トレード
「ね、値段はどうなんだ?」
既に買う気になっているヨイミヤが問う。
「〈光の収域〉金貨8枚。〈職破壊〉金貨6枚と銀貨5枚。〈光精霊の‥〉は、金貨12枚。〈ヒトカタ〉は、1組で金貨20枚。」
安い、とヨイミヤは思った。安すぎるとも。
金銭感覚が破綻しているとしか思えないレベルだ。ヨイミヤは、言えば自分が損をすると分かりつつも、もう少し値を上げろと言いたくなった。
(ネーミングセンスといい、金銭感覚といい‥‥店やってて大丈夫なのか?)
ヨイミヤは本気で心配になってくる。まあ、先輩が薦める店の店主という時点で、いらないおせっかいだろうが。
「ただ、全て量産品ではない。数には限りがある。〈光〉は3枚、〈職〉は6枚、〈精霊〉は1つ、〈ヒトカタ〉は6組。〈精霊〉以外は消費アイテム。」
消費アイテムとは、一度使用すれば消えてしまうアイテムのことだ。
「これ、材料は何なんだ?」
ヨイミヤが指さしたのは〈職破壊〉。クロは、少しの間目を閉じた後、ななめ右上を睨むように見つめた。
「‥‥〈古代瓜の紙〉に、〈暗黒竜の呪毒〉と〈去りし日のカケラ〉、〈虹写しの水滴〉〈記憶の露〉その他いろいろと混ぜたインクで、〈古の歩行樹の端根〉〈水晶竜の爪〉を芯材に‥‥」
「い、いやもういい‥‥」
素材アイテムのあまりのレアさに、ヨイミヤはげんなりとした。それだけあれば一財産を築けるだろう。この世界がゲームだった頃であれば、コレクターがリアルマネーで手に入れようとしてもおかしくないアイテムの数々。
(‥っていうか、やっぱり金銭感覚が壊れてるな)
クロの方を見たヨイミヤは、クロと目が合う。少々気まずく感じ、目をそらすと、棚に、瓶に入った謎の物がたくさん置かれているのが目に入る。
液体状のものから固体、気体‥?まで様々だ。
棚には太い釘が打ってあり、その釘に幾つかのアイテムが掛けてあった。
そこでヨイミヤは視線を感じ、クロへ目をやる。
クロは全くの無表情でヨイミヤを見ていた。
「えっと‥何かついている‥‥か?」
「‥買う、それとも買わない?」
「あ、あぁ。えっと、〈職破壊〉5枚に〈光精霊の‥〉を貰う。」
「金貨44枚と銀貨5枚。」
ほとんど計算するそぶりも見せず、反射のように返すクロ。アイテムを売ろうという意欲も、商品が売れた達成感も全く感じられないが、そういうところは商人らしいと、ヨイミヤは妙な感心をした。
クロはカウンターの上の本から呪符を数枚取り出し、仮想ウィンドウのトレード画面を開く。
〔クロよりトレードを申し込まれました。*〈職破壊〉5枚〈光精霊の羽飾り・改〉*金貨44枚 銀貨5枚 以上の内容でよろしいですか。 Yes or No〕
ヨイミヤがYesを押すと、カウンターの上に半透明の天秤が現れた。クロが片方の皿にアイテムをのせる。物々交換ならば、ヨイミヤも皿に何かをのせなければならないのだが、共通金貨との交換ならば、勝手にクロのウィンドウ上所持金貨欄が上書きされる。
天秤にのせられていたアイテムは、ヨイミヤの魔法の鞄におさまったようだった。
魔法の鞄とは、簡単に言えば質量保存の法則をガン無視した鞄だ。
ヨイミヤはウエストポーチ型の魔法の鞄を軽く叩く。
その口元は、わずかに緩んでいた。
クロは無表情でそれを眺めていたが、すっとイスから立ち上がると、カウンターの上の本を手に店の奥へと消えていった。
(帰っていいんだろうか‥?)
ヨイミヤは外へ出る扉を開けて、暗い路地へ足を踏み出した。
稚拙な文ですが。




