表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
一章 魔女開放編
7/59

6話 人狼の力

「グハハハハハハ!!俺様の前に立ってしまった。これがお前の失敗だ。大人しく死にさらせ!!」


 人狼のリーダーが涎を垂らし、ヘルウルフよりも断然速いスピードで突っ込んで来る。

 その牙が後数メートルで届く距離まで迫る。そして───


 ───それ以上進まなかった。


「な、なんだ!?これは!!」


 人狼のリーダーの腰には蔓が巻かれていた。俺から伸びた蔓が。


「脳筋バカが。真っ直ぐ敵に向かって突っ込むな」


 俺はこいつが攻撃を仕掛けてくると同時に蔓を前方に張っておいた。そして、蔓によって勢いを殺しつつ腰を縛ったのだ。


「くっ!!甘く見るなよ!!このような物私の爪で切───」

「そんなに甘い事はさせるわけないだろ」


 俺は他にも伸ばしておいた蔓で手足を縛ってやった。蔓三本で動きを封じて宙に浮かべてやる。


「な!?ふ、ふん!!爪など使わずとも引き千切ってやるわ!!」


 焦りながらも腕と足に力を込める。しかし、解けない。ジトカ草の蔓は一本で体一つ持ち上げられるほど太くて丈夫だ。それを何重にも巻いているのだ。簡単に解けるわけがない。


「お前の負けだ。最後に言い残す事は?」

「ふん!!まだだ!!私は本気を出していない!!」

「それが最後だな。それじゃあな」

「なにがそれじゃ───」


 それ以上人狼のリーダーが話す事はなかった。なぜならゆっくりと近づけていたもう一本の蔓が首をへし折り、腰に巻いていた蔓が体をくの字に曲げさせていたからだ。息もできず、内臓もめちゃくちゃ、これは死んだだろう。


「よし。終わりだな。他の奴らはどうする?」


 人狼達やヘルウルフは勿論、犬人達や狐人族達まで、皆が固まった。あまりに一方的で容赦の無い殺し方だった。


 俺は蔓を離して人狼のリーダーを地面に落とした。ベチャッという音で腹心達が意識を取り戻したのか、立ち上がる。


「貴様!!卑怯な!!我らが本気で潰してやる!!」


 卑怯とか言われてもな……待ってても危ないだけだし。


 腹心たちが地面に降りてくる。ヘルウルフ達は固まったままだ。


「うおおおおおお!!」


 なにかしようとしているのか、踏ん張って気合を込めているようだ。だが、隙だらけである。

 蔓六本で首6つ。速攻で六匹殺すために首を締めながら地面にたたきつけてやった。頭蓋骨が砕けて中身が飛び出す。

 残り二匹は驚きながらも宣言していた本気とやらになったのか、さっきの人狼リーダーより少し速い速度で突っ込んできた。


 俺はジトカ草との一体化をといて、ホノサウルスとの一体化をする。

 一瞬にして蔓は消え去り、代わりに三本目の角が生える。


「しねええぇぇ!!」


 一匹は側面に周り、もう一匹が叫びながら殴ってきた。しかし、俺にダメージは無い。何故なら殴った奴の手は溶けているから。


「ぐああぁぁ!!」


 二の腕辺りまで無くなり、腕を押さえながら後ろに飛び退こうとするが、その前に高熱化した左手の手刀で首を溶かし切る。トトの刀でも良かったのだが。此方を使うには距離が近すぎるので、高熱化を選択した。


「おのれ!!」


 最後の一匹が距離を取ってこちらの出方を窺う。俺は特に動かず、一体化をオオムカデに変え、左の拳を向ける。そして、拳をぶっ飛ばす。

 それだけで頭の左半分が吹き飛んで死んだ。

 オオムカデの能力はそのままだと大した能力では無いが、[覚醒]による全力使用ならばロケットパンチでもある程度はコントロールが出来るようになった。ただ、魔力消費が激しく、集中力がいるので疲れるのだ。

