1話 魔女との出会い
目が覚めると、そこは洋風の豪華な飾り付けがされた大きな部屋の中だった。
体が重い……
少しボーッとしていると、自分が眠りについてしまう前に何が起こったのかが一気に思い出された。
晴彦が……刺された!!そうだ!!刺されたんだ!!それで俺は……ッ!!
焦って一気に起き上がる。相変わらず体が重く感じるが大して気にする程では無い。上体を起こしてすぐにとんでも無い光景が目に入った。
「……俺?」
俺の目の前に俺の死体が転がっていたのだ。服には四つの穴が開いており、血が染み付いている。左側の頬は血によって真っ赤に染められている。 見ていると酷い有様だが、顔だけは満足そうに笑っている。
これだけ見れば何か成し遂げて死んだであろう事が物語られているのだが、自分が死に際だというのに美女を見て喜んだ挙句、格好つけて死んだと思うとなんだかとても恥ずかしい。
いいじゃん。死ぬ前くらい思いっきり格好つけたってさ。本当に綺麗な人だったし。俺必死だったし。格好つけてたとか気付かなかったし……言い訳じゃないからね?
しかし目の前にあるのは俺の死体だ。傷の位置から血が付いた位置までそっくりそのままだ。
いったいどうなってんの?幽体離脱?幽霊にでもなった?俺今日から成仏するために旅に出ないといけないの?何か後悔残してたっけ?あれか?作りかけのクマさんのぬいぐるみか?それとも童貞の方か?正直、童貞よりもクマさんのぬいぐるみの方が後悔残ってんな。今更だけど、俺の青春ってなんだっけ……。
おっと、本題を忘れる所だった。危ない危ない。結局目の前の死体はなんだ?と言うか、今の俺の体どうなってんの?
目線を下に向けつつ穴の開いたはずの部分を触ってみる。
まず、腹はなんか黒い金属でした。腕も金属で、カンカン鳴らしながら触っています。なのにいつもと同じようにお腹を触る感覚がします。どうしたんですか?俺のお腹は硬い腹筋を通り越して金属ですか?
如何、如何。慌てて敬語になっていた。落ち着け。腹は確認した。次は頭だな。倒れた時に結構強く打ってたけど大丈夫かな。
触ってみた。角が二本生えてた……。
生えるってなんだよ……しかも角が手と当たってるの分かるし……。
まず、俺人間なの!?もうわからねぇ!!
「どうなってんの!?」
「私があなたを魔物のゴーストナイトとして転生させたの」
後ろから綺麗な透き通るような声で返答がきた。
なん……だと?
俺が魔物に転生だと……そんなファンタジーな事がこの俺に起こったというのか!?というかこの声誰?
バッと後ろを振り返る、ビクッと震える涙目の銀髪灼眼の美女がいた。
そしてその美女は死に際に見た人物であった。
「……誰?」
「……」
「……おーい」
美女はハッと意識を取り戻し、姿勢を正してゴホンッと咳き込んでさっきの事を無かった事にしようとした。
無駄だよ?しっかり頭に残ってるよ?別に怖がられるの慣れてるし、隠さなくたっていいんだよ?何もしてないのに警官に止められて、怖い犯人の顔写真とかで何回も見てるはずなのに、ビビりながら職質された事が何回もあるぐらいには慣れてるよ?あれって毎回ダブルで凹むんだよね。
「わ、私は、フィア・ネイロン……見つめないで……怖い……」
見つめてなどいない。ただ目を合わせただけである。
ふむ、凄い美人さんだ。どこの国からきたのだろう?フルフル涙目で震えているのも可愛いさを増しているな。
もうちょっとみたい気もするが、可哀想になってきたのでフィア・ネイロンさんを視界の端にいれて目を天井に向けてあげる。
「フィア・ネイロンさんか……それで何だって?」
フィア・ネイロンさんは声を震えさせながらも答えてくれた。
