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空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
一章 魔女開放編
8/59

7話 欲しい関係

 食事が終わり。人狼と狐人の死体も回収した。


 人狼の能力を調べた所、基礎的なステータスが犬人族より低かった。しかし、能力は全く同じ物を持っていた。

 犬に負ける狼ってどうよ?とは思ったが、そこは魔物は不思議生物だからと考えて割り切った。

 一人だけ残っていた狐人族の遺骸は後で返してやる事にする。


 俺はまず、ヘルウルフ達を進化させる事にした。自分達の食料を得る為にも強くなってもらわないといけないしね。


 という訳で、一族の合計三十匹からすでに進化した三人を除いたヘルウルフ達を、男女で分けて進化させる事にする。一緒に進化させるのは進化後すぐの時に不味いと思ったのだ。


 結果。凄い疲れる!!二十匹超えた辺りで辛かったけど、俺頑張った!!本当によく頑張った!!


 ヘルウルフ達は全員が美男美女の犬人になった。

 なんなの?異世界はこんなのばっかなの?異世界って目に優しいな。

 全裸状態の美女達をガン見していると、犬人族達は俺の事をキラキラした目で見ていた。力をくれた俺に憧れのようなものでも持っているのだろう。


 ごめん。欲望全開で。


 進化の際に名前もつけようかと思ったが、三十近い名前を思い浮かぶ自信も無かったので、自分達で付けさせる事にした。


 [覚醒]で魔力を大量に使った俺は、自分の鎧を動かすことさえ満足に出来ない程の状態になった。油を差していない機械の如くぎこちない動きだ。


 しかし、俺はその状態からさらに服を二十七人分作った。折角出来た部下を全裸で放置したりするつもりは無いのだ!!


 そして現在、服を全て縫い終わった俺は、虚ろな目で倒れている。指一本動かすのも大変なほど魔力がない。体が怠い。魔力の消耗が疲れに繋がるのはわかっていたが、ここまできついのは初めてだ。


 動けずにいると皆が心配して近くに来てくれた。クロナが提案をしてくる。


「大丈夫ですか?魔力もずいぶんと弱くなっておりますし……せめて、その鎧を取りますか?体勢が楽になると思います」

「ああ、いいよ。中身空なんだ、俺」

「っ!!そうだったのですか!!てっきり中に亜人か魔物がいるとばかり思っておりました」


 これには皆驚いていた。目の光やロケットパンチで人間では無いと思ってたようだ。


「え、えっと。私水汲んできます!!」


 チャノが気を使ってくれた。


「あ、待ってくれ。大丈夫、すぐ回復してみるから」


 そう言って俺は鎧に意識を向ける。その中からオオムカデを選び一番大きな奴を除いて[魔力変換]を試みる。すると魔力が回復した。しかし、なんとか動ける程度だ。

 十匹以上を魔力にしたのだが、この技は俺の元からの魔力が多いから必要ないだろうと、鍛錬をほとんどしていないためにかなり効率が悪いのだ。まともに使えるレベルではないし、もったいないのであまり使いたくなかったがこの状態は厳しい。今回は仕方ないだろう。


 腕を回してみる。


「ん~。なんとか動けるかな。悪いが今日は休ませてくれ。動くのがつらい」

「わかりました」


 クロナが代表して返事をした。


 そして、そこで横になっていようと思ったが……視線が凄い。中央にいたために皆が見てくるのだ。これは嫌だな……。


「どこかゆっくり出来るところは無いか?」

「それならば、あの岩陰などどうでしょう」


 指し示された場所は崖に接している大岩の裏だった。入って来た方向からだと死角になる場所だ。


「ああ、ちょうど良さげだな。そこで休ませて貰うよ」


 そう言って俺は横になって休んだ。休んでいる間に洞窟の居場所について聞いてみたが、皆知らなかった。せめて洞窟が確実に無い場所を探ろうと、森の周囲の事を訊いてみた。すると、狐人族はたまに町に行くために森を出るらしいが、子供達は出たことが無いらしく、犬人族に至っては森から出たことも無いらしい。収獲はほぼなかった。

