デスクリスマス
最強のエンターテイメントを目指しています。そこそこのエンターテイメントになっています。
☆クリスマスが近づいているクリ
「はやくしないと、はやく、リア充ぶっ殺し炸裂弾つーか、拡散型爆弾を同時多発的に、起爆させて、苦しみながら死ぬ、非人道的な行為をしないとだめクリ」
出須栗男は、悪意をまき散らしたい。
だけどそれは、十二月のだけの話。
普段はとっても優しい出須栗男。
道端におばあちゃんが倒れていけば、おぶっていき
「どちらまでいくクリか?」と、優しく声をかけるほどで、迷子の子供がいれば
「俺がついてるから安心するクリ。おーい、パパママ、カワイイ息子が泣いてるよ」
その他、たくさんの、心優しいエピソードがあるけれど、十二月になると、殺しの革命家になるのだ。
「ぶっ殺すクリ。どいつもこいつも、幸せそうにしているやつはぶっ殺すクリ!」
原因はいまのところ判明していない。
友達などの考察によると、十二月のために殺意を、常日頃に本来どんな人間にも多少はおきるはずの殺意を、完全に黙殺させた反動が、十二月に集約されるという、説が一番の有力となっている。
友人の一人が、十二月のことをうっかり忘れて
「クリスマスイベントを俺達で立ち上げようぜ」
といったら、もう大変。あとちょっとで、血の雨が降る事態まで話は発展した。
「あんだとこら! ぶっ殺されたいクリか!? それともなんだ。クリスマスイベントってのは幸せそうなカップルを次々と目に映った瞬間にぶっ殺す事件のコードネームクリか? 半端な気持ちで俺を誘うと、まずお前からぶっ殺すクリよ!」
いつも温厚な出須栗男から出た言葉だったので周りの人間は二種類に分かれた。
近場にいた、偶然立ち聞きしたヤンキーグループによる、クリオ粋がっているシメルって意見と、本来の友達、十二月は近寄ってはだめ、っていう気の使い方の二つの考えだ。
ヤンキーが出須栗男を睨んだ。
いつも温厚な出須栗男は、首を上下に揺らしながら
「なにメンチ切ってんじゃいクリ!」
とすごむから、これはやばい、ってなって、友人達がヤンキーグループをなだめる形で、事は収まった。
とにかく、十二月の出須栗男に近づいたらやばい。大変な事件に巻き込まれる。やばい。
出須栗男は殺意を押さえられず、行動にでる。
「ぶっ殺すクリ、どいつもこいつも、ぶっ殺すクリ。とにかく、爆弾を造るクリ。リア充を爆発させるクリ」
心に憎悪を秘め、秋葉原に部品を買いに行く。
部品を買いに秋葉原に行ったはいいが、誤算があった。
爆弾の作り方の本は買って読んだけど、電機系の専門用語で、意味がさっぱりわからなかったのだ。
現地にいって、店員に聞けばある程度はなんとかなるかなと、完全現場主義な気持ちでいったが、甘かった。大甘だった。
「部品がほしいっていわれても、名称もなにも知らないんだったら売りようがねえってものよ、ちゃんと調べてからきな」
どこの店員もそんな感じで、どうしようもない。
出須栗男はあせる。
「まいったクリ。このままじゃ、クリスマスイブまでに、カップル殲滅作戦が出来ないクリ。まいったクリ」
神田方面から中央通りを歩いて、ドンキホーテを過ぎたあたりで声をかけられる。
「さっきから、君を見てたけど、爆弾を作りたいそうじゃないか。僕に任せてよ。協力するよ」
見知らぬ人間にいきなりしゃべりかけられて、一方的に協力すると言われても、きついな。
当然胸の内はそうだが、出須栗男には、時間がない。クリスマスイブまでに、非人道的な悪魔兵器を作り設置をしないといけないのだ。冷静な判断などできない。
「あなたのような、人間を待っていたクリ。さあ、一緒に、浄化爆弾で、聖夜を性夜に変えたアホ共をぶっ殺すクリ」
「はい、そうしましょう」
そんなこんなで、爆弾作りが開始された。
作るのはそいつ、秋葉男である。
まず、爆竹から火薬を取り出す。何キロも何キロもだ。気が遠くなるほど、細かい作業だ。作業は秋葉男にまかせる。
出須栗男は作戦を練らないといけない。
「とにかく、ぶっ殺すクリ。幸せなカップルをぶっ殺すクリ。とにかく、人が多いところが狙いどころクリ。沢山の人間を破壊するクリ。六本木辺りはいけすかないクリ」
アジトである、栗男の六畳一間で二人で密かに企んでいる状況だ。