 拳は飛んでいった威力を利用して俺の元まで来て地面に落ちた。腕と連結して辺りを確認する。もう襲って来る者はいないようだ。


 圧倒な勝利だった。もし、人狼が犬人みたいに人間に近ければかなり躊躇ったかもしないが、見た目が魔物なので特に問題無かった。いままで戦ってきたのと同じように戦った。トトの刀は一回も使わなかったが、復讐とかに拘る奴でも無いだろうし、良いだろう。


「良し!!終わり。特に強くなくてよかった。後は狐人族を集落まで送ってやればいいよな?」

「……」

「トト?」

「へっ?あっ!!はいっ!!」


 トトは慌てながら答えた。

 何に慌てているんだ?


「ジ、ジン様。今のは……いったい」

「ん?俺の能力だよ。後、もう倒したし俺達は友達だろ?敬語も使わなくていいよ」

「はい。わかりました……」


 もう友達なんだから敬語なんていいって言ってるのに。丁寧なやつだ。


「トト。俺に遠慮せずに皆の所に行ったらどうだ?」

「分かりました!!」


 何故敬語……俺結構『んよ』口調好きになってきたのに。


 トトは刀から元に戻り、友達の元へと走って行った。転けそうになるほどの全力疾走だ。嬉しそうでなによりだ。


 さて、とりあえず死体を吸収するか。


 俺は死体に向かって歩き出した。すると何故か皆がビクッとした。不思議に思い足を止めて見回す。皆が固まる。よくわからなかったのでまた歩きだす。またビクッとなる。


 なんなんだ……。


「なあ、クロナ何だか皆がおかしくないか?」

「おそらく……皆さっきの圧倒的な戦いを見て怖がっているんだと……」


 え……また怖がられてるのか……なんかやだな。


「俺は怖くないよ~。安全だよ~」


 大きめの声で皆に言ってみる。しかし、反応がない。


 くっ。寂しい。空気が重いな。


「あの……よろしければヘルウルフを集めて話がしたいのですが、少し向こうに行ってもよろしいでしょうか?」


 そう言ってクロナは森を指した。


 この空気を変えられるなら勿論いいさ!!


