バカとアホ
「聞いて驚くな。俺たちはギルド〈p」
「おい健二!ギルド名出すんじゃねぇ!俺達〈predators〉の名はそんなに安くな‥‥」
「‥‥」
「安くな‥い‥‥‥‥‥あ」
振り返る男の目に、妙に生温いハジャとヨイミヤの瞳が映る。恥ずかしさに顔を赤くした男だったが、幸いにして仮面で顔は見えなかった。しかし、恥ずかしがっていることは手の動きで一目瞭然だ。
(‥‥馬鹿ね)
(‥‥バカだな)
こんなバカに質問をした自分がバカだったと、ハジャは大きくため息をつき、首をコキコキと鳴らす。
赤いフレームメガネの奥の瞳は、最早仮面集団を見てはいない。その後ろの階段のみを見て、ハジャは真っ直ぐに歩いて行く。
不気味な仮面を、背景の一部としかとらえていないようだ。
ハジャの後ろに水明が続く。
長い白髪をゆらし、優雅に歩を進める青年の表情は、先程までの緊迫感が嘘のように穏やかだ。
縁側でひなたぼっこするおじいちゃんおばあちゃんに似た空気を醸し出している水明に、PK達はどうしていいか分からないようだ。
武器を持った腕が下がっている。
(今のうちだな)
ヨイミヤもそろりと一歩踏み出す。
コツ‥‥と鳴った足音に、仮面が一斉にヨイミヤの方を向いた。
「お、おおおおおい、動くなぁっ」
健二と呼ばれていた仮面が、半ば悲鳴の声を上げる。
すでに階段までたどり着いているハジャが、ヨイミヤにヒラヒラと手を振った。
「じゃ、よろしく頼んだわ。」
ハジャが階段の奥に消えていく。
「ハジャさん!?ちょっ‥先輩!これは‥‥」
「一人は生かしておいてくれ。」
「は、はい。いやでも‥その」
水明の姿も階段の奥に消えた。
ヨイミヤは、混乱している頭を切り替える。
味方のいなくなった空間で、ヨイミヤは剣を鞘から引き抜いた。生き返るとはいえ、人を殺した人間に容赦はいらない。
仮面達に完全に包囲されるより前に、ヨイミヤは床を蹴った。
スライディングの要領で前に跳びだし、剣を水平に薙ぐ。PK数人の膝から下が切断された。
1対多数の戦闘では、どれだけ相手の機動力を奪うかが重要だ。
床から跳ね起きたヨイミヤは、左右からの剣を弾き、回復役を探す。
(右斜め前、武器を持ってない‥‥あれか)
「っ‥‥やぁぁぁあぁっ!!」
ヨイミヤの気合いと共に剣が閃く。飛び散る赤い液体の中に、ヨイミヤのものも混じり始めている。
数名いた回復役を全て倒したヨイミヤだが、数の差は埋めようがない。ヨイミヤは油断なく構えながら、目に流れ込んでくる血をぬぐった。
それを隙ととってか突っ込んでくるPKを弾き飛ばし、壁に背中を預ける。
(残り‥‥9人だな)
仮面が邪魔だ、と、ヨイミヤは剣を握り直す。仮面のせいでPKの表情が読めず、人数を減らしているという実感がわかない。
叫び声を上げて、左右から仮面が迫ってくる。ヨイミヤは右の方の仮面に狙いをつけ、胴を払った。その場で回転しざま、背後からの剣の軌道をそらし、右のPKの首を落とす。
固まった左の方も、同じようにして即死させた。
やる方も気分の良いものではないが、仲間の首が転がる様はよほどショックを与えたらしく、残っているPK達の手から武器が落ちる。
その期を逃さず、ヨイミヤはその場の全ての者の首を落とした。
「はぁ‥はぁ‥‥終わったか‥‥」
ヨイミヤは、元の色が分からなくなるほど赤黒く染まった床に座りこむ。
仮面集団は、思っていたよりも強かった。
個々の戦闘力はそう高くはなかったが、連携がとれていたことが理由だろうか。それでも、あの状況下で全員の首を切り落とせたという事から考えると、レベル差は歴然としているのだろう。
ハジャと水明を追おうとしたヨイミヤは、そこで気づく。
(PK全滅させてるな‥‥俺はアホだ‥あぁ)
生き残りがいるはずもなく、ヨイミヤは頭を垂れた。
息をつくヨイミヤの上に、影が落ちる。
「っ!?」
体を横に飛ばし、振り下ろされる剣から身を護ったヨイミヤが見たのは、首を落としたはずの仮面の姿だった。
「‥‥夢か?生き残りがいる‥‥」
「俺のスタイルは〈首切り鬼〉なんだよ。首を取り外すこともできる。」
得意気に言う仮面は、満面の笑顔のヨイミヤに死なない程度にボコボコにされた。