「やい、秋葉男。やっぱり、リア充共は、六本木でイルミネーションを見るんだクリか? ならば、イルミネーションのLED部分に、つまり、光を発している部分を起爆させる形にしたいクリ。くたばる直前に、イルミネーションが十数倍ほど光って膨れあがり、ロマンティックな気分を増幅させてあの世の逝かしてやる、栗男様からのプレゼントというオツな、感じのテロルで絶命させてやるクリ」
秋葉男は爆竹を解体する手も止めず、クールに何も感情を帯びてないように言う。
「栗男君さ、僕達はリア充を殺すんだよね? リア充だけを殺すんだよね? ならばその案は却下だ」
「なんだと! なんでだクリ!」
栗男はわなわなと震え秋葉男の言葉をまった。
「だって、それだと、イルミネーションを見ているアベックカップルだけではなく、さびしいけど、綺麗なイルミネーションだけを眺めたい独男や、キャンドル純のような光好きや、スキルアップをしたいアマチュアカメラマンも殺すことになってしまう。それに、イルミネーションを作りだす光職人たちに、事件後、多大な迷惑をかけることになってしまうよ」
わなわなと震えていた栗男は一変、しょぼんとなった。
「たしかに、たしかにそうクリ。それはだめクリ」
「ああ、僕たちは確固たる美学を持っている。殺すのはリア充だけだ。それも、調子にのったリア充だけだ」
「そうクリね」
首謀者である出須栗男を完全抑え込んでいる状態は奇妙だが、栗男が納得している。
「わかったクリ。六本木はやめにするクリ。そもそも、よくよく考えたら渋谷があったクリ。渋谷のやつらはもれなく、死んでいいほど調子に乗っているクリ。一人残らず爆発させていいはずだクリ」
「それはどうかな!」
秋葉男は今度は爆竹解体の手を止め不敵にほほ笑んだ。
不敵と書くだけなら、簡単だが、この頬笑みは金が取れるほどの、一芸に秀でたほほ笑みと認識してほしい。
「なんだクリ! かっこいい笑い方するな! 羨ましいクリ。オレもそんな笑顔をしたいクリ」
「そのうち栗男君ならできるようになるさ。僕のように深い思慮ができるようになればね」
「ずいぶんえらそうだけど、たしかに、それほどまでの笑顔をできる人間なら、言う資格あるクリ。まるで、長年生きているかのような、豊潤でコクのある、摩訶不思議かつイヤミでない人物のようだなと、バックグラウンドを連想させる笑顔だったクリもんね」
「それは誉めすぎだよ」
謙遜しながらもまんざらでもない秋葉男だ。
「で、渋谷をぶっ殺すのになにか問題があるクリか?」
「あるよある、大ありさ。僕は渋谷をぶっ殺すのは賛成しない。確かに、確かにさ、渋谷は調子に乗ったバカで愚かなカップルが跋扈しているだろう」
「じゃあぶっ殺すクリ!」
栗男は激昂した。フレーズに反応するほど、キテイルのだ。しかし秋葉男がなだめる。顎からにょろりと生えている無精ひげを触りながらなだめる。
「でもだ。考えてみてくれ。渋谷は人が多いしカップルも多い。だからだ。だからこそだ。ほぼ百パーセントのカップルは死んでもいいが、死んではだめな素晴らしい、運命的な軌跡で結ばれたカップルもいるんだ。無差別に殺していいはずはない」
何かにピーンときたように栗男は目を見開いた。
「たしかに、たしかに、運命的な、アニメの主人公的な劇的なカップルはこの世に存在するクリ。すると、無差別に爆弾でぶっ殺してから、後悔することもあるクリ」
「そうだろう」
秋葉男はまたもや無精ひげを引っ張りながら微笑んだ。とても包容力のある微笑みだ。心なしか、ほんのさっきよりもひげが伸びている。
「危なかったクリ。自分の行動に後悔だけはしたくないクリもんね」
「そうだよ、無差別に爆弾テロルはよくないよ。もっと、効率よく、間違いなくふざけたリア充共をぶっ殺さないと。いい案はないかな?」
「そうクリね。考えるクリ」
二人は頭をひねった。
秋葉男は爆弾造りを止めて、頭をひねった。
ひねった、ひねった、ひねりまくった。
学校にも行かずに、ひねりまくったけれど、爆弾を使って、ピンポイントで、腐れリア充だけを殺すのは無理だと結論をだしたくなってしまうほど何もでなかった。
気が付けば、クリスマスイブまであと二日とせまっていた。
そうなのだ。ひねったといっても、何もしないで頭をひねるのは難しい。なのでモンスターハンターを二人で仲良く楽しみながら、頭をひねっていたら、プレイ時間が二百時間を超えていた。
そして、あまりいい案がないまま、時限爆弾も造れぬまま、今にいたったのである。
