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孤高の天才  作者: 深水晶
第三部 波瀾の幕開け
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六十九話 安全な場所

「それで、どうしてそうなった」

 ジェレミーに詰問口調で聞かれた。私としても何故こうなったのか理解できてはいないのだが。

「理由は定かではないが、ルグランが怪しげな男達と会うところを見たからだろうな。それ以外に原因になりそうな事がない」

 思い付く理由はそれくらいだ。ラダーに盗聴器がついていたことから、前々から襲撃が予定されていた可能性が皆無ではないが、おそらく違うだろう。ルグランはラダーを取り込みたがっていた。ラダーは拉致監禁されておとなしく言うことを聞くタイプではない。

 ラダーがセントラルアカデミー在学中から何度か交渉して断られていたのだから、それくらいはわかっているだろう。ルグランが熱心になればなるほど敬遠されていったのは、お互いに不幸だったと思わなくもないが、同情する気持ちは皆無だ。

 一歩間違えていれば自分もそうなっていた可能性はある。彼が、私のチームに加わりたいと考えたのは偶然に近い上に、初対面はお互い最悪だった。


 人間は欲望や誘惑に弱い生き物だ。だが、それに抗い制御するための知性や理性を持ち合わせている。

 自らを律することなく、際限なく溢れる欲望・欲求のまま生きるのは、人として最低最悪の生き方だ。私は理性的な人間とは正直言い難いが、そんな醜態を晒して生きたくはない。

 人はこうだ、と決めていても必ずしもその通りには生きられない生き物だ。だが、できるだけラダーに軽蔑されることのない生き方をしたいと思う。

 彼は決して死ぬことがない。人なら必ずつきものの寿命と病が存在しない。厳密には長い目で見れば、部品などの摩耗や、開発時に見付からなかったプログラムエラーなどによる致命的な故障や寿命はいつか訪れるのだろう。


 だが、それはおそらく我々にとっては永遠に近いものだ。途中休眠期間があったとはいえ、既に数百年生きている彼にとって、我々人類の一生はまたたきほどの時間であるに違いない。

 彼は、記憶・記録をバックアップした後は全てを忘れるようにプログラムされている。それはおそらくこのリアルな人型のボディに内蔵されている記憶装置および媒体に限界があるからだろう。

 情報を暗号化した通信などでバックアップするように造られていないのは、彼のデータを保存する基地の位置を悟られないためなのだろう。


 二百年ほど前、地上の文明をことごとく破壊した『崩壊』によって、人工衛星の九割以上と宇宙ステーションは破壊または撃墜され、月面基地は月ごと粉々に破壊された。地上にあった施設の大半が破壊されたため、現在生き残っていると思われる人工衛星も、現状では宇宙を漂うゴミ同然の過去の遺物と化している。

 『崩壊』直前や最中にかろうじて宇宙船で脱出出来た者以外は、地上に残され、大地の再び宇宙に出るための技術と資源を失った。現在の地球の文明レベルは大半が二十世紀で、労働用ロボットなど一部の分野が二十一世紀レベルである。

 人間の知性や感性に関しては、今も昔も然程変化はない。いつでもどこでも、どんな環境下にも人は順応し、千差万別の生き方をする。遺伝子の悪戯により、時折突然変異を引き起こしながら、綿々と受け継いでいく。

 学者・研究者の中には、現在生き残っている人類は、かつてそう呼ばれたものとは厳密には異なる遺伝子を持っているという者がいる。だが、それが仮に事実だとして、旧人類と新人類の差違を比較するデータは、『崩壊』で奇跡的に生き残ったコンピューターなどに残されたものだけで、検証するためのサンプルは残されていない。


 この世の全てのものは、変化する。変わらないように見える自然や気候・風土、地形ですら、生きている人の目には気付かれぬ程度に少しずつ。

 人も例外ではない。


「……確たる証拠がない内は疑いたくはないんだが、疑っている」

「リッキー?」

「谷崎のことですら信用しても良いのか、確信がない。明確な敵とまでは思っていないが、囮にされていないと、そんな事をするはずがないと信じる事もできない。どうしたら良いと思う、ジェレミー」

「俺に聞かれても困るが、俺のことは信じてるんだよな?」

「おかしな事を言う。私がお前を信じなかったら、他に誰を信じると言うんだ? なるべくお前を面倒や騒動に巻き込みたくはなかったが、誰を信用したら良いか判断つかなかった。

 そんなことより、今はとにかく移動しよう。また襲撃されてはたまらない。安全な場所に心当たりはあるか?」

「俺の知っている一番安全な場所といったら、二つだな」

「何処だ?」

「警察署と留置所だ」

 ジェレミーの返答に、私は思わず耳を疑った。

「……冗談だよな?」

「けっこう本気なんだが」

 ジェレミーが笑って言った。

「おい、ジェレミー。いったいどんな名目で連れて行くつもりだ」

「どんなも何も、正体不明の武装集団に襲われ狙われている一般市民を保護するのは、警察官の職務の一つだろう?」

 呆気に取られて、言葉に詰まった。ラダーが弾けるような笑い声を上げた。

「さすが、あんたの友人だな、リック」

 それはいったい、どういう意味だ。

悩んだけど、次話以降の予定だったシーンをガッツリ削る事にしました。

なので予定通りならあと三話くらいで第三部終了して第四部へいけるはず。

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