地下水路
本当にすごい、とりるるは思う。
りるるの視線の先には、たった2つの光源と、その光を侵食しようとする不気味なモンスター達の姿。そして、闇の中に時々浮かぶ、クロのローブ。
クロのMPは減っているが、HPは全くと言っていいほど減っていない。
先程から相当数の戦闘を繰り広げているにも関わらず、だ。
倒したモンスターは100をとうに越えている。そのモンスター達は全て、クロが倒したのだ。
闇の中で、1つ、2つとモンスターの気配が消えていき、やがて無くなる。
「りるるちゃん、終わった。」
闇が立体へ変じ、クロが現れる。そのHPはやはりほとんど減っていない。
〈陽光の使徒〉のやわらかい光がクロの姿を照らす。
黒い瞳は少し心配そうに、りるるを見ていた。
「‥‥‥大丈夫?」
りるるはコクコクと頷く。
瞳に涙がにじんでいるため、説得力は皆無だが。
「‥‥‥」
「だ、だいじょーぶ‥‥です!」
声もわずかに震えている。
「‥だけど」
「違うんですっ!心のじゅ、準備ができてなかっただけで‥‥だ、だって、こんな場所にアンデット系モンスターがいるなんて、思わなかったんですもんっ‥!」
クロは小さくうなずく。水の女神の言葉から、不浄のモンスターが多いとは予想していたが、アンデット系とは思っていなかった。
都市の周辺でアンデット系のモンスターが出ることはない。それは、都市の住民の生の力が、負あるいは死の力を退けるからだ。
しかし、この地下水路で出会うモンスターはアンデット系ばかりだ。
心の準備が出来ていなくて当然だ。この状況で〈動く死体〉や〈腐乱した犬〉を相手にするのは、主に精神的に無理がある。
むしろ、いまだ気を失っていないりるるに称賛を送るべきだろう。
地下水路には腐臭が漂っている。
それは不死生物の臭いなのか、腐った水の臭いなのか。
水路は、黒に近い緑色をした石に囲まれている。水路を進む2人の足元には、形も大きさも様々な水たまりがあった。
しかし、その水たまりの水に聖なる光はない。
壁もよごれており、2体の〈陽光の使徒〉と、時々地上から降る街灯の淡い光以外、2人が得られる光はなかった。
ただ、クロはもちろん、りるるの目も既に暗闇に慣れている。
だからこそ、おぼろげに、だが、見たくない物まで見てしまうのだった。
クロが、倒したモンスターに剥ぎ取りナイフを突き立てる。
「クロさん、いいアイテム取れました?」
顔前に広げた手の隙間から器用にクロだけを見て、りるるが尋ねる。
「‥〈擬魂のカケラ〉、〈黒紫の魔石〉‥〈ゾンビの脳液〉?」
最後のアイテムの名に、りるるは顔をしかめた。
「え、えっと‥ど、どこまでモンスター狩らなくちゃダメなんですか?」
あからさまに話題を転換したりるるに、クロが苦笑する気配がした。
「この先におそらくボスがいる。それを倒せば‥‥」
終わる、と小さく言葉を加える。
「でも、途中で道が分かれているとこありましたよね?なんで、こっちだって分かったんですか?」
「〈ファイリオネ〉の反応でね。」
りるるは驚いて、自身が召喚した〈陽光の使徒〉を見る。核の炎からオレンジの光を発するこの小さなモンスターが、そのような役割をはたしていたとは知らなかった。
〈札遣い〉は、自身の召喚するモンスターが何をすることができるのか、仮想ウィンドウから知ることができる。
〈陽光の使徒〉の欄には〔光源となる〕としか書かれていない。仮想ウィンドウに表示されていることが、全て正しいとは限らないのだ。
知識としては分かっていながら、理解できていなかったことに、りるるは顔を赤くする。
無表情のクロと赤面したりるるは、さらに水路を進むことにした。