「困ったクリ。二人のチームワークはPSPを通してものすごくよくなったけど、リア充をぶっ殺す、悪魔的な作業は何もできなかったクリ」
「確かにな。PSP内では、モンスターを無差別的に殺して、武器を作って試し切りのために、またモンスターを殺して、悪魔的な行為をしていたが、本来の目的は全く進んでいないな」
「まいったクリね」
「ああ、まいった」
今二人がいるところは、あいもかわらず、アジトである栗男の六畳一間だ。彼らは、結局のところ、家から一歩も出ずに、ここ十数日を過ごしたことになる。
分かりやすく言うとゲーム廃人だ。
眼は虚ろ。髭はたっぷりと蓄えられている。
「おい、秋葉男。お前の髭、すごいことになってるクリよ。頭を逆さまにしても、髭が頭髪になる、だまし絵みたいになっているクリ」
「ふふふ、その言葉、栗男君にそのままお返しするよ。まあ、なんだ、皮肉なようだが、サンタクロースのようだな。白髪ではないが」
「ははは、おもしろいことになったクリね」
はっはっはっはっと、二人は高笑いをした。
「もう、時間がないクリ。悪魔的な兵器で、無差別的にぶっ殺してやろうかと思ったけど、もう、四の五のいってらんないクリ」
「ああ」
「秋葉男よ。俺らのこの手で、この足で現場に赴き、この目で殺していいか、殺してはだめかを判断し、どんどんぶっ殺してやろうクリ。そうした方が早いクリ。ヒューマンハンターだクリ」
「たしかに、確かにそうではあるが栗男よ。リスクが半端ないぞ。すぐに警察につかまる。とても頭のいい判断とはいえない」
秋葉男の冷静で現実的な意見を聞いて栗男は遠い目をした。
まるで、サバンナの草食動物のような目だ。
「大丈夫だクリ。もう、もういいんだクリ。僕はクリスマスをデスクリスマスにするために、この世に生を受けたクリ。これまでに十六回のクリスマスを体験したクリが、なんだかんだで、人を殺したことがなかったクリ。ここらで一発、どかんと殺して、セブンティーンで大輪の花を咲かせ散ってしまおうか思うクリ。おしまいにするのも、潔くてかっこいいクリ」
「バカ野郎!」
バシン
秋葉男は平手で栗男を殴った。
「痛いクリ! なにをするクリ!」
痛みのよる不快感から反論する栗男である。
秋葉男はゆっくりと口を開いた。
「あきらめたらそこで試合終了だよ」
「そんな、名セリフを、今いったところで、感動しないクリ! つーか、試合じゃねえから」
「悪い。だけど、お前、栗男君、君がアイデンティティを捨て去るようなことをいうから……」
「捨て去ってないクリ。ただ、来年はもう豚箱入りだって覚悟を決めただけクリ。殴られる筋合いはないクリ」
「いいや、今のお前はただやけを起こしているだけだね。へんないいわけをするなよ」
「……そんな事、……ないクリ」
それから、秋葉男は無言になる。なぜか、沈黙に意味のある雰囲気である。
しーんとした二人の感じが、固定しかかったころだ。
「……僕、いやワシ」
黒いアゴひげを頭髪ほどに蓄えた秋葉男がぽつりと漏らし始めた。
「ワシだと? 何をいっているクリ」
「ワシは、実はサンタだ」
「は? 寝言は寝て言えクリ」
すると、秋葉男の蓄えたアゴひげが、見る見るうちに白くなっていく。
そう、その姿は、まるで、
「ワシ、本当はサンタ」
真実を告白した秋葉男に対し、栗男は怒りに震えた。
超振動ブレードのように小刻みに震えて、顔も真っ赤にして、今にも爆発しそうだ。
どすの利いた声ですごむ。
「おい、てめぇ、言うにことを書いて、サンタだぁ!? ふざけんじゃねえクリ。俺を騙しやがったクリね! ぶっ殺してやるクリ!」
そういうと、爆発したかのような、勢いで、サンタである秋葉男にとびかかった。
効果音でドッギャーンってなるほどの速度である。両手広げ、掌をかぎづめのように、尖らして、襲いかかったのである。
しかし、相手はどうやらサンタ。どこからか取り出したのか、白い袋を手にし広げる。
すると、袋はみるみるうちにでっかくなり、六畳一間の五十パーセントの体積を占めた。
爆弾のように弾けたクリオは逃れる術もなく、投網に捕まった魚のように、あっさり確保をされ、勝負はついた。
「ほっほっほっ、若いな」
大きな白い袋は、クリオを入れたまま、みるみるうちにでかくなる前の大きさに戻る。
「不思議な袋じゃろ。三次元など、目じゃないわい。なんといっても、世界中の子供たちのプレゼントを入れることが可能なサンタ特性プレゼント袋じゃからのう、ほっほっほっ」
