されど犬と亀は囀る
亀田さん、自分の中では好きなキャラです
【東京郊外、某住宅】
「自殺...ですかね。旦那の後を追って」
「それはこいつに直接聞けや」
戌亥は顎でくいっと中年女性を指す。
猫山は呆れたとでも言う様に首を振った。
「結構疲れるんですよ。これ」
手をかざし死体に近づける。
直接、触れないのは得られる情報量を調整するためである。
死体に触れての能力の使用はその人の人生を追体験することになり猫山自身がパンクする恐れがあるのだ。
「夫の浮気、夫への殺意。インターネットサイト、エデン...アダム...白髪の男。髪の毛にピン留め。容姿は宗教勧誘の男と酷似。エバ...若い女性。ショートカット。目隠しで事務所まで移動」
「亀田!パソコンを押さえろ!」
周りの捜査員が戸惑う中、戌亥が叫んだ。
「ちょ、戌亥。自殺ちゃうんかい」
大阪訛りが抜け切れていない言葉で亀田が問いかける。
「それを調べんだよ」
「チッ...」
亀田は戌亥のことをライバル視していたが、その実力は認めていた。
尤も戌亥の実力は反則的なものであったが。
「あぁ後、空き部屋使うぞ。誰も入れんなよ」
また、あの反則的な技を使うのか。
亀田は一度だけ、戌亥の捜査を見たことがある。
と言うよりいつも途中過程を飛ばして解に行き着く戌亥の思考方法を知りたくて見せてもらったのだが。
その結果、亀田は戌亥の異常性を思い知ることとなった。
彼の思考は亀田どころか他の誰にも真似出来ない様なものであったから。
「あぁ、あかんあかん。見に行ったって参考にならへんぞ。あいつのやり方は」
亀田がこっそり部屋を覗こうとした猫山を止める。
「あれは、思考つーより一種の超能力に近いんやからな」
自分の能力に驚いた戌亥が超能力者呼ばわりされるとは猫山にとっておかしな話である。
少々納得いかぬ様子を見せるも猫山は引き下がった。
「で、兄ちゃん。さっきのあれはなんなんや?」
後ろからがっしりと亀田に肩を組まれる。
猫山は自分の能力についてもう一度捜査員全員に説明する羽目になった。
。。。。。。。。。。。。。。。。
【同所、別室】
パッチン!
戌亥は指を一回鳴らす。
「捜査開始」
パッチン!
考えろ!補え!全てのピースを埋めろ!
パッチン!
奥さんは何故目隠しされて連れて行かれた?誘拐じゃない。奥さんは協力的だった。
パッチン!
そして夫への殺意。動機は浮気。
パッチン!
妻は夫の殺害をあの男女に頼んだってのが自然か。あの二人が、おそらくエデンって言う殺し屋グループ。
パッチン!
問題は殺害方法。
パッチン!
男は被害者に話しかけただけだ。
パッチン!
いや、問題はもう一つあるな。どうして奥さんが自殺したか...これも解かねば。
パッチン!パッチン!パッチン!バッチン‼︎‼︎
そこで戌亥は自分が夢中になって指を鳴らしていたことに気づく。
指の皮は擦り切れ、血が滲んでる。
しかし戌亥はそんなこと気にした様子もなくぼそっと呟いた。
「あれしかない...」
戌亥は部屋を出る。
結果を聞きたそうに近寄ってくる猫山を片手で制しつつ、次の指示を与えた。
「探偵社の封筒を探せ」
「はい!」
勢い良く返事し走り去った猫山を戌亥は微笑ましく見つめる。
「なんや、またあの能力を使ったんかい?」
後ろからぬっと顔を出して話しかける亀田に戌亥は背を仰け反らせた。
「あいつの能力。本物やないか。能力者が能力者を部下に持つとはねぇけったいな話やないの」
「はっ、お前が信じるとはな」
「当たり前やないの。お前の能力を見とったからのう。もう慣れたわ。能力者と会うのは」
「俺のは能力じゃねーよ」
戌亥は亀田を適当にあしらいながら自分も封筒探しを始める。
一方亀田はまだ話し足りない様だ。
「どうや。あの部下。持て余す様ならこっちの班で引き取るで?」
亀田がそう言ったその時、歓喜の声と共に、猫山が封筒を掲げて飛び出してきた。
それを見て戌亥は口角を吊り上げながら亀田を振り返る。
「悪いな。能力抜きでも優秀な部下だからやれんよ」