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Dog & Cat  作者: 因幡の白牛
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犬は思考し猫は予知す

携帯で事件の発生を知らされるのもおかしい気がします。

本来は庁内放送でしょうか?よくわかりませんw

【警視庁、休憩場】

「ほれ、選べ」

戌亥は缶コーヒーの微糖とブラックを後輩の前に差し出す。

後輩の猫山は迷わず微糖を受け取った。

「はっ、ガキが」

戌亥は鼻で笑い顔をしかめながら、ブラックを啜る。

戌亥自身、ブラックは苦手なのだ。

「やっぱ今回の事件、自殺の方向で動くみてぇだな。ドライバー側に何ら過失はなかったし、被害者がいきなり飛び出したって何人も証言してる。...おい?...おい猫山!」

「え?...はい!」

明らかに話を聞いていなかった後輩に戌亥は呆れた様に溜息をつく。

その後何か小言を添えてやろうとも思ったが彼の唇が少し震えているのを確認すると、それをやめた。

これは人が決意を持って何かを言い出そうとしているサインであることが多い。

だから戌亥は後輩の次の言葉を待つことにしたのだ。

「その...先輩は...超能力って信じますか?」

「へ?」

後輩の言い出したことが余りにも予想外だったため戌亥から間抜けな声が漏れた。

「もし、僕が超能力者だったらどうしますか?」

いやいやいや、これが若者特有のジョークってやつか?

そう思いたいが後輩の目は本気である。

「いやそう言われても...信じようがないしな」

猫山はそれを聞くと、ムッとした表情を浮かべ、戌亥のトレンチコートに少し触れた。

「分かりました....。先輩の奥さんはトイレのタンクの中のペットボトルにヘソクリを隠しています。先輩はトイレ掃除中にそれを見つけ、何枚か抜いてパチンコに使いましたね?いまの一番の心配事はそれが奥さんにバレないかです。後奥さんが貯金している小型の金庫の暗証番号も知っていますね。こっそり合鍵を作ったはずです。ちなみに金庫の暗証番号は....」

「待て待て待て!分かった...もう分かったから!」

これ以上自分の個人情報もとい悪行を聞くのに耐えられず、戌亥は後輩の話を遮る。

そして周りにカメラなどが設置されておらずドッキリでないことを確認すると戌亥は一つの結論に落ち着く。

「本当に信じがたいが、本物みたいだな...その能力」

常人ならば到底受け入れることはできないだろうが、戌亥は犯罪者の異常な思考を何回も見てきた刑事である。

雨だから人を殺した者、空き缶を先に拾われたから人を殺した者、そして極めつけは死刑になりたくって人を殺した者。

彼らを受け入れるより後輩の能力を受け入れる方が余程、簡単である。

それが戌亥の結論であった。

そしてそれが結論付られた今、後輩が何故このタイミングで自分に、能力を打ち明けたかもおのずと理解できた。

「見たんだな?あの現場で。これは殺しだって言う何かを」

猫山は戌亥の言葉に少し驚いた様に目を見開いたがすぐにコクリと頷く。

「はい、現場の残留思念から。被害者は奥さんに浮気を疑われていた様です。だから今日は早く帰って潔白を証明するんだって...そんないきなり人間が自殺するでしょうか?」

後輩の猫山の意見は尤もであった。

となるとやはり怪しいのは宗教勧誘の男だろうか。

戌亥の考えを察した様に猫山は話を続けた。

「宗教勧誘の男は具体的には宗教勧誘では無かった様です。よく分らない理論を被害者に語りかけたのですが事故との因果関係はやはり証明できません」

情報が足りないとでも言いたげに戌亥は舌打ちをする。

「あれだ。今日の午後に奥さんが被害者の顔の確認に来る。その時に少し情報を抜き取ってくれないか?」

これは戌亥の刑事の勘ではない。

宗教勧誘が直接、因果関係を証明できないので有れば浮気を疑っていた奥さんから攻め崩すしかないと思ったからだ。

どんな些細な事でも事件の切り口とし、一見無関係の事でも繋ぎ合わせる。

それが彼が捜一内で思考マシーン戌亥と呼ばれる所以であった。

「さて仕事に戻るか」

飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、自分のデスクに帰ろうとした戌亥を携帯が呼び止める。

それを確認し終えると戌亥は後輩の猫山に意味深な言葉を投げかけた。

「奥さんに会う予定。少し早めなきゃなんないみたいだ」

。。。。。。。。。。。。。。。。

「た...助けてくれ...神様ぁ」

「神様は君に何もしてくれなかった。だったらそんな神様いらないと思わない?」

男は目の前のがたいの良いスーツの男を見下ろした。

スーツの男は博徒だろうか、いかにもそちら側の職業の風貌である。

「飯島さん。悪いけど。ここで死んで貰わなくちゃいけないんだ」

「金か!金なのか!幾らで雇われたその倍出す!」

飯島はなんとかこの状況を切り抜けようと模索する。

出口のない迷路だと気づきつつも。

「もう薄々気づいてると思うけど、僕たちを雇ったのは君の組の組長さんだよ?君を抗争の火種にするんだってさ」

あぁ、やっぱりそうか。飯島は今更後悔をする。

彼は組の中でも革新派の代表であった。

組長としては目の上のたんこぶを一気に二つ潰したいと言う思いあっての策略なのだろう。

だが、ここで死ぬわけには益々、いかなくなった。

革新派には彼の大事な弟分がいたから。

「さて、シナリオはこうだ。君は敵対関係にある西郷会に捕まり嬲られたあとに殺される。西郷会は君の死体を処理するが、それを知った組長は大変怒り、君の敵討ちのために西郷会にドンパチを仕掛ける。これでアンダスタン?」

相手を馬鹿にする様に問いかけた男は飯島に向かって銃を構える。

「俺の好きな映画の主人公はさ、ゾンビに囲まれながらこう言うんだ。君を守るために必死に撃ったこの銃にあと何発の弾が残されているか分らない。もしあと一発でも残っているなら、君の元に行かせてくれってね。かっこいいよなー。まぁこの銃には確実に一発の弾がこめられてるんだけどね」

男は口角を吊り上げながら躊躇なく引き金を引く。

日光を遮断した部屋の中に銃声が響いた。

「良かったの?直接、手を下しちゃって」

柱の影に隠れていた女がノートに複雑な計算式を書き込みながら、男に問いかける。

「まぁ死体の方は組長さんが処理してくれるってさ。警察の手に渡っていろいろ調べられるのは彼としても避けたいところだしね」

男は自身の震えを知られまいと努めて明るい声で言う。

彼はどうやら興奮すると多弁になる様だ。

「しかし、神様って酷いよなぁ、あんなにすがってた彼を助けないなんて」

「彼が助けられる様な人格者だったか疑問だけどね」

「あっれー、計算で神の存在すら否定できちゃう君が神様の擁護をしちゃいます?」

その問いに対して女はミステリアスに笑い、真偽の分らぬ一言で返した。

「あら、私は根っからのクリスチャンよ?」

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