三十センチ四方の大きさに袋はなった。それでも、クリオの声がする。
「なんだこの白い部屋は! ふざけんじゃないクリ! 出せクリ! てめえ、クソサンタ、殺してやる。ぶっ殺してやるクリ!」
白い袋の中から声が漏れた形になる。
「おおコワ。穏やかじゃないね」
「てめえ、俺をだましたクリね! ひどい奴だクリ、やっぱり、クリスマスはクソだクリ。許せねえでクリ。仲間のフリして近づいて、この仕打ち、悪魔だクリ!!!この白い部屋から出すクリ!!!!!」
喉がつぶれてしまうほどの、叫びである。
サンタは、袋の中を覗いて、クリオに話しかける。
「別にだましたわけではないぞ。クリスマスなんて、クリオ君が言うとおり、クソじゃ」
クリオにとって、意外な言葉をサンタが吐いた。驚きを隠せずクリオは叫ぶ。
「おいこら! なに調子いいこと言っているクリ! 俺をこんな目にしておいてふざけるんじゃないクリ!」
「ふざけてなど、いないよ。そもそも、とんでもない勢いで襲いかかってきたのは、クリオ君、君じゃないか。自己防衛をしたまでじゃ」
「ああいえば、こういうクリ! じゃあ、一体なんの目的で俺に近づいたクリ!」
白い髭を撫でながら、サンタは喜びを隠せないフルテンションの表情でいう。
「よくぞ、聞いてくれました。ズバリ、最近のガキどもは、ワシの存在を否定しただけではなく、クリスマスを口実に、愛もない、肉欲だけのダメなセックスを繰り広げ、悦に浸っているから、ぶっ殺してやろうかと思っているわけじゃ!」
それをきいて、一瞬の間をおいて、白い袋の中で、クリオは恍惚の表情を浮かべ、叫んだ。
「それって、それって、つまり、サンタさん、あんた、俺とおんなじクリ!」
それをきいて、一瞬の間をおいて、白い袋を覗きこみながら、サンタは満面の笑みを浮かべ言った。
「そういうことじゃ! 同志よ」
そうして二人は仲直り。
サンタはクリオを袋から出してあげて、改めてあいさつをする。
「すまんな、クリオ君。いきなりサンタとばらしたら、仲良くなれるもんもなれんと思ってな。時間をかけたが、ようやく、今こそ、本当のデスクリスマス作戦を考えよう」
「ふふふ、時間はかかったクリね。ほとんどモンスターハンターをしただけだけど、あれがあったからこそ、俺たちは信用できる仲間になったクリ」
二人は両手を掴み合い、誓う。
「クリオ君、調子にのったカップルを殺そう」
「そうするクリ。時間はあまりないけど、作戦を練るクリ」
こうして、時間は過ぎていき、ついにクリスマスイブになる。
☆クリスマスイブだクリ
何の因果かわからんが、二十四日は朝から小雨がぱらつき、夕方になると寒さはマシ、まんまと、ホワイトクリスマスになった。つまり、雪が降ったということである。
普段のクリオならば、この段階で、怒り猛り、手の付けられない暴れ牛になっていただろう。だが、心は冷静であった。
「ついにこの日が来たクリね」
雪が降る、暗黒の中、屋根の上に鎮座したクリオが邪悪な笑みを浮かべた。
「ほっほっ、まるで、デスクリスマスを演出する死の灰のようじゃな、今年の雪は」
隣にいるサンタはふくよかな笑顔である。しかし、目はまったく笑っていない。
時刻は十九時、街灯も照らさぬ田舎道の家の屋根で二人は待機をしている。
「しかし、サンタよ、あんたの力はすごいクリ。氷点下のこの気温の中で、まるでストーブの真ん前にいるかの如くあったかいクリね」
「ほっほっ、そりゃそうじゃ。ワシの能力じゃからな」
屋根に鎮座している、クリオは立ち上がる。よく見ると足元が屋根に触れていない。浮いている。
「しかも、空も自由自在に浮遊できるなんて、素晴らしいクリ。人間じゃないクリ」
「ほっほっ、サンタは人間より上の生き物じゃからな。奇跡だっておこせるわい」
「そんじゃいっちょ、この奇跡の力で、調子のったカップルをぶっ殺しに行くクリ」
「そうするかの」
っていって、バビュン。
二人は邪悪な宣言をして瞬間移動をしたのだ。
二人にとって、人間を殺すのはたやすい。サンタの手にかかれば赤子の手をひねるほどのたやすい。
むしろ赤子の手をひねるのは難しいと思う。なぜなら、母親が常にガーディアンのように守っているからである。
そんな中、赤子の手をひねろうものなら、血が舞うほどの惨事になるのは容易に予想できる。
つまり、一人暮らしの大学生が、チンコをいじるほど容易い。に変えた方がよいと筆者は思う。
