アク・チー・ルー
ーーアク・チー・ルーにてーー
〔敵視認20体〈死肉喰らい〉6に、〈骨兵士〉2、残りは〈動く死体〉っ〕
監視班のメイリンが叫ぶ。
ヨイミヤは腰の剣を音をたてぬよう慎重に引き抜くと、息を殺してモンスターが現れるのを待った。
ヨイミヤの〈スタイル〉は〈黒騎士〉。
アンデッド系モンスターとの戦闘は彼にとって不利なのだが、物陰で気配をうかがうその顔は楽しげだ。
それもそのはず。
今の彼には相棒がいるのだから。ヨイミヤはそっと、首に下げた羽の形のお守りを握った。
「頼むぞ‥」
誰にも聞こえない声で、小さく呟く。
〔まもなくエリアBに突入する‥〈動く死体〉3体追加。合計23体。〕
脳内に響いたのは落ち着いた若い男性の声。〈円卓〉第2席の水明だ。静かなその声がモンスターの接近を知らせる。
〔エリアB突入っ!水明さん、後まかせたよっ〕
〔了解。‥‥〈腐乱した犬〉6体、〈動く死体〉1体追加。合計30体。3つ目の路地にさしかかる。第一接触部隊まで距離約20メートル。〕
〈骨兵士〉の身にまとう鎧の金属音が、ヨイミヤの耳にも届いた。
〔残‥ザッ‥ザザッ‥‥〕
脳内に響く水明の声にノイズが混じる。任意のプレイヤーが脳内で自由に会話できる〈ダイアログ〉は便利な機能だが、近くにモンスターがいると使うことができなくなるのが難点だ。
〔ヨイミヤ、大丈夫ね?3、2、1でいくわ〕
替わりに水明と同じく冷静な声がヨイミヤの脳に響く。モンスターの干渉を受けていないそれは、〈テレパス〉だろう。こちらはプレイヤー全員に備わっているものではなく、特技の一つだ。
〈ダイアログ〉と違い、1対1でしか会話が出来ない。
冷たいと形容して良いその声に、ヨイミヤは赤いフレームメガネの女性を思い浮かべる。
〔分かりました〕
〈円卓〉第3席、ハジャ。その冷静を通り越して冷徹、冷厳とでも言うべき性格は、第2席水明とともに有名だ。
ヨイミヤもそれなりに名が知られているのだが、本人にその自覚は無い。
〔3‥‥2‥‥〕
ヨイミヤは羽の形のお守りにMPを込める。
〔‥‥1っ〕
大通りへと飛び出した。ヨイミヤの目の前にはグロテスクな姿のアンデッド達。そして、ヨイミヤの横には、手のひらサイズの光輝く精霊。光の精霊がそこに存在するだけで、不死生物達のHPは少しずつ削れていく。
「〈サンダー・ランス〉!」
ハジャが破屋の屋根から範囲攻撃呪文を叩き込んだ。〈龍王〉の強大な攻撃呪文で、半数以上のモンスターが倒れる。
残り半数も、ヨイミヤの剣の前に倒れた。
屋根から下りたハジャが、剥ぎ取りナイフと呼ばれる、モンスターの死体からアイテムを得るためのナイフを不死生物達の死体?に突き立てた。
モンスターの死体は、剥ぎ取りナイフを突き立てられた後、消える。
後には、幾つかのアイテムが残された。
「‥へぇ、〈死霊の涙〉に〈擬魂のカケラ〉‥後はクズだけど中々良いわね」
〈ダイアログ〉が再開され、水明やメイリンの声が聞こえた。
〔その体形を崩さず都市中央部へ移動。敵の姿無し。戦場をエリアCへ移動する。〕
〔エリアC、五十って書いてイソです!‥やはり敵の姿確認できませんです。モンスター侵入不可地帯まで残り1キロメートルです〕