「え、えっと。あなたが庭にいきなり出てきて死んじゃいそうになってて、だから、魂を鎧に定着させたて助けたのよ。方法はゴーストナイトの生まれ方を元に考えてみたんだけど、思考とか感情とかも全部移したから安心してくれていいと思う」
ふむ、中二病さんかな?俺もファンタジー好きだけど、間近でみるとちょっとびっくりだ。
でも、目の前に死体あるしな……俺の体金属だし、マジなの?異世界来ちゃった?でも信じるしかないよな。夢ってわけでも無いだろうしな。銃で撃たれた痛みも、血を吐く痛みも本物としか思えなかった。何よりも、今の感覚が夢とも思えない。床の石の冷たさとか気持ちいいしな。
異世界に来たのか~。なんだろう。凄い自然に受け止められるな。やっぱ角かな、決め手は。
「そっか。助けてくれてありがとう」
「ど、どういたしまして」
エヘヘと顔を赤くして頬を掻いている。
遠慮がちな性格なのだろうか?命一つ助けたんだからもっと誇っていいと思う。
「でも、よくそんなに自然に受け止められたわね?あなた異世界から来たんでしょ?私は異世界人って初めて会ったんだけど、もっと慌てるかと思ったわ」
「ん~。まあ、体が鎧だし、目の前に死体あるし、何より生きているんだから良かったー!!ってのが強いからかな。ところでさ、他に誰かいなかった?」
「他に誰か……?いなかったわ」
「そっか……」
他の皆はいなかったのか……残念だ。
とにかく俺だけでも助かったんだ。そこを素直に喜ぼうじゃないか!!
しかし、何気に俺を異世界から来たといったな。どうしてわかったんだ?
「どうして俺が異世界から来たってわかったんだ?」
「称号を調べたのよ」
「称号?」
「うん。知らないの?もしかして異世界って称号無いの?」
フィア・ネイロンさんがまさかといった表情を向けてくる。
「いや、あるけど……称号なんてただの呼び名だろ?パッと見て分かるもんじゃないだろ?」
「う~ん。もしかして世界事で意味が違ってくるのかしら……詳しく言うとね───」
どうやら、この世界では称号はそのまま力に繋がるシステムらしい。持っている事で不思議な力が使えたりするんだとか。
手に入れる詳しい方法は分からないらしいが、方法は様々で、獲得時には頭に自分の声が響くんだとか。これは俺も死ぬ前に聞いた。
そしてフィア・ネイロンさんは称号を調べる事ができるらしく、俺が持っている称号を調べて異世界の人だと判断したそうだ。
「俺の称号ってどんなのだったの?」
「えっと、確か、【ゴーストナイト】と【異世界人】、後は【覚醒を促す者】だったかな」
ふむ、【異世界人】と【覚醒を促す者】は死ぬ前に聞いたな。【ゴーストナイト】は転生してついたのだろう。
「因みにどんな能力とかって分かる?」
「うん。分かるわよ。えっとね──」
一つづつ説明を受けた。
【ゴーストナイト】…[防具操作]自身の宿る防具を操作可能。
【異世界人】…[会話成立]会話能力を持つ、あらゆる生物と会話可能。
【覚醒を促す者】…[目覚め]対象を目覚めさせる事が可能。
[覚醒]対象の能力を最大まで引き出す事が可能。
[理解]対象の能力を知ることが可能。
との事だ。どれもいい能力ではないだろうか。[会話成立]とか結構嬉しい。英語苦手だったしね!!
「これって、なかなか良い能力何じゃないか?」
「うん。私もそう思う。特に【覚醒を促す者】が凄いわね。色んな物をたった一つの称号で正しい使い方を理解した上に、適正無視して最大の効果を引き出せちゃうもの。後はあなたが使いこなせるかどうかね」
確かに知ってると、使いこなすでは大きく違う。やっぱり努力って大切だな。
ところで、今更な気もするがここはどこだろう?フィア・ネイロンさんの家かな?