話の腰を折ってしまった。ストーリーを続ける。
瞬間移動先は東京の世田谷区だ。その中でも豪邸中の豪邸を彼らは最初のターゲットに選んだ。
「くっくっくっ。ボンボン共がクリスマスパーティをしているクリ。最後の晩餐とも知らずに浮かれているクリ」
クリオの言う通り、世田谷区の豪邸でクリスマスパーティを行ってる奴らは浮かれていた。
なぜなら自分らは選ばれし金持ちだと思っているし、それは間違いではないからだ。
多角的に光輝く高級なシャンデリアは、水晶でできているし、飾られている絵画は中世ヨーロッパの貫禄ある、本物だし、トルコ産のテーブルクロスは、一生モノの強度を保有しているし、料理の七面鳥は美味しんぼに出てきても海原に愚弄されないレベルだった。
描写するのが面倒なほど、ドレスも立派でタキシードも半端なかった。
社交パーティを兼ねたクリスマスパーティで、会場には五十人ほどの人数が集まっていたのである。
そんな中、クリオとサンタは宙に浮かび、窓の外から覗いているのだ。存在を誰にもばれていない。
「くっくっ、たまらんクリね、浮かれたあいつらの顔が恐怖に変わる瞬間が見ものだクリ」
クリオの口からよだれが垂れて、積もった雪を少しだけ溶かす。
「いかんいかん、思わずよだれが垂れたクリ」
「ほっほっ、落ち着きなされ。ワシらがぶっ殺すのは浮かれたカップルだけじゃからな」
相変わらず目が笑っていない、笑みを浮かべたサンタだ。
「そうクリね、おや?」
パーティに参加している人物をみて、クリオは発見をした。
「どうした、クリオ?」
「顔見知りを見つけたクリ。クリスマスケーキをがつがつ食っている子供が見えるクリか?」
「ああ、十歳くらいの坊主がいるな」
「あいつ、先日百貨店で迷子になっていて、泣いていて、俺が親を一緒に見つけてあげた奴だクリ」
クリオにとってはまさかの運命のいたずらである。
「驚いたクリ。東京にはたくさん人間がいて、ほんじょそこいらのすれ違う人間とはもう、二度と会わないものかと思っていたけど、意外と会うもんだクリ」
「ほっほっほっ、偶然もあるもんじゃな」
ガキはケーキをたらふく食べて、しょっぱいのがほしくなり、七面鳥に手を伸ばした。
「百貨店で、迷子になっていたわけだけど、あいつ、こんなに立派なパーティに出席できるほどの金持ちだったクリか」
サンタが言う。
「なんの因果かのう」
クリオはは思い出すかのように目を細めた。
「そういや、あいつをを両親の元に届けたら、お礼として、あとで、マカロンを送ってもらったクリ」
「ならば、まごうことなき金持ちじゃな」
やはり、マカロンは高くておいしいから、金持ちの象徴だと筆者は思う。
サンタは邪悪に笑う。
「顔見知りならよかった。クリオ君、あのガキからぶっ殺すとするかの。景気付けに」
「え!? 何を言ってるクリ」
クリオは邪悪なサンタの言葉に驚いた。
具体的なターゲットを見つけ、邪悪さがよりましたサンタは提案をする。
「何って、デスクリスマスだろ? あのガキをぶっ殺そう。ワシの能力を貸すし、誰にも気づかれずに殺せるぞ」
「あいつをなんで殺す必要があるクリ。俺らが殺すのは、調子に乗った、クソカップルだけだクリ。あんな子供は対象外だクリ」
「はぁ? 意味がわからんのう。ワシだから言えるんじゃが、あのガキは危険じゃぞ。まず、顔がいい。ジャニーズ顔じゃ。モテルぞ、間違いなく。モテル人生が待っておる、あの小僧は」
「別に、その時、あいつが調子に乗っていたら、殺せばいいクリ。将来性とかどうでもいいクリ」
「あきれたのう。何をいっておるか。来年も再来年も、デスクリスマスをやるつもりか?」
「そりゃあ・・・」
「明日の事を考えて、デスクリスマスを行うつもりだったとは、あきれたのう。死に物狂いでやるのかと思っておった。買いかぶっておったわい」
「・・・くっ!」
「さあどおなんじゃ? 殺すか殺さないかとっととするんじゃあ」
なんでだろう。さっきまですごく楽しかったのに、今は全然楽しくないクリ。
心の中でクリオは変化に戸惑った。
「まあ、待つクリよ、サンタよ。確かにデスクリスマスを開催するわけだけどクリ、あの子供は参加者の資格を持ってないクリ」
「何を言っておるんじゃ? リア充ぶっ殺し炸裂弾つーか、拡散型爆弾を同時多発的に、起爆させて、苦しみながら死ぬ、非人道的な行為をするんじゃなかったのか? ワシの経験則から見ると、あの子供は二年後にはあっさりと童貞を喪失するぞ? 同級生とな」
