14.街への入場門
100/7/9(土)17:00
【所持金】17万2000ゴールド
森を抜け、街道を進み、ついに目の前に街が見えてきた。
高さ5メートル程の城壁に囲まれた大きな街で入口には門番がいる。
異世界にふさわしいファンタジックな外観の街だ。
近辺のモンスターは定期的に排除しているのだろう。
街が見えてきた辺りからモンスターの気配もない。
周囲を眺めながら街へ入場する列へと並んだ。
人々の服装も武器防具に身を固めた冒険者のような人や、馬車に乗った商人のような人、農具を担いだ農民など様々だ。
サマヨちゃんも村娘風の服装だから、特に違和感なく並んでいる。
スケルトンだとはバレていない。
そうこうするうちに俺の入場番がやってきた。
「身分証があるなら提示。ないなら1万ゴールドだ」
「身分証はありません。後ろの女性とあわせて2万ゴールドです」
野盗から10万ゴールドをいただいているのだ。余裕で支払う。
「確かに。しかし、その装備。まさか野盗ではあるまいな?」
野盗から奪った装備ではあるが、俺は勇者だ。
「いえ。違います。森で野盗に襲われたので退治しました。その戦利品です」
俺に後ろめたいことは何もない。堂々と正直に対応すれば問題ない。
だが、後ろめたいことがある奴も居るようだ。
「ふぇ? い、いえ、その、この装備は、えっと、襲ってきたモンスターを倒して、それで……」
「本当か? なんだか怪しい奴だな。名前は? どこから来た?」
別の列での騒ぎが聞こえてくるが、確かに怪しい。
「えっと、その、名前はカモナーと言って、東の方というか、記憶喪失。そう、記憶喪失なんです!」
「君のような少年が? モンスターを退治? 本当に?」
どう見ても、どう聞いても怪しすぎる。
確かに見た目は普通の少年だが、モンスターを退治するということは、それなりの腕前を持っているはずだ。
それなのに、とても強そうには見えない。だからこそ要注意だ。
っと、目の前の門番が何か言っているな。
「あとは、その女性のフードを外したまえ」
意外にしっかり調べるものだな。まあ、いずれバレルことだ。
門番の人にだけ見えるよう、サマヨちゃんのフードを外す。
「スケルトン? 君の使い魔か?」
ファンタジックな世界だし、やっぱりモンスター使いは居るよな。
「はい。私の相棒です」
「そうか。それなら使い魔と分かるように首輪をつけることだ。そうでなければ街には入れられない」
目印が必要ということか。
確かに、野生のモンスターと見分けがつかないと不便だ。
「首輪を持っていないのですが、どこで購入できますか?」
「ここで販売している。1つ10万ゴールドだ」
たっけえええ!
しかし、仮にもモンスターを街中に入れるわけだ。
万が一、街中でモンスターが暴れたなら死者が出る。
10万ゴールドすら払えない、その程度のゴールドに困る奴は、モンスターを管理できるか怪しいというわけだ。
「……1つお願いします」
さすがに余裕とはいかないが、サマヨちゃんを置いて俺だけ街に入るなどありえない。
【所持金】17万2000 → 5万2000ゴールド
しかし、世の中にはゴールドのない連中も居るものだ。
「はあ? んでこんなにたっけーんだよ。っざけんな!」
「いや、そうは言っても決まりでして……」
案の定、門番に絡んでいる奴がいる。
見た感じは俺と同年代の若者だ。
「んだよ。こんなところでトラブル起こしたくねーっての。俺はこっそり生きたいだけだからさ。入れてくれよ」
いや、こっそり生きたいなら素直に支払えば良いのに。
「ご主人様。でしたら、私は街の外でお待ちします」
若者の後ろには、絶世の美女がいた。
あのような美女にご主人様と呼ばせるとは大したものだ。
「なにいってんだ。ミズナ。お前はモンスターなんかじゃない。お前に首輪なんてできるわけねーだろ。俺は2万ゴールド以上はビタ一文払わねーぞ」
「であれば、貴様も街に入れるわけにはいかん」
首輪の話をしているということは、あの美少女もモンスターなのか?
