過去
きっとこの世界には色々な形の愛がある。
幼馴染みとの恋。
旧友との恋。
なんてのかな?
私の場合、友達からの恋っていうのかな?
気づいたら目が追っていた。
クラスが同じ。
席が隣。
ただそれだけの偶然。
クラスでも人気を博している彼、夕凪尚ユウナギナオ。
私は、私達は、誰にも言えない関係から始まった。
それは今から少し前。
中学の時より少しお洒落を頑張ってみた、高校一年の夏。
相も変わらず、私は真面目なふりをして、先生を騙してきた。
成績は頑張った所で中の上。
―また駄目だった。
テストの成績が貼り出される。
それを確認した私は、溜め息しか出てこない。
何をやっても駄目。
勉強くらい頑張りたいのに、要領悪くて私は、いつも平均少し上。
そんな私と夕凪尚は正反対。
スポーツ万能、眉目秀麗。
クラス、学年問わず人気者。
―憧れるなぁ。
ボーっと夕凪尚を見ていたら、彼は私の視線に気づいたらしく、ニコっと笑いかけてくれた。
「どうした?柿崎?」
…ば…ばれたぁ!
「な…なんでも無いよ?ただ凄いって思ってさ」
思ったことを直ぐに口にしてしまう。
「別に凄くねーよ」
何を言うか!と思ったけれど、何となく夕凪尚が寂しそうに見えたから辞めた。
そこにタイミング良く担任の福井 充輝フクイミチテルが入ってきた。
かなり若い。
しかも、夕凪尚と同じくらいイケメン。
福井先生が入ってきた瞬間、クラスの派手目の女子が先生に黄色い声をとばしていた。
「し~ずかに~。いけない子はオシオキするよ?」
なぜか先生の言い方はいやらしい。
「先生にならオシオキされたいな~」
髪をクルクル巻いて、ツケマにがっつりメイクの安藤 寿子が先生の腕にこれでもかってほど自慢の胸を擦り付けながら甘える。
「じゃあ、安藤、これを職員室まで運んでくれ」
ちゃっかり雑用を寿子に頼む先生。
「えぇ~?先生も一緒に運んでぇ?」
福井先生が寿子に頼んだのは30枚ほどのアンケート用紙。
充分寿子に運べる量だ。
「じゃあ早く席につけ」
「はぁい」
はぁ、何であんな人がモテるのだろ?
小さく吐いた溜め息は隣の夕凪尚にはしっかり聞こえていたみたい。
「どうした?柿崎も福井先生狙い?」
夕凪尚の質問に私は小さく首を降った。
「違うよ。私、先生苦手だからさ、何でモテるのかなあって」
またもや口に出してしまった。
「珍しいな。福井が嫌われるなんて…」
―嫌いとまでは言ってないんだけどな…。
「じゃあ好きな奴いる?」
夕凪尚の突然の質問。
「えっ…何で?」
思いの外大きな声が出てしまった。
「柿崎、うるさいぞ~?」
「っ…!」
私は、先生が苦手だ。
なのに皆、いい先生と言う。
でもどうしたって解らない。
どこがいいのか?
私は大人しく口を閉じると、夕凪尚に一言、
「いるよ」
それが誰とは言わないけれど…。
この感情はいつから尊敬から変わったのだろう?
自分が疎いと感じた事は無かった。
好きだと感じたらそれを否定することも無い。
そして、現在、私は彼に恋している。
ただやっぱり、告白は怖い。
“好き”の二文字を発するだけなのに何で…
恐い?
気づけば目で追っていた。
「へぇ…いるのか」
夕凪尚の返事はそっけないものだった。
その日の放課後。
「福井先生?」
何故か呼び出しをくらった私は、何故か資料室にいた。
夕日が延びながら校舎に影を作る。
びっくりするくらいの快晴。
呼び出した本人はまだ来ていない。
―暇だなぁ。
ああ、暑いなぁ…でも…
眠い。
頭がクラクラするよ…。
その時入ってきた人影に気付かず、私は眠ってしまった。
全くの無防備。
「…ふ…んっ…」
目は一応覚めた。
でも、状況が解らない。
だって目開けても暗いし…。
頭に圧迫感あるし…。
しかも最大に分からない。
私の唇にふれているものは…何だ?