「…な、なんだ、と!?」
言葉が出ないとはこのことである。
サンタは追撃をする。
「するぞ! しかも、同級生といったら、小六じゃな。ロリとショタで、すけべえな世界が繰り広げられるわけじゃ。けしからんのう」
「……たしかに、け、けしからん、クリ」
クリオの声は震えていた。ブルブルと途切れるように、扇風機の前で声を出すように震えていた。
だけど、震えているのは、クリオだけではない建物全体が、いや、正確には東京が揺れていたのだ。
高級のシャンデリアの水晶と水晶がぶつかりあい、激しく音を響かせ、その音が、混乱を増幅し、テーブルの上のジュースは無残にこぼれ、男も女も地震だと判断し駆け回り、パーティ会場は喧騒に包まれた。
「子供のうちからセックスとは、もっての他クリ。あのガキ、両親とはぐれて泣いていたクソガキが!」
青白い顔色で、クリオは会場に降り立った。
二人は空中浮遊を解除し地面に降りた形になるが、震源地はクリオだ。揺れは激しさを増す。
「ぶっ殺してやるクリ、クソガキ」
静かにだが、内は激しく燃えていた。
だが、だ。
「あ! お兄ちゃんだ!」
ガキはにぱぁと、笑いクリオに近づく。
「お兄ちゃん、この前はありがとう!」
その笑顔はまるで天使のようだと、百人いれば百人がそう思う笑顔である。
瞬間、クリオに正気が戻る。
「お前、俺のこと覚えているクリか?」
「あたり前ジャン! お兄ちゃんは僕の恩人なんだから」
優しい言葉に刺激され、クリオの顔に人間味が戻る。
それでも、地震は止まらない。
「クリオよ、騙されるでないぞ! そのガキはいうなれば、メガプレイボーイじゃ。今は純真なクソガキじゃが、二年後には女を魅了する技に開眼し、とんでもない、スケコマシになるぞ! 何千年と生きているワシにはわかる!」
サンタは、唾をとばしながら訴えた。
クリオは揺れていた。
「だけど……今は純真な子どもクリ。デパートではぐれたら泣いてしまうような子供クリ。今はぶっ殺す必要ないクリ」
「お兄ちゃん、何を言ってるの? 地震怖いよ、一緒に逃げよう?」
説明すると、今起こっている、地震は震度6ほどであって、なぜ起こっているかというと、クリオの身体の振動と、地球の核が共鳴をしていて、ブルブルと震えているのだ。
あまりの揺れに、もはや、ケーキは床にぶちまけられ、クリスマスツリーは枝が何本ももげて、ガラスは割れ、室内と室外の温度差から気圧変化が起き、ものすごい風が巻き起こっているのだ。
ようするに大惨事である。
パーティ会場にいた、金持ち共は、蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。
サンタは叫ぶ。
「おい、クリオよ! ワシの地獄耳でこの場にいる人間どもの状況を把握した。聞いて驚け。人間どもは、今のパニック状態をまるで、映画の中かなんかだと勘違いしている。そして、自分らは決して死ぬことのないエンターテイメントだと、信じて疑っていない。わかるか? あいつらは、けっして自分が死ぬわけはないと高をくくっているんだ。許せるか? 許せないよな」
クリオの表情は上の空だ。沢山の情報が入り乱れオーバーヒートを起こしそうなのだ。
目玉を限界までおっぴろげたサンタは続ける。
「わかるか? 今もこの状況で、近場にいた男女で、いちゃいちゃとじゃれあいながら手をとりあい、心の距離を縮めているんだよ! お前とワシの存在がまんまと恋を高める遊具にされているんだよ! 許せんじゃろうが! クリスマスを汚した淫獣どもが!」
サンタの叫びが終わるやいなや、クリオを震源とした地震はさらに、勢いをました。
すると、視覚的にも、すっかりクリオは化物となった。
まず、クリオ自身が赤黒く変化し表情は見えない、身体にはオーラのようなものが、ハンターハンターでいうと、念みたいな感じで纏っているのだ。
当然、ハリケーンがクリオを中心に起こり、とても、人間ではない。怪物だ。
「お兄ちゃんどうしたの? なんか、赤黒くなってるよ!」
心配して駆け付けたガキはクリオの念能力のようなオーラで近づけない。
「うわあ、なんだこれ、近づけないよ」
「おいガキ! 俺に近づくんじゃないクリ。下手すると死ぬクリよ」
「え?」
サンタが横槍を入れる。
「殺すんだよ! お前がぶっ殺すんじゃろが! クリオよ、貴様はなんだかんだいって、人を殺したことないだろ! 実際に殺すんじゃ! そのガキを!」
