合1】
薬を作成する。
主な材料は、植物、鉱物など。
材料によって、完成する薬の種類が異なる。
【お菓子作成1】
お菓子を作成する。
材料によって、完成するお菓子の種類が異なる。
スキル【召喚】で召喚するモンスターと、ガチャの課金モンスターは別扱い。
ということは、グリちゃんが居なくとも、カモナーは別のモンスターを召喚して身を護れるわけか。
その代わりMPが切れると召喚モンスターは居なくなる。使い捨てだ。
本人は知らないのか? 知らないのだろうな。
と、それよりも大事なのは──
称号:美少女
称号:美少女
称号:美少女
なんてことだ……俺としたことが今の今まで気づかないとは。
考えてみればありえた話だ。
あの年代の男女は区別がつきにくい。
それにもましてモンスターや野盗の溢れる異世界。
仮に俺が美少女でも男装する。
犯されたくない。
カモナー。見かけによらず侮れない奴。
まさか勇者の目を欺くとはな。
だが、カモナーが美少女だというなら話は別だ。
異世界の勇者には、ハーレムが必須だと俺は書物から学んだ。
俺はハーレムなど汚らわしいものに全く興味はないが、勇者の偉大な子種を残すのもまた、勇者の義務である。
そして、ハーレムパーティに加えるなら、少々頭が抜けている方が都合は良い。
まさにカモナーは、うってつけと言えよう。
俺はスマホをカモナーの服へと戻す。
命拾いしたな。
ハーレムパーティに加えるのにスマホも持たない雑魚では困る。
100/7/10(日)9:00
【所持金】2万2000ゴールド
翌朝、俺とサマヨちゃん、カモナーは冒険者ギルドを目指して宿を出発する。
場所は宿屋の人に聞いたので問題ない。
街の中央にそびえる一際大きな屋敷。
その手前にある3階建ての建物が冒険者ギルドだ。
「ゲイムさん。冒険者ギルドですよ。とうとう来ましたあ」
「ああ。ラノベファンタジーの定番、冒険者ギルドだ」
「ドキドキするなぁ。これ、僕なんて絶対に絡まれる気がするよぉ」
「まあそうかもしれない。だが安心しろ。勇者が一緒なんだ。大船に乗ったつもりでいれば良い」
カモナーを励ますように肩を組む。
ふむ。確かに男と違って身体が柔らかい。
「ちょぉ?! 昨日と違って今日はなんでこんなにベタベタするのぉ?」
「ん? それはそうだ。俺たちは同じ宿のご飯を食べて同じ宿屋で寝た間柄だ。親しくなって当然だろう?」
「う、うん。そうなんだけど……なんか、手つきが嫌だなぁ」
「それより入ろう。入口に立っていたんじゃ邪魔になる」
冒険者ギルド。そのドアを開けて中に入る。
レンガ造りの建物。その内部は、思ったより小奇麗でスッキリしていた。
正面に受付カウンター。
左手は依頼を調べる場所だろう。掲示板に様々な用紙が張られている。
右手にもカウンター。こちらは素材の買い取りやアイテムの販売スペースか?
大きな荷物をカウンターに広げて、何やらやり取りをしている。
俺たちは冒険者登録からだ。正面カウンターへと向かう。
サマヨちゃんは課金モンスター、使い魔だから登録は無理だ。
離れた壁際で待っていてもらおう。
ギルドには、30名ほどの冒険者がいる。
モンスター相手の荒っぽい仕事にも関わらず、女性も多い。
レベルやスキル、魔法のある世界。
レベルが高ければ性別関係なく強い。そういうことだろう。
そして、カモナーのような少年、少女もちらほら見受ける。
成人として働きに出る年齢が低いのだろう。
ということは、結婚できる年齢も低いはず。
しかし、あのような幼い幼女も冒険者なのか?