あ…。何か入ってきた。
そこで思い立った。
これって…Kiss?
しかもディープ?
気持ち悪い…。
そう思った次の瞬間には…
ガッ!
相手の舌を噛んでやった。
「って…」
―え?
聞こえてきたのは、
私のクラスの担任、福井先生だったから。
動いた拍子に目隠しがずれる。
疑心が確信に変わった。
両手は縛られていて、自由なのは足だけだった。
「よくも噛んでくれたね?」
冷たい笑みが怖い。
「楽しませてもらうよ?」
怖い…こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!
「や…めて下さい」
後退りしながら私は壁際まで追い詰められてしまった。
背中に感じる冷たい壁。
―に…逃げられない。
「追い詰められちゃったね」
―この人は、異常。
楽しむように私を眺め回して、ワイシャツのボタンに手が伸びてきた。
ゆっくりと丁寧に一つ一つ開かれていくワイシャツ。
ブラしかしてないから、すぐ肌が顕になる。
少し冷えた身体に先生の熱い舌が当たる。
なぞるようにクビから下へとはいまわしていく。
「…いやっ…んっ…」
バカ正直に感じてしまう身体。
―嫌なのに、何で?
解んなくなって、頭の中ごちゃごちゃで、涙が出てきた。
「あ~あ、泣いちゃうほど良かった?
もっと良くしてあげるからね?」
先生は耳元で囁くと、私の耳たぶを甘噛みしてきた。
ゾワッ―…。
鳥肌が立つ。
「可愛いね。君がいけないんだよ?私を欲情させるから…」
そう言いつつ、私の胸に手を伸ばした時―
ガタッ!
音がした。
「ちっ…。これからだってのに」
顔をあげ、音のする方を見ると、そこには見知った人物―
「ゆ…夕凪く…ん」
「柿本、と福井?
何してんの?」
その光景はやっぱり、生徒が先生に犯されようとしている図だった。
「た、助けて!」
だけど、それを先生が許してくれるはず無くて…
「おい、夕凪。よくも邪魔してくれたな?」
そして、夕凪尚に向かって殴りかかった。
それをかわした夕凪尚は福井先生の鳩尾を蹴りあげる…。
一瞬だった。
「ウオッ…!」
よろめいた隙に踵落としをくらった先生はノックダウン…。
「…これで、良かったんだよな?」
普通は先生をノックダウンなんてしちゃいけないけど…
「ありがとー!」
―あれ?
ホッとしたのと疲れで立てなくなってしまった。
「ほら!」
夕凪尚が手を伸ばしてくる。
「あり、がと」
言った瞬間、夕凪尚の胸元まで引っ張られた。
「バカだな。怖かったんだろ?無理するな」
温かい…。
「ってかさあ、前閉めろ?」
……ああっ!忘れてた!
夕凪尚が離れていく。
それをどこか切なく感じていた。
そのひかれた手が、暖かくて大きくて…
きっと私は夕凪尚がその時から好きだった。
「…きざき…柿崎」
呼ばれているのに気付き、顔をあげる。
目の前には心配そうな夕凪尚の顔があった。
「…っ…何?」
「当たってる」
気付けばクラス中がこっちに視線を投げていた。
「柿崎さん、先生の話は聞こえて無かったのかしら?」
面白くなさそうに、花山先生が鼻をならす。
―そっかぁ…今、数学だったよね。
「ごめんなさい。ええと…」
全く聞いていなかった私に、また夕凪尚が小声で
「問い5」
と教えてくれた。
「う…うん、有難う」
「ええと、X=2y」
「いいけど、次はちゃんと聞いている事」
花山先生に当たると、必ず何か言われる。
「葵、ご飯行こ!」
茶髪で若干の癖っ毛。ビー玉みたいな丸い二重のパッチリ目。
155cmと小柄で華奢な彼女は、原田優香ハラダユウカ。
まさに守ってあげたい女子だ。