表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある雑貨屋  作者: 檸檬
23/27

品質チェック

アク・チー・ラナの小さな雑貨屋にクロが戻ると、りるるが蒸留水を作っているところだった。ホームに戻る時には、ホームにある転移魔方陣が要になる。転移魔方陣の上に転移した者が現れるのだ。クロとりるるのホームの転移魔方陣は作業場にある。

転移魔方陣が光を放ったことに気が付かなかったりるるは、急に作業に手が一本加わり、驚いた様だ。

熱湯の入った大きなフラスコを割りそうになり、慌てて机に手をついたところ、机の上の本やアイテムの数々が崩れ、ピタコラスイッチ的展開の末に、フラスコがパリン!と割れた。


「あ、あ、あぁ‥」

「‥‥」

クロは無言で床に転がり落ちた丸薬を拾った。

りるるは涙目だ。

「せっかく作ったのに‥」

謝る必要があるのかを少しの間考えたクロだったが、結局こう言った。

「‥‥シャワー、浴びてくる。」


りるるが何か返すより早く、クロはまた別の魔方陣に吸い込まれていった。

このホームには、転移魔方陣によって2つの空間がつながれている。この空間は自由にカスタマイズできるのだが、ここでは、1つはトイレとシャワー室、もう1つは薬草等を育てる畑となっている。

クロはシャワー室の方へ姿を消したようだった。


しばらくして、クロが作業場に戻って来る。

衣服は変わっているが、色は変わらず黒なので変化に気付く者はまれだろう。

クロの状態異常はさっぱり無くなっており、残り3割にまで削れていたHPは徐々に回復してきている。


「クロさん、あの‥ちょっと無理そうです‥」

割れたフラスコと熱湯は片付けられていたが、その他のアイテムはりるるの前に散らばっている。

クロは頷くと、丸椅子に座った。


「やっておく。りるるちゃんは休んで。」

「え、でも‥」

「ついでがあるから。」

「ついでってなんですか?」

りるるが首をかしげる。ツインテールがくるりと揺れた。

「品質チェック‥〈ゾンビの脳液〉とか」

「‥‥‥‥休ませていただきます」



りるるが作業場から出た後、クロは鞄から出したアイテムを、1つ1つ手に取り調べていく。時間と手間はかかるが、これが一番確実だ。

ここがゲームだった頃は、この品質チェックという作業は必要なかった。アイテムは魔法の鞄に入れると、自動的にアイテム別、等級別に仕分けされたからだ。しかし今では、同アイテム、同等級でも品質の違いが見られたり、アイテムが一部破損していたりと、魔法の鞄を完全に頼ることが出来なくなってしまっているのだ。


クロは、シンプルで機能的な手帳にアイテムの様子を書き留め、同名のアイテムを幾つかのグループに分けておく。

〈擬魂のカケラ〉や〈記憶水晶のカケラ〉は小さいのでガラス瓶に入れて分け、大きいアイテムにはシールを貼って仕分けをしていく。


夜中の3時をまわると、クロは小さく伸びをして立ち上がり、りるるの用意していたコーヒーを飲んだ。ふぅ、と息をつく。

「コーヒー‥‥か」


彼は嫌いだったか。


クロの脳裏に、コーヒーを不味そうにすする男の像が浮かび上がる。窓の無い、青い蝋燭の部屋で、彼はいつもコーヒーを淹れ、飲んでは半分棄てていた。

もう会わないだろう。だが。


「会いたくも、無い」


クロは小さく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