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学園戦争「喧嘩は勝て。何が何でも勝て」

 誰にも内緒の秘密ではあるのだが、透子は魔法が使える。この世界に生まれた時から使える。

 得意な魔法は属性魔法。特に風、火、水の3属性は大得意。


 この、「魔法が得意」というのに重要なファクターは、主に2つある。


 ひとつは血統・資質などの先天的な適性。

 もうひとつは後天的な適性だ。

 「後天的」というのは本人の性格の適性。そして『精霊』との対話能力である。


 ――――魔法にはカテゴリごとに『精霊』というものが存在する。魔法とは、その『精霊』の力を借りることで発動するものだ。


 そのため、魔法の発動にはまず高次元存在である『精霊』を感じ取らなければならない。これには相応の才能と磨き上げた感性が重要だ。


 まず信じ、次に想像し、最後に次元の壁にタッチする。感じ得た『精霊』そのものを抱きしめるように、やさしく。

 それが『精霊』との対話……つまり魔法発動の第1ステップである。


 ――――というのが、『元の世界』で透子が教わった魔法の基礎になる。


 基礎であるため、習熟が進めば毎回神経を研ぎ澄まして『精霊』を感じ取る必要はない。

 より具体的に言うと、魂レベルで精霊を定着できれば、だが――――まぁそれはともかく。


 魔法の基礎とは、高次元を認識し、その世界に入門すること。

 その基礎の応用とは――――高次元に入り、別の低次元に降りること。つまり、次元転移。時空間魔法の発動だ。


 しっかりとした時空間魔法には時空間を司る精霊との対話が必要だ。

 しかしごく単純な事――例えば『過去を覗き込む』程度のこと――なら、今の透子にもすぐにやってやれないことはない。


 しかし簡単故に制約は多い。


 例えば遡れる時間。その場所と時間を正しくイメージ出来なければならない。そのためあまり過去には遡れないし、知らない場所の知らない時間は覗けない。


 例えば魔法自体の継続時間。これに基本的には制約はないが、過去に意識を飛ばすためその間の『現実時間』の透子はまったく無防備になる。


 例えば遡った『過去時間』では決して人に見られてはいけないとか、魔法発動中の『現実時間』の姿は見られてはいけないとか――――まぁ、そんな感じで。


 つまり、結構使い勝手の悪い不便な魔法なのだ。


 だが、間違いなく最も確実かつ手っ取り早く犯人の顔を見ることができる方法だった。


 顔さえ見ればこっちのものだ。

 見つけて、とっちめて、謝罪と賠償を要求したあとまたボコボコにしてやればいい。


 これは戦争だ。


 報復はきちんとしろ。身内は守れ。民の涙に答えろ。民を蔑ろにしては王にはなれない。

 正しい怒りを持って、家族を貶めた報いを必ず思い知らせろ――――お父様もそう言っていた。


 ここに透子の身内はいない。これは透子の戦争だ。そして最初に引き金を引いたのは相手。


 手加減・容赦は一切無用。

 喧嘩は勝て。何が何でも勝て。――――こちらは透子の座右の銘である。











 * * * * *












「さて……」


 生徒会室に布団を敷いて、透子はごろりと横になった。


 掛け時計が時間を知らせる。朝5時半。わざわざ寮を抜け出して忍び込んだのだ。


 確実に過去を覗くためである。

 生徒会室ならば、まさかこんな時間に人は来ないだろうし。なによりその場所にいた方がイメージをしやすい。寮に居たら間違えて過去の自分のベッドに飛んでしまいそうだ。


 遡る時間を決定する。掲示板に写真が掲示された昨日の朝、具体的に何時かわからないから、余裕を持って昨日の朝5時半――――ちょうど24時間前を狙う。


 体勢に無理が出ないよう、布団の上に仰向けになって目を閉じる。


 おへその上で手を揃えて。


 すっ――――――――と。


 瞼の裏の黒の奥底に、意識を潜らせた。



 空を飛ぶように、あるいは氷の上を滑るように、透子の意識が闇の中を走る。



 体の輪郭が闇に食われていく。現実の枷が透子を夢の中に掬い上げようとしている。



 そうはいくか――――透子は手を伸ばす。




 闇の底に指先がかかり。




 白い光が、まとわりつく重力の闇を切り払った。






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