 時間が経ち、昼前になって岩陰からでて驚いた。


 なんとホノサウルスの死体が三匹転がっていたのだ。


「これどうしたんだ?」

「はい。ジン様に頂いた力を試す為にと狩ってきたのです。

 以前では我らの一族でかかってなんとか倒していたのですが、進化すれば、今では五人程の連携で危なげなく倒せます。ジン様の実力の足元にも及ばぬ力ですが、どうか利用してください」


 力試しか。ガヤガヤやってると思ったよ。しかし、ホノサウルスって意外と強かったんだな。ヘルウルフの一族総出で戦うレベルなのか。


「わかった。考えて指示させて貰う」


 この世界に来たばかりの俺には、敵の強さがいまいち分からない。適当に指示を出して死なせないようにしなければ。


「とりあえず今日は狐人族の集落に行く。そして俺はそのまま旅を続けるつもりだ。だからお前らはここにいてくれ。どうせ戻ってくるから」

「そんな!!我らもお供させて頂けないのですか?」

「大人数だと動きづらいからな。だから、ダメだ」

「なら少人数ならいいのですね?」


 付いて来る気満々だな。まあ一人くらいならいいか。話し相手は欲しいしな。


「そうだな。一人なら許そう」


 俺がそう言うと犬人族全員の手が一斉に上がった。


「なら私が!!」

「いや、俺だ!!」

「私に決まってんじゃない!!」

「!!」


 皆がそれぞれ自分を売り込む。

 セキトよ、逆立ちでアピールしても大して意味ないぞ。話せよ。


 それにしも、俺の人気が高い。これはもしやクラスの人気者状態か!!


 嬉しさに浸っていると。頭に「称号【人気者】を獲得しました!!良かったね!!」という自分の声が響いた。


 待て。良かったねって何?こんな一言ついてきたりすんの?というか、これだけで称号つくの?お手軽だな、おい。


 とりあえず[理解]にて能力を調べてみる。


【人気者】[意識]周りの者に意識させる事が可能。


 ふむ、使い所が色々ありそうな能力だ。


 少し考えている間に、犬人達が戦闘態勢に入ろうとしていた。

 やばい。このままではバトルロイヤルとかやりそう。


 俺は早速[意識]を使ってみた。

 皆がチラチラ俺を見る。効果はあるようだ。


「みんな聞け!!俺に付いて来るのはチャノにする!!チャノいいか?」

「も、もちろんでふっ!!」


 あ、噛んだ。顔真っ赤にして悶えてるよ。頑張れ。


「な、何故ですか!!ジン様」

「まず、少し前に会った、性格の分かる三人に絞った。次に、クロナには残った者をまとめるために残ってもらいたいから除外。セキトは無口だから森の情報について心許ないから除外。よって残ったのがチャノだけだった。だからだ。いいな?」

「……わかりました」


 チャノ以外の犬人族が落ち込んだようにしている。

 セキトはブリッジしながら顔を両手で覆っている。

 それって落ち込んでんの?


 このままにするのは可哀想なので、俺は約束で元気付けてやる事にする。


「皆、約束だ。しばらく会えないが、また俺は戻ってくる。だからまた会う為にも、それまで誰も死なないでくれ。いいか?」


 俺がそういうと、皆は顔を上げて返事をした。


『『『はいっ!!』』』

「良い返事だ。絶対また会おう」


 犬人族を纏めるのにクロナを任命して後を任せ、俺とチャノ、そして子供達は集落に向かって移動を開始した。







 道のりは案外楽に進めた。集落は森の外側にあるらしく、結界から離れるように進んで行く事になったのだが、森の外側に行く程、魔物は弱くなっていったのだ。まれに襲って来る魔物はいたが、それは俺が速攻で殺した。

 子供達には变化で指輪になってもらい、チャノが嵌め、さらにチャノを俺がおぶってスピードを上げた。チャノも速く、スタミナも多いのだが、どうしても疲れてしまうのでおぶる事にした。

 胸が当たっていたが、別にそのためにおぶっているわけじゃないよ?