「いいぞ」

「ありがとうございます」


 礼を述べてからクロナは森にまで聞こえるような大きな声で言った。


「私はヘルウルフから進化した者だ!!お前ら!!会議を開くぞ!!全員森で集合しろ!!」


 その声に反応してヘルウルフ達が一斉に森に向かって駆け出した。おそらく森に出ているヘルウルフ達も集まるだろう。


 残ったのは俺と狐人族の子供達だけだった。近づこうと思ったが、トトとの出会いを思い出す。このまま近づけばまた心を折られる可能性は十分ある。どうするべきか……。


 悩んでいたが、トトから声がかかった。


「お、お兄さん。こっち来るんよ~」


 掠れ声だった。

 たぶん今必死だな。でもありがとう。その優しさが嬉しい。


「わかった。今行く」


 そう言って子供達に近づいていく。すると段々と子供達の顔が青くなって行く。

 大丈夫か?これ。


『ねぇ。トトちゃん。本当に私達を食べたりしない?』

『そんなことしないんよ。安全なんよ』

『僕らも殺されたりしない?』

『大丈夫なんよ。お兄さんはわっちらを助けに来てくれたんよ。優しいんよ』


 小声のやりとりが聞こえた……。

 すげぇビビられてる……トト、フォローありがとう。


「お兄さん。助けてくれてありがとうなんよ」


 少しの間に落ち着いたのか、元の調子に戻ってお礼を言ってきた、トトがペコリと頭をさげる。続けて子供達も頭を下げながら感謝を伝えてくる。


「おう。どういたしまして。怪我とか無いか?あったら見せてみろ」

「あ。なら、この子を見てあげて欲しいんよ」


 そう言って指差された先には、腕に痛々しい歯型のある子どもがいた。


「あ~。これは痛そうだな。ちょっと貸してみろ」

「えっ。あの。僕は大丈夫……」

「無理すんな。すぐ直してやる」


 俺はアリガタ草との一体化をして、腕の傷に手を当ててやった。


「うわ。す、凄い」

「治ったみたいだな。他は大丈夫か?」


 俺の治療術を見て驚いたのか。他の子供達も興味を持ち、傷を見せてきた。トトも実は傷があったらしい。言ってくれれば良かったのに。


 全員の怪我を治し終わる頃には皆と打ち解ける事ができた。


「お兄さん凄いね!!僕もそんな風になりたい!!」

「私ももっと強くなりたい!!そうしたら皆を守ってあげるの!!」

「トトちゃんは強くなっていいな~」

「フッフッフ。これもお兄さんのお蔭なんよ!!」

「「「「「そうなの!?」」」」


 キラキラした目が此方に向いてくる。気分良い。

 え~。もう、仕方無いな~。特別だぞ?


「良し。お前らもやってやろう」


 そして子供達全員が仙狐人へと進化した。


「やったあ!!ありがとう!!」

「お兄さんは凄いや!!」


 俺を褒めながら子供達が抱きついてくる。

 こ、これは!!近所の優しいお姉さん状態か!!俺にこんな日が来るなんて!!幸せだ!!


