本部にて
都市アレースとはうってかわってにぎやかな帝都ハルに、クロは目眩を感じて額に手をやる。そして、〈剣と盾と糸〉の本部へと向かった。
〈剣と盾と糸〉は、デスゲームが始まった〈三月革命〉のおよそ2ヶ月後に発足したものだ。ギルドやソロの〈冒険者〉、時にはフライステの者達の意見や要望を聞き、〈冒険者〉に仕事の仲介をしたり、情報を集めたりすることを目的とした組織だ。
当初は大手ギルドや攻略組のギルドの情報交換のためだけに創られたものだったが、今ではあちらこちらに支部を持つ一大組織となっている。
〈剣と盾と糸〉の剣とは、エリア開放やクエスト攻略、ダンジョン攻略を目指す〈冒険者〉やそのギルドのことであり、〈ダイス〉〈アイネクライネ〉などがこれにあたる。
盾は〈冒険者〉へのクエスト発行やPKの始末などを行う。
糸は、剣や盾を支える武器や防具、その他のアイテムを生産する〈冒険者〉やギルドのことだ。
この世界では、誰でも簡単なアイテムの作成程度ならできるので、アイテム生産のためのギルドは数少ない。その中で100名以上の構成員を抱えるギルドは、〈猫むすめ〉ただ1つだ。
糸を代表する目立ったギルドが少ないため、そしてクロが〈剣と盾と糸〉発足当時からのメンバーだったため、クロはすんなりと、大手ギルドや攻略組しか入ることが出来ない部屋へ通された。
扉を開けてすぐに、クロはその行為を後悔する。
部屋の中に居たのはキース以下〈ダイス〉メンバー。静謐なはずの会議室が、あふれでるアイテムの数々ですごいことになっている。
このまま部屋へ入れば、あれらのアイテムを買い取らせさせられると感じたクロは、努めて静かに扉を閉めた。
「あれ、クロ、入らないの?」
背後からの声に、クロは無表情に振り返る。半ばあきらめの入ったため息がわずかにクロの口から漏れた。
「‥‥‥キース。」
部屋へ入ったクロは、当然の如くアイテムを買い取ることになる。
「クロ、クロは無表情で冷血なんだから高く買ってくれるよね?」
「狐目で冷血な誰かが安く売るのなら。」
「冗談、好きだったっけ?」
「‥‥」
視覚的に吹雪が見えそうな空気の中で、なんとか商談はまとまる。凍死寸前だった〈ダイス〉メンバーも、なんとか息を吹き返した。
まだわずかに凍ったような空気の中で、話は、今日のそれぞれの体験についてに移行する。
「‥水の女神の加護のクエストを見つけた。大陸シノウスタ リリアス皇国 都市アレース。教会の地下。トリガーは新月、かつ加護持ちがいないこと。」
「加護は実際にもらったの?」
クロは小さく首を横に振る。
キースは、そ、と短く呟いた。
「〈ダイス〉はオオヤシマの〈破れし王の城〉に行った。さっきのアイテムはそこで手に入れたもの。あ、そうだ。さっきから気になってたんだけど、今日は随分ひどい状態異常だね。そのクエストと何か関係でも?」
クロは虚をつかれたように、数度まばたきをした。あぁ、と呟き、仮想ウィンドウ上から自らのステータスを確認する。
「腐敗毒‥?」
その状態異常は日を浴びても発生しない。そこで思い当たるのが〈闇竜〉だ。
もう1つ、日光による状態異常として火傷が発生しているのだが、いつもの事と無視したクロは、解毒水薬を口に含んだ。何の変哲も無いその水薬は、状態異常を解除するには至らない。
「‥解毒水薬も研究してもいいかもしれない。でも、まずは‥‥だけど‥」
1人で会話しているように見えるクロに、〈ダイス〉メンバーは、変人キースの知り合いはやはり変人だったかと、クロから少し距離を置くことに決めた。
クロは、イスから立ち上がる。
「キース、〈破れし王の城〉の件、不穏な物を感じる。しばらく、ダンジョン付近に監視員を置いた方が良いかもしれない。」
「クロも、同意見か‥‥」
「一応、水明あたりにでも報告した方が。今はアク・チー・ルーに居ると思う。」
クロは、ドアの外へ姿を消した。