確かに若干身体が透き通っているように見える。
人間そっくりの外見に知能も高いとなれば、かなり高ランクのモンスターではないか?
「まあまあ。門番の方。私はこのタローシュさんに助けられた商人です。ここは、どうかこれで穏便に……」
そう言って、若者の後ろから馬車を降りた商人が門番へと近づいた。
「う!? うむ……後ろの女性はどう見ても人間だよなあ。うむ、全く問題なし。不正はない。通って良し」
その後、若者は商人の馬車に乗り込み、街へと姿を消した。
怪しい奴だが、商人の後ろ盾があるとは、やるな。
金さえあれば、異世界だろうと何とでもなるもんだ。
奴も要注意だな。
そういえば最初の少年はどうなった?
「グルル」
「!?そのモンスターは?」
いつの間にか少年の頭上を大きな獣が飛び交っていた。
4つ足に大きな翼をもつ獣。その爛々と輝く目が門番を見つめていた。
「あ、こら。大人しくしてよぉ。その、僕の使い魔ですが何か?」
「い、いえ、何かと言われても……まさかSSRモンスターのグリフォン?」
モンスターに見つめられた門番は、明らかに怯えている。
「えっと。その、普通の使い魔だと思うんだけど、何かおかしいかなぁ?」
「い、いえ、おかしいも何も……ですが、いくらSSRモンスター使いでも、規定の首輪をしていただかないことには、街中に入れるのは無理ですよ。もしも暴れられたら街が壊滅しかねませんので……」
あのモンスターに間近で睨まれれば、漏らしても不思議はない。
それでも必死に仕事を完遂する姿は立派である。なかなか練度が高い。
「そうなの? そんなお金ないしなぁ。あ、でも、僕一人の方が目だたなくて良いのかな。それじゃグリちゃんは外で遊んでいてね」
少年の合図に従いグリフォンは大空に舞うと、近くの森へと移動する。
残念ながら十分に目立っている。
だが、これで確信した。この少年はプレイヤーだ。
門番が恐れるSSRモンスターを少年は完璧に掌握している。
どう見ても俺より若い、中学生にしか見えない少年がだ。
見かけによらずとんでもない少年かと思えば、10万ゴールドすら持ち合わせていないという。
となれば、スマホだ。ガチャでSSRモンスターを引いたな。
少年の動きを目で追っている間に、首輪を持った門番が戻ってきた。
「ほら。これが首輪だ。しかしスケルトンを大事にしてるんだな。お前の知り合いの骨か?」
「いえ。そういうわけではありませんが、危ない所を何度も助けてもらってますので」
サマヨちゃんに首輪をはめる。
モンスターの体系にあわせてサイズが変動するようで、骨の首にも丁度良い大きさになった。
「そうか。スケルトンは基本使い捨てだからな。ある程度の再生力はあるが、それだけだ。無茶をさせれば壊れて戻らなくなる。武器ならともかく服まで着せているのが珍しくてな。ほら、通って良いぞ」
「はい。ありがとうございます。それでは」
確かにスケルトンといえば、あまり強いイメージはない。
俺も当初はそう思っていたが、それに反してサマヨちゃんは強い。
無茶させてバラバラにしてしまっても、再生してくれる。
だが、門番の人はスケルトンは弱いと、再生力も弱いと言う。
そうか──これが【勇者】スキルの力。
仲間に勇気を与える、その支援能力というわけか。
これまでも気づかないだけで、十分な恩恵を受けていたわけだ。
無事に門をくぐり抜け街へと入る。
この入場門というのは面白い場所だ。
異世界に不慣れなプレイヤーを見つけるには持ってこいの場所といえる。
ここで張り込むのも面白いかもしれない。
だが、今は別だ。
街でやるべきことができた。
