雑貨屋カラス
「や、何でって‥だって私、買い叩き方も売り飛ばし方もわかんないんですもん」
少女は明るく笑って言う。笑うとえくぼができてとても可愛らしい。
(それは何かが違う。絶対違う)
客の前でそれを言うか?と、男は思った。黒服の少女が、いつの間にか男を見ていた。
無言だが、おそらく何の用だ、と言いたいのだろう。
無口な少女、目の前の少女が店主なのだろう。
「あ、俺はヨイミヤというんだが‥その‥アイテムを見せて欲しくてな。」
「‥‥ヨイミヤ‥あぁ。‥‥りるるちゃんは、向こう行っておいて。」
「はーい」
りるる、と呼ばれた少女は、素直に店の奥へと消えた。その瞬間、すっと、男の前の少女の目が細められた。
「‥‥クロ。」
「え?」
「名前はクロ。で、円卓が何の用で来た?」
「いや、個人的な用なんだ。さっき言った通り良いアイテムは何かないか、と。」
改めて男は店内を見る。そう広くはないが、外観から想像していたよりは広い。本や何かのアイテムがそこら中に散らばっているが、それらを乗せる台や棚が彫刻の施された美術的なものだからか、割と整えられている印象を受ける。しかし、いったいどれが商品なのだろうか。
店の奥には奥では、山のように積まれた本が雪崩れをおこしていた。
「‥‥アイテム」
「そうだ。お守りや呪符とかが欲しい。」
その言葉にクロは小さくうなずくと、わずかな照明に照らされた店内を移動し、散らばっている本やアイテムをさらにかき混ぜ、幾つかのアイテムを握ってカウンターの上へ置いた。さらに店の奥へ姿を消す。カウンターの上には、この世界で幸運の象徴とされる精霊の姿や、その持ち物を模した西洋風のお守りや、小さな布袋に似た日本風のお守りがかなりの数あった。
似たようなものは他の店でも見かけるが、鑑定のことなど何も知らないヨイミヤにも、明らかに別質のものだと分かった。
それがあちこちに転がっているのだから、ヨイミヤとしては呆れるしかない。
クロが数冊の本を抱えて戻って来た。まるで黒闇が切り取られるように現れたクロに、ヨイミヤは心臓が止まる勢いで驚く。
(心臓に悪い‥‥分かっててやってるんだろうかこの子は‥‥)
そんなヨイミヤの心の内など知らず、クロは手に持っている本をドン、とカウンターに置く。
手を2、3度軽く空中で振ってから、クロは、暗色系の本の表紙をパラリとめくった。
それは、正確には、本というよりアルバムのようなつくりをしていた。頁とセロファンの間に、短冊形の呪符がはさまれている。
背の無いイスに座り、カウンターの上で腕組みのように腕を組んだクロは、右手の甲にあごを乗せた。
鋭い目をヨイミヤに向ける。
「‥えっと‥‥何だ?顔に何かついてるか?」
「‥‥違う。どんな物が欲しい?」
「アク・チー・ルーの調査に行くんだ。役に立ちそうなものはないか」
アク・チー・ルーは、浮游都市の1つで、その都市全体が1つのダンジョンとなっている。アク・チー・ルーに入ると、廃都市にはアンデット系、都市を浮游させている動力源のある深奥部には機械系のモンスターが出現する。
「‥‥スタイル」
スタイルとは、職のようなものだ。あるいは、種族のようなもの、と言ってもいいかもしれない。〈剣士〉系や〈妖精〉系、〈商人〉系まで、その種類は多岐にわたる。
スタイルを教えるということは、自分の弱点を教える事となる。わずかに躊躇してから、ヨイミヤは口を開いた。




