黒い仮面
水明がするりと立ち上がった。元から立っていたのかと考えてしまう程の水のようになめらかな動きだ。
優しげな表情の水明の右手が淡く蒼に輝き、一冊の本が現れる。藍色の表紙には、この世界の共通語であるシェスト語が書かれていた。
その意味は、「白き災厄」。
長い白髪の青年は、静かにページをめくった。
同時に水明の唇の端から聞きなれない言葉がこぼれる。
「** * *** *」
ページの間から、白く輝く文字が次々と飛び出す。飛び出した文字は、一例に並びながら、水明の頭上を輪を描くように回り始める。
「‥‥いいわよ、水明。」
ハジャの声に、水明はわずかにうなずく。
「*** * * ** (光は照らせ 姿を現せ)」
瞬間、強い光が放たれた。
「わっ‥‥‥!」
あまりの眩しさに閉じた目を、メイリンは恐る恐る開ける。水明の頭上の文字列は消えていた。その代わり‥と、言っても良いのだろうか。
そこには、武器を構えた20人程の人間がいた。初めから発見されるのは予定のうちだったのか、構えに動揺は見られない。
服装も違えば武器もバラバラの者達だが、一つだけ、全員に共通している点があった。
黒い、仮面。
烏を思わせる特徴的な面は、水明とハジャを愕然とさせた。
「なぜ‥‥それを」
「‥‥化けガラスのまねごとかしら?まさかアレが裏切ったとも思えないけど。‥何にせよ、PKなら捕まえて吐かせるのが一番早そうね。‥あなた達は帰ってなさい。」
あなた達と言いながら、ハジャは背後の低レベルプレイヤー達を見る。
五十は自分が足手まといになると思ってか素直にうなずくが、メイリン達数人は、でもっ‥‥と声を上げる。必死そうな表情に、ハジャの瞳が細められた。
「自分の実力ぐらい理解しなさい。それすらも出来なければ‥‥‥死ぬわよ。」
「でもっ、時間がたったら元に‥」
「元に戻るのは蘇生用アイテムがあるからよ。それに、あなた達はもっと大切な事を考える必要があるわね。死への恐怖‥殺されることへの恐怖‥まぁ、これは未経験者に言っても分からないでしょうね。」
(本当は蘇生用アイテムが信頼出来ないのが理由だけど)
本心はおくびにも出さず、ハジャは苦笑した。
苦笑しながらも冷たく光る眼鏡の奥の瞳に、〈光精霊〉の少年が転移水晶を取り出した。それを皮切りに、〈円卓騎士団〉の冒険者は消えてゆき、ついに、水明とハジャ、そして‥‥ヨイミヤだけになる。
その時までヨイミヤは完全に忘れ去られていた。
ヨイミヤいたの?とハジャにまで言われる始末だ。
ヨイミヤの存在に気づかなかったのはPKも同じようで、仮面を見合せて、何やらこそこそ言い争っている。
「ど、どうする?あいつがいるなんて聞いてねぇぞっ」
「や、やるしかねぇだろが!」
眼鏡のブリッジを押し上げながら、ハジャがフッと笑う。
「あら、喋れたの?なら、化けガラスとどんな関係なのか話してくれないかしら?」
主人公出てきませんが、忘れているわけではありません。
次の次あたりに出ると思います。