 集落は安全の為に大きな洞穴を掘って作っているんだとか。異常なスピードで進みながら話をしていると、すぐに入り口が見えた。子供達だとまる二日はかかっただろうが、俺が常時走り、昼前に出た事もあって何とか日没前に辿りつけた。


「あれがそうか?」

「そうなんよ!!わっち等の集落なんよ!!」

「そうか。じゃあそろそろ下ろすぞ」


 柔らかい感触が背中から無くなってしまった。残念だ。


 チャノが指輪を外して地面に置くと、子供達が全員元に戻った。そして、笑顔を浮かべて走って行く。俺達もついて行ったが、洞穴の中を見て驚き、俺は足を止めた。


 入り口辺りは鉄臭く、床も壁も血の後が生々しく残っていたのだ。


「こ、これは……」

「人狼達との先頭の後でしょうね。きっとここで戦闘をしたんでしょう」


 俺はこの光景を見て子供達が泣いてしまうんじゃないか。そう思った。しかし、子供達は嬉しそうに走っていた。いや、嬉しそうでもあったが、悲しそうでもあった。どちらもが混ざり合ったような表情だった。


「泣かないんだな……身近にいた同族が殺されたのに……」

「いちいち思い出すたびに泣いてられませんよ。この森では仲間が死んでしまうなんてよくあることですから。今は自分が生きて帰れた事を喜んでいるのでしょう」

「そうか……」


 この森の奴らはこんな事に耐えられる程心が強いのか。俺は魔物の敵なら平気で殺せると思う。ただの魔物なら殺されたって悲しい思いをする事は無いと思う。けど、もしも人間が死んだら知り合いで無くてもきっと辛い。

 だけど、『もしも』魔物である彼らが人間と対立でもして、更には殺されでもしたら俺はどうするんだろう。


 いや、俺はこれを経験している。


 晴彦の死で経験した事がある。


 今は仲良くなれた犬人族達や子供達それにフィアなんかが殺されでもしたら、辛くって耐えられなくって、晴彦の時と同じようにまともな思考もせずに殺しに行くだろう。

 でも、そんな事を起こさせるつもりは無い。あんなに辛い思いはもうしたく無い。今度は助けてみせるさ。


 俺は『もしも』の出来事が起こらないで欲しいと思いながら、暗い道を進んで行った。




 洞穴の奥はそれなりに広かった。中にはおそらくだが、竪穴式住居のような藁で出来た家が十個程で円になっており、中央は広場のようになっていた。


 広場ではおそらく家族であろう人達と子供達が涙を流して喜び合っていた。そして俺とチャノは黙って見ていたのだが───


「侵入者だ!!戦えない奴らを逃がせ!!見た目からしてきっと俺たちをいたぶり殺すつもりに違いない!!一人でも多く逃がせ!!」


 狐人族の一人が騒ぎ出した。

 侵入者だと!?くっ!!何処だ。何処にいるんだ。


 キョロキョロと当たりを見回す。しかし、侵入者が見当たらない。洞穴の中は暗いが、転生した俺は明るさなど関係なく視界を確保する事が出来る。 故に、単純に死角にいるのだろう。


 俺はそう考えてチャノに注意を促す。


「チャノ。油断するなよ。何処に隠れているかわからないからな」

「あの、その……えーっと」


 チャノが言いにくそうに目をキョロキョロしている。

 その間に侵入者を見つけたのか、狐人族達は戦闘体勢で俺たちの近くで構える。

 わざわざ俺たちを囲むようにしてくれるなんて、今さっきやって来ただけの奴らになんて優しいんだ。


「その……ジン様」

「どうした。チャノ。いたのか?」

「その……ですね……」


 チャノが言葉を詰まらせる。

 言いづらい事なのか?こんな時だ。遠慮すんな。


「小さな事でも気づいた事があるなら遠慮すんな。ほら、言ってみろ」

「はい……侵入者って私達の事だと思います……」

「……」


 知ってるよ。俺達に向かって武器構えた時点でほぼ確信してたよ。でもさ、もしかしたらって思いたいじゃん。いたぶり殺すような奴に見えるって思いたくないじゃん。


 あぁ、そういえば。中学の時に不良が肩にぶつかって来たから睨んだら、「ひぃ!!すすすすいません!!三雲様だと気づかなかったんです!!いたぶるならせめて意識を飛ばしてからに!!」って言われたな。あいつ隣のクラスの番長だったのに情け無さすぎるだろ。次の日には「三雲がとうとう学校を締める」って噂が出て、色んな先生から戦争の虚しさについて聞かされて面倒だったな……。


