緊急召集2
「協力、ねぇ。ずいぶんと漠然たる要請じゃないか。他に注文は無いのかい?」
呆れたような声を出したのはギルド〈マゼッタ〉のギルドマスター、クロックだ。ひょろりと縦に長い長身を洒落た服に包んでいる。顔には時計の文字盤を模した仮面。
「それじゃあ人が欲しいのかモノが欲しいのかも分からないだろう?それとも気持ちの問題かい?それなら簡単だから協力もやぶさかでは無いけどねぇ」
仮面の下でにやにや笑っているだろうクロックにハジャが片眉を吊り上げる。
「ふざけないでもらえるかしら?精神論を語りたい訳じゃないわ」
「おや、気持ちを馬鹿にしてはいけないよ。根性感情快楽、結構な事じゃないか」
「悪いけど私、形而下の物しか信じないし、持ってないの」
「‥‥‥ハジャ、話が進まない」
見かねて口を挟んだのは水明だった。
「クロック、〈剣と盾と糸〉からの要求は今から言おう。足りない箇所はその後に」
水明の柔らかな声に、さしものクロックも口を閉じる。水明の視線を受けてムジークが簡潔に要求を述べる。事実の羅列が好きだと評された彼だが、このような場合、彼の言葉の内容は非常に分かりやすい。
曰く、〈剣と盾と糸〉の目的はアク・チー・ルーの動力源の破壊。破壊自体はある程度の攻撃力を持った者が居れば可能だが、それを察知したPKギルドと戦闘になる可能性が高い。必要とするのはその際の戦闘員とアイテム。戦闘員は、レベル120以上の者を各ギルド2人。アイテムは糸から徴収。
「‥‥以上だ」
「ふうん。楽しそうだな」
キースが笑顔を見せた。後ろで立っているローズが、うげっと小さく漏らす。ローズは行きたくないのだが、生憎決定権は自分には無い。
果たしてキースは明るい声を上げた。
「じゃあ、〈ダイス〉からは僕とローズが参加する。〈円卓〉は?」
「俺とヨイミヤだ」
「あのさ、今決めないとダメ?」
〈COMBAT〉のギルドマスター、シリー・ヴァンクリーフが下唇をつき出す。
「ウチも予定有るんだよね。日にちって分かってるの?」
「決行は1週間後。アク・チー・ルーが最も他の浮游都市に近づく日だ。其の日なら〈転移〉が使える。其れまではアク・チー・ルーに行く手段は限られているので、監視員に任せることになっている」
通常、転移水晶はいつどこへでも使用できるのだが、浮游都市は例外となる。
「あっはははははっ!君たちは馬鹿なのかい?PKギルドならその間を狙うだろうに!」
仮面に手を当てながら、クロックがのけぞるようにして哄笑する。
いや、と首を振ったのは水明だった。
「アク・チー・ルーへの移動手段は主に3つ。特技によるもの、アイテムによるもの、そして騎獣によるもの。アイテムは使用不可で、特技を使える者は限られていて脅威にならない。騎獣を操る者も限られている上に、間断無く人間を運べない」
クロックは手にしたステッキで水晶の机を何度か
叩いた。
「‥‥確かに、確かにねぇ。うん。水明、君の言う通りだよ。うふふふふ」
「‥‥‥で、お前はどうするんだ?」
気味が悪いという本音を呑み込んでサムが言った。いや、気味が悪いというよりむしろコワイ。仮面で本心が分からないのもその一因だ。
「そう、だねぇ。ワタシもメンバーに聞く必要があるかな。今日決めないといけないのかい?」
シリーと同じ事を言うクロックに、ムジークとハジャが顔を見合わせる。
「明日まで待とう。選ばれた各2名は明日10時に本部に集合して欲しい。その後に本部で戦闘訓練を行う」
「それならワタシは帰らせてもらうよ」
止める間も無くクロックの姿は消えた。その横に座っていたキースも、大きく伸びをする。
「僕も帰ろうかな。あ、やっぱりここに泊まろう。ハジャ、部屋用意してくれるよね?」
相変わらずキースは人に頼むということをしない。ハジャは肩をすくめた。こちらは、天敵とも言うべきクロックが消えたので、幾分いつものペースを取り戻している。
「好きにすればいいわ。今日は解散よ。糸だけ残って貰えるかしら?」
会議室にいる人物は、ハジャ、ムジーク、サム、クロと〈猫むすめ〉のギルドマスターである鈴、その補佐セイラだけとなる。クロと〈猫むすめ〉が糸を担う者だ。
「さて‥‥糸にも協力を願いたいのだが」
ムジークの言葉に、それまで無言を貫いていたどころか、顔を上げさえしなかったクロが、小さいがはっきりした声を上げる。
「断る」
一瞬、空気が凍った。
「あ、あああの、私受ける!受けるから!」
鈴が焦って手をわたわたと動かす。
有りがたい申し出ではあるが、〈剣と盾と糸〉としての本命はあくまでクロだ。〈猫むすめ〉のアイテムは大量生産の点では優れているが、質はクロのアイテムの劣化版にすぎない。
「そう‥‥それなら鈴、あなたも明日来てくれるかしら?リストを用意しておくわ」
「あ、うん。えっと」
居心地悪そうにしている鈴にサムが手を振る。なんと言うか、ひらひらと、とは決して表現出来ないような男臭い手の振り方だ。建設現場の親方が缶コーヒー片手にするような。
「お疲れさん。帰っていいぞ」
「失礼しまーす」
鈴の退出を確認した後、ハジャは会議室に鍵をかける。無機質な施錠音に、机に伏せていたクロは素早くアイテムを取り出した。
「転移・大陸アトランテ ホーム」
しかし、蒼い光は途中で霧散した。
「な‥‥」
アイテムが使用できない。直ぐに〈影渡り〉を使おうとしたが、それもキャンセルされた。
「何を驚いているのかしら?あなたのアイテムでしょう?」
ハジャが酷薄な笑みを浮かべる。
確かに、クロはアイテムや特技の使用を制限するアイテムを作った。けれどそのアイテムは、直前に使用されたアイテムや特技を読み取り、反射、相殺させるものだ。一体いつからアイテムを設置していたのか。
「最初からよ。アイテムはクロックが使用したし、あなたはこの部屋に入る前に〈影渡り〉で様子を探ったでしょう?用心深さが仇になったわね」
クロはため息をついた。
「‥‥用件を」




