その先には
モンスターを深奥部へ入れないよう設置されている扉と、深奥部へ入るための扉の間には、この都市で唯一緑を見ることができる中庭がある。
深奥部となる建造物をぐるりと囲むように存在するこの中庭は、アク・チー・ルーの動力源を制御していた科学者たちの憩いの場所だったという。
その緑にふさわしくない銀色の建物こそが、この浮游都市の深奥部だ。
かさの低いホールケーキの様な形をしている。
1階だけに見えるその建物は地下深くまで続き、最下層には"動力源"があるのだそうだ。いまだ、それを確認した者はいない。
深奥部へ続く扉を、今度はヨイミヤが開ける。
幸いにして、開けた瞬間にモンスターが襲いかかってくるということは無かった。
ゾーン名が〈廃れた浮游都市の深奥:階層1〉へと切りかわる。
中は動力源が生きているせいか、電気が点き明るい。この世界には電灯は存在しないが、このようなゾーンは例外となる。
通路は3叉に分かれていた。
ヨイミヤ達は昨日右へ行き、行き止まりだったので引き返して来ている。先頭を行くヨイミヤは、うかがいをたてるように後ろを向いた。左、と誰かが呟いた。
水明やハジャが何も言わないので、ヨイミヤは左の通路へ足を踏み入れる。
「すいめー、ここどんなモンスターが出るんだっけ」
あくびをしながら言ったのはメイリンだ。水明は記憶をたどるそぶりも見せず、淡々と答える。
「昨日遭遇したモンスターはいずれも機械系。〈歪んだ歯車〉〈動く歯車〉〈双‥‥」
「あら、噂をすれば‥〈動く歯車〉のおでましよ?ヨイミヤ、頼んだわ。」
人任せのハジャの言葉に、ヨイミヤはため息をつき、現れたモンスターの方を向いた。〈動く歯車〉は半径30センチメートル程の歯車そのものの形をしている。ただし、宙に浮いていること、赤いプラズマを放っていることが歯車と違うところだろうか。
このダンジョンでは一番弱い敵だ。
本来、物理攻撃に耐性があるはずの機械系モンスターだが、ヨイミヤが剣を一振りすると、そのまま床に落ちた。
〈円卓〉12席中随一の物理攻撃力を持つヨイミヤと、特殊クエストで手に入れた彼の愛剣は、機械系のモンスターでさえ、豆腐を切るがの如く、たやすく切る。
剣を鞘におさめ、通路を曲がる。
そこには、悪夢の様な光景が広がっていた。
床、壁にぶちまけられた赤い液体。同じ色に染まった、最早その原形をとどめていない人間の死体‥‥
「‥‥な」
「な、なんなんですか‥こ、これっ‥」
水明が死体の一つに近づき、ボロ布となっている服に手を伸ばす。
繊細そのものの風貌をしていながら、血や肉塊を意に介さず、普段と変わらず穏やかに口を開いた。
「これは‥君達の仕業か‥‥で、あるならば容赦はしないが。」




