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とある雑貨屋  作者: 檸檬
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緊急召集3

「‥‥‥そうね」


ハジャは眼鏡の奥の瞳をわずかにそらす。自分で言い出した割に言いよどむのは、余程重要な話だからか。

クロは、自分から声をかけてあげるという気遣いなど思いつきもしないのか、黙っている。元々血色も表情も乏しいので、黙って座っていれば精巧な蝋人形のようだ。


「まず‥‥クロ。君は先程の会議の矛盾点に気付いているだろうか」

口を開いたのは、自他共に認める苦労人気質の男、ムジークだ。〈剣と盾と糸〉の会議で司会など務めているが、本来は人前での発言を苦にする(たち)だ。司会役となっているのは、単になり手が他に居なかったからなのだ。そのストレスなのかは不明だが、最近は各種胃薬を常備しているらしい。

そんな諸々の苦労を乗り越えた発言なので、さすがにクロも無視は出来ない。

「アク・チー・ルーに監視員がいるのなら、今すぐ、動力源を壊してしまえばいいはず。わざわざ人集めをするのは下策だと」

「‥‥そうよ。そもそも、関わりの少ない人間との共闘は勝率を下げる。蘇生アイテムが無かった5年前なら、絶対に行わなかった作戦だわ」

ハジャは仮想ウィンドウから、小さな蘇生アイテムを取り出した。

「私はあなたの発明した"これ"を完全に信用してる訳じゃないの。だけど今の所、"これ"の成功率は100%。だから、作戦に組み込む」


クロはハジャを睨み付ける。

「何をする?」

「あなたの創造した蘇生アイテムは、最初は一種類しか存在しなかった。全快時の半分のHPとMPで、即時その場で復活。そうだったわよね?」

クロは無言でハジャを睨み付け続ける。誰が見てもこの2人が同じ組織に所属しているとは思わないだろう。

ハジャは冷笑する。

「あの時は驚かされたわ。苦労してあなたを殺したと思ったら、生きていたんだから。でも、今から思えばそれも幸運だったかしら?あの時あなたが〈ヒトカタ〉を生み出し使っていたら、完全に逃げられていたでしょうから」

「‥‥‥何が言いたい」

ようやくクロは絞り出すような声を上げた。疑問形ではあるが、その声は怨嗟に満ちている。


「つまり」

ハジャは言葉を切る。

「つまり?」

聞き返すのはクロだ。

「あなたには裏切って欲しくないということよ」

ハジャの話は、ひどく普遍的な結論に結び付いた。心なしか彼女の表情からも毒が抜けて見える。

クロは瞬きすると、小さく息を呑んだ。

「あなた"には"?」

それはつまり、他に裏切り者がいるということ

か。〈剣と盾と糸〉の中に?

「恐らくは、ね。アク・チー・ルーにいたPKは私達が来るという情報を予め知っていた様子だった。一方でヨイミヤの情報は知らなかった」

〈円卓〉のメンバーならば、ヨイミヤの情報も知っていたはずだ。一般冒険者ならば、そもそもアク・チー・ルー攻略の予定など知るはずが無い。

考えられる事は、ただ一つ。

〈円卓〉が浮游都市攻略を告げ、ヨイミヤの存在は明かさなかった〈剣と盾と糸〉の主要ギルドにPKに繋がりを持つ者がいるのだ。

〈剣と盾と糸〉の会議は、原則的に秘密会議だ。ギルドメンバーにも会議の内容を明かしてはいけない。

もし会議の内容がギルド内で筒抜けだったなら、その内容は一晩で世界中に広がるだろう。そんな事は未だかつて無いので、会議の内容は会議出席者しか得ていない証明となる。


つまり。


会議出席者、或いはその側近に裏切り者がいる。


「その裏切り者にとって、今回の作戦は大きなチャンスになるはずよ。大量破壊兵器を手にできる可能性があるから」

「連携のとれていない相手を、不意討ちで、だ」

ムジークが顔をしかめながら付け加える。

ほうほう、なるほど。と頷いているサムは気にしてはいけない。


「作戦の意図については理解した。だけど、なぜそれを私に?」

「一つは、〈ヒトカタ〉の作成を依頼するため。そしてもう一つは‥‥‥これよ」


ハジャは水晶の机に何かを放った。

それは、からん、と軽い音を響かせて、机の上で止まる。

日に照らされ美しく輝く水晶机に、似つかわしくない黒色のそれは。


まるで剥製のような。


烏の仮面だった。


「ーーーーっ!!」


クロの脳裏に、蒼い蝋燭の光と不味そうにコーヒーを啜る男の姿が一瞬にして浮かぶ。

その男のいる場所は、この世界で一番安心できた場所だった。誰もから見放された吹き溜まりのような、澱んで停滞した場所だった。

とても懐かしい場所。

けれどもその場所は、クロという少女の罪を示す象徴でもある。


「これを、どこで」

クロはどうにか言葉を発した。

「アク・チー・ルーで襲撃してきたPKがつけていたアイテムよ。あなたの物と同型ね?」

「‥‥間違いない」

〈黄泉烏の仮面〉というアイテム名も材質も、クロの知っている物と変わり無い。このアイテムを作っていた多喜三は死んでいるので、おそらくはあの男が、作ったか製法を教えたかしたのだろう。


ハジャはクロの目を真っ向から見据える。

「単刀直入に聞くわ。あなたは今回の件に関わっているのかしら?」

「‥‥いや」

クロは無表情に返答した。

ハジャの肩から力が抜ける。

「まあ、りるるの事もあるし、あなたは無関係だと予想はしていたけど。一応聞けて良かったわ。それじゃあ、蘇生アイテムと作戦への協力、よろしくね」

「協力?」

訝しげな視線にハジャは笑いかける。

「ええ。〈ヒトカタ〉を配った後、その片割れを牢に入れておくの。裏切り者が判明したら、それを殺して牢送りというわけ」

「‥‥‥」

「ほうほう、なるほど」

頷いたのはサムだけだ。

ハジャが解錠するや否や、返事もせずに、クロは部屋を後にした。





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