「お前はうるさいクリ!」
後ろを振り返りつつ、そういってクリオは右手を振りかざした。
すると、爆風が巻き起こり、サンタに直撃する。髭がすごく揺れた。
「おいおいおいおいおい、いまさらワシを風なんかで殺せると思っているのか? そもそも標的が違うぞ! ワシじゃない、淫獣どもをぶっ殺すのじゃ!」
徐々に加速する車のように、サンタは咆哮をしそれはロビーに響いた。
「ワシの千里眼でみたモノを教えてやる。お前のクラスに友達がいるだろう? あいつらは、お前の事なんて、放置して、他校の女子とカラオケBOXで合コンをしておるわい。お前は12月になると、厄介だからと言って、なにもしないで、自分達だけで、女と遊んでいるわけじゃ! まだまだ、あるぞ! お前に対して、クリオ調子に乗ってる、ボコる。とか言っていたヤンキーグループがおるじゃろう? あいつらなんて、女と触れあっていれば青春とか思って、今頃、乱交パーティー的な事をしておるんじゃ。しかも、岡崎京子のマンガみたいに、金持ち息子の部屋で、どっかから仕入れた、薬をつかって、エクスタシーを感じているわけじゃ。愚かじゃな。あいつらは、全員が全員両親共働きで、コミュニケーション不足で、人の痛みを学んでないのじゃ。結局はただ、自分の存在意義を発揮できる場がないんじゃ。だから、強がって、似た者同士で、腹の中では馬鹿にしあって、集まって、外にひきこもっているんじゃ。おろかじゃな。殺して浄化してやるしかないわい。ワシとお前の力でぶっ殺し・・・」
シャンデリアが降ってきて、サンタを虫のように潰れた。
クリオが狙っていたのは、シャンデリアを落とすことだったのだ。まんまと策は成功し、口うるさいサンタは死んだ。
「アガ、アガガガガガガウリャブルネアカネトウガ」
しかしもうすでに、人間の声ではない。誰からみても、どんな角度からみても、見た目も心も、においも、何もかもがもはや、化物と化していた。
足は十二本、目は三十以上、腹には大きな口、腕は十本、頭は一つだが、人間にはないような謎の穴が無数にあいていた。
そこから、強アルカリ性の霧が漏れて、徐々に天井が溶けだす始末である。
クリオを中心とした地震は止まず、風はハリケーンのように、おさまらず、霧が出ているあなからは、奇妙な音が鳴りやまず、地獄絵図となっているのだ。
「お兄ちゃんどうしちゃったの? 優しいお兄ちゃんに戻ってよ!」
ガキは泣きながら懇願した。
しかし、その思いは届かず。
なぜなら、化物と変貌したクリオには、耳らしき器官がぱっと見、ないからだ。
だからしょうがないかもとガキは思った。
だけど、お願いとは、対象となる相手にだけあるわけではない。とても叶わないと思われる、お願いはもはや祈りといっていいもので、祈りとは結局、祈っている側に対して作用する、モノである。
叶わなくてもいい、お願いをする。それが、ガキにとって大事なのである。
「お願いだよ! お兄ちゃん。優しいお兄ちゃんに戻ってよ!」
「アガ、アガガガガガガウリャブルネアカネトウガアガ、アガガガガガガウリャブルネアカネトウガ」
まったく、変化ない。
むしろ、もう、時間の問題でやばい。
ガキはせき込んだ。強アルカリ性の霧が、建物内を充満してきたからだ。
もうやばい。死ぬ。このままじゃ、僕は死ぬよ。お願いは届かないのか。クリスマスイブに死んじゃうのか僕は。サンタさんからプレゼントを貰えると思って、ウキウキしていたのに。
ガキは死を覚悟した。奇蹟とはそういう時に起きるものだ。
突然、部屋の奥で、雷のような閃光が生じた。
あまりの眩しさにその場にいた生物は、時間と言う概念を忘れるほど、どうにかなった。
永遠にも思える、一瞬のあと、視界は変わっていた。
さっきまで、クリオの放つ強アルカリ性の霧が、どす黒く、室内を包んでいたのに、まるで今は、何事もなかったかのように、きれいさっぱり澄み切っている。
「え!? いったい何が!?」
ガキが頭を悩ましていると、どこからか声が聞こえる。
『小僧、お前の望み、ワシが叶えてやる』
すると、床に落ちた水晶のシャンデリアから、人影が飛びだした。そして、一瞬でガキの隣に位置するとその何者かは言った。
「君の祈りパワーによって、ワシも目が覚めたわい。ありがとう」
サンタだった。