ドンッ
「っと。すみません。大丈夫ですか?」
少し考えごとに気をとられていたようだ。
人込みがあるとはいえ、女性にぶつかるとは。
「いえ……大丈夫。気になさらないで」
「はい。すみませんでした」
女性に詫びを言ってその場を離れる。
ふう、凄い美人。さすがは異世界だ。
この衝撃をきっかけにお知り合いになりたいものだが、あれ程の美人に声をかけるなんて俺にはとても無理だ。
だが、勇者として大成さえすれば、声をかけるまでもなく美女はより取り見取りのうはうはハーレム状態。
そのためにも、俺はグリフォンと別れた少年。
カモナーと名乗る少年のあとを追いかける。
カモナー。
SSRモンスターであるグリフォンを自在に操る少年。
習得スキルは不明。
ガチャから確率3%のSSRを引き当てるとは、侮れない相手だ。
恐らく今の俺とサマヨちゃん。
二人がかりでもグリフォンに勝つのは難しいだろう。
門で見たグリフォンの迫力には、とんでもないものがあった。
あのグリフォンが傍に居る限り、カモナーに近づくのは危険である。
だが、街の広場でのん気に焼き鳥を食べるカモナー。
その傍にグリフォンは居ない。
よほど自分の力に自信があるのか?
それとも街中で油断しているだけなのか?
いずれにしろ、カモナーを狙うなら街中しかない。
異世界は弱肉強食にして先手必勝。
しかも少年、男となれば俺が手加減する理由は何もない。
カモナー。お前を殺す。
殺して地球に、愛しいママのところへ子供を帰してやるのが、大人の義務だ。
だが、俺がカモナーを襲えば、即座にグリフォンが駆けつける。
サマヨちゃんもそうだが、召喚モンスターは主人を護るための存在だからだ。
それでも、グリフォンが駆けつけるまで時間はある。
いくら空を飛べるとはいえ、森から街中まで。
1分から3分、その程度の余裕はある。
それだけあれば十分だ。
人目のない場所で近寄って殴る。それで終わる。
だが、マスターの居なくなった後、召喚モンスターがどうなるのか。
それは分からない。
俺を殺そうと狙ってくるのか。
それとも無差別に暴れるのか。
あるいは召喚の縛りから解放され、野生に帰るのか。
いずれにしろ、街中で暴れるモンスターを街の警備兵が無視するはずもない。
スマホを拾った俺は逃げ回るだけで良いというわけだ。
街中にはいくらでも建物がある。
建物内に避難すればグリフォンの巨体では侵入できまい。
問題は、グリフォンが暴れることによって、俺の行動が原因で街の住人に被害がでることだ。
仮にもSSRモンスターだ。どれ程の被害が出るのか予想がつかない。
護るべき住人に対して、勇者自身が危害を加えたのでは本末転倒だ。
それでも、いくらでも言い訳はできる。
大事の前の小事。
大の虫を生かして小の虫を殺す。
損して得取れ。
肉を切らせて骨を絶つ。
何よりマスターを失ったグリフォンが、普通に森に帰って幸せに暮らす可能性もある。
勇者は強くなくてはならない。
立派な信念があろうとも、力なき勇者に価値はない。
そのためにも、カモナーのスマホが、ポイントが必要だ。
あくまでも勇者としての、力を追い求めるのか。
それとも、勇者としての、美徳を追い求めるか。
難しい判断だが、勇者は決断を下さなければならない。
俺の前をのん気に歩くカモナー。
焼き鳥をほおばりながら辺りをキョロキョロ見回すその動きは、自殺志願者のように無防備だ。
ただ、これだけは確信できる。
コイツは、俺がやらなくとも間違いなく誰かにやられる。
なら、悪人にやられる。その前に──
そう覚悟を決めた俺は、カモナーへと近づいていった。