 鎧になっていなければ、顔が緩みまくってそうな程の嬉しさに浸っていると、ヘルハウンド達が戻ってきた。先頭にクロナが出てきて口を開いた。


「ジン様。一族全員を集め、決めました。どうかわれらを配下にしてください。必ず役立ってみせます」

「え?」


 会議ってそれだったのか?どうしてそんな事になってるんだ。


「いや。待て。どうしてそんな事になってる」

「ジン様の強さに我らは感服しました。我々にはもう長はいませんし、誰に従う事も自由です。どうかお願いします」


 ……っく!!皆の目がウルウルしてる。断りづらい。可愛い見た目のワンちゃんがそれは反則じゃ無いか?でもな……三人に関しては、友達が配下ってのもな。


「でもお前ら友達だし」

「ならば我等三人は友達兼配下で!!」


 友達兼配下ってなんだ。まあ……いいかな?配下であっても友達には変わり無いし。今までみたいな扱いに親しさも混ぜるみたいな感覚でいいだろう。


「それならいいぞ。好きにしろ」

「ありがとうございます!!」


 ヘルハウンド達が嬉しそうに跳ねまわる。

 ……この数が配下か……俺が扱いきれるかな?……まあ、いっか。

 不安が浮かぶが、ここは流れに乗っておく事にする。


「では、早速食料を調達してきます。ジン様の為に命を賭けてホノサウルスを狩ってみせます」

「命って……第一どうしてホノサウルスなんだ?もっと弱い奴がいるだろ」


 ホノサウルスは俺に向かってくる程の強さだ。ヘルハウンドよりも格上のはずだが、何故そいつを狙うのか分からない。


「あいつは脂がよく乗っておりながらも、肉はしっかりとついているのです。ここいらで一番の旨い肉なので、ジン様に是非と思いまして」


 なんと、あいつそんなに美味しかったのか。


「そっか。でも、そいつならわざわざ狩りに行く必要は無いぞ」


 鎧からホノサウルスを一体だけ出してやる。


「おお!!こ、これは」

「俺が殺したホノサウルスだ。食べていいぞ」

「我らに気を使って頂き、ありがとうございます!!しかし、一番はやはりジン様が頂いてください」

「ああ、俺食べられないんだよ。遠慮しなくていいぞ」


 そうなのだ。俺は今は鎧のみ。勿論、消化器官も無い。食べたくても食べられないのだ。


「そうですか。それでは遠慮無く」


 クロナがそう言うと、ヘルハウンド達と犬人族が一斉に群がる、そしてそのままかぶりつこうとする。


「ちょっと待て!!」

「えっ。な、何でしょうか?」


 待てをされた犬のように必死に我慢するヘルハウンド達。皆涎をダラダラ垂らしている。セキトに関しては軽く捻った蛇口のようだ。

 下の子にかかってるから止めなさい。


「そのまま食うつもりか?」

「何か問題でしょうか?」


 こうなるのも当たり前か。ヘルハウンドの状態で料理なんて出来るわけがないもんな。しかし、焼くだけでもかなり味が違うのだ少しだけ待って欲しい。


「少し待ってくれ。トト、火でホノサウルスを焼けるか?」

「焼けるんよ。真っ黒にすればいいんよ?」

「いや、俺が止めたらやめてくれ」

「わかったんよ」


 ヘルハウンド達を離れさせ。肉を焼いてもらう。

 ヘルハウンド達は何をしているかわからずに、不思議そうにしている。


「ストップだ。トト」


 こんがり焼けたホノサウルスが出来上がった。いい匂いがする。


「よし。お前ら!!今度こそ食っていいぞ!!」


 俺の声と同時にヘルハウンド達がさっきを上回る速度で突っ込んでいく。


「こ!!これは!!」


 クロナが驚いたような声を上げる。周りの者も驚いているようだ。


「柔らかいだろ?どうせなら食べやすくしようと思ってな」

「ありがとうございます!!」


 お礼を言ってガツガツ、モリモリ、ムシャムシャと食べる。

 本当は臭みを抜いたほうががいいかもしれないが、例え調べてそれが必要だとしてもおそらく待てないだろう。


 人が嬉しそうに食べているのは嬉しいものだ。


 美味しそうに食べているところから目線を外すと、子供達が羨ましそうに肉を見ているのが見えた。


「お前らも食べていいんだぞ?お前らだけ食べるななんて言わないさ」

「本当なんよ!?ありがとうなんよ!!……でも、あの中には入れそうも無いんよ」


 俺の言葉に嬉しそうにしたが、すぐに戻ってしまった。確かにあの中に突っ込んだ所で弾かれて終わりだろう。


「それもそうだな……少し待ってろ」


 俺は拳より少し大きいサイズのホノサウルスの肉を取り出した。それを高熱化にて、おむすびのように握りながらしっかりと焼いていく。出来たのは中までしっかり火の通った肉の塊だ。それをトトに投げてやる。


「うわ、熱いんよ!!」


 手の中でコロコロ転がして熱さを耐えている。俺は今ホノサウルスと一体化しているために。高熱化の熱さに耐える体となっている。その為、肉の熱さなどは大したことも無いため、意識していなかったのだ。


「ああ、すまん。熱かったか。でも美味しいはずだから我慢してくれ。他の子もすぐに作ってやるからな」


 そう言って量産してやる。作っている内にトトの肉が冷めたようで、肉にかぶりついた。


「っ!!美味しいんよ!!柔らかくって食べやすいんよ!!」


 丸一日食べてなかったろうからな。よかったな。

 しかし、この反応だと、もしや狐人族も生が当たり前なのか。料理の文化の遅れが凄い。


 他の子供達も食べ始め、嬉しそうにしていた。


 皆美味しそうに食べるな……。俺も食べたいな。でも、俺は鎧だから食べられないんだよな。


 俺は転生してから一度もなにも食べようとしていなかった。しかし、食欲を掻き立てられ、肉を口に運ぶ。……兜の口の辺りに肉が当たった。

 すると、なんと肉の味がした!!


 に、肉だ!!肉の味だ!!味覚も再現されるのか!!だけど……。


 肉の味はした。しかしだ。前世で慣れきった調味料が恋しい。さらには、味がするのみで、噛むことは出来ない。想像して欲しい。肉をひたすら舐めることしか出来ない状況を……。


 味だけはあるんだ。良かったと思おう……。


 悲しい気分になりながらも、俺は皆が食べ終わるのを待った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