変化
なぜこれほど早くモンスターが現れるのか。
この城に入ってから幾度となく戦闘を繰り返しているが、これまでの戦闘では(十分とは言えないものの)HPやMPを回復する時間があった。
なぜここにきてこれなのか。
そう考えて、ガロアは眉根を寄せた。
‥‥そうだ。なぜここでパターンが変化する?
「ガロアさん、行きますよ!」
ローズが勢い良く飛び出していく。
不死生物と相対するのも慣れたらしい。
刀身を白く光らせた剣が閃くたびに、アンデットの切れた腕や首がポンポンとんでいく。血や臓物が服につくのも顔につくのもお構い無しだ。
最初の戦闘では、無我の境地から抜け出した後、自分の服を見て失神してたっけ‥と、ガロアは小さく笑った。
「考えても仕方ねぇな‥〈スプリンクル・オブ・ライト〉!」
〈スプリンクル・オブ・ライト〉は、ガロアの持つ特技の中で最もレベルが高く、強力な威力を誇るが、MP効率は悪い。
この場から離れるために必要なMPを考えると、あと4発‥いや、5発で打ち止めだ。
MP回復水薬は、あまり数を持って来なかった上に、最初の戦闘後にほとんど飲んでしまっている。
他のメンバーも皆、似たようなものだろう。
「‥もう1回っ〈スプリンクル・オブ・ライト〉!」
(おそらくこの戦闘には勝てる。が、これ以上涌いてきたらどうにもならねぇ)
焦るガロアをよそに、キースは涼しい顔で何かを考えている。
ピキッとガロアの額に青筋が浮くが、キースはまるで反応しない。
寝ているんじゃないか、という疑問さえ浮かんでくる。
舌打ちをしてキースから目をそらせたガロアは、城の奥からアンデットが続々と向かってくるのを目撃する。
それも、ランクアップした個体ばかり。
レベル差はあるが、ランクアップを1回でもしているモンスターは、防御力、耐性、攻撃力、もちろんその他のステータスも上昇している。
HPとMPが削れている今の〈ダイス〉メンバーでは厳しい相手だ。
キースが、小さく笑った。
「‥‥なるほど。‥なるほど。‥これは少々抜かったか。みんな、帰還するよ。一瞬足止めをするから、水晶で〈剣と盾と糸〉の本部へ行って。」
言うが早いか、キースは魔法の鞄から黒色の、ピンポン玉に似たアイテムを取り出す。
そして、そのアイテムを地面に投げつけた。
割れたピンポン玉状アイテムから、音もなく煙が吹き出し、アンデットモンスター達に絡み付いていく。
移動阻害のバッドステータス。
強力なそのアイテムの効果で、〈ダイス〉メンバーは自由になる。
〈ダイス〉のメンバーは、次々と蒼い光と共に消え、キースだけがのこされた。
キースは、水晶を出そうとせず、双刀をすらりと抜いた。水晶で出来ているかのように、わずかに青い透明の刃。日本刀に近い形をしているが鍔は無く、手で持つ部分には革が巻かれている。
よく見ると、左右でわずかに長さや幅が違うようだ。
キースは、右足を大きく下げ、上体を低くすると、刀を交差させるかのように地面に突き刺した。手は軽く革の部分に置く。
仮面の笑顔はそのままに、動き始めた不死生物を眺めるキース。
既に、先頭の不死生物は、キースと数メートルの距離にまで近付いている。
血の通っていない手が持つ刀がキースに振り下ろされようとしたその時、キースが笑みを深めた。
「〈秘術・千本刀〉」
ざらりと、空気が異質なものを含んだかのように重くなる。
空中から、千対の刀が現れた。
不死生物達を睥睨するように光る刀は、獲物を見つけた隼の如く地上に降り注ぐ。
この間たったの数秒。
動くものがなくなった戦場で、キースも水晶を取り出すのだった。




