深奥部へ
ヨイミヤは光の精霊をお守りに戻し、ハジャと共にアク・チー・ルーの中心へ進んで行く。
視認はできないが、予測不能の事態に備えるため、二人の近くにもう一人冒険者がいると、ヨイミヤは聞いている。
不死生物系のモンスターは、倒しても一定時間後に復活するので注意が必要だ。いつどこでモンスターが湧き出るか分からない。気が付けば背後に‥‥という可能性も無いとは言い切れない。
そうなるともうファンタジーというよりはホラーの世界が広がることになる。〈動く死体〉に首筋に抱きつかれた経験のあるヨイミヤは、ぶるぶると首を振った。〈スタイル〉の相性より何より、不死生物のあの感触が嫌いだ。
〔エリアB、エリアC境界付近〈歩く骨〉4体、〈骨兵士〉2体湧出〕
〔第一接触部隊に接触するまで残り約200メートル!〕
脳内に響く声に、ハジャがヨイミヤの方を向く。
「冷却時間は大丈夫かしら?」
「冷却時間は呼び出した時間の5倍なんで‥大丈夫です。」
そう、とハジャは興味無さげにメガネのブリッジに触れた。どこの弁護士だと言いたくなる程の立ち姿だ。
冷たい美貌は男性よりむしろ女性に人気がある。
〔こちらフォスター、エリアAより〈動く死体〉3体、〈剣持ち死体〉2体、〈腐乱した犬〉6体湧出〕
〔第三接触部隊確認しました。せ‥ザ‥‥ザザッ‥ます〕
〔水明っ、エリアB、C境界付近で〈歩く骨〉3体追加ぁ!〕
〔フォスターだ‥エリアA、第二交差点を進んだ地点で〈腐乱した犬〉湧出〕
ヨイミヤとハジャは思わず顔を見合わせる。
おかしい。
普通は、こう湧出が続くことはない。
考えられることは一つ。
誰かがモンスターを先に倒しており、〈円卓〉は間が悪くも、モンスターが復活する時に来てしまった、ということだろう。
〔第一接触部隊、20メートル後方に〈動く死体〉8体湧出〕
「〈サンダー・アロー〉!」
水明の声にほぼ間を置かず、ハジャが射程の長い攻撃呪文を放つ。
100メートル以内であれば攻撃が届くその魔法は、全ての〈動く死体〉を原形をとどめぬまでに破壊した。
〔ハジャよ!この場所には先客がいるようね。一気に都市中央まで駆けた方が良いかしら?〕
言ってる間に、ハジャの背後に1体の〈動く死体〉が湧出する。
〔体形を崩さず都市中央部へ。エリアC監視‥ザッ‥‥〕
ハジャが〈動く死体〉を吹き飛ばし、走り出した。ヨイミヤも続く。
〔戦闘は回避すること‥‥ザ‥ザッ‥隊、ザ‥‥ートル〕
ヨイミヤは光の精霊を出す。何もせずともアンデッド系モンスターのHPを削ってくれるのだ。ヨイミヤは、光に包まれた精霊と、アイテムを売ってくれた黒衣の少女に感謝した。
数分後、ヨイミヤとハジャは大きな扉へたどり着いた。この扉は、動力源のある深奥部へと続いている。
扉のまわりには、蒼い光の結界があり、モンスター侵入不可地帯となっている。
廃都市と深奥部の間にこの扉があることで、アク・チー・ルーのモンスターの分布は分かりやすい。
さらに数分後、
ギルド〈円卓〉のアク・チー・ルー攻略部隊の全ての人間がそろった。14人と小規模ではあるが、第二、第三、第十二席と幹部が3名もそろっている。残りは低レベルであるとはいえ、モンスター相手の戦闘では全くそれを感じさせない。
「おそらく、ギルド〈メービウスの輪〉よ。そこのギルマスが近々ゾンビ映画を撮りに来るとか言っていたわ。‥‥水明、どうするつもり?」
腰までの長い白髪、白群の瞳の整った顔立の青年が小さく笑った。
「‥ギルマスには報告した。問題無しとの判断だ。深奥部への偵察任務は続行。」
水明の言葉に、13人はめいめいうなずく。そして、事前に配布されていた深奥部のマップを広げ始める。
とは言っても、入口付近のつくり、そこで出現したモンスターしか書かれてはいないのだが。
「〈メービウスの輪〉は、どこまで調査してんのかな‥」
〈光精霊〉をスタイルに持つ少年が呟いた。アンデッドへの対抗策の一つとして同行している少年だ。
〈メービウスの輪〉の本来的な目的はアク・チー・ルーの調査だ。そのついでとして映画撮影を行っている。
ハジャは一度その映画を見せられたことがあるが、副業が本業化しているような印象を受けた。
ハジャがメガネのブリッジを押し上げる。
冷たい瞳で少年を見た。
「他のギルドがどこまで攻略しているか、なんて私達に関係があるかしら?〈円卓騎士団〉は、攻略組の一つとはなってはいるけど、それは結果にすぎないわ。私達の本来の目的は、この世界におけるプレイヤー‥‥いえ、〈冒険者〉の地位を確立することだったはずよ?」
少年はわずかに不満そうな表情をし、顔を伏せた。
「‥もちろん、切磋琢磨することは悪いとは言えないわ。その意味では他ギルドと円卓を比べることも悪くはない。私達も行くわよ」
〈光精霊〉の少年は一転、嬉しそうに笑顔を見せる。
ヨイミヤは苦笑いをした。
全く見事な手腕だ。少年の思い違いを正し、その上でフォロー。誰にでもできるものではない。
水明が立ち上がった。ヨイミヤは愛剣の柄を握り、そこで、ふと、水明の手に持つ符の中に、見覚えのあるものを見付ける。
「あれ‥‥先輩、これは」
「あの店のものだ。普段使うことは無い‥が、緊急用だ。」
美貌の青年はおだやかに言うと、鋼鉄の扉に手を置き、あっさりと開けた。ヨイミヤもハジャも五十も、皆中へ入る。水明が手をはなすと、扉は大きな音を立てて閉まった。




