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孤高の天才  作者: 深水晶
第三部 波瀾の幕開け
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第六十八話 盗聴器

 私が第二のルグランにならずに済んでいる一番の理由は、彼がロボットだと知る前に短い期間とは言え、交流し、彼に親しみや情を抱き、彼の信頼・親愛を得ることができたからだ。

 他者の成果を暴力的な方法で奪おうとする者には嫌悪と侮蔑を覚える。だが、彼が非常に興味深くエキサイティングな存在だという事は間違いない。理性や倫理が制止しなければ、好奇心と欲求に身を任せて、自己嫌悪する未来を迎えていたかもしれない。私は倫理を持たない動物ではなく、良くも悪くも人間だ。

 人とそれ以外を分けるものとはなんだろうか。人には高い知能がある? だが、人より高い知能を持つ生命がこの世にないと、どうして確認できる?

 人には心や感情がある。だが、哺乳類の多くにもそれはある。確認できていない他の生き物にないとどうして言える?

 心はどこに宿っているのだろう。それは本当に存在しているのだろうか。ただ、それがあると錯覚しているわけではなく。

 己が人間であるということは特別なことだろうか。子は親に似るというが、時に隔性遺伝や先祖返り、あるいは突然変異を起こす事もある。ロボットや人工知能は、人が作り産み出したものだ。けれど、将来その逆にならないと、誰が言える?

 たぶん私は今、ひどく混乱している。あるいは興奮して平常心を失っている。

「しばらく酒は控えた方が良さそうだな」

「は? 急にどうした、リック」

「いや、何でもない。ただの独り言だ」

「そうかよ」

 ようやく目的のビルへとたどり着いた。薄汚れたコンクリートの階段を昇る。

「この先か?」

「ああ」

 店の名は『Piccola isola』。カウンターしかない小さなバーで、十数人も入れば満員だ。狭いが、静かな店で、ゆっくり酒を楽しむのに向いている。

「さっき酒は控えるとか言ってなかったか?」

 ラダーが胡乱げな目を向ける。

「大丈夫だ、酒は飲まない」

 私がそう告げても、信用していない目つきだ。もちろん今日は飲まない。

「いらっしゃい」

 バーのマスターがグラスを拭きながら、こちらを見向きもせずに言った。

「すまない、電話を借りても良いだろうか」

 私が言うと、彼は目線をこちらに向け、無言で頷いた。了承を得たので電話を借りて、ジェレミーの自宅にコールする。四回目の呼び出し音の後、繋がった。

「ジェレミーか? 私だ」

『どうした? リック』

「ちょっと面倒な事になった。先程から怪しげな連中に何度か襲撃を受けている」

『なんだと!? 今、何処にいる!!』

「いつもの店だ。出て来られるか? 出来れば車で迎えに来てくれると有り難い」

『わかった、今すぐ行く。ところで、リッキー』

「なんだ?」

『同行者はいるか?』

「ああ、いる」

『なるべくすぐに向かう。が、念のため発信器や盗聴器がついてないか確認しておけ。お前も、同行者もだ』

「……え?」

『一番手っ取り早いのは、現在着ているものを全て脱いで、他の新しい服に着替えることだがな。所持品も全部確認しておけ。では、これから向かう。良い子で待ってろ、リッキー』

 通話が切れた。……発信器または盗聴器。そんなことは考えもしなかった。だが、確かにそんなものがつけられていたら、どれだけ逃げてもすぐ捕まる。

「ラダー、発信器または盗聴器が付けられていないか、お互い確認しよう」

「お互い?」

 ラダーはきょとんとした顔になった。

「ああ。自分で自分のチェックをすると、どうしても洩れがある。私はお前を確認するから、お前は私を確認してくれ。着衣の他、ポケットや所持品、財布なども含めて全てだ」

「わかった」

 そして、互いの襟、ボタン、ポケットや財布など、おかしなものがないか調べた結果。

「……これ、だな。たぶん」

 ラダーが渋面でバイクのキーチェーンにつけられた盗聴器を足で踏み潰した。他には無いと思うのだが、後は合流してから考えるべきか。店の名は口にはしていないはずだ。地名やヒントになる言動もしていないはず、だが。

「なるべく早くここを出た方が良いな。すまない、マスター。これは迷惑料だ」

 何も起こらなければ良いが、もしかすると迷惑を掛けてしまったかもしれない。札を数枚置いて、店を出た。

「リッキー!」

 本当にすぐ来た。ジェレミーのフットワークの軽さと来たら、呆れるくらいだ。

「確認はしたか?」

「着衣を全て脱ぐほど厳重ではないが、互いに確認した結果、盗聴器が見つかった」

「それでどうした?」

「これだ」

 残骸を見せると、ジェレミーが眉間に皺を寄せた。

「数年前に軍で使われてたタイプだな」

「……そんなものが?」

「おそらく軍ではなく軍からの流出品で、やったのはマフィアか、その手下のチンピラだろう。行くぞ、前に車を停めてある」

「来てくれて有り難う、ジェレミー。ああ、そうだ。こちらは部下のラダーだ。ラダー、友人のジェレミー・クォートだ」

「よろしく。カース・ケイム=リヤオス=アレル・ドーン=ラダーだ」

「ああ、こちらこそ」

 ジェレミーはそう言うと身を翻す。

「ちゃんとした挨拶は後で。先に車に乗って移動しよう」

 異論はなかった。

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