赤い服と、プレゼント袋と、白い髭。恰好に関してはさきほど、潰されて死んだとされたサンタと、変わっていない。しかし、顔が明らかに違っていた。
「こんな綺麗な気持ちなれたのは、昭和以来じゃな」
「……サンタ、さん?」
なんといっても、目が綺麗。そして、目じりの笑いじわを、見るだけで優しい気持ちになれる。肌も歳よりながらも、健康的な艶で、文句のつけようがない、完全なサンタだ。
「勇気ある君のおかげじゃ。さあ、一緒にクリオを救おう」
「ハイ! サンタさん!」
「アガ、アガガガガガガウリャブルネアカネトウガ」
化物クリオの咆哮が響く。すると、あっさりと、また、室内は邪悪なオーラで包まれた。
「く、せっかく綺麗になったのに、すっかりまた汚されてしまったわい。クリオのやつ、まさかここまでとは」
「え!? サンタさんでも、どうにかできないの? クリオ兄ちゃんを救えないの?」
「わからん。やってみないとわからんぞい」
「そもそも、クリオ兄ちゃんは、なんであんなことになってしまっているの?」
二人は、クリオを一瞥した。
サンタはすぐに目をそむける。
「く、哀れな。見ちゃおれんわい」
クリオは、三十個の目から涙を流していた。
エコーが抜群に効いた声で鳴き叫ぶ
『ぶっ殺すクリ、リア充共を、爆発させるクリ。幸せそうなカップルは殺すクリ。非人道的な悪魔行為をして、ぶっ殺さないと、いけないクリ』
クリオの声には、この世のすべての不幸が詰まっているかのようだ。
「哀れな。なんとも、クリオ君が不憫でならない」
サンタは手で目頭を押さえた。
ガキは眉をひそめた。
「泣いてるの」
「すまんの。クリオ君が可哀想でな。坊主。彼の不遇な人生を聞いてくれるか?」
あまりに、深刻なサンタの状態にあっけにとられながらも、ガキは力強く宣言した。
「聞くよ! クリオ兄ちゃんの味方だもの僕は!」
「ありがとう。クリオ君はな。心優しい人間なんじゃ。優しすぎて、生きることにおいて、損をすることが多いほどじゃ」
「うん。それはなんとなくわかるよ」
「彼は、優しすぎて、人の負の感情を受け持つ体質になったのじゃ。自然にな。人の負の感情、例えば、嫉妬などは日常茶飯事に生まれる。そして、体外に放出するには、対価を払わねばならない。分かりやすくいうと、ストレス発散というやつじゃな。お金を使って、ゲームやら、デートやら、スポーツやらをするわけじゃ。だけど、クリオ君はいるだけで、他人の負の感情を吸い取るのじゃ。そして、吸って吸って吸いまくって、ついには、クリオ君のキャパを超える。特に、十二月は、嫉妬の炎がすごいからのう。だから、じゃ。だから、クリオ君は十二月になると、悪魔になってしまうんじゃ」
「そ、そんなことが」
「けっしてクリオ君が悪いわけではない。悪いのは負の感情を生み出してしまう、沢山のみんなが悪いんじゃ」
「なんてことだ」
「だからお願いじゃ。読者よ。コレを読んでいる読者よ。クリスマスだからって、リア充爆発しろとか、カップルは死ねとか、ラブホテルを燃やすとか、非生産的なことを思わないでくれ」
「思わないでくれ!」
「嫉妬をするのではなく、自分を磨くことに力を注いでくれ」
「そそいでくれ!」
「人間って、前向きになれば、輝けるのじゃ。人の足を引っ張るのではなく、自分を前進させることをしてくれ」
「してくれ!」
「クリオ君の邪気に当てられたワシがいうのも、なんじゃが、お願いじゃ。もう、クリオ君のような、悲しい怪物を生み出さないでくれ」
「生み出さないでくれ!」
「読者よ、頼む。クリオ君を人間に戻してくれ」
「戻してくれ!」
「君たちの心のパワーが必要なんじゃ。サンタさんとの約束じゃぞ」
「約束じゃぞ!」 END
小説家になりたいです。というのも、仕事ってしんどいじゃないですか、だけど好きな事で仕事にできたら、毎日が休みみたいなものだと思うんですよ。もちろん生みの苦しみってあると思いますがね、だけど、小説って形になるんで、未来の自分が読んだときに、ああ、やばい、おもしろい、こんなおもしろいの自分の中からでたんだ、よかったな書いて、あの時はきつかったけど、本当によかった。よし、過去の時分に負けないように頑張ろう。金もたくさんもらえてばんばんざいってことです。だって、仕事って興味ないことに魂かけてもしょうがないですものね、やってみて後づけで魂こめるようなビジネスの意識ってなっても、なんか無理やりはめてる感じあるし、つまり、自分は小説家になるのが幸せなのです。