 思わずため息が出る。どうしようかと悩んでいると女性の声が洞穴に響いた。


「待ちなさい!!その方達は我らの恩人。武器をすぐに下ろしなさい」


 声の主はゆったりとしていながらも鋭さを感じさせるような人で、見た目は十七、八歳くらいの綺麗な少女だった。


 狐人族はざわつきながらも武器を下ろしていった。


「お初にお目に掛かります。族長のウルと申します。この度は私の妹のトト、そして五人の子供達を救って頂きありがとうございます」


 こちらに向かって歩いてきて、綺麗な動作で頭を下げた。上げた顔には薄っすらとした微笑みがあって親しみやすさを感じさせた。


 トトの姉という事は、死んだ族長の娘だ。おそらく親に変わって族長をついだのだろう。


 俺はウルさんの対応を見て驚きを隠せなくなり、思わず後ずさった。


 初対面で俺にビビらないだと!?ど、どどどどういうことだ。夢?夢かな?でも俺転生してから眠らない体質だぞ。くっ!!どうなっていやがる。とりあえず落ち着け。よく見てみるんだ。なにか。なにかあるはずだ。


 俺はウルさんを足元からゆっくりと見ていく。


 足は……震えてない。逃げ腰にも……なってない。手は……あっ!!きつく握ってる。ドンドン指先が真っ青になるくらい強く握ってる。おぉ。という事は必死で恐怖を押し殺してるのか。この人凄いな。俺を初対面でここまで耐えられるなんて。……俺って一体……。


 考えに没頭していると、ウルさんが声を掛けてきた。


「どうかなさいましたか?私がなにか失礼をしましたか?」


 あぁ、平気を装っても血の巡りは制御できないか。顔が青い。返事もしないでごめん。ちょっと自分について考えてたんだ。


「いや、大丈夫ですよ。私はジン・ミクモです。それよりも力を抜いてください。手に血が回っていませんよ」


 歳上のようなので敬語を使う。更に名前の紹介は異世界で不自然にならないようにした。

 俺が手について教えてやると、ウルさんは無意識だったのか、気づいて少し驚き、さっと手を後ろに回した。


「教えて頂きありがとうございます。少し緊張していたようです。子供達のお礼をしたいのですが、少しお時間よろしいですか?」


 ふむ、お礼か。死骸と植物しか持っていない俺にすれば嬉しいな。特に期待はしていなかったのだが、ここは素直に受け取っておこう。


「はい。大丈夫です」

「そうですか。ではこちらへ」


 ウルさんは未だに震える血色の悪い手を、一番大きな住居へと向けた。






 住居の中は大人が入るとギリギリくらいの高さだった。しかし、それは普通の大人だ。二メートル超えの鎧となった俺には狭かった。中腰の姿勢で中央へと進む。


「狭い住居で申し訳ありません。お許し下さい」


 申し訳無さそうな顔をするウルさん。


「気にしないでください。私が大きすぎるせいですから」

「ありがとうございます。では、そちらにお掛けください。今水をお持ちします」

「ああ、私は飲み食いが出来ないので必要ありませんよ」

「そうでしたか。では、お話を始めましょうか」


 俺とチャノとウルさんは藁を束ねた座布団っぽい物に座った。


「改めて、子供達を救って頂きありがとうございます」

「いえいえ。いいんですよ」


 まともにお礼を言われるってなんだか恥ずかしい。


 俺は手をブンブン振った。ウルさんは俺を見て微笑み。それから真剣な表情になった。


「お礼の件なのですが……その前に一つ、お願いを聞いていただけませんでしょうか」

「お願いですか?」


 なんだろう?『集落が襲われないようにヘルウルフを殲滅してくれ』とかだったらもう大丈夫だけど。


「はい。トトからここが人狼に襲われた事は聞いていますか?」

「聞いています。何人も死んだらしいですね」

「はい。実は、そのすぐ後に私達はラピッドタイガーの群れに襲われたのです。唯でさえ人狼によって肉体的にも精神的にも疲弊していた私達にはどうする事も出来ませんでした。