「いまさらだけどここってフィア・ネイロンさんの家なの?」
「うん。そう。ついでに言うとあなたはとっても久しぶりのお客さんなの。さっきは慣れてなくて驚いちゃってごめんね」
フィア・ネイロンさんは初めははオドオドしていたが、今でではもうハキハキ喋ってえくれている。むしろガンガン話に来てくれている。
初対面でこれだけ話してくれる人は今まで無かったかもしれない。怖がって皆逃げていったからな……泣きたくなんてなっていない。
「ああ、大丈夫だよ。驚かれるのは慣れてるから。でも、久しぶりってどのくらいなの?」
ひとしきり質問攻めをしたので一旦休憩したい。知らない事を詰め込むのは疲れるのだ!!ということで世間話に移すべく、何気ない事を訊いてみる。
「う~ん。百五十年位かな?」
「えっ!?」
休憩するつもりがとんでも無い事を訊いてしまったようだ。
気になったので詳しく訊いてみた。
どうやらフィア・ネイロンさんはとても凄い魔女らしいのだが、一緒に住んでいた部族ごと皆殺しにされかけたらしい。そこで部族の皆がフィア・ネイロンさんだけは殺させまいと屋敷に入れて結界を張って誰も入れなくなったらしい。そこで部族は全滅したが、フィア・ネイロンさんさえ結界からでれずに困っていたらしい。
因みに、久々の会話だったのでどう接したらいいかわからず、最初にすぐ話しかけられなかったのもそのせいらしい。
「大変だったんだな~。あっ。もしかして敬語使った方がいい?」
「敬語なんていいわよ。それよりも友達になって!!私、もっとお話がしたいの!!」
「良し。じゃあよろしくな!!俺は三雲ジンだ。ジンって呼んでくれ」
「やった!!じゃあ私はフィアって呼んで」
そこからは色々話をした。
この世界の話、俺のいた世界の話、フィアの過去の話、俺の過去の話。とにかく色々だ。
丸一日は話しただろうかとても楽しい時間だった。フィアの反応は面白く、知らない事に興味津々だった。今まで話相手がいなかったのだ。くだらない事でも嬉しそうに聞いてくれた。
俺は一つ、フィアが閉じ込められた話を聞いてから気になっていたことを質問をしてみた。
「フィアってさ、ここから出たい?」
「そりゃあね。結界の効果が切れるまでずっと眠ってばっかりなのよ、魔法で簡単って言っても飽きちゃうわ」
フィアは百五十年間ずっと、何か結界内に異常がない限り眠り続ける魔法を使っていたらしい、だが一年もすれば起きるために何度もかけ直しているのだ。暇で仕方ないのも当然である。
因みに、魔女の種族は魔力を栄養に変えられる上に、さらに老化も魔力で抑えられるらしい。魔女のスペックが半端ない。だが、それ故に部族が狙われ、滅ぼされたのだとか。
「じゃあさ、どうにかして出れないのか?手伝うぞ。命の恩人であり友達だし、遠慮しなくていいぞ」
「そうね……あるにはある」
フィアの顔が何故か曇る。
「なんだ?その言い方は。出たくないみたいだぞ」
「ううん、違うの」
フィアは躊躇ったように少し言葉を詰まらせてから、また話しだした。
「その方法がね、ここから離れたところにある洞窟の装置を壊すことなのよ」
「別に遠くたって行ってきてやるさ。そんなことくらいなら遠慮するなよ」
フィアが不安そうな顔で質問してくる。
「ありがとう……でもね……また会いに来てくれる?」
フィアはせっかくできた友達がいなくなってしまうことが不安なのだろう。だからこそ躊躇ったのだ。だが、そんな事の答えなど決まっている。
色々話して分かった。フィアは良い奴だと。
そして、久しぶりにできた友達に喜んでいるこいつを悲しませたりなんかしたくない。
女の人は笑っている顔のほうが俺は好きだ。それだけで十分。俺の前じゃ笑ってる奴なんてそうそういないかった。だから少しでも増やしたい、少しでも守りたいと、そう思うのだ。
俺は笑顔を作って答えてやろうとした。
しかし、鎧なので表情が変わっているかわからない。感情が伝わるか少し不安だが、ここは勢いに乗っておく。
「絶対に会いに来るさ」
俺の返答にフィアは安堵と嬉しさを交えたような、うっとりしそうな程の綺麗な笑顔をした。
称号システムにより異名とかで呼べるようにしてみました!!
はやく黒騎士と呼ばせたいです。