1. セピア色世界での過ち
気がつけば、俺が産まれる前の過去に来ていた。
…なんて言葉、なんかの安っぽい小説の書き始めみたいだけど、そうとしか言いようがない。自分の正気はとっくに疑った。
古臭いものが氾濫した世界。テレビの中でしか見たことないような世界。道路を走る車は中古車でも見ない車種ばかり。電気店のテレビが映す映像は当たり前のように白黒で。行き交う人たちの服は簡素というか粗末というか。そんな中、俺はひどく目立っていた。
ふと見上げた空の色は褪せていて、晴れているのに曇りに見えた。不気味な空模様だった。それなのに人々は俺の方がおかしいと言いたげな顔で見る。居心地が悪くなって、何気ない風を装ってそこから離れた。
まるでセピア色の写真の中、俺だけがカラーで写っているような違和感。
「てか、なんでこんなことに…」
たどり着いたのは、子供の頃、いつも日が暮れるまで遊んだ公園だ。ようやくここが小さい頃に住んでいた町だと気づいた。ゴミ箱に捨てられた新聞紙の日付は、俺が産まれる一年前だ。
ドッキリにしてはスケールがでかすぎる。きっと夢だ。だったらすぐ目が覚めるかと思った時、公園をゆっくりと通り抜けるカップルが目についた。仲良さそうに、幸せそうに歩く一組の男女。 二人は横切っていく。その二人は不幸になると、俺は知っている。だって、俺の両親だから。
見慣れた家だ。俺の記憶と何も変わらない。そして、この家を眺める俺の心境も、変わっていない。
俺が小学校に入った頃、父の事業が失敗して、多額の借金を背負わされた。それから父は毎日飲んだくれ、母や俺に暴力をふるうようになった。そして数ヶ月後、まだ小さい俺を置いて、母はこの家を出て行った。
なんで俺が痛い目に合わなきゃいけないのか。
なんで俺が置いていかれなきゃいけないのか。
何度も何度も父を憎んで恨んだ。何度も何度も母を憎んで恨んだ。そして思った。死ねばいいのにと。殺してやりたいと。
結局俺は、親戚の家に逃げ込んで、平穏な日々に戻れたけど。
もう消えたと思っていた殺意と憎悪に、胸がざわつく。あの頃叶えられなかった願いを、今なら叶えられる。でも、一握りの良心が、それを邪魔する。どうしてあの二人を見てしまったのか。見なければ、いつか来る目覚めを待つだけでいられたのに。
ふと地面に血がしたたり落ちた。見ると手のひらに深い爪痕があった。全然痛くない。ああ、夢だからか。そう思って、そして、気づく。
――夢なら、なにしたっていいんじゃないか?
気づけば、目の前に血まみれの両親が倒れていた。それを見てると、心が軽くなった。
ほんとはずっとこうしたかった。ほんとはずっと殺したかった。ようやく願いが叶った。たとえ夢の中だとしても。
突然、ひどい耳鳴りがした。立っていることもできなくなる。血まみれの床に倒れ込んだ。意識が遠くなる。
ああ、目が覚めるのか。そう思った直後、意識が途切れた。
予想以上に早く書き上がったので、勢いのまま。
前回のナンバリングは0にしたのですが、普通に1でもよかったなぁ。
字数が前回の二倍だけど、これでも結構削りました。前回は字数増やそうと頑張ったのに。
それでは、読んでくれてありがとうございました!
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。