いずれはパーティを組んで護ってやらねばな。
だが、今の俺には異世界の常識がない。
幼女にまでゲイムさん、そんな事も知らないのですか? 常識ですよね? とか真顔で言われたら勇者のプライドは粉々だ。
今はカモナーと組んで、カモナーを隠れ蓑にして常識を学んでいく。
「思ったより若い人が多いな」
「だよぉ。僕と似た年代の子も多いよね。これなら僕も目立たないよ」
それはそれでツマラン。
カモナーが絡まれたところを颯爽と解決。
好感度うなぎ登りのチャンスはなくなったわけだ。
それにしても……使い魔を連れた冒険者は誰もいない。
やはりモンスターを使い魔にするのは難しいのだろう。
サマヨちゃんを村娘にしておいて良かった。
使い魔の首輪をしているが、その上からフードを被っているので普段は見えない。
冒険者として何も実績を上げていない今。
使い魔を連れている。それだけで目立っても仕方がない。
勇者は称賛されるべき存在だが、それはしっかり実績を上げてからの話だ。
勇者はただの飾りじゃない。
そうこうするうちに俺の受付の順番がやってきた。
「すみません。冒険者の登録をお願いします」
受付に座るのは美人のお姉さん。さすがは冒険者ギルドだ。
「はい。登録に1万ゴールド必要ですが、よろしいですか?」
「はい」
登録料が必要なのは宿屋の人に聞いている。問題ない。
「それでは、こちらの用紙に記入してください」
「はい。あの、後ろの子も一緒に登録に来たので、一緒に手続きしてもらうとか、できますか?」
「そうなの。仲良しでいいわね。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。カモナー。一緒に手続きしてもらおう」
「う、うん。あの、よろしくお願いします」
「まあ。可愛い子ね。それじゃ、君もこの用紙に記入してね」
む? カモナーと俺の扱いが違わないか?
ショタか? やはり若い方が良いのか?
まあ良い。記入していくか。
名前:ゲイム・オタク
種族:人間
年齢:23歳
性別:男
職業:勇者
これでよし。
「あの……お姉さん。これって、その、嘘とか書いたらどうなるのかなぁ?」
カモナーいきなり何を……ああ、性別か。
男装しているのに女性と書いたんでは意味がないよな。
「あら? もちろん駄目よ。嘘だってバレたらギルド首になるわよ」
「うう……そうですよねぇ」
「と言っても、内容しだいね。名前と年齢なんて自己申告でしかないもの。嘘を書いても誰にも分からないわよ。でも、その他の情報は駄目よ。どうするの? 記入できないなら登録できないわよ」
「うう……書きますぅ。あ、ゲイムさんは見ちゃ駄目です。個人情報保護法に違反です」
「難しい言葉を知っているな。だが違反するというなら見ない。勇者は法律を遵守するものだ」
知らない方が俺にも都合が良い。
男同士なら身体をさわろうが何しようが、セクハラではない。
いや、セクハラなのか?
まあ、それでも弱みのあるカモナーは文句を言えないだろう。
俺たちは記入した用紙を提出する。
「はい。あら? あらあらあ? ははあ。そういうことね……でも冒険者としてやっていくなら隠せないわよ。嘘の情報でパーティメンバーを集めたりしたら大変なことになるもの。カモナーちゃんにも分かるでしょう?」
「ううぅ……はい」
男が女を偽って女性メンバーを集める。
同じ女性同士だと思って集まった女性メンバーを……まあトラブルの元だわな。
「それはそれとして……ゲイムさん? 貴方の職業の勇者というのは何でしょうか?」
おっと。早くも見つかってしまったか。
やれやれ。今は目立ちたくないのだがバレタとあっては仕方がない。
「勇者です」
「えーと……ギルドに存在しない職業なのですが」
!?
「……あの、勇者が存在しないって、冗談ですよね?」
「冗談でこんなこと言わないわ」
お姉さんの目はマジである。
「勇者とは、勇気ある者。悪に敢然と立ち向かう伝説のヒーローです。そして、俺が勇者です」
「……あの。ゲイムさん? あなたってもう23歳ですよね? おとぎ話は卒業する年だと思うのだけど」
「いえ。私も冗談でこんなことは言いません」
お姉さんの目がますますマジになっている。
いや、本当に冗談ではないのだが、質の悪い冗談だと思っているのか?
「えっとぉ、勇者は主人公なんだよ。勇気があって悪いドラゴンを倒したり大活躍するんだぁ」
ナイスだカモナー。良いフォローだぞ。
「勇気があるっていうなら冒険者はみんなそうです。カモナー君も立派な勇者ですからすぐに活躍できるわよ」
いきなり優しい目でカモナーに語り掛けるお姉さん。おのれ。
「そう言われればそうかもしれません。ですが俺は勇者です」
「あのね。ゲイムさん。ギルドカードの職業というのは自分はどういう仕事ができるか。それを示す物なの。戦士であれば前衛ができる。魔法使いであれば後衛ね。魔法で戦闘する。ね? 分かりやすいでしょう?」
「はい」
「そこに、勇者とかおかしな職業を、誰も知らない職業を書かれても困るのよ」
確かにパーティの自己紹介でおかしな職業、勇者は全くおかしくないが、巴術士とかスーパースターとか言われても何ができるか分からない。
まあ、俺は分かるが、普通は分からない。
「……言わんとすることは一理ありますね」
「一理どころか、これが全てなの。で、職業は何?」
「あの……いちおう剣で戦います。魔法は使えません」
「はい。戦士ね」
戦士……まさか、勇者の俺が戦士だと?
いや、戦士を悪くいうつもりはないが、戦士といえばガチムチのおっさんがやる職業ではないのか?
若くてイケメンでホスト体系の俺には似合わない。
何より勇者でなければハーレムを築けない。
もう少し格好良い職業を希望する。
「あの……戦士の他にはどのような職業があるのですか? できれば戦士は俺のイメージに合わないというか……」
「……まあ良いわ。カモナーちゃんも聞いておいてね。
剣や槍といった武器で戦うのが得意なら戦士。
素手で戦うなら武道家。
弓など遠距離から戦うなら狩人。
斥候や罠解除などが得意ならシーフ。
戦闘で使える魔法があれば魔法戦士かパラディン、魔闘家、レンジャー、忍者となるわ。
そして、魔法で戦う魔法使い。
治療魔法を使う僧侶。
攻撃魔法と治療魔法の両方が得意なら賢者。
戦闘も魔法も苦手な人は村人。
採取や配達といった戦闘が絡まない依頼をメインに活動する人がそうよ。
主な職業はこのあたりね。
他には、なり手は少ないのだけど、モンスターを操る魔物使い。
歌や踊りで支援するダンサーなんてのもあるわ」
ゲームによって職業やスキル、魔法は全く異なる。
よりによってこの異世界には、いやギルドには勇者という職業が認知されていないようだ。
「なるほど……その全てが得意な職業は何というのですか?」
「そんな職業ないわよ? 闘技にしても魔法にしても習得には長い年月が必要だもの。何を夢見ているのか知らないけど、冒険者になるなら現実を見ないと駄目よ」
「あ、はい」
「でも、全部ではないにしても、稀に多くの闘技や魔法が使えるとんでもない人が居るのよね。そういう人を、英雄と呼ぶわ」
英雄か。
勇者には劣るが良い響きだ。
「それですね。俺を、勇者を例えるなら英雄ですね」
「ゲイムさん……魔法は使えるのかしら?」
「使えません……今は」
「はい。戦士と」
おのれ。ポイントさえあれば……
だが、ここまで職業の説明を聞いて思ったことがある。
スマホのステータスを見れば、俺が勇者なのは一目瞭然だ。
にも関わらず、ギルドは俺を勇者だと認めようとしない。
つまり、スマホを持たない異世界の人間には、ステータスという概念がない。
自分のステータスを見ることができない。
「あの、お願いがあります」
「言ってみなさい」
そして、ギルドの職業は自己申告だ。
魔法戦士とか特殊な職業になれば試験とかあるのだろうが、戦士や狩人なら自分で言ってしまえば、受付がそれを認めれば通るというわけだ。
それなら──
「その……戦士は仕方ないかなと思わないでもないのですが……その、できれば勇者戦士とか戦士(勇者)とか、何とか勇者の二文字を入れて貰えないかなと……」
「そうね。戦士だけど特にこれが得意だという人は書き足したりするの。例えば片手剣の闘技スラッシュが使えるならスラッシュ戦士。盾の闘技シールドガードが使えるならシールドガード戦士とかね」
「その闘技というのは何でしょうか?」
「やっぱり闘技は使えないのね。闘技というのは特定の武器で長い修練を重ねると使える必殺技みたいなものよ」
スマホの習得スキル一覧に闘技という物は存在しない。
だが、俺たちプレイヤーなら、スキルを習得すれば使えそうに思える。
俺は【骨術1】【両手斧術1】【盾術1】を習得している。
何か闘技が使えないか後で試してみるとしよう。
「分かりました。それなら、俺は勇者が得意なので、勇者戦士でお願いします」
「うーん。どうしてもこだわるのね。でも駄目よ。勇者戦士って何それ? 意味ワカンナイって登録した私まで怒られるわよ」
なかなか頭の固い人だ。
だが、これ以上しつこくしたのでは、俺がクレーマーのように思われる。
美人に嫌われるのは困る。
勇者は、時には妥協することも必要だ。
「……分かりました。それじゃ用紙を貸してもらえませんか? 少し書き直します」
サラサラっと。これなら登録できるはず。
「これでお願いします」
「はいはい……はあ……ゲイムさん……いえ、まあ良いでしょう」
どうやら納得してくれたようだ。
「んぅ? ゲイムさんどうしたの? 勇者あきらめた?」
俺と受付のやり取りを見ていたカモナーが訊ねる。
「いや、カモナー。俺はゲイムではない。俺はユウシャだ」
「はいはい。名前はユウシャ・オレガ。職業は戦士と。これで登録するわよ」
登録情報を誤魔化してはならない。
だが、名前と年齢は自己申告でしかない。嘘を書いても誰にも分からない。
当然、これで登録できる。
まあ、同名の有名人などがいれば、また話は別だろうが。
何より、俺が勇者なのは確定的に明らかで、嘘ではない。
「は……は、あははっ。ゲイムさんおかしい。そんなに勇者が良かったのぉ?」
「当然だ。男で勇者に憧れない奴はいない」
何がおかしいのか笑い出すカモナー。
まあコイツは女だから男の気持ちが分からないのも無理はない。
「はいはい。それでカモナーくんはと……サモナー?」
「はい。モンスターと一緒に戦います」
「えっと、魔物使いね。凄いわ」
「あの、サモナーって珍しいのかな?」
「そうね。珍しいわよ。モンスターを扱うってのは大変なの。エサをあげたり体調管理や交配。それにモンスターって、まあ中には可愛いのもいるけど、そういう種類は弱いのよね。強いモンスターって可愛くないのよ。気性も荒かったりで。下手したら自分が食べられかねないのよ」
「そう……かなぁ。グリちゃん凄く素直なんだけどなぁ。あ、でも、確かに可愛くないモンスターは僕も嫌だな」
何となくカモナーと受付の間で認識がかみ合っていない気がする。
思うにスマホのガチャから出る課金モンスターが特殊なのだ。
決して主人に反抗しない。従順で可愛いペットのような存在。
それに比べて魔物使いってのは、野生のモンスターを飼いならすわけだ。
そりゃ下手したら食われる。
うんこの処理とか汚そうだし俺もやりたくない。
「カモナー君は、もうモンスターは使役できる? 何も連れていないみたいだけど」
「あ、はい。いちおう。でも、街に入れるのに10万ゴールド必要だって言われて。街の外で待っててもらってます」
「あら。そうね。魔物使いって普通はある程度モンスターとの戦闘に慣れたベテラン冒険者がなる職業だものね」
サモナー。魔物使いか。
なり手の少ない職業、希少性があるというだけで価値があるように思える。
何より、戦士よりモテそうだ。
そうか。ナンバー1が駄目なら、オンリー1という手があるな。
「あの。俺も職業をサモナー、魔物使いにします」
「……ユウシャさん。もう……黙っていてくれません?」
「いえ、あの、俺もモンスターを連れているので」
「はい、出来ました! ユウシャさんのカードはもう出来ましたから。1万ゴールドね。さよなら」
おかしい。
元々イケメンな上に【魅力1】スキルまで習得した俺が、なぜこんな扱いなのだろう。
カモナーの奴は楽し気に話しているというのに……
まあ、良い。俺にはサマヨちゃんが居る。それだけで十分だ。
「あのゲイムさん、じゃなかった。ユウシャさん。あの……」
トボトボ受付を離れる俺の姿を見たカモナーが追いかけてきていた。
カモナー。俺を心配しているのか?
落ち込んだ時に慰められると、それだけで惚れそうになる。
「お金。僕に貸してくれるって今朝……その、お金がないと登録できないのぉ」
所詮、世の中金だ。
「ん……ああ。ほら。俺は掲示板でも見てるから、登録終わったら合流しよう」
「うん。ありがとうぅ。絶対あとで返すからね」
カモナーは俺の手を握るとブンブン振り回す。
お礼のつもりだろうか。手が痛い。
だが、少し元気づけられた。そんな気がする。