 奴らはここの食料を全て持って行き、更には残っていた子供達も全て攫っていきました。そして奴らはここを離れる際にこう言いました。「我等の事を人狼共に知らせるな。もし知られるよな事があれば子供を全員殺す。加えて、毎日我らに食料を譲渡せよ。満足の行く量に足らぬ度に子供を一人殺す」と。

 私達は子供達を見捨てることも出来ず。目を付けられているここに未だにいます。どうか我等をお救いください」


 ふむ。そのラピッドタイガーとやらは、明らかに人狼の襲撃の後を見計らって来たんだろうな。厭らしい奴らだ。そんな奴らを黙らせるくらいなら簡単に出来るだろう。しかし、何故この話を今した?お礼の前に頼みに来るという事は関わりがあるのか?


「そうですか……それでは、そうした場合のお礼はどうなるのでしょうか?」

「お礼は……」


 ウルさんは少し悩んだでいたようが、決意したらしく、しっかりした面持ちで俺を見た。


「人狼の事とラピッドタイガーの事。この二つを合わせて私自身を報酬にしたいと思います。不釣合いだとは思いますが、集落には支払える物はありませんし、他の者にはこのまま過ごしていてもらいたいのです。殺されようとも奴隷として扱われようとも、どんな事も受け入れてみせます。ですから、どうか」


 ……クロナ達の時でも思ったけどさ。皆自分の扱いが軽くない?ウルさんに至っては奴隷宣言だし……いや、それ程この世界が厳しいのか?死ぬより辛い事があったとしても、皆の為に耐える決心をしなければならない程に。とんでも無い世界だな。もっと平和な世界であると信じたい。奴隷制度とかありませんように。


 俺は考え、答えた。


「嫌です」

「そ、そんな!!なら……後何人出せばいいのですか……」


 ウルさんは顔を真っ青にして。苦々しい表情をしている。

 その発想をやめて欲しい。俺は奴隷など欲しくない。俺が欲しいのはもっと別の関係だ。


「人数を増やそうと一緒です。そんな条件飲む気はありません」

「そんな。では……何があっても受け入れてもらえないという事ですか」


 ウルさんは俯いてしまった。今にも泣き出してしまいそうだ。

 この年齢で重大な立場を背負っているのだ。湧いた希望が消えてしまうであろう予想に絶望を感じているのだろ。


「いやいや。そんな事は一切言って無いでしょう?」

「えっ?」


 バッと顔を上げて今にも涙が零れそうな目を俺に向ける。


「見返りが無くたってこの集落は救ってやるさ。初めは期待してなかったしな。それに、俺は言うことを聞くだけの奴隷欲しくない。気楽に話せる仲間が欲しいんだ。だから友達になってくれないか?」


 敬語を止めて、普段どうりに話しかける。俺は手を差し出した。


 俺が欲しいのは友達だ。元の世界では俺は怖がられてばかりで友達は少なかった。だからこそ欲しいのだ。

 しかし、だれでもいい訳ではない。俺が友達になるのはいい人であり、これから仲良くできると感じた人のみにしている。

 クロナとセキト、チャノは友達兼配下というよく分からない関係だが、彼女達はそう感じた。

 そして、ウルさんもそう感じた。だから友達になって欲しい。


 ウルさんは口をポカンと開けていたが、やがてホッとして気が緩んだのか、涙を流しながら両手で俺の手を包むようにした。


「ええ、喜んで。よろしく。ジン」


 ウルは泣きながらも、綺麗な笑顔を浮かべていた。

読んで頂きありがとうございます。

少しづつ増えていく登録数がとても嬉しいです!!

書き溜めていた話が無くなったので、これからは不定期更新になると思